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黒い悪魔をやっつけろ!

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第3章 黒い悪魔をやっつけろ

 寮長や生徒達の噂話であらましを知った神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)は、つかつかつかつかと高原瀬蓮(たかはら・せれん)に向かっていた。
「瀬蓮さんの部屋で薬をかぶって巨大化したって事は、そもそも瀬蓮さんのお部屋にGがいたって事ですわよねぇ……」
 にこにこ微笑みながら、瀬蓮の部屋のドアをノックする。
「ふぁ〜い」
 しばらくして出てきた瀬蓮は眠そうだった。最近のG騒ぎでよく眠れていないらしい。
「せ・れ・ん・さ〜ん、ちょっとお部屋を見せていただけますかしら〜」
 エレンがにっこり微笑む。
 黒いオーラを感じて瀬蓮はビクリと震えた。
「えええっと、今掃除しようとしてたところだから……」
「それならお手伝いしますわ、フィーリアが」
 エレンの背後には、掃除道具を持ったフィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)の姿があった。
「ええっと、でもぉ……」
「緊急事態ですから、御邪魔しますわね」
 エレンは強引に瀬蓮の肩を押して、部屋の中へと入る。
 ……一応掃除はされているようであり、そこまで散らかってもいなかったが。
 テーブルの上にはお菓子の袋。
 ベッド脇のゴミ箱にも飲食物の袋が入っている。
「まさか寝転がってお菓子を食べたりして、食べこぼしや食べかすをそのままにしていた、なんてことありませんわよねぇ?」
「そういうこともあったかもしれないけど。アイリスの部屋でも、普通にベッドでお菓子食べてお喋りしたりしてるし……」
 瀬蓮の声がじょじょに小さくなっていく。
「アイリスさんもですかー」
 ふふふとエレンは笑みを浮かべながら、瀬蓮の手をとった。
「1つの建物に共同生活する以上、守らなければならないルールがありますわ。Gはどこかの部屋で発生したら、他の部屋にも出現してしまうのですから、Gの食料になるようなものを部屋に散乱させるのは許されないことですわよ。――フィーリアさん、この部屋のことはお任せしますわ」
「ううっ、ごめんなさい……っ」
 ぐいっと瀬蓮の手を引っ張ってエレンは彼女を部屋から連れ出し、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)の部屋の方へと連れていく。

 寮の調理場は豪華でヘルシーな夕食の準備……ではなくて、Gの食事の準備に勤しむ乙女達で賑わっている。
「愛情たっぷり、たあっぷり込めますよー」
 イルミンスールから手伝いにやってきたアルシェ・ミラ・オリヴィラ(あるしぇ・みらおりう゛ぃら)は、エプロンと掃除道具、それから材料を持参して、古い処分用の調理器具を借りホウ酸ダンゴを作っている。
 材料は玉ねぎ、砂糖、小麦粉、牛乳と、寮長から分けてもらったホウ酸だ。
「ニホンではGを撃退する餌にタマネギを入れるらしいわ。要するに敵さんを集めるのには、匂いが強いのがいいんでしょ?」
 隣ではリアクライス・フェリシティ(りあくらいす・ふぇりしてぃ)も、顔をこわばらせながらホウ酸ダンゴを作っている。
 リアクライスの材料は、小麦粉、米ぬか、ホウ酸、それから
「これもぶち込んじゃうわよ! じゃーん、ニンニク!」
「……ふ〜ん」
 ニンニクばっと取り出して見せるも、パートナーのシュテファーニエ・ソレスター(しゅてふぁーにえ・それすたー)は無関心で、ただ椅子に座ってリアクライスをぼーっと眺めている。
「それとジャガイモの匂いが好きらしいわね……」
 リアクライスはジャガイモも用意し、それはそれは熱心にホウ酸ダンゴを作り上げていく。
「こちらもじゃーん、可愛い可愛い?」
 アルシェは作り上げたホウ酸ダンゴをリアクライスとシュテファーニエに見せた。
 丸ではなく、ハート型に作られている。
「お花型とかも可愛いかもー。着色料もあったらいいのにねー」
 アルシェはチューリップの形のホウ酸ダンゴも作ってみる。
「あとはこれを設置するだけよ!」
 リアクライスは丸めあげたホウ酸ダンゴを前に周囲を見回す。Gが苦手な彼女は、Gが集まりそうな場所に行くのだって嫌だ。
「はい。G捕獲器を作ってくれている人たちがいますから、その中に入れさせてもらったらより効果的かもしませんねー」
 アルシェは出来上がったハートやチューリップ、桜の花弁の形のホウ酸ダンゴに満足げな笑みを浮かべた。

 寮の外でも、百合園女学院の生徒と、他校生の協力者達がゴキブリ対策に勤しんでいる。
 こちらで作られているのは、大型のゴキブリ捕獲器だった。
 「外へ逃げてきたGはここに集めるでござる」
 蒼空学園の椿 薫(つばき・かおる)は、パートナーのイリス・カンター(いりす・かんたー)と一緒に、段ボールに糊を入れた捕獲器を作っていた。子供が作って遊ぶような、段ボールハウスのような形だ。
「なんでわたくしがこんな事してるのかしら」
 意欲的な薫とは違い、イリスはやる気を出せず、深く溜息をついた。
「ニンニンニンニン」
 そんなパートナーの様子に気付くこともなく、薫は中に鳥もちを敷き詰めていく。
「これをGが入る大きさに切って組み立てようね。工作は得意なんだ」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も、二重、波構造の丈夫なダンボールを接着剤で貼り合わせ、捕獲器を作り上げていく。
「Gは恐るべき敵じゃ。あやつらは1匹見つけたら2〜30匹は潜んでおるでな」
 パートナーのミア・マハ(みあ・まは)も、手伝いながらふと寮の方に目を向ける。
「ん? つまり発端の者の部屋には……い、今は退治するのが先じゃ。考えるのは後でよかろう!」
 考えてはいけないようなことに思えて、段ボールに視線を戻す。
 レキが強い粘着剤を中から外へと貼っていた。
「餌の設置と粘着剤を塗る程度なら手伝ってやらなくもないぞ」
 ミアも粘着剤をぺたぺたと貼り始める。
「うっかり手に付いて身動きが取れなくならぬよう注意じゃ」
「幼児は寮にはいないし、捕獲器に引っかかる人なんていないでしょ」
 2人ともなんだか楽しくなりながら、ぺたぺたと貼っていく。
「Big・Gは、嫌ですけれど、美肌になるお薬というのは非常に気になるんですよね」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、市販のゴキブリ捕獲器を解体してそれを参考に、段ボールでBig・G用の捕獲器を組み立てていく。
「薬を手に入れられる機会があるなら、Big・Gなんてものともしませんわよ!」
 パートナーのミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)は、匂いの強い食材を混ぜて作った誘引物を袋から取り出して、優希に手渡す。
「ありがとうございます。出来るだけ見ないで退治しましょうね」
 優希は誘引剤物を段ボールの中央に置いて、餌の周りにとても強力な両面テープを敷き詰めていく。
 処理をする時に見たくはないので、箱の入り口から30センチほどの場所には両面テープを敷かずにおいた。
「ワタシは犬小屋を改造してBig・Gの捕獲器にしましたよ〜! 両面テープ分けてもらってもいい?」
 晃月 蒼(あきつき・あお)は、犬小屋の入り口の横幅を広くして、上部を塞いでBig・G用の捕獲器とした。
「どうぞ、こちらは全部貼り終わりました。餌も要ります?」
 優希はあまった両面テープを蒼に渡した。
「ありがとうございます。餌も貰ってもいいですかぁ!?」
「どうぞお使いください。頑丈そうでよさそうですわね」
 ミラベルは自作の誘引物を蒼に分けてあげる。
「ありがとうございます。追い込めるように頑張りますね〜」
「どういたしまして。さて、とりあえずお互い完成ですわね。しばらく放置しておくとして、薬が貰えるよう交渉に向かいましょうか」
「ええ」
 優希とミラベルは捕獲器を完成させると、Gが好みそうな暗い場所に移動させてから寮へと戻っていく。
「ワタシのは寮の近くに〜」
 蒼も自分で作ったBig・Gホイホイを持って寮の方へと向かう。
「こちらも早く完成させましょう」
 溜息をつきつつ、イリスも外側を強力なガムテープで塞いでいくことにする。
「ところで。……どこにいったのかしら?」
 ガムテープを手に、イリスは周りを見回す。
 先ほどまで一緒に作業をしていた薫の姿がなくなっていた。
「まさか……ゴキブリ誘導を建前に、女子寮覗きに行っていたりしたらただじゃすまないですわ」
 イリスは周囲を塞いだ段ボールハウスを放置して、不機嫌になりながら百合園女学院の方に向かっていった。

 数分後。
「イリス殿、イリス殿どこいったでござるか」
 段ボールハウスの中から声があがる。 
 薫は段ボールハウスの中に居たのだ。作業している最中に回りを塞がれてしまった。
 更に、一生懸命鳥もちを敷き詰めていたところ、足が軽く鳥もちに触れてしまって。
 剥がそうとしたら、今度は手がくっついてしまって。
 ついに完全に身動きが出来なくなっていた。
「そうそう、そっちそっち〜。行くですぅ〜」
 蒼が殺虫剤にライターで火をつけて、火炎放射器代わりにBig・Gを追いたてて、犬小屋Gホイホイの方へと誘導しようとする。
「ひぃぃぃGの羽音がするでござる!! イリス殿」
 薫は情けない声を上げて、逃げようとするも、さらに鳥もちが絡みつき、べたりとハウスの中に倒れこんだ。
 炎に驚いたGはGホイホイを通過してイリスが閉じ込められている段ボールハウスの方へと飛び込んだ――。

「皆気をつけてな」
 蒼空学園から援助にきた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)だったが、彼自身は百合園の寮には入れない。
 仕方なくパートナー達を寮の傍で見送ることにした。
「行ってくるね。2人のこと心配だし」
 アルマ・アレフ(あるま・あれふ)は、前を歩く2人が、かえって百合園に迷惑をかけるのではないかと案じて、目付けとして同行することにした。
 その2人――ラグナ アイン(らぐな・あいん)ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)といえば。
「その昔、乙女は戦地へ赴く者に自分の下の毛を御守りとして渡していたと聞きます。そういうわけで姉上。是非ともボクの御守りも受け取って下さい」
「まあ、ありがとうございます。でも下の毛ってどこの毛でしょう」
 ……なんだか怪しい会話をしていた。
「ダメですか、ダメなのね、ダメなのかー!」
 大型の機晶姫に、イルミンスールから訪れた城定 英希(じょうじょう・えいき)が寮からつまみ出される。
 黒い制服のフードを目深に被って「あっ、俺のことはゴキブリのオスとでも思ってください!」と言いつつ平然と入ろうとしたのだが、本当にゴキブリのような扱いを受けた。
 百合園の寮は、普通の男子には絶対に立ち入ることが出来ない領域のようだ。
「パートナーの反応が楽し……じゃなくて、心配なのにー。残念!」
 悔しがる英希に近付いて、佑也が苦笑する。
「だよな。やましい気持ちとかないし、出来れば俺も同行したかったんだけどな。……本当に大丈夫なのか? アイツら……」
 佑也は、やる気満々のアインの後姿に不安を覚える。
 ――そんな男子達の計略や心配を余所に、少女達は戦場へと入り込んだ。