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リアクション
□□□□□
「ほな、水中玉入れ大会を始めまひょ」
一乗谷燕(いちじょうだに・つばめ)が、玉の入った籠を手に声を上げる。
メンバーが続々と集り、プールは大賑わいであった。
「玉入れならわらわも知っておる。どれ、楽しませてもらおうかのう」
口調は老人風だが、可愛らしい少女の姿をした魔女、エレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)が目を輝かせる。
プールサイドにも学院の生徒や、協力を申し出た他校の生徒がちらほらと姿を見せていた。
「私達も参加させて下さい」
長身で妖艶な雰囲気を持つ女性、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、微笑みながらプールに入る。
「可愛い女の子が集っとるのぉ。楽しまんとのぉ」
パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)も陽気に近付く。
「行きますぇ」
燕が籠から玉を投げていく。
「スタート!」
合図と同時に、女の子達は散らばった赤と白のボールに手を伸ばしていく。
「ほいっ!」
エレミアは赤と白、両方の玉を同時に投げて、網に入れた。
「ふふっ、赤が私達のチームのボールですよー。頑張ります!」
エレミアと同じチームのガートルードが爽やかな笑顔を浮かべ、赤いボールに飛びつく。
「そうわさせませんわ!」
亜矢子が、水を思い切りガートルードにかけた。
「きゃっ、仕返しです」
「あっ、や、やめてください、んもうっ!」
ガートルードと亜矢子は勢いよく笑いながら水を掛け合う。
「私に任せてっ」
アリシア・ノース(ありしあ・のーす)が、ガートルードから赤いボールを受け取って、代わりに網に投げた。
「やった、あっ、やめてよ〜っ」
命中し喜ぶ彼女に、亜矢子が水をかけ、アリシアも笑いながら猛反撃を始める。
「取れましたー!」
ヴァーナーは、白いボールをつかんで、えいっと網に向かって投げた。
「あーん、外しちゃったです。あ、ベアお兄ちゃん、それはこっちのチームのボールです」
ピンクの浮き輪から落ちないよう、気をつけながらヴァーナーは、パートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)と、ボールの投げ合いをしているベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)に、うんしょうんしょと近付いて手を差し出した。
「そうか、しかし自分はお兄ちゃんではなく、お姉ちゃんだ。そして敵チームのボールと知ったからには、入れさせるわけにはいかーん!」
ベアはボールをはるか遠く、プールの外に投げてしまった。
「ひどいです……」
「はい」
しゅんとしてしまったヴァーナーに、マナが近付いて、白のボールを渡した。
「一緒に投げよっ。私泳げないから、浮き輪掴まらせてね」
「ありがとうございます」
ぱああっと明るい笑顔を浮かべて、ヴァーナーとマナは網に近付きボールを投げ入れた。
「白が優勢のようですね、赤も頑張りましょう!」
綾乃が軽快な声とともに、赤いボールを投げた。水着のキツさはもう気にはならない。
「校長先生も、一緒に遊びまへんか? 下着姿でもええよ」
燕が水を飛ばしながら聞くと、静香は慌ててティアの後に隠れた。
「楽しいですよー!」
ヴァーナーも静香に向けて手をぶんぶんと振る。
「僕はここで十分楽しませてもらってるからっ!」
「そうどっか、残念どす」
燕は笑いながら白のボールに手を伸ばした。
「取らせるか」
「あっ」
ドンとベアとぶつかり、燕は足を取られて水の中に潜ってしまう。
「んー、ぶぐぶぶぶぐ」
「やーっ、落ちるぅ」
手をばたつかせて掴んだのは、日奈々の足だった。日奈々は足をばたつかせて必死に浮き輪にしがみつく。
「ごぶぶぶぶっ」
「お、大胆じゃのぉ」
続いて、掴んだのはシルヴェスターの太腿だ。
「ぐぶぐぶぶ……」
「きゃっ」
そして、浮かび上がりながらパートナー宮本紫織(みやもと・しおり)のふくよかな胸に衝突してしまう。
「何するんですかっ」
紫織は思わず燕を突き飛ばす。
「いたっ」
突き飛ばされた燕は再びベアとぶつかって小さく悲鳴を上げた。胸にぶつかったのだが、異様に硬かった。すんごい硬いパットを入れているようだ。
「ん、負けませんですぅ」
日奈々は体勢を立て直してボールを掴むと、ポンと網に向かって投げ、直後に水をばしゃばしゃと近くにいたヴァーナーとセツカにかけた。
「今は敵同士ですぅ」
「きゃっ、冷たい冷たいっ、もー日奈々ちゃんてば〜っ」
ヴァーナーも笑いながら水をかけかえす。
「それでは、私は平等に全員にかけちゃいます」
ガートルードが手を大きく振って、全体に水をかけていき、少女達は笑いながら逃げ回る。
ボールを全部投げ終わったところで、ヴァーナーと日奈々、それからセツカとマユの浮き輪組みは少し浅い方に移動して、浮き輪の上に寝そべったり、水の掛け合いや押し合い落としあいをして遊ぶのだった。
「さてと、ちょっと休憩させていただきますね」
綾乃はプールから上がって、パラソルの方へと近付きビーチチェアに腰かける。
「沢山ありますけれど、食べ過ぎないようにして下さいね」
高潮津波(たかしお・つなみ)が、軽食をテーブルの上に並べていく。彼女は水着にはなっていない。
「皆さん、とても楽しそうですよね」
「楽しいですよ」
「本当に、楽しそうだなー」
津波と綾乃、それから静香もほのぼのと微笑み合う。
「私もご一緒させていただきます」
秋葉つかさ(あきば・つかさ)は、遠くに見える建物から真正面の位置にあるビーチチェアに横になり、顔にタオルを掛けた。真っ白な競泳用水着を着用しているため、彼女の艶かしい肢体の凹凸や体のラインがくっきりと浮かんでおり、非常に悩ましい。
まだあどけなさの残る少女の外見だが、胸の大きさは大人に負けず、横を向けば落ちそうなほどのボリュームがあった。
寝返りを打ち、背を向けれハイレグTバックが露になり、周囲から唾を飲み込む音が聞こえた。女装して警戒に当たっている男性陣と思われる。
「もう少し陽射しが強い方が綺麗に焼けそうです」
しばらくしてつかさは立ち上がり、場所を移してまた艶かしいポーズをとり、男性を魅了するのだった。
「今のが『きゃっきゃっ』というのものなのか? 確かに小さな悲鳴は上がっていたが、よくわからんものだ」
イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)は、顎に手を当てながら玉入れを終えて、思い思い遊んでいる少女達を眺める。
盗撮の話を聞き、パートナーのステラ・宗像(すてら・むなかた)と共に囮として名乗り出たイルマであったが、どうも少女達が言う「プールできゃっきゃする」という行為がどういうものなのか理解できずにいた。
玉入れには真面目に参加をして味方を勝利に導いたのだが、果たして囮は務まっているのだろうか?
「普通にしていても十分囮になるでしょうけれど」
ステラがすっと背後からイルマに近付いた。
「囮なのですし、少々大袈裟なくらいで良いでしょう?」
抱き寄せられて、耳元で囁かれ、イルマは軽く驚いて振りほどこうとするが、ステラはそれを許さない。
頬を寄せて、鼻が触れ合うほどに近付いて語りかける。
「皆様、楽しそうですね。盗撮犯もさぞ楽しんでいることでしょう」
「犯人が現れてもこれでは身動きが出来ん。は、離せ」
軽く動揺する姿が楽しくて、ステラはイルマの脛を蹴り、彼女を水中へと引き込んだ。
立ち上がろうとする彼女に正面から抱きついて、指で悪戯していく。
――空気の泡がいくつもはじけた後、イルマとステラはプールから顔を出した。
イルマは真っ赤になり、咳き込んでおり、ステラはくすくすと笑みをイルマに向けていた。
「げほっ、こ、んなことが、囮になるのか?」
「なります。盗撮犯を夢中にさせるのが私達の役目ですもの。楽しみましょう?」
ステラの腕が、再びイルマを捕らえる。イルマはステラに合わせようとするも、恥ずかしさのあまり抱きしめ返すことが出来ず、赤くなって唸り声を上げていた。
「お宝映像ですぅ」
呟きに振り向けば、皇甫伽羅(こうほ・きゃら)が視線に気づき慌ててビデオカメラを鞄に仕舞う。
「……あなたも他校生のようですけれど、ま、まさか……」
綾乃ががばっと起き上がり、無防備に開いていた足を閉じた。うたた寝していたようだ。
プールサイドで休んでいた少女達の眼が、一斉に伽羅に向けられる。
「ご、ごかいですぅ、ね、ね、校長センセ!」
静香には既にニセの名刺を渡してあった。
「はい、誤解です。彼女は。個人情報保護コンサルタントの『キャラ・宋』さんという方で、学院のセキュリティ意識調査や警備について調査してくれてるんです」
静香が微笑みながら言った。
百合園女学院は良家の娘が通う学校だけあり、警備体制は決して甘くはない。
学院内の調査や警備を一般人に任せていいのだろうかと綾乃は疑問に思いもしたが、綾乃も他校の生徒であるため口出しすることではない。
「それでは、私はまた後日うかがいますぅ〜」
伽羅は鞄を大事そうに抱えて走り去っていった。
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