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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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第8章 心の奥底に閉じ込めた過去

 ようやくメイベルたちによる治療が終わり、セシリアたちがアウラネルクを助け起こした。
「もう話しても大丈夫ですかぁ?」
 心配そうな表情でメイベルが妖精を見つめ、守護者は無言で頷いた。
「森の守護者アウラネルクさんに聞きたいことがあるんだが」
「申してみよ」
「―・・・どうして人間が嫌いなんだ?森に侵入して密猟を繰り返す人々のせいというのもあると思うが・・・」
「・・・・・・己の利益しか考えていない森を荒らす者どもばかりだからじゃ。そんな輩を好くはずはないじゃろう」
 翔の質問に妖精はしばらく間を空けて答えた。
「本当にそれだけか?」
「おぬし・・・1人許可を出せばどうなると思うておる?」
「それは・・・」
「魔法草が減り、その影響で精霊たちの魔力や生命力が弱まってしまうのじゃ」
「たしかにな・・・そう思うと気軽に仲良くなんてなれやしない」
「いっそ人間嫌いになってしまえばいい・・・てことですぅ?」
 シャーロットが横から口を挟む。
「たしかに・・・そうすることで気持ちが楽になるかもしれません。ですけど・・・そんなの・・・寂しいですよぉ」
 アウラネルクの裾をぎゅっと掴み、シャーロットは悲しそうな顔をする。
「無理にいきなり人間を好きになってほしいとは言わない。だが、中にはいいヤツらだっているって分かってほしいんだ」
「しかし人間の心は変わりやすい・・・」
 真剣な眼差しでいう司に、妖精を首を左右に振り受け入れようとしない。
「変わらない人だっていますよ。真っ正直な人だっているんですよ」
 エルの顔を見てホワイトはアウラネルクへ語りかける。
「過去にいろいろあったかもしれないが・・・こういう人間だっているんだぜ」
「二度と無理やり採ろうとしないと誓う」
 陽一の言葉にフリーレが頷き、アウラネルクの方を向き直して無闇に争わないと誓った。
「ただで貰うのではなくて、ボクたちも密猟者たちから森を守ります」
 もう一度、悠希からも採取許可の条件を出した。
「危険なモンスターたちだって倒します!さっきはちょっと油断しちゃいましたけど・・・」
 力を込めて言うものの、ヴァーナーは語尾を小さくした。
「必要があれば植林もするよ」
「イルミンスールの学園でもマンドラゴラの栽培をしているそうなので、それを私たちの手でここへ植えることもできますわ」
 筐子に続けてアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が、魔法草の植林を妖精に提案する。
「生態系が変わってしまう故・・・植林をしてもうのは・・・」
「そうですわね・・・学園で育てたのとここでは育ち方も、栄養の取り方も若干違いますわ」
 提案が失敗してしまい、アイリスは残念そうな顔をする。
「たしかに・・・捕食対象は体格差の影響で変わりそうですけど大型の獲物にするのと、学園で育てている小さな生き物を食べる魔法草とは違いがありますね」
「うちのはそこまで凶暴性があると聞いたことがありませんからね」
 樹の考えにカディスが頷く。
「でも元は同じ植物だから、環境に順応するってことはないか?」
 腑に落ちない顔をし、涼介が問いかける。
「別種ではないかもれませんが適応しようとしている間、逃げる速さもここより遅いみたいですし他の生き物に食べられてしまう可能性もありますよね」
「十分な栄養を取れず、養分にされてしまうかもしれないであろう」
「ふむ・・・そういうことか・・・。もしかしたらその影響で変種の植物が発生したり、森の生き物が急激に進化するかもしれないな」
 樹とミハエルの説明に、ようやく涼介は納得した。
「でしたらモンスター退治だけでもします!だから・・・どうかボクたちに魔法草を・・・」
「おぬしらが敵わない敵もおるかもれぬ。安易に任せる分けには・・・」
「だったらこうしよう。オレたちが勝手にこの森を守る・・・それでどうだ?」
 説得しきれないヴァーナーを見かねて、ケイが変わりに交渉内容を少し変えて提案してみる。
「そうそう、私たちが勝手にやることですから」
 満夜は守護者へ笑って見せた。
「俺は少しでも早く森を回復させるため、タネを蒔こう。それなら生態系に影響はでないはずだ」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は植林でなく、森にタネを蒔いて復興させるようとアウラネルクに申し出た。
「タネからなら・・・イルミンスールにあるやつでも・・・この森に適用してくれそうだしな」
 彼は妖精が納得してくれそうな言葉を選び、考えながら言う。
「まぁ・・・多少危険でも、俺が勝手にやることだからな」
「(ちょっとだけ理解し合えたんでしょうか。そうか・・・そうだったんですね・・・戦いによる解決でなくこういう解決方法もあるんだということ・・・)」
「―・・・そうか」
 一瞬だけ人間嫌いのはずだったアウラネルクの顔が、ジーナには穏やかな表情になったように見えた。
 イルミンスールの学園内でガイアスに言われた言葉の意味が、ジーナは今ようやく理解できた。



「アウラネルクさん・・・元々はここの守護者じゃなかったよな」
「それはどういうことだ?」
 驚きのあまりケイは目を丸くして和原に問う。
「イルミンスールの図書室の本に書かれていたんだけど、昔は海で生活していた妖精らしいんだ」
「エリザベート校長に聞いたんだが、あまりにもこの森に密猟者たちが入り込んでくるから、世界樹がアウラネルクに森を守ってくれるように頼んだようだ」
 和原の説明に、司がエリザベートと話した内容を付け足した。
「当然、海での仲間もいただろうに・・・。突然、慣れ親しんだ場所を離れて暮らす上に、密猟者たちから森を守らなければいけないなんてな」
「楽しく暮らしていたのに、薄暗い森の中でたった1人きりで過ごすことになってしまったのですか」
「もしも僕がいきなりメイベルちゃんと離れることになったら・・・寂しくて泣いちゃいそう」
 メイベルの顔を見て、セリシアは涙ぐんだ。
「たとえいい人間たちに出会っても親しくできないだろうし、心を殺して人間を避けなければいけないよな・・・」
 司は顔を俯かせるアルラネルクに語りかける。
「たまに僕たちがここに遊びに来て話相手になるとか・・・どうかな?すぐには仲良くなればいかもしれないけど」
 やや自信なさそうに、北都がポツリと言う。
「(うーん・・・返事が返ってこない。やっぱり無理なのかな)」
「―・・・考えておこう」
 断られると思っていた意外な返答に、嬉しそうな表情をする。
「(私もお菓子を持って行きたいですぅ)」
 メイベルたちも便乗して遊びに行こうと考えていた。
「それで・・・マンドラゴラの採取のことについてなんだけど・・・」
「今回だけは許そう・・・ただし病を治すために必要な分だけじゃ」
 自信のなさそうな声音で言う晃代に、守護者はようやく採取の許可を出した。
「(タネを貰って百合園の学園で栽培するのは無理そうですぅ)」
 学園で栽培しようと考えていたメイベルは、ションボリとした顔をして断念する。
「マンドラゴラの養分にされなくて済みそうね」
「そのようだな」
 カレンとジュレールは妖精から少し離れた位置で、ヒソヒソ声で話す。
「そうと決まれば、さっそく採りにいこうぜ」
「さぁ行きましょう皆さん」
 藤原 和人(ふじわら・かずと)に続き、高潮 津波(たかしお・つなみ)たちもマンドラゴラの採取に森の奥へと向かった。



「なぁアウラネルク、この森の中でオレと一緒にデートしないか?」
 事が片付いたのを見越したカルナスが守護者に近寄ってきた。
「カルナスさんと一緒だと危険すぎる」
「どんな敵が来ようとも、このオレが守りぬいてみせるぜ」
「そういう意味じゃない。カルナスさんといると余計アウラネルクの身が危ないんだ」
「―・・・どういう意味だそりゃ・・・」
 挑発的な速人の態度に、カルナスが睨みつけた。
「ほなら採取が終わるまで、わてがアウラネルクと2人でここにいてるで!」
 ここぞとばかり幸兔は彼女と2人きりになるために、裏のなさそうな爽やかな笑顔で堂々と言い放つ。
「それは許さん!」
 速人とカルナスの声が見事にピッタリ重なった。
「だったらこの俺が・・・」
「やめやぁああ!」
 雪華は隆光たち4人のスパーンッと叩く。
「また妖精を怒らせたらどないすんねん!いっぺんしばいたろうかぁあ!?」
「てっ・・・もう叩いてるじゃねぇか」
「じゃかしいっ」
 反論する隆光に対して、雪華はハリセンを振り上げる。
「―・・・あの・・・採取が終わるまで私たちがここに残ってますぅ」
「大丈夫なんか?」
「いざとなったら・・・武器もありますし」
 メイベルはセシリアの光条兵器、モーニングスターを雪華に見せた。
「せやな、何かありそうやったらそれでどついたれ(特に妖精にちょっかい出しそうなヤツらを・・・)」
「じゃあボクもここにいようかな。アウラネルクと話もしたいし」
「そうでございますな」
 マンドラゴラの採取が終わるまでの間、北都とクナイもその場に残ることにした。
「私もここにおるわ」
「げっ・・・」
 わざとらしく言う雪華に、野望を邪魔されると思いカルナスは口元を引きつらせる。
「なんや・・・私がおったらあかんのか?」
「いや・・・何も・・・」
 隆光たちは睨みつけてくる雪華に視線を合わせず、残念そうにため息をついた。