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黒い悪魔をやっつけろ!

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黒い悪魔をやっつけろ!

リアクション

「きゃあああああーっ」
「出たのか?」
 荒々しくドアを開けて飛び出した繭の元に、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)とパートナー達が駆けつける。
「大きいのと小さいのがーーーーーーーーーっ」
 叫びながら、繭は全速力でとおおおおおくへ走っていく。
「わ、わたくしもGは見るのもイヤなのにぃ〜……」
「行きましょう」
「はい……」
 フィレ・スティーク(ふぃれ・すてぃーく)も逃げてしまいたいと思いながらも、シリィ・カーゲル(しりぃ・かーげる)を盾に部屋に入り込む。
「っと、いたいた」
 フィレとシリィの後から入った綾香は後ろ手でドアを閉める。
「こ、このこのこのこのこのこのこのこの……」
 ルインは変わらず目をぐるぐる回しながら、ハエタタキを振り回している。彼女の迫力に負けたのか、Gは逆方向へと走っている。
「Big・Gは1匹か。ま、巨大化していても所詮は生物。タンパク質で出来ているのに変わりはない。高温で茹で上げるのが手っ取り早い」
「えっとー、熱するんですね? 周りへのダメージも考えて欲しいんですけどねー」
 フィレは急いでルインに背後から近付いて服を引っ張る。
「とりあえず、隅の方に移動してくださいね」
「このこのこの……」
 ルインはハエタタキを振り回しながら、後歩きで隅へと歩き壁に背をつけて尚ハエタタキを振り回し続ける。
「えいっ! G撃退はスリッパが定番です!」
 シリィは普通サイズのGにスリッパを立て続けに打ち下ろしていく。
 素早く躱していたGだが、逃げ場がないほど周囲をバシバシ叩かれ、ついにはその黒き背に、強烈な一撃を食らい動かなくなる。
「ではいくぞ!」
 綾香は、高濃度のアシッドミストを発動する。
 直後に、フィレは火術をBig・Gの方、空中へ放つ。
 熱された霧が、Big・Gの体を覆い、羽を広げたままBig・Gの動きが止まり落ちていく。
「えーい、滅びなさい!」
 シリィがスリッパで爆炎波を放ち、Big・Gに止めを刺す。
「よし」
 満足気に綾香は頷くが、高濃度の酸の影響と、爆炎波や潰れたBig・Gの影響で、部屋の中はこげて汚れて凄い状態だった。
「ちゃんと片付けましょうね。……片付けてる最中にまた出そうですけどね」
 シリィが大きく吐息をつく。
「おのれ、あくまのぶんざいで、よるな……」
 ……ルインは相変わらずハエタタキを振り回し続けていた。

「とにかく大量発生しているようですね」
 イルミンスールから駆けつけた朱宮 満夜(あけみや・まよ)は、至る所から百合園生の悲鳴が響いてくることに眉を顰めつつ、廊下を走って浴場へと向かった。
「確かここだと聞きましたが……」
 脱衣所のドアは何故か開かなかった。中からは女性達が騒ぐ声が聞こえるのだけれど、鍵がかけられており、声をかけても、押しても引いても開けることができなかった。
 そのドアの隙間から、黒き悪魔が顔を出す――普通のサイズだった。
 即座に満夜は、氷術を発動しGを凍らせる。
「融けて逃げ出したりしないようにしませんと」
 トングで固まったGを掴むと、下げていたクーラーボックスの中に入れる。
「きゃーーーーっ」
 一際大きな悲鳴が響き、満夜が悲鳴の元へ駆けつけると、Big・Gに怯えて蹲っている少女の姿があった。
「これは良い実験材料になりそうです」
 満夜は、廊下を素早く移動するGの後を追い、氷術を放つ。
 凍ったGは、大型のトングで掴んでクーラーボックスの中へ。
「この大きさだと、2匹くらいで限界のようですね」
 貴重なサンプルが手に入ったことに満夜は満足気に笑みを浮かべた。

「さてさてヤサガシ開始じゃ〜セト、何かあったら助けに来てくれの〜」
 イルミンスールからやってきたエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)は、外で待っている羽瀬川 セト(はせがわ・せと)と携帯電話で会話をしながら、G駆除の手伝いを始める。
『たすけに行くつっても……オレ寮の中入れませんし。自分でなんとかしてください』
 素直な返事に、ちょっとだけ笑い声をあげて、
「冗談じゃ。よっしゃ行くとするか」
 と、エレミアは電話を切った。
「出たな! わらわの秘密兵器受けてみよ。か〜かっかっか」
 廊下に駆け込むとすぐ、カサカサと動くGの姿が視界に入る。
「このっ、このっ!」
 小さな百合園生が、びくびくしながらも、必死にGをスリッパで叩こうとしている。
「離れておれ」
 声をかけて百合園生を離れさせると、エレミアはスプレー式の殺虫剤をGに向け、火術で指先に火を起こすと殺虫剤を噴射する。
 ぼわっと炎が燃え広がり、Gは瞬く間に殺虫剤と炎に巻かれる。
「うわっ、凄い武器だねそれ」
「G用の秘密兵器じゃ。どれ、Big・Gはどこかえ? 元凶となった薬の回収にも来たんじゃよ?」
「でかいのも至る所にいるの。薬は、瀬蓮ちゃんとあと校長も持ってるみたい。他にもラズィーヤ様から貰った人、いるみたいよ」
 小さな女の子から瀬蓮の部屋を聞き出すと、エレミアは途中のGを始末しながらその部屋へと向かったのだった。

 同じくイルミンスール生の城定 英希(じょうじょう・えいき)のパートナーのジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)は、寮長にもきちんと挨拶をして、ロビー一帯の掃除に勤しんでいた。
 箒で丁寧に木目にそって掃いていき、モップで拭き掃除をする。
 家事は普段から担当しているため、掃除は得意分野だ。
「さて、あとは薬を撒くだけだ」
 と、英希が用意した10個の燻蒸式殺虫剤を袋から出していく。
 蓋をかぽっと開けたジゼルは思わず投げ出す。
「げっ! ななな…なんだこれは!?」
 中には黒い悪魔が入っていた……但し、玩具のだが。
「ええい、これはどうだ!」
 次の殺虫剤にも黒い虫が。
「こっちはどうだ!」
 その次の殺虫剤にも、黒い虫が!
 すべてGの玩具だが、少しずつ形が違う。そう、種類が違うのだ。なんという拘りよう!
 などと感心している余裕はなく、動揺しながらジゼルは次々に缶を開けていき、最後の最後で本物の殺虫剤に辿りついた。
「ううっ、本当に本物なんだろうか」
 不安を感じながらも、使用することにする。

 寮の傍の日の当たる場所に、避難している百合園生の姿もある。
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、立て続けにイルミン生と思われる女性達が入っていくことに不信感を覚えていた。
「も、ももも、もしやこれは百合園女学院学生寮もイルミンスールと同じ様な巨大昆虫が闊歩する遊び場にしてしまおう言わはるエリザベートはんの策略ちゃいますやろか!? イルミンスールの学生達は、エリザベートはんの指示で、視察に来てるんやろか」
「そなたも、百合園生達も、たかが大きい程度の虫相手に情けないですね」
 動揺するエリスと違い、邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)は顔色1つ変えず、至って冷静だった。
「しかし、保存した食料を食い荒らす害虫の存在は、弥生時代では死活問題でした。女王と言えども、見つければ即殲滅だったのですよ」 そう説く壹與比売の傍らで、百合園生とエリスは青ざめながら寄り添い震えている。
「でもほら、知ってはらますか?」
「な、なんですか」
 エリスの言葉に、百合園生達は怯えた目を向ける。
「Gを素早く捕獲して食べてしまうん蜘蛛の話しの事どす」
 言って、エリスは虫かごを百合園生に見せる。中には、Gを捕食する蜘蛛が1匹入っている。
「巨大化させる薬でもあればなあ……」
「きょ、巨大化するかどうかはわからないけど、私もラズィーヤさんから薬貰ったの。どこでどう処分すればいいのか迷ってたんだけどっ」
 少女が小さな瓶を取り出した。……中にはピンク色の液体が入っている。
「それでは、その薬を試してみましょう」
 壹與比売が薬を受け取って、虫かごの中の蜘蛛に振りかける。
 ……しばらく待った後、蜘蛛はみるみる巨大化していく。
「きゃあっ」
「やだっ」
 巨大化した蜘蛛を見て、百合園生達が小さな悲鳴を上げる。Gには及ばないが非常に気持ちが悪い。
「それでは、共にハンティングといきましょうか」
 壹與比売は、G捕食に走る蜘蛛と共に、窓から飛び出た黒き悪魔の元に走る。
 硬い教科書を上から叩き潰して、Big・Gを叩き落すと、即座に蜘蛛が捕食をする。
「きゃーっ」
 その様子に、百合園生達が目を覆う。
「ううっううっううっ」
 エリスもうめき声を上げる。
「次、行きますよ!」
 操ることなど出来るはずはないのだが、壹與比売と巨大蜘蛛は息のあった連携プレイを皆に見せ付けていく。

 蜘蛛とGの巨大昆虫戦をちらりと見てしまい、青くなりながら、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は必死に穴をいくつも掘っていく。
「むむむ〜、み、見たくないです!?」
 Gのあの動き方がどうしてもイヤで、見るのは勿論、部屋の中にいると思うと、退治するまで部屋にはとても戻れない。
「へんなムシ、みんなナニをさわいでるの?」
 パートナーのクレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)は、巨大Gを見ても、蜘蛛を見ても首を傾げるだけだった。
「バフバフ、あっちにいるから、いきたいの」
 彼女はいつでも、セントバーナードのバフバフの背に乗っかっている。
 犬のバフバフがのっそりと歩いて近付いた先の木に、黒い虫がくっついている。
「みんながつかまえようとしているムシだよね」
 突如、クレシダは手を伸ばして、素早くGを捕まえようとする。
 瞬時にGは上へと逃げる。クレシダは手を伸ばしてゆくてを塞いで、その小さな手の中に捕獲した。
「つかまえた、ハイ」
 そしてクレシダはヴァーナーの前で手を広げた。
「ひやあっ」
 ヴァーナーが小さな叫び声を上げる。
 クレシダの手から飛び立ったGが、ヴァーナーへと向かっていく。
「わたしのヴァーナーに、近寄らないでほしいですわ!?」
 途端、間一髪セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が、氷術を横から放ちGを凍らせた。
「うううっ、焼却穴に入れてください」
 ヴァーナーは凍ったGから目を反らして、セツカにお願いをする。
 掘った穴の中には、百合園の皆からもらったお菓子や、鳥もち、ガムテームを貼り付けてあり、固定されたG捕獲器のように作り上げてあった。
「わかりましたわ」
 セツカは凍らせたGをヴァーナーと一緒に掘った焼却穴の中に転がしこむ。
「これもお願い、します……生きているGも入れましたが、液体洗剤も一緒に入れてあるので、万が一の場合も出てくることはないと思います……」
 よろよろと現れたのはラーフィンだった。
 手には不透明の大きなゴミ袋を持っている。
「ありがとうです。たいへんでしたね?」
 ふらふらなラーフィンに、ヴァーナーは労わりの目を向ける。
「う、うん……中も大変だよ。ビリビリしたしね……はははっ」
 ゴミ袋を穴の中に入れると、ふらふらしながら、ラーフィンは再び戦場に戻っていく。
「きゃーっ、ここにもここにも」
 悲鳴と共に廊下を走るの姿がヴァーナー達の目に入る。
 百合園生達の叫び声や、窓ガラスが割れる音、炎が一瞬立ち上ったり。寮の混乱は続いている。
「セツカちゃん、燃やしちゃいましょう」
「火術を放ちますわ」
 セツカが穴の中に火術を放ち、ヴァーナーは獄炎破を放ち、燃やし尽くす。
「こっちもお願い」
「即刻燃やすのじゃ」
 レキと、ミアが、段ボールで作ったG捕獲器を台車に乗せて運んできた。
「おおきいです。たくさんはいっていそうです……」
「中は見てないんだけど、重くなってるからBig・Gが入ってると思う」
 台車から振り払うように、レキが穴の中にG捕獲器を入れる。
「完膚なきまでに消し去ってくれるわ」
「手伝いますわ」
 ミアとセツカが火術を同時に放ち、段ボール捕獲器を燃やしていく。
「黒い悪魔の最期だね」
 燃えていく段ボールとその中のGを見ながら、レキが祈るように言葉を続ける。
「もう二度と百合園へ現われませんように」