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リアクション
第6章 糸を引いた者
「志願者のヤラセ画像をダンピングで提供すれば、わざわざ覗きなんかする者は激減しますわ。勿論、本校の名誉の為、ダミーレーベルと偽名で流す必要がありますが」
百合園女学院の校長室では、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)がラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に交渉を持ちかけていた。
紅茶の香りを堪能した後、ラズィーヤは一口飲んで、小さく吐息をつきジュリエットに微笑んだ。
「申し訳ありません、何を仰っているのかわたくしにはさっぱり解りませんわ。それは地球の常識なのかしら?」
「ええと、つまりですね。最初は校長が適任だと思うのです。校長の映像を低価格で販売してしまえば、わざわざ危険を冒してまで本校を覗こうとするものはいなくなると思います、ということです」
「なるほど……考えておきますわ。でも静香さんはわたくしのものですのよ?」
ジュリエットが校長を一緒にいぢめようと切り出す前に、ラズィーヤは釘を刺すかのようににっこりと微笑んだ。
兎も角、ジュリエットの提案はラズィーヤに反対はされなかった。
「紘〜!」
百合園女学院校門前にて、カミラ・オルコット(かみら・おるこっと)は、パートナーの出水紘(いずみ・ひろし)の元に駆け寄った。
「無事でよかったです。かなり人数多かったみたいですね」
心配気に近付いたカミラの姿に、紘は苦笑する。
「あ〜スク水ってどうよう」
紘の言葉に、カミラは自分の姿を思い出す。
瞬時に全身真っ赤になり、カミラは悲鳴を上げて更衣室に走っていった。
紘は苦笑したまま校門の側でカミラを待つことにした。
捕縛した犯罪者達は既に自分達の手を離れ、学院で待っていた者達により校長の前に連れていかれた――。
百合園女学院の校舎内に、その汚らわしい物体を入れたくはないとのことで、シロぽんと数人の盗撮犯は校舎前で桜井静香(さくらい・しずか)に引き渡された。
シロぽんに付き添っていたのは、ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)、朝野未羅(あさの・みら)、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)であった。何れも他校の生徒だ。
「あの喫茶店明け渡してもらえないかと思ってるんです」
ユニが、ズタボロのシロぽんと静香に交互に切実な目を向ける。
「百合園女学院の方からも、賛同いただいています」
ユニが目を向けると、ジーナが名前がズラリと書かれた紙を静香に見せた。
「著名集めました。立ち退きをしてもらうため、それから喫茶店経営を皆で行ないましょうと呼びかけて」
「後ろ盾になってもらえませんか? 皆で頑張るの!」
未羅が手を合わせて、静香を見つめる。
「お待たせ! 私からもお願いしますっ」
プールで皆の援護をしていたアリシア・ノース(ありしあ・のーす)も加わって、静香に嘆願をする。
「学院のヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)様が経営者となって下さるとの事です」
ジーナはヴァレリーの著名を指差す。
「お任せいただけないでしょうか? 皆で協力して頑張りますので」
ユニは静香に頭を下げた。
「皆でゆったり過ごせる寛ぎ空間があると良いと思うのっ」
未羅も一緒に頭を下げる。
静香は……困ったように頭を掻いた。
「僕達からも提案があります」
山田晃代(やまだ・あきよ)と共に、晃代のパートナーイリス・ベアル(いりす・べある)が近付いてきた。
晃代が頷くと、イリスが静香に提案を始める。
「報告の通り、そこから盗撮を試みた不届きな輩がいるのです。あの場所を押さえつつ、必要以上に『秘密の園』になっている我が学院をほんの少し開放する場所として利用し、抑圧された輩を生み出さないようにする場にする、というのは如何でしょうか?」
「そうだね……もう少し他校の人達と交流をした方がいいかもとは思ってるけど」
「私達の事を正しく知ってもらう・私達も外の方々との接し方を学ぶ良い場になると思うのです」
イリスがにっこり微笑むと、静香は苦笑しながら頷いた。
「皆の気持ちはわかった。わかったんだけどねっ」
静香は皆に頭を下げた。
「ええっと、犯罪として処罰することも、明け渡しを要求することも出来るんだけど、被害を受けたからといっても、その店舗の所有権は百合園のものにならないから僕にはどうすることもできないと思う。僕には買い取ることなんて到底できないし……ごめんねっ」
静香にはどうすることも出来ないようだった。
適切な相手に、適切な交渉術で臨めば実現は不可能ではなかったかもしれない、が。
少女が3人手を繋いで更衣室から出てきた。
「え? それじゃマユちゃんが校舎の前に写真置いたんですか?」
「うん。こんな大きな事件になるとは思わなくて」
マユと呼ばれた少女が涙を一粒落とした。
「お兄ちゃんに頼まれて、置いたんですよね?」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の問いに、マユはこくりと頷いた。
「それなら、お兄さんにも何か理由があったのだと思いますわ」
セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)がにっこり語りかけると、もう一度マユはこくりと頷いた――。
――数日前――
ヴァイシャリーの中心街にある豪邸に、事件を知った3人の若者が訪れていた。
その豪邸の御曹司であるファルスという青年と面会を求める。
写真が映された場所として、劇場が怪しいということは簡単に突き止めることが出来た。
そして最上階の店の所有者を調べていくうちに、このファルスという人物に辿りついたのだった。
彼は盗撮騒ぎが起きる直前に劇場の喫茶店を手放した人物であり、ロリコンでマザコンでシスコンなことで有名な名家の御曹司である。
3人の前に現れたファルスから話を一通り聞くと雪国ベア(ゆきぐに・べあ)は、テーブルをドンと叩いた。
「おまえの気持ちは、俺様にはよく分かる……!」
そして熱烈に言葉を続ける。
「男なら、愛する人にスク水を着せたいと思いつつも、その姿は独占したいものさ! ていうか俺様もご主人にスク水着せて独占してぇ!」
「着ませんから!」
ビシッと、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)はベアに裏手突っ込みを入れる。
「『可愛い子にはスク水を着せろ』……この心の葛藤を表現した日本のことわざだ」
構わず、ベアは自論を続ける!
「そんなことわざありません!」
べしべしとソアの突っ込みは続く。
「さておき。閉店までしたというのに、おまえの妹は盗撮の危機にさらされている」
ベアの言葉に、ファルスは眉間に皺を寄せた状態で、ティーカップを口に運んだ。
「妹を守ろうとするアンタは、悪い人間ではない。しかし喫茶店を放棄し、有象無象の輩たちに店を明け渡してしまったのは間違いだ」
ケイがそう言うと、ファルスはカップを皿の上に置き悔しげに拳を固める。
「手は講じてある。百合園の用務員として配下の者を派遣したりな。プールは毎日念入りに調査させ、報告書を提出させている! 俺自身も暇を見つけて、学院の側で警戒に当たっているっ。が……相手が悪かった。まさかあの有名なシロぽんがしゃしゃり出てくるとは。くっ……手に負えんほど街中にロリ軍団が溢れてやがるッ。これほどまでにマユが狙われるとは!!」
「いえ、マユさんをではなく、百合園のプールを覗きたい方々が多いということなのですが」
ソアはファルスにもすかさずつっこみをいれる。
「と、喫茶店があった場所を購入されたのはシロぽんさんという方なのですね」
変わった名前だなあと、ソアは思うのだった。
「それを止めるためには、おまえの情報が必要なんだ! 妹を変態どもから守れるのはおまえだけなんだよ!」
ベアはダンダンとテーブルを叩く。
「情報なら、いくらでも出そう。俺が経営していた時の図面もある。開店を急ぐのならそのまま使う可能性もあるな。他地域で配布されていたバイト募集のチラシも手に入れてある! 出来るだけ騒ぎを大きくし、派手に捕まえて、犯罪を公にして欲しい。そうすれば百合園も対策を講じるだろう。全てはマユを守るためにッ!」
ファルスは使用人に図面やチラシをとってこさせ、ベアに渡した。
「本当に妹を守りたいのであれば、喫茶店を自らの手元に置き、正しく管理し運営していくことが一番なんじゃないのか?」
ケイの言葉に、ファルスは唸り声を上げる。
「捕らえた後、店を買い戻せ。俺等も協力するし」
ケイはべアとソアに顔を向け頷きあって、3人同時に言う。
「マユさんの為に!」
その後、3人は関係者に情報を提供して回ったのだった。
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