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リアクション
緑の丘を駆け抜けるのは6つの花――ではなく、たっぷり広がった愛らしいドレス。
小高い頂上へ差し掛かると、黄色のドレスの少女が足をぴたりと止めた。
「ええっと…………」
ちょこんと小首を傾げ、ジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)は困った顔で友人達を振り返る。
「見失っちゃったわ」
白くて長くてふわふわの兎の耳を生やしたツライッツ・ディクス(つらいっつ・でぃくす)を追い掛けてここまできたものの、彼の姿は遂に何処にも見当たらない。
眼下に広がるのは鮮やかな色の建物で、鼻先を掠めるのは甘い甘い香りだ。
「これは……お菓子です! お菓子に違い有りません!」
くんくんと鼻をひくつかせ、食いしん坊のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はぱっと顔を輝かせた。自分達が――恐らく――眠りに落ちる前、ここへ導いたハインリヒ・ディーツゲン(はいんりひ・でぃーつげん)が「出来るよ」と言っていたのは例の『終わらないお茶会』に違いない。
つまり、何時迄もお菓子を食べられる!
「こ、これは……なんて素晴らしきお菓子の世界なのでしょうか!?
まさに夢のような世界です……私、精一杯楽しみたく存じ上げます」
彼女の楽しむはイコール食い尽すの意だ。
仄かに染まった頬を両手で挟んで浮き浮きしているフレンディスをちらりと一瞥して、ジゼルは首を傾げたまま
「おかしのというより、おかしな世界じゃないかしら」と呟いた。
今も彼女達の横を、エビが駆け抜けて行ったばかりなのだ。
「そうよ、エビだわ」
それも真っ赤に茹で上った。フレンディスの眼光に射竦められて必死で逃げて行くのが目の端に映っていた。
――おかしいわ。どうして皆はそう言わないのかしら、とジゼルは思うのだが、ペパーミントグリーンのドレスを着たノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)に言わせるとこうである。
「なんだかヘンテコな世界だけど、とっても面白そーだよ!」
「そうそう、何だか知らないけど、楽しんだ者勝ちだよね!」
続いたのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)で、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)と揃いのレッドとブルーのドレスを翻し、パートナーへ言う。
しかしアデリーヌの顔色は優れない。
だってさゆみは絶望的方向音痴なのだから!
その場のノリと勢いで、後先考えず突撃したが最後だ。
――それもこんな世界で……。
後先ばかり考えて、アデリーヌは顔を真っ青にしていた。
「それよりツライッツさんに何かあったら大変ですっ。
追いついて合流しなきゃ!」
使命感にめらめら燃えて、遠野 歌菜(とおの・かな)はぐっと拳を握る。
「うさぎ! じゃなかったツライッツが」
「ハインツさんの魔法だから、大丈夫そうジゼルちゃん?」
「ハインツの魔法だから心配だわ」
歌菜はきょとんとしてから慌て出す。
「早く助けなくちゃ!」
そこでフレンディスがピンクの空に――ピンクだ。晴れの青でも夕暮れの赤でもなく、ピンク。一体今は何時なのだろう――手を伸ばした。
「ツライッツ兎さんを捕獲すれば宜しいのでしょうか?
……これからの季節は兎鍋が美味しいですよね……」
「ご飯の話じゃないわフレイ、私達うさぎの話をしているの」
「少々お腹が空いただけで食べませぬよ!?」
「食べる話もしてないわフレイ。私達ツライッツを助けに行くのよ」
共に巻き込まれた友人達は少なくとも服装以外はまともだった筈なのに、すでに頭がおかしくなりそうな会話を繰り広げ出している。
――ああ、やっぱり恐ろしい事が起こってしまうのですわ!
心の中でたっぷり嘆いたアデリーヌは、勇ましい表情で皆の前へ躍り出た。
「わたくしが先に」
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