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リアクション
第2章 病気で苦しむ少女たちのための応急療法
-AM9:30-
「温室っぽいところで育てているわりに、きちんと温度管理ができるのだな」
リリは植物園に入ると、室内に設置されているエアコンと湿度測定器を見た。
「さて・・・植木鉢に植え替えなければいけないから、手頃な大きさのマンドラゴラを探すとしよう」
部屋の隅っこに置いてある空っぽの植木鉢を2つ取り、氷術で鉢の上に薄い氷の板を出現させる。
体長6cmほどの手頃な大きさの魔法草を選び、慎重にシャベルですくってその上へ乗せた。
土の重さにより氷はパキンッと音を立て割れ、落下した土ごと魔法草は鉢の中に納まった。
植木鉢を2つ抱えてマンドラゴラを引き抜くための防音室に入り、角砂糖を4個並べてその上へイスを乗せ、そのまた上に魔法草が埋まっている鉢を置いて草にロープを巻きつける。
ロープの端っこを天井に固定した後、予め要しておいた水の入ったバケツを倒し急いで室内を出た。
数分後、そっと防音室の戸を空けてみるとロープにくくられたマンドラゴラは、鉢から引き抜かれた状態になっている。
そのうちの1つを百合園へ送るために箱へ詰めた。
「さてどうやって送ろう・・・。あっ・・・」
イルミンスールの学園の前で考えていると、丁度いいところに正門の前でうろついている百合園の生徒を見つけた。
リンゴの入ったバスケットを抱えたアピスがリリの存在に気づき、足早にこちらにやってくる。
「あ・・・あの・・・アーデルハイトさん・・・風邪ひいているんだったよね?私も静香校長の頼みでマンドラゴラを採取に来たのだけど・・・、イルミンの生徒の皆さんはもう森へ行ってしまったの?」
どうやら静香校長の頼みで、魔法草の採取にやってきた様子だった。
「さぁどうなのであろうな・・・。私は応急処置用に学園内で栽培していた魔法草を引き抜いていたから、いつ行ってしまったか分からない」
「―・・・そう・・・」
「待って!よかったらこれを・・・」
リリは箱に詰めたマンドラゴラをアピスへ差し出す。
「えっ・・・貰ってもいいの?」
「それで完治するわけじゃないのだけど、気休めにはなるのだよ」
「ありがとう♪じゃあこれ、お礼にどうぞ」
バスケットに入っているリンゴを5つリリに手渡した。
「それじゃあ私行くね」
アピスは軽く手を振り、イルミンスールの森の方角へ駆けてく。
「では私は家庭科室でマンドラゴラのエキスを煮出すか・・・」
魔法草とリンゴを抱え、リリは再び学園内へ戻る。
泥を水で洗い流したマンドラゴラを沸騰した鍋に入れて煮ていると、ナナが手伝いに家庭科室の中へ入ってきた。
「何かお手伝いしますか?」
「丁度今、魔法草のエキスを煮出しているところなのだよ」
「少し醒ましてそのまま飲ませるのもいいのですけど・・・。こいうのってやっぱり苦いんでしょうか」
「どうであろうな」
「あっ、そうだ!余っている寒天があったはずですから、そのリンゴを使ってゼリーにしちゃいましょう」
「ほぉ・・・それはいいアイディアかもしれないな」
誰でも食べられそうな方法がいいだろうとナナの提案に乗る。
2人は携帯サイトで調理法を調べ、材料を用意していく。
材料を計量器で計り、手順にそって調理していった。
「さぁ、後は冷蔵庫で冷やすだけです」
ナナは金型に流しいれたゼリーを冷蔵庫の中へ入れた。
「今日はやけに学園内の生徒たちが外出しているようであるが・・・」
賑やかな声が聞こえているはずの静まりかえった廊下にガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)は首を傾げ、イルミンスールの生徒が少ないような気がした。
「アーデルハイトさんの病を治すために、野生のマンドラゴラを採りに行っているそうですよ」
キョロキョロと辺りを見回す彼の後ろから、ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が声をかける。
「ジーナも行くのか?」
「行きますよ、ガイアスさんも一緒に」
ジーナは半ば強制的な感じで言う。
「ふむ・・・それは構わないが、学園内にもマンドラゴラがあるはず。それではだめなのであろうか?」
「たしかにこの学園でも栽培しているようですけど、それじゃ効き目がないようですね。野生のマンドラゴラについて何か知っていますか」
「残念だが、あの辺りの森については我にもよくわからない」
「そうなんですか・・・」
「ただ・・・守護者が人間たちの侵入を阻んでいるようなのだよ。無論、人間とパートナーを組んでいる者たちからも同様に・・・」
渋面を浮かべるガイアスの表情を見て、守護者がかなり厄介な存在なのだとジーナは理解した。
「緊急事態ですし、大人数で行って採りにいけば大丈夫かもしれませんね」
「―・・・ジーナよ・・・。たしかに汝はナイトであり、守護者と戦うことで魔法草を得ることができるかもしれないであろう。だが、戦いによって得ることが全てではないということを覚えておくのだよ」
「えぇ、はい・・・」
ガイアスの言葉の意味が、その時のジーナにはまだ分からなかった。
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