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黒い悪魔をやっつけろ!

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黒い悪魔をやっつけろ!

リアクション

「……で、でもどうやって退治すれば……こ、こうなったら私のヒロイックアサルトの剣を使って……」
「ちょっ!? お嬢様おやめ下さいませっ……!! 寮を破壊するおつもりですの……!?」
 響き渡る悲鳴に、パニックを起こしながらヒロイックアサルトを発動しようとする神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)を、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は腕を握り締めて止めた。
「とりあえず、ここは寮長様の『伝統のG退治スリッパ』におすがりしては……?」
 しゅたっとミルフィが取り出したのは、受け継がれし伝説のG退治スリッパだ!
 何故だろう、このスリッパを持つと勇気が湧いてくる。歴代の婦女子の熱き魂が込められているのかもしれない。
「わたくしはこの、Gジェットスナイパーで人類の敵、お嬢様の敵に立ち向かいますわ!」
 ミルフィはゴキブリ用スプレー式殺虫剤を取り出し、両手に持った。
「あとは、くん煙剤の殺虫剤も……た、ただこれを使うためには、部屋のものを退かしたり、カバーをかけたりしなければいけないんですよね。Gがいないことを確認しない、と……」
 有栖は恐る恐る、食器棚をどか……!
「お嬢様危ないですわっ!!」
「きゃーっ!」
 現れた大きな数匹の黒い塊に、有栖は後に飛びのいて、背中を強打する。
「ス、スリッパ、伝説のスリッパより、大き……」
「任せて下さい!」
 ミルフィがしゅぅぅっと両手に持った殺虫剤を同時に吹きかけていく。
 体が大きいため、簡単には倒すことができない。
「ば、バニッシュー! 精霊さんー!」
 有栖はバニッシュを唱え、光の指輪から人工精霊を唱えてBig・Gを攻撃していく。
「とどめです!」
 ミルフィが弱ったGに殺虫剤を吹きかけて止めを刺す。
「ただお嬢様。光の攻撃により他のGは逃げてしまったかと……」
「きゃー!」
「いやーっ」
 廊下の方から悲鳴が聞こえる。
「せ、精霊さんはこの部屋を回っていて下さい。明るい場所は好まないはずですから……」
 人工精霊を部屋に残し、続いて小人の小鞄から小人を呼び出す。
「こ、小人さんはGを探して下さい……。い、行きましょうミルフィ」
「はい、お嬢様はわたくしがお守りします。ですから、ヒロイックアサルトも光条兵器の使用もお控え下さい」
「な、なるべく……」
 大して動いてはいないのに、はあはあと呼吸を乱しながら、有栖はスリッパを手に勇気をもらいながらミルフィと共に加勢に出ていくのだった。

「清掃員としても、ダメなんすかー」
 イルミンスールから手伝いにきた日下部 社(くさかべ・やしろ)だったが、百合園の寮にはやはり入れなかった。
「今、とにかく大変なの。男子が入ったら余計パニックになるし、男の子には見られたくない状況かも」
 買物から戻った七瀬 瑠菜(ななせ・るな)がそう説明をする。
「それじゃ、ウチの寺美を宜しくお願いするわ♪ こき使ってくれても構わへんでぇ♪」
「はぃい〜」
 社は望月 寺美(もちづき・てらみ)の背をぽんと押し、寺美は殺虫剤という武器を持って前へ出る。
「『モンスターGハンター』の名、汚すんやないでぇ〜?」
「分かりましたぁ〜」
「うん、ありがと。よろしくね」
 瑠菜は、社と寺美に笑顔を見せた。
「よろしくお願いしますぅ〜」
「それじゃ、戦場に行くよ!」
「はい〜っ」
 急ぎ寮の中に戻る瑠菜の後に、寺美は続いていく。

「食堂はこっち。行こう、Gに食べさせるご飯はないんだから!」
「はぅ〜。案内ありがとうござます。やっぱりGは食べ物のある所に集まると思いますからねぇ〜」
 瑠菜は、パートナー達と寺美を引き連れて、食堂へ急いだ。
 廊下や他の部屋でも駆除作戦が行なわれており騒然としているが、とりあえずは巣もありそうな食堂のGを完全に駆除する必要があるだろう。
「え、えっと……私、さすがにゴキ……はちょっと……」
 瑠菜のパートナーのリチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は青ざめながら、フィーニ・レウィシア(ふぃーに・れうぃしあ)はよくわからずに、瑠菜に続いて食堂へと入った。
「あっ、きゃああああっ!」
 食堂に入った途端、鋭い悲鳴と皿の割れる音が響いた。
「ご、ご、ご、ゴキ……ふ、ふふふふふふふふふふふふ………………」
 悲鳴の主、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は壁に背をつけて、目を見開いていたかと思うと、手を伸ばして立てかけてあったモップを掴む。
「食事、中に現れるなんて……き え な さ い。今すぐ跡形もなく消えなさーい!」
 フィルはモップを振り下ろし、テーブルの下を移動する大きな黒い塊を突く。
 突かれてテーブルの下から出てきたBig・Gに、振り上げたモップを叩き下ろした。
「一撃で倒れないなんて……なんてなんて黒いの!」
「黒さは関係ないじゃろ。ったく、ははははっ」
 パートナーのシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)は、パニックを起こしながら、モップを打ち下ろし続けるフィルを見てのんびり楽しんでいる。
「こ、ここにも……なんで、なんでこんなにいるんですかー!!」
 Big・Gが逃げ込んだ先に、普通サイズのGが数匹固まっていた。
 フィルはぶんぶんモップを振り回し、ドカドカ振り下ろして床に打ちつけていく。
「Gより先にモップが壊れそうじゃぞ。床に穴が開かんかも心配じゃのう」
 ふうと息をつくと、シェリスは用意してあったもの――虫かごの中から、Gを捕食する蜘蛛を取り出した。
 それから、校長から分けてもらった例の薬も。
「どれだけ効果があるかわからんが、やってみる価値はあるじゃろ」
 虫かごから出した蜘蛛に魔法薬を振り掛ける。
「抹消します! 消えて無くなりなさいー!」
 ぐちゃ。
 フィルの会心の一撃が決り、Big・Gが1匹潰れた。
「きやーーーーっ」
 潰れて飛び出た体液が体に降りかかり、フィルは再び叫び声を上げて、モップを無我夢中で振り回す。
「おのれ、G!」
 瑠菜は、段ボール製ハリセンを手に、カサカサと逃げる普通サイズのGに果敢に飛びかかる。
「やっぱりいますねぇ〜」
 寺美は、殺虫剤片手に、テーブルをどかしていき、黒い悪魔の姿を暴き出していく。
 シャープシューターを発動し、Gを1匹打ち倒す。ただ広い食堂の中での敵の動きは素早く、シャープシューターなしではなかなか当てることが出来ない。
 物を退かせば続々と現れる黒い影達に手を焼いて、寺美はパートナーの日下部 社(くさかべ・やしろ)に電話をかけて相談をした……。
『そういう時はなぁ〜。目を閉じ『心の目』でGの動く先を見るんや!』
 しかし、携帯電話から返ってきたのはそんな返答だった。
「『心の目』? 目を閉じればいいんですかぁ? そ、それじゃ『心の目』で……」
 寺美は言われたとおり、目を閉じてみた。
「…………はぅぅう」
 小さな衝撃が腕にあった。
「何かくっ付いたような……」
 目を閉じていては何も見えない。恐る恐る目を開けると、右腕に案の上、黒き悪魔が!
「はぅ、はぅう、はぅーっ!」
 ぶんぶん手を振って、Gを振り落とす寺美。
 その振り落とされたGが、フィルの胸にぺたりとくっつく。
「ご、ごめ……」
「いやーっいやいやいやーっ! いやいやいやーっ!」
 寺美の謝罪の言葉が終わるより早く、フィルは叫び声を上げて、手でGを振り落としたかと思うと、その手を壁に打ちつけはじめる。
 狂っていくパートナーの姿にシュリスが吐息をつく。
「蜘蛛の巨大化には成功したが、普通サイズのGは捕獲対象外になってしまったようじゃのう」
 シェリスが放った蜘蛛はBig・Gのみをターゲットに捕食している。
「……こうなったら、普通サイズのも全部巨大化させるべきかのう」
「や、やめて下さい」
 リチェルが泣きそうな声を出す。
「っとここにも!」
 瑠菜があけた戸棚の中から、Big・Gの触覚が覗く。
「……大きな虫さん? ね、瑠菜、この子たち捕まえばいいんだよね?」
 フィーニが覗き込んでのんびりと尋ねる。
「そうだよ。ゴキなんかに怯えてたら、厨房には立てないからねーっ!」
 戸棚を開け放ち、瑠菜はハリセンを叩き付け、打ちのめしていく。
 更にもう1匹、戸棚からGが飛び出し、リチェルの方へと向かう。
「や、やだ、来ないでくださいっ! こ、凍って、凍って、凍っちゃってくださいーっ」
 リチェルはBig・Gから逃れると、氷術を放つ。普通サイズのGにも――テーブルから落ちた黒いボトルにも。動いている黒い物体に無差別に氷術を放った。
「り、リチェルっ……わわっ、危ないよっ」
 止めようとしたフィーニの前を普通サイズのGが横切る!
「来ないでくださいーっ!」
 フィーニの前にリチェルは氷術を打ち込み、フィーニは氷で足を滑らせて激しく転倒をする。
「いったーっ」
「ごめんなさい、来ないで下さいっ! ううっ」
「みんな落ち着いて〜。Big・G用のホウ酸ダンゴ出来たよ!」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が、厨房から食堂へ駆けつける。
 彼女が持っているのは、普通サイズのホウ酸ダンゴではなく、Big・Gのサイズに合わせた、砲丸サイズの巨大なホウ酸ダンゴだ。
「これって即効性ではないですけど……大丈夫なのでしょうか? ……あ……」
 同じく、ホウ酸ダンゴを手に、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も現れるも、動き回るG、潰れたGの姿を見て放心する。
「公瑾が、ネットで調べて効果抜群だっていってから大丈夫だよ。キッチンの他に、お風呂場の隅とかにも仕掛けるといいんだって〜」
 葵は食堂の隅にある置物を退かしてホウ酸ダンゴを置こうとした。
「あ、ここにもいた!」
 這い出たBig・Gが、ガサガサと動き回る。
「えーと……えぃ! 見敵必殺!!」
 さっと取り出した殺虫剤を葵はBig・Gに吹きかける。
 だが、普通のG用の殺虫剤ではそう簡単に倒れはしない。
 速度を弱め、エレンディラの足の方にBig・Gは走る。
「き、キャーッ」
 エレンディラは咄嗟に後に跳んで、モップを振り上げるとGにバシバシッと叩き込む。
「い、いゃあ……こ、来ないでぇ……」
 何度も何度も何度も、繰り返し繰り返し叩き付ける。
「エレン、エレン? Gメチャメチャだよ……」
 葵の言葉に我に返って、叩いていたモノを見ると……。
「いやーーっ。キャーッ!」
 エレンは再び悲鳴を上げる。潰れて体液を飛び散らせ、ぐちゃぐちゃになっているソレがあった。
「み、皆さん食事の最中でしょうけれど、ここだけでもすぐにこちらを使用しましょう」
 買物に行っていた橘 舞(たちばな・まい)が、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)と共に戻り食堂に駆けつけた。
「ホイホイだなんて受身すぎよね」
 ブリジットは野球用のバットを手に持っている。
「寮長には話しを通してあります。一時的に食堂が使えなくなりますけど、寮がGに占拠されるよりはずっとマシだと思います。は、配置しますから、一斉に炊いて外で待機しましょう。お皿とか片付けて下さい」
 舞は、潰れたGの姿にくらくらしながら、必死に燻蒸式殺虫剤を食堂、厨房に配置していく。
「いや……いや……っ」
「うん」
 エレンは恐怖に竦んでしまっていたが、葵は返事と共にテーブルの上の皿を片付けはじめた。

「……悲鳴が聞こえるが。まぁ巨大Gとて、Gであろう。じきに騒動も終わ……」
 昆虫が苦手な為、自室から一歩も出ずに朗報を待っていた周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)は、見てしまった。
 窓に張り付いているドデカイGを。
「!!」
 思わず机の下に隠れた。
 奴等がその気になれば、窓ガラスくらい簡単に割ることが出来るだろう。

「うぅ……怖い……けど、がんばらないと……」
 稲場 繭(いなば・まゆ)は、避難した寮生達の部屋を1つ1つ見て回っていた。
「ええっと……いない、いないね、この部屋……」
「突撃アナタのお部屋〜なんてね」
 パートナーのエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)は、楽しそうにずかずかと部屋の中に入る。
「ふむ……」
 テーブルの上には栞が挟まった本。ぺらぺらと捲ってみると、恋愛小説のようだった。
 姿見の傍に、化粧道具がある。化粧水を調べてみたが、普通の透明の化粧水だった。
「あまり見たら悪いよ……」
「いや、隠れGを見つけるには、細かな場所もキチント調べないとねー」
 といいつつ、エミリアが見ているのは、机の上の小物ばかりだ。
「そうだ。か、家具の下もキチント確認しなければな」
 そう言い、家具に近付くもう1人のパートナールイン・スパーダ(るいん・すぱーだ)の足はギクシャクしている。
 部屋の隅に近付いて、箪笥の後を覗き込む。
「隙間はないようだ。うむ、この部屋にはいないようだな」
 やはりギクシャク手足を動かしながら、ルインは繭の方へと近付く。
「ちゃんと箪笥の中も調べなきゃ」
 エミリアが引き出しを引っ張った。
「あっ」
 繭が小さな声を上げる。
 引き出しの中から飛び出した小さな黒い塊が数匹床に下りて走ってくる。
「おお、生きのいいのもいるね〜」
 楽しそうに笑うエミリアの傍から、もう1匹、巨大化したBig・Gも飛び出てくる。
「やっ、こないで……いやーっ」
「逃がさないよ」
 逃げ出そうとする繭にエミリアが飛びつき、繭をGの方へ引っ張る。
「やー、いやーっ、やめてっ!」
「わわわわわわたしがそのあくまをせいばいしてやる」
 迫り来るGを前に、繭が叫び、ルインは目をぐるぐると回す。
 冷静を装っていたルインだったが、Gは大嫌いだ。本当は怖くて怖くて仕方がなかった。
「ここここれいじょう、ゆかせはせぬ」
 持っていたハエタタキをぶんぶん振り回す。
 普通サイズのGは方向を変えて、棚の下へともぐりこむ。
 大きい方は羽を広げてドアの方へと向かう。
「逃がしたら大変なことになるよ」
 言って、繭の腕を引き、エミリアはドアの前に立ち、繭を前面に押し出すとドアを閉める。
「人呼んでくるから、がんばってね〜。だれか〜」
 そんなのんびりとした声を上げながら、エミリアは女の子達の秘密を探りに、こっそり隣の部屋へと侵入をしていくのだった。