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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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第9章 聞いたら気絶マンドラゴラの叫び声

-PM12:00-

「結構歩いたわよね、だいぶ奥の方まできたけど・・・」
 セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)は辺りを見回して魔法草を探す。
「乱獲の影響もありそうだが、見つからないように警戒されているかもしれないな」
 考え込むように言い、ウッド・ストーク(うっど・すとーく)はため息をつく。
「この辺でお昼にしよう」
 ウッドが歩き疲れた様子に気づき、セレンスはレジャーシートを広げた。
 シートの上に座ると彼女はバスケットからお弁当箱を取り出す。
 箱の蓋を開けると2人はサンドイッチを口に入れて食べ始めた。
「―お腹すいたー・・・マンドラゴラ見つからないよー・・・あっ!」
 空腹でフラフラと歩いていた遠野 歌菜(とおの・かな)は、サンドイッチを食べているセレンスたちの姿を見つける。
「いいなぁー私も食べたい」
 じーっと見つめる歌菜に、セレンスとウッドは顔を見合わせた。
「えーっと・・・ご・・・ごめんね。いま手つけたやつで最後なのよ」
「―・・・!あぁ・・・もう・・・駄目・・・」
 歌菜はよろめきながら地面に倒れ込んだ。
「大丈夫か!?しっかりしろ!」
「うーん・・・水筒にジュースならあるんだけど・・・」
「えっ、ジュース!?」
 セレンスの言葉に、歌菜は青色の瞳を輝かせてパッと起き上がった。
 甘いジュースが入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
「助かった・・・ありがとうね」
 空っぽになったコップをセレンスへ返した。
「ここにいるってことは、アーデルハイト様たちのためにマンドラゴラを取りにきたの?」
「えぇそうよ」
「もちろん何か対抗策を考えてるのよね」
「その策だが・・・耳栓だけだ・・・」
 ウッドは自信のなさそうな口調で言う。
 チャレンジャーな彼らに、歌菜は驚きのあまりに目を丸くする。
「あなたは何か考えているの?」
「私が思いついたのは、箒に乗ってロープで引っ張り上げる方法よ」
「それは考えつかなかったわ・・・。でもこの森の中で飛べるのかな?」
「試してみるわね・・・あ・・・あれ?」
 歌菜は箒に乗って空を飛ぼうとするが、飛び上がる反応がまったくない。
「どうしよう・・・どうやってマンドラゴラを引き抜けばいいのかな」
「しっ!静かに・・・噂をすればなんとやらだな」
 マンドラゴラの姿を発見した、ウッドは2人に静かにするよう言う。
 彼の視線の先には、30cmほどの長さの草の部分が見えている魔法草がうろついていた。
 こちらに気づいたマンドラゴラが、捕食しようと土に埋まったまま向かってくる。
 3人は耳栓をして魔法草の葉を掴み、力いっぱい引っ張った。
「グギェエエエー!」
 しゃがれた声音でバイク音の数倍の大声で叫び、彼らの耳栓はまったく役に立たなかった。
 目を閉じて気を失ってしまい、地中から抜かれたはずのマンドラゴラは再び土へ根を埋める。
 動いていない生き物には興味がなかったのか、その場から姿を消した。



 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)はマンドラゴラを捕獲するために、頭に防音ヘッドフォンをつけたフィレ・スティーク(ふぃれ・すてぃーく)の腰にロープを括りつけた。
「野生のマンドラゴラの採取か・・・。私の知識を増やすためのいい研究材料になるかもしれないであろうな」
「―・・・綾香様〜!」
「何だ、どうしたのだ?」
「どうしてわたくしが魔法草を引き抜く役なんでございますかー!」
 不服そうに言うフィレに、綾香は彼女のやる気がでそうなことを考えた。
「ふむ・・・ならばこうしよう。もしも採取できたとしたら、私がどこかへ遊びに連れていってやろう」
「ほ・・・本当でございますか!?」
 綾香の言葉に釣られ、フィレは青色の瞳をキラキラと輝かせる。
「(あぁ・・・フィレ様・・・。すっかり綾香様の言葉に乗せられていますね)」
 魔法草の囮役になったシリィ・カーゲル(しりぃ・かーげる)が、遠くから2人の会話を聞いていた。
「よぉおしっ頑張るのでございます」
 上手い具合に乗せられてしまったフィレは、やる気に燃えている。
「さてマンドラゴラはどこに・・・」
 フィレに引き抜かせる魔法草を探していると、2mほど高さのある草と格闘しているジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)の姿が見えた。
 彼女たちが戦っている草の正体はマンドラゴラだった。
 その魔法草の根は土に隠れていて、捕食ターゲットが根の上にきたところをガブリッと食べる気のようだ。
「ラズィーヤお姉さまのために、さっさとわたくしに捕まるのですわ!」
 無茶苦茶なことを言い、ジュリエットは仕込み竹箒の刃で標的に斬りかかる。
「あまりご無理をなさってはいけませんわ」
 ジュスティーヌの言葉を聞かず、彼女は果敢に立ち向かっていく。
 長く伸びた草を鞭のように、ジュリエットたち目掛けて叩きつける。
「きゃぁあー!」
 マンドラゴラの葉に捕まったジュスティーヌは、思わず叫び声を上げた。
「もうっ何をやっているの、さっさと自力で脱出しなさい!一刻も早くラズィーヤお姉さまに、この魔法草をお届けしなければならないことを分かってますの!?」
 仕込み竹箒を上下に振り、またもやジュリエットは無茶なことを言い放つ。
「そっそんなぁあー」
 半泣きしたジュスティーヌは、情けない声音を出す。
「まったく仕方ありませんわね」
 ジュスティーヌの身体を縛っている葉を、ジュリエットが斬り裂いて助けてやり、その拍子に彼女のパートナーはポトッと地面へ転がり落ちた。
「助かりましたわぁ。魔法草の養分にされてしまうかと思いましたわ・・・」
「お礼なんていりませんわ。さぁ!あのマンドラゴラを捕らえますわよ!」
 ジュリエットは彼女を無理やり立たせ、魔法草の方を仕込み竹箒で示す。
 無謀な戦いを繰り広げる彼女たちは、シリィがいる所へ近づいていた。
「どうやらこっちの方へ来るようですね・・・そこのお2人ー、シリィたちと協力し合ってその魔法草を引き抜きませんかー!」
「あら同じ学校の生徒のようですわね。ここは結託した方が確実に採ることができそうですわ。分かりましたわ、今そちらに引き寄せますわねー!」
 彼女はシリィへ大声で返事を返した。
「あなた方もラズィーヤお姉さまの病を治すために魔法草を取りにいらっしゃったのですわね」
「えぇそうですよ。向こうに引き抜き役のフィレ様がいるので、そこまでマンドラゴラを引き寄せましょう。(綾香様が研究材料に使いたいようですけどね)」
「分かりましたわ」
 ジュスティーヌたちはフィレがいるところまで全力で駆けていく。
「あわわ・・・とうとう本当に魔法草が現れてしまったでございますー」
「ではフィレ様、後は頼みましたよ」
「まっ任せてくださいでございます!(綾香様に遊びに連れっていってもらうために頑張らないと・・・)」
「わたくしも手伝いますわ」
 ジュリエットとフィレはがっちりと魔法草の葉を掴んだ。
「今だっ」
 綾香たち3人はフィレにつけたロープを力いっぱい引っ張った。
 引き抜いた後は案の定、魔法草の叫び声を聞いてしまったジュリエットとフィレは地面に倒れて気を失っている。
 フィレをシリィが背負い、ジュリエットは彼女のパートナーであるジュスティーヌが引きずっていく。
「おっ・・・重い・・・(途中で誰かに手伝ってもらわないと・・・)」
 綾香は80kgもある全長4mの魔法草をロープで縛り、引きずりながら森の出口へ向かった。



「マンドラゴラとはどのような形をした植物でござろうか。早く出会えるといいでござるな・・・フフフ」
 根っこが人の形に似ているという情報しかなかったゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)イリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)は、辺りをキョロキョロと見回しながら森の中を彷徨い歩いていた。
 フードを深く被りローブを纏ったゲッコーは怪しい笑いを漏らす。
「大まかな情報しかしらないのよね・・・て何しているの?」
 指先から血をしたたらせるゲッコーを、イリスキュスティスは怪訝そうな顔で見る。
「古本屋で立読みしたマンガだと、発達しきれていない未成熟のマンドラゴラに人の血を与えることで、血を吸った者と同じ姿や性格になるようでござるが」
 本屋で知識を得ようとしたゲッコーが読んだ本の内容はもちろん全部でたらめだった。
「ひょっとしたら・・・誰かの人の形に近いのかもしれないでござるな」
 天を仰ぎ見ながらゲッコーは、自分の姿に似たマンドラゴラが現れる映像を頭の中で空想し始める。
「誰かって誰よ」
 奇妙なことを口走る彼に、イリスキュスティスは眉を潜めた。
「この辺でいいでござろうか、拙者を埋めるでござる」
「―・・・はいはい、分かったわよ」
 呆れたようなため息をつき、彼女は地面をシャベルで掘るとゲッコーの首から下を土の中へ埋めてやる。
「ねぇ・・・もしかして・・・あれじゃない?」
 それらしいのを発見したイリスキュスティスが指差す。
「憧れのマンドラゴラたんについに会え・・・!」
 目に映った魔法草はゲッコーの想像とかけ離れていた。
 パートナーの声で振り返った彼は思い描いていた魔法草と違い、枯れた老人のような不気味な形状をしている。
 ゲッコーたちの存在に気づいたマンドラゴラは、体長6mの巨体を彼らへ向けて捕食対象と認識し、盗賊並の速さで迫りくる。
「く・・・食われるでござるー!」
 生命の危機感を察知したゲッコーは、地面の中から自力で這い出た。
「いやぁああーっ、魔法草の養分になんてされたくないわぁあ!」
「しかも体格のわりにかなり素早いでござるよー!」
「もうあんなところに・・・このままだと追いつかれそうだわ。私を食べても美味しくないわよぉお!」
 地中に埋まったまま爆走するマンドラゴラから、捕食されてたまるかと2人は必死な形相で全力疾走した。