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百合園女学院の秘境を見よ!?

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百合園女学院の秘境を見よ!?

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第4章 夢を追う男達

「今のは君の趣味とは違うかね?」
「そうですな、私はもっと若い子が好きなんでね」
「ボクちゃんのルミたんは誰にも撮らせないもんねー♪」
 勝手な愛称をつけて、男達は絶好の盗撮スポットである喫茶店のテラスから、望遠カメラで獲物の少女達を次々に餌食にしていく。
 彼等の妄想の世界で、百合園の汚れ無き乙女達は、幾度と無く弄ばれているのだろう。
「ただ、あの汚らわしき男は何者だ」
「我々の神聖な撮影会を邪魔するとは!」
 先ほどより小型飛空挺で百合園女学院の方向をうろうろしている男(出水紘(いずみ・ひろし))の姿が目に付いてならなかった。
「うお、さすが、シャンバラ一の楽園!」
 ブルメールが、睦月をからかう様子を見た男達は、思わず歓声を上げる。
 目立ってはいけないのは分かっているはずだが、男として男に生まれたからには! これを応援せずにはいられない。
 更に、亜矢子が水をかける様子に溜息をつきつつ、シャッターを押し。
 つかさが寝返りをうち、ハイレグTバックを見せた時には、シャッター音と共に、テーブルを叩く者もいた。
「なんて、ハレンチな。父さんは許さん、許さんぞ!」
 足を滑らせた悠希にも、一斉にシャッターボタンが押される。
「くそっ、かわゆい彼女に気をとられて校長の秘境を撮り損ねたー」
「後ろ向きとは卑怯な! 我々に対する挑戦か!?」
 皆勝手なことを言いながら、楽園の撮影に勤しんでいく。
 そう、百合園女学院のプールが、健全な女性達の楽園ならば。
 この喫茶店のテラスこそ、健全な男達の楽園なのだ!

 ――一方、百合園女学院の生徒や、噂を聞いて協力に駆けつけた学生による捜索も続けられていた。
「この辺りらしいんだけど……」
 真崎加奈(まざき・かな)はプールを見上げた。
 ここは、学院の外である。プールの中はこの位置からは覗けない。
 噂によると、怪しい人物はこのあたりをうろうろしていたようだ。
「羽の生えた種族でしたら、上空から撮れますけれど目立ちますから……こんなに近くからプールの盗撮を行なおうとはしないかもしれませんね」
 フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は周囲を見回してみるが、高い木なども存在せず、盗撮する場所としては向いていない。
「この写真も、プールが写っているだけで、人物は写っていないんですよね……」
 借りた写真を見ながら、水神樹(みなかみ・いつき)は不思議そうに首をかしげる。
「とにかくこの写真は、望遠レンズで撮ったと思われます。プールが撮れるような高い建物といったら、何処でしょう?」
 樹が持つ写真を皆で覗き込み、周囲を見回す。
「塔はいくつも見えるよね」
「ぶれてないし、飛びながら撮ったってことはなさそうですよね……方角はあちらの方のようですけれど」
 加奈の言葉に頷き、フィルが指差した先には、高い塔や高い木々、劇場などが見える。
「行ってみて、そっちからこっちを見てみるといいかもな。望遠鏡とかで」
 ヘイダ・リューカス(へいだ・りゅーかす)の提案に一同頷く。
「うん、長時間張り込む覚悟で、お菓子も用意したからお腹が減っても大丈夫だよっ!」
 加奈が大きな袋を揺らしてみせる。
 一同は周囲に警戒し、怪しい人物の姿を探りながら写真を写したと思われる場所に向かって歩き始めた。
「だけど何かひっかかるんだよなー」
 ヘイダが写真を覗き込みながら、言葉を漏らした。
「学院内も大騒ぎになってるし、単独犯じゃなさそう……」
 ふうと不安気に溜息をついた後、加奈は拳を握り締める。
「皆で、お仕置きしようねっ!」

「うーん……」
 百合園女学院の校門の前で、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は腕を組んで考え込む。
 盗撮事件を聞き、とりあえず来てみたのはいいが……。
「事件は盗撮なのに、なんで侵入者用の警戒態勢とってるんだろう?」
 学院の生徒のみならず、様々な人々が学院内を巡回しているように見える。時々内外に集って会議も開かれているようで……。
「なんか、入り込めない」
 タイミングを逃してしまったクライスは、気を取り直して近辺を調べて回ろうとした、その時。
「天誅です!」
 大きな声が響いたかと思うと、人間が1人学院の外に転がり出てきた。
「…………………………………………」
 その姿に、思わずクライスは棒立ち。
 なんだろう、この物凄く違和感を感じる体型は。
 上半身から滴り落ちているのは水だけではなくて、赤い液体も混じっていて……。
 ずれかかった水着から覗いている丸いモノはなんだ? 未知の種族だろうか!
「どいたどいたー!」
 クライスを突き飛ばして、その異形のベアという名の生物が走り去っていく。
「逃すか変質者! 学院に侵入していたとは、救いようがないぜッ」
 警戒していた高月芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が、空飛ぶ箒に乗り上空からベアを追う。
 クライスもとりあえず走ってベアを追うことにする。

 同じく、空飛ぶ箒で学院周辺の警戒に当たっていた羽瀬川セト(はせがわ・せと)もまた、怪しい人影を発見していた。
「盗撮犯と思われる男性の追跡を開始します。他でも騒ぎが起きているようですので、そちらも十分注意して下さい」
 即座に、携帯に繋いであるマイクに向かって状況の説明と注意を促す。
「こっちはわらわ達に任せておけ、セトも1人で深追いはせぬようにな」
 イヤホンから、パートナーエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)の上擦った声と、楽しげな少女達の声が届いた。
「大丈夫です。犯人は単独犯ではなさそうですが……仲間も多そうですので。お気遣いありがとうございます」
 そう答えて、セトは会話を終了し、周囲に張り込んでいる仲間に手で合図を送った後、盗撮犯らしき男を追って行く。男がちらりと向けたカメラの先は百合園女学院だった。
 まだこちらに気づいてはいない。
「路地を右に曲がりました。大通りに出るもよう」
 比島真紀(ひしま・まき)は、淡々とパートナーに連絡を入れる。
 盗撮犯らしき男は、首からカメラを下げ、三脚を抱えて大通りに向かっている。
 大通りに出られると面倒なことになりかねない。
 真紀は手を振り上げて飛んでいるセトに合図を返した後、足音に注意しながら歩行の速度を上げ、大通り直前で走り込み前へ回りこんだ。
「シャンバラ教導団の者です。このあたりで不穏な活動が行なわれていると聞き、派遣されました。そのカメラの中身、確認させてくださいますね?」
 有無を言わさぬ口調で語りかけると、男は三脚を抱えたまま走り出した。
「ここから先は通行止めです」
 路地を曲がろうとした男の前に、セトが下降する。
 男は反対側の路地に駆け込んで走る。
「来たなっ、おのれ変態盗撮犯め! 覚悟しろ!!」
 声と共に、盗撮犯が駆け込んだ道に火の玉が現れ、盗撮犯らしき男に放たれた。
「あ、あちあちあちっ!!」
 三脚を放り出して、男は燃える服をばしばし叩く。
「……思い知ったか、本の恨み!」
 物陰から現れた親墨羊(おやすみ・よう)が、びしっと男を指差す。
「くそーっ」
 火を消しながら、男は来た道を戻ろうとする。
「逃げられないよ!」
 真紀のパートナー、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が塀から飛び降り、男に体当たりを食らわす。
「ぐふっ。まだいい絵が撮れてないのに……」
 貧相な顔をした男だった。彼女イナイ歴30年くらいと思われる!
「未遂かどうか、じっくり調べさせてもらうよ」
 サイモンは男が大事そうに抱えているカメラに手を伸ばす。
「さて、持ち物を全て拝見させていただきましょう」
 セトは男の後ろに立ちふさがり、真紀がロープを取り出して、男を拘束していく。
「悪党め、いい気味だ。ははははは……………っ」
 笑いながら、羊は虚しさの絶頂に襲われていく。
 彼は私用でヴァイシャリーに来た途端、この事件に巻き込まれ、この男のように百合園女学院の女生徒に疑われ、拘束されかけたのだ。
 冤罪に腹を立て、自分で捕まえてやると怒り狂いながら協力してみたものの。
 犯人出現をひたすら待ち続けた数時間。捕まった犯人の幸薄そうな顔!
 なんだか――全てが虚しかった。
 黄昏れる羊の肩をぽんと叩いて労うと、セトは再び箒に乗る。
「百合園の校長室まで来てもらおうか」
「逃げようと思っても無駄だよ」
 カメラと写真数枚を押収して、真紀とサイモンは男を縛った縄を強く引っ張り連行する。
「皆さん、頑張っていらっしゃいますね……ふぁいとー、ですよ〜」
 上空から声が響く。
 耳上げればリーゼロッテ・ファルク(りーぜろって・ふぁるく)が箒に腰かけながら、手を振って応援をしている。
 捕縛の様子をカメラに収めたパートナーのダリス・アーシェス(だりす・あーしぇす)が、リーゼロッテの傍に近付いた。
「リゼット、こんなことしてて楽しいか……?」
「楽しいと言うわけではないけれど……放ってはおけませんから」
 言って、リーゼロッテは双眼鏡で周囲を見回し、怪しい動きをする人物を探していく。
「二度と盗撮する人が出ないよう、頑張りましょうね」
 リーゼロッテは箒を操って、次なるターゲットを探し求める。
 ダリスはふうと溜息をつきつつ、彼女の後を追う。
「放っとくと何を仕出かすかわからんし、もう少し付きやってやるか」