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リアクション
シャンバラでもっとも風光明媚な土地であるヴァイシャリーの一角に、パラミタの秘境中の秘境と呼ばれている場所がある。
特に独得な趣味を持った男性達の間では、その秘境に忍び込むことが。そして、秘宝をゲットしてくることが、男が男として生まれてきたからには、誰もが抱き追い求める野望であり、性であり、宿命だと、まことしやかに囁かれている。
シャンバラに住まう者に、その秘境の名を知らぬ者はいない。
そう、男達が夢を馳せるかの地。
その名は――百合園女学院――
「お嬢さん、写真を一枚撮らせてはいただけないでしょうか?」
ヴァルキリーの長身の女性が、登校中の百合園女学院の女生徒に声をかけた。
不思議そうに戸惑う女生徒に、少し哀しげな目で女性は語り出す。
「私には、この学院に入学する事を夢見ている妹がいるのです。ですが、妹は病弱で今も病気で寝込んでいまして、今年も入学することが出来ませんでした。妹を元気付ける為に妹の夢である学院とその生徒達の写真を撮ってあげたいのです」
正面から、一枚だけという言葉に、百合園女学院の女生徒はこくりと頷いて、校門の前に友人と共に並んだ。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べて、女性――フェイル・ファクター(ふぇいる・ふぁくたー)は、シャッターを押した。
第1章 集結
ヴァイシャリーの伝統ある優美な劇場の一部屋に、男性を中心とした若者達が集りつつあった。
その中央にいる人物は……おっさんだった。
フサフサの髪は、ひと目で鬘だと判り。
たぷんたぷんなお腹を見れば、ひと目でメタボだと判る。
服装は、ひと目で判る特注の王子様衣装で。
外には白馬に引かせた馬車留めていたりする。多分彼の体格では直接馬には乗れない乗れっこない。
スーツ姿の女性2人が、その男――通称シロぽんの左右に立っている。
シロぽんの右、長身で妖艶な雰囲気の女性の名はガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)。
宝の情報を集めていた際、耳にしたのが秘境に集う戦士達の噂話だった。
ヴァイシャリーの劇場の一部屋といえば、かなり高額であるはず。そこを即金で買い上げてしまうほどの資産家であるシロぽんに近付くことで、金稼ぎ情報や、秘宝の情報を得ようと考えたのだ。
ただどうも今回の秘境、そして秘宝は一般的な秘宝とは随分違うようだが……そこはまあ、お金になればいいということで。
シロぽんの左に立ち、警戒に当たっているのは彼女のパートナーであるシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)だ。金髪の端正な顔立ちの少女型機晶姫だが……。
「同士がこれだけいれば、一先ず安心じゃけんのう」
宿っている人格は男性だ。
「報酬次第では、現地取材も行ないますが、如何いたしましょうか?」
「うむ。破格の報酬を約束しよう」
「では、いって参ります」
「必ず、秘宝を手に入れて戻れ。同士よ!」
シロぽんのありがたいお言葉を胸に、ガートルードはシルヴェスターと共に部屋を後にした。
「シロぽん様、VIPルームの準備が整いました」
恭しく頭を下げ、ウェイトレス姿の桐生円(きりゅう・まどか)が、シロぽんを、部屋の隅へ誘う。
「表向きは健全である必要があるため、このVIPルームは廊下からは一切見えなくなっております」
「良案だ。さすが俺の右腕、円っち!」
「お褒めに預かり光栄です」
同志達はまるで引潮のように道を開けて、シロぽんと円を通す。
その先には完成したばかりの個室があった。
よりかの秘境を覗き――もとい、観賞しやすい場所。
部屋の色は薄桃色。健全なアイドルのカレンダーや美少女画が飾られている。
乙女の世界に入り込んだかのような妄想に1人浸れてしまう、そんな空間だった。
「華は見て愛でる事に意味があるんじゃない、まぁあちらから相手して欲しいのなら刈り取るけれど」
真っ赤なワインの入ったグラスを傾けながら、VIPルームの豪華な椅子に腰掛けているのはオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)。
円のパートナーにしてマスターだった。
ロリ好きであるオリヴィアは、もとよりシロぽんの同志で心の友である!
「さーて、皆で楽しもうかねぇ? どう? この部屋に相応しい写真を持って来た人物に1日利用権をあげるっていうのは? 勿論、オリヴィアとオーナーのシロぽんが不在の日限定で」
百合園女学院の籍を持つ2人は、シロぽんと同志達にとって、アイドル……いや、女神的存在であった。
「うむ。それは良案だー」
早速シロぽんは窓にぺたりと張り付く。なぜなら今日は絶好のプール日和だから。
「既に、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)はじめ、同志が多数向かっているはず。楽しみねぇ」
オリヴィアも窓に目を向けた。
そろそろプールの授業があってもいいはずなのだが……。
「水着姿の前に、制服姿も堪能しては?」
暁晴謳(あかつき・せいおう)は、百合園女学院の生徒が写った写真をシロぽんに見せる。
パートナーのフェイル・ファクター(ふぇいる・ふぁくたー)に撮らせたものだった。
「入学募集ポスターに似せてポスターを作れば、貼っておいても問題ないしね」
「おおおお、清純な乙女よ。我等のコレクションに加えてあげよう」
言ってシロぽんが取り出したのは分厚いアルバムであった。表紙には美少女ファイルNo.1435と記されている。
「お宝アルバムだね、さすがシロぽん王子! 僕は女学院内部の写真を手に入れるルートは持っているけど、もっとカメラを意識していない、自然なロリの写真が欲しいんだ。出来れば自分でも撮ってみたい。誰かそういう事に詳しい人はいないかな?」
「百合園の校庭もプールも絶好の撮影場所というものがあーる。主も自らの足で探し出し、自分の自分による自分の為の写真を録ってみせよ! すんごくいい写真なら高額で買い取るからね☆」
げへへっと笑ったシロぽんに嫌悪感を感じてしまう晴謳だったが、根性で爽やかな笑みを浮かべると強く頷いてカメラマン達が集う客席の方に戻ることにした。
「シロぽん陛下、ご所望のヴァイシャリー美女コンテストの公式資料をお持ちいたしました」
続いて現れた本郷翔(ほんごう・かける)は、去年の美女コンテストの資料をシロぽんに差し出した。
「ご苦労、下僕1356号」
外見少年で新参者の翔は完全に適当な名前で呼ばれている。
パートナーのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)に誘われて店を手伝うことにしたのだが。
まさかこんな変な店だとは思いもしなかった。
現在は仮オープン中らしく、関係者だけ店内にいるのだが。
その関係者の殆どがカメラを持った男であり。
なんだか、なんだろう。何故かわからないが、異様な空気を漂わせ異様な笑い方をする男達なのだ。
そして、この場所から彼等が激写しているのは……百合園女学院、らしい。
シロぽんとパートナーの目的が分かってからは、翔は従順に嫌な顔1つ見せずに、パシリとしてシロぽんの下で働いていた。
「そういう地道な仕事が、夢の実現に繋がるんだ」
ぽんと、翔の肩を叩いて、ソールはシロぽんの傍に歩み寄った。
「望遠設備がもう少しあると良いと思うんだが!」
ソールは勿論喫茶店を手伝いたかったのではない。美少女ウォッチの場の運営を手伝いたかったのだ。
ここに集いし者達の考えは、やはり男としてごく普通の考えである。
俺達の憩いの場を残すべく立ち上がったこのおっさ……いや、シロぽん王子は我々の救世主なのだ。
「お主のお勧めの望遠鏡は?」
「最近空京で発売された最新のものがあってな!」
カタログ片手に熱弁しだすパートナーの姿に、軽く溜息をついて、翔は雑用に戻ることにする。
「いい加減止まってくれないかなぁ……」
落としてしまった布巾を拾おうと身を屈めた峰谷恵(みねたに・けい)は、自分の胸に阻まれ、布巾が見えないことに溜息をついた。
どんどん成長するこの胸のお陰で、頻繁に下着を買い換えなければならず、財布の中がいつも寂しい状態だった。
身を起こすと、男達のカメラが自分に向けられていることに気づく。
「この高性能カメラなら空飛ぶ蚊だって逃さないぜ〜」
とかなんとか他の方向にカメラを向けて誤魔化してはいるが、恵を撮っていたことに間違いは無い。
「あの……えっと……」
盗撮はいけないですよーと言おうとしたが、今のは盗撮とは言えないかもしれない。
盗撮行為の噂を聞いて、怪しげなこの店を探る為にバイトに応募したのはいいけれど……なんだか、全員が犯人な気がする。
店内に溢れている男達も、廊下で席が空くのを待っている男達も。
彼等の会話に耳を澄ませば、小さな女の子達の話題が多いみたいで、だから自分は大丈夫だろうと思っていたけれど……。ちょっと油断をすると、さっきのように彼等のターゲットとなってしまう。
(んー、でも写真を撮るだけならそんなに悪いことじゃない、し……)
恵は制服を整え、胸を出来るだけ隠しながらなるべく身をかがめないよう注意し、接客及び監視に回る。
「はいこれ。シロぽんさんに頼んで、取り寄せてもらったの。百合園の制服を軽くアレンジしたものだけどね!」
朝野未沙(あさの・みさ)が、ぎこちなく接客を続ける恵にメイド風の制服を渡した。
「余計ターゲットになっちゃうかもしれないけど、露出度は低いしね、これ」
「ありがとうございます。着替えてきます」
未沙に礼を言い、恵は更衣室へと走っていった。……胸を揺らすその姿も店のお客様方に激写されていたことは言うまでも無い。
「ホント、いい場所だよね、ここ」
未沙はうっとりと外を眺める。
窓の外には優麗なヴァイシャリーの街と、その奥に広く美しい湖が広がっている。自然と文化、そして百合園女学院も窺えるとても魅力的な場所だった。
「私にも制服ちょうだ……きゃっ」
ステンと転んで尻餅をついた少女に、一斉にフラッシュが浴びせられた。
「んもう、みんなエッチなんだから……」
超ミニのスカートの裾を押さえて、小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は恥ずかしげに照れながら、立ち上がった。
美羽の太腿には愛嬌のあるタコ人形が抱きついている。その彼女のトレードマーク、及び彼女の成長途中の細い足に向けられて、シャッターが押されていく。
「美羽ちゃわんは、そのままでぇ〜」
「うんうん」
「さんせい」
「ここ通さないもんねー」
更衣室への通路を、カメラを持った男性達が塞いでしまう。
「俺のアイス珈琲は〜?」
「愛情たっぷりの甘酸っぱいレモンティが飲みたいなあ」
「わかりました、すぐご用意しますから座って待っててねっ」
美羽は着替えを諦めて、かわゆくにこにこ笑みを浮かべながら厨房の方に向かう。
(写真なんて撮ってんじゃねーぞ、全員後で纏めてぶっ殺す!)
……心の中で超毒づきながら。
「もしかしてあれ、百合園のプール? ここから見えるのか?」
「あ、うん、見えるみたいですね」
客として紛れ込んでいた永夷零(ながい・ぜろ)に呼び止められた美羽は変わらず愛らしい笑顔で答える。
「百合園見たい! プール見たい! お姉さまたちのスク水姿見たいです」
零のパートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)が立ち上がって騒ぎ出す。
「ここには何故か望遠鏡とか双眼鏡が沢山ありますので、ご覧いただけると思いますよ。ただ、貸し出しは有料らしいけどっ」
頭を下げて、美羽は厨房へと去っていった。
「いこー、いこー」
と、ルナは零の手をテラスへと引っ張る。
そのルナにもカメラが向けられるが、敏感に察知し、零がカメラの前に立ち阻む。
「本当に見えるんですね!」
テラスに出たルナは感嘆の声を上げた。
誰も泳いではいなかったが、確かにプールが見える。
「……でも、これってとうさつ?」
テラス席でカメラを構えている男性達に目を向けて哀しげに言葉を続ける。
「こっそり撮られた人、すごく寂しい気持ちでいるかも……」
「違うよ、景色を録っているだけだよ」
「そうそう、湖綺麗だなーっと」
「ヴァイシャリーの風景コンテストに向けて撮っているのさ!」
次々と出てくる言い訳と建前に、ルナは小首をかしげて零を見る。
零は頷いてテラスの柵に手を伸ばし、リュックに忍ばせていた長いモノを取り出した――。
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