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リアクション
瑠璃の駆る小型飛行艇が夕景の彼方に消えていく。それを見送った黎次と亜矢子は顔を見合わせた。
「彼らパイロットがいのちを捨てようとしても、そうはいきませんわ。少なくとも、このわたくしが」
あなたたちの特攻精神とやらを真っ向から否定してご覧に入れますッ!
亜矢子の小型飛行艇が茜色の天蓋に飛び立つ。それを見送る黎次の手にした「星龍」が蒼い光芒を発し始める。
「人類がパワー・オブ・バランスによってつくりだしてしまった善と悪。それを超えたところに、おれたち移植者の未来はある。俺はそう信じている」
炸裂する光が天空をよぎり、爆発を生む。
亜矢子は逃げることを知らない。すでに敵機の真正面である。明度が落ちているのは双方のハンデとしても、その身を敵機機銃にさらして突っ込んでいくのだ。惜しげのない数の銃弾が彼女に浴びせられる。
だが、亜矢子は恐れることなく、銃弾を剣で叩き落し、跳ね返す。パイロットは、亜矢子に気を取られ、胴体下面の死角にもぐりこんだ彼女のパートナー、バルバラ・ハワード(ばるばら・はわーど)に気付かない。
「落ちなさい!」
ふたつのツインスラッシュが尾翼を破壊し、胴体をつらぬくフライ・バイ・ワイヤ・システムのみを精妙に切断している。これにより、機体はコントロールを失い、プロペラを止められ、惰性で墜落していく。
パピーを敵機から引き離そうとする牽制と陽動は、失敗しつつある。が、敵機は確実に数を減らしているのに、それが、戦意の低下につながっていない。
むしろ、機銃が焼き切れんばかりの銃弾を発射しつつ、グリフォンパピーめがけ、全速力で降下してくる。
「あと、もう少し! 早くッ!」
叫びながら、芹沢 美由貴(せりざわ・みゆき)は、小型飛行艇までも楯にして、洞窟に逃げ込もうとするパピー運搬隊を援護し続けている。が、小型飛行艇のエンジン部に着弾、爆発の衝撃で、美由貴は吹き飛ばされる。
「美由貴さん!」
注意がそれた瞬間、小型飛行艇で上空直掩をつづけていた美由貴のパートナー、川霧 夕美(かわぎり・ゆみ)が敵機のプレッシャーを受け、墜落を始める。
美由貴は目を開け、からだを起こし、目を見張った。空から夕美が落ちてくるのだ。
「助けなきゃ!」
「その心配はねえ」
振り返った美由貴は、そこで、はじめてこの少年が自分を、身を挺して助けたことを知った。
相模 司音(さがみ・しおん)は、トラブルや危地に遭遇してしまうことで有名な男である。今も、必死にパピーを運んでいて、爆発で吹き飛ぶ美由貴の巻き添えを食ったのだ。
また、このオチかよ。そう心の中でボヤいてはみるが、偶然にせよ助けた女の子が美人であったことで、自分の凶運も強運のうちか、と思える司音である。
「でも…」
「あれを見ろ」
司音の声に星が光をはなちはじめる空を見上げた美由貴は、ロープによって助けられた夕美が小型飛行艇に救助されていくようすに驚きと感動の声をあげた。
「おれのパートナーのリディア・フォルトゥナ(りでぃあ・ふぉるとぅな)ちゃんだ。美人だし、有能だし、頭はいいし、なにより性格がいい。だから言ったんだ、夕美は心配ねえって」
自分のことのように自慢する司音。
「好きなのね、リディアさんのこと」
美由貴は、自分にケガがないことにほっとしながら、司音に笑いながら話しかける。司音は否定しない。
「好きだ!…って言いたいんだけどな、なんかいつも邪魔が入ってコクれねえ」
「そういうのってあるよね」
夕美を乗せて降りてくる小型飛行艇を見ながら、美由貴は、名案を思いつき、振り返る。
「助けてくれたお礼に、私が、司音さんの気持ち、リディアさんに伝えてあげようか」
「それにはおよばねえ」
地面に降りてくるリディアたちを見ながら、司音は、つまらなそうに言う。
「好きだっていう言葉は、本人が言わなきゃダメなんだ。本人が面と向かってマジに言わなきゃ相手には伝わらねえ。俺たちは、今、いのちを賭けてそれをしている最中なんじゃねえの」
はっとなって、美由貴は、司音を見つめる。
「パピーのことね」
「そうさ。相手はグリフォンだ。命がけだぜ。ほんとうに好きなら、ありったけの想いでパピーのハートを抱きしめるしかねえ。そんな気がする」
そう言って、司音は、洞窟に入っていく。美由貴は、すこしさびしそうなその姿を見送ると、リディアに夕美を助けてもらった礼を言った。
「司音さんを大切にね」
え? と振り返るリディアに軽く微笑み、美由貴は洞窟の方向を見る。敵戦力もほぼ無力化されつつある。パピーの運搬も無事にすみそうだ。
「夕美さん、やられっぱなしじゃ女がすたる。リターンマッチやろうか」
「はい!」
ふたりの美少女が微笑む。ふたりを乗せた小型飛行艇が、ふたたび増えていく星の空へ飛翔していく。
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