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【2020年はじめ】こたつにみかん、であけまして

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【2020年はじめ】こたつにみかん、であけまして

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●新年明けましておめでとうございます

「コタツ、今日初めて知りましたけど、あったかくて気持ちいいですね……なんだか出たくなくなっちゃいます」
「その気持ち、分かりますわ。お雑煮の鍋をここに持ってきたくなりますわ」
「はわぁ〜、掘り炬燵もいいですけどぉ、置き炬燵もいいですねぇ……」
「おば……豊美ちゃん、足を伸ばしてははしたないですよ」
 新年を迎えた日の朝、炬燵を囲んでミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)ミリア・フォレスト飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)飛鳥 馬宿がまったりとした時間を過ごしていた。
 先程までここに腰を下ろしていたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)は、豊美ちゃんが持ってきた羽子板と羽根で『ハイブリッド羽根突き』を始めている。その余波が炬燵組にも絶え間なく届いているものの、炬燵の発する魔力はそういった雑音を無に帰してしまう程に強力であった。
 そして生徒たちも、この四角形の箱、そこに腰を下ろす者たちが醸し出す癒しの波動に、次々と引き込まれていくのであった。

「明けましておめでとうございます……わ、なんだか溶けちゃってるね」
 新年の挨拶にやってきた久世 沙幸(くぜ・さゆき)の言う通り、ミーミルの三対の羽根は地を向いて垂れ下がっているし、豊美ちゃんに至っては炬燵に吸収されそうな様子であった。
「でも、これはまだ溶けてないよ! みんなも、溶けないうちにどうぞ! コタツで火照った体にアイスは、また格別なんだよ」
 言って、沙幸が手にした小包から、色々な味のアイスを取り出して並べていく。
「わぁ、ありがとうございます。えっと、じゃあ私はこれで」
「では、私はこちらをいただきますわ」
「ふむ、確かに一理ある。ならば俺は……これだ」
 その中から、ミーミルはストロベリー、ミリアはオレンジ、そして馬宿は抹茶味を選んだ。
「トヨミちゃん先生には、はい、どうぞ!」
 沙幸が豊美の前に、他よりもちょっと高級なバニラアイスを置く。のびていた豊美ちゃんが元に戻り、それを受け取って笑顔を見せる。
「ありがとうございますー。……でも、どうして私、先生なんですか?」
「だって、トヨミちゃん先生には修学旅行の時に、お世話になったから。『ぱんつ』のこと教えてくれて、本当にありがとう、トヨミちゃん先生!」
「あぁ、あの時のですねー。あれは楽しかったですねー。……でもごめんなさい、私あなたに謝らなくちゃいけないと思うんです」
「えっ、どうして?」
 首を傾げる沙幸に、豊美が恥ずかしながら、沙幸の耳元に口を寄せて答える。
「実はですね、私……ごにょごにょごにょ」
「やっ、トヨミちゃん先生くすぐったいっ……え、ええっ!?」
 かけられる吐息に頬を染めた沙幸は、しかし次の豊美ちゃんの言葉に驚きの声をあげる。
(あら……私の沙幸さんに今度は何を吹き込んだのかしら。それにトヨミちゃんさんのあの様子……これは何かあると見ましたわ。丁度いい機会ですから、確かめさせてもらいましょう)
 沙幸の隣に腰を下ろしていた藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、そそくさと豊美ちゃんの向かい側に回り込む。
(あ、それ!)
 そして、腰を下ろす仕草と同時に、炬燵掛けを素早く、沙幸のスカートのように捲り上げ、奥に見える映像を脳裏にしっかりと焼きつける。その熟練した技は、この中で一番目敏い馬宿ですら気付けるものではなかった。
(……! ……フフ、そうでしたの。トヨミちゃんさんがあんなことを沙幸さんに吹き込んだのも、このためでしたのね)
 脳裏の映像を検証した美海が、納得といった表情を浮かべて、向かいの豊美ちゃんに視線を向ける。
「ウソ……『ぱんつはいてない』は本当だったの!?」
「あわわ、口にしないでくださいっ。……私、そういうの慣れてないんですよー」
 新年早々、衝撃の事実を聞かされた沙幸であった。

「ふぅ……折角の元旦、やはりこうしてゆっくりするのが一番――」
 炬燵に腰を下ろし、ほっ、と一息ついたエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)に、メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)たちの賑やかな会話が届く。
「う〜ん、ハイブリッド羽根突き面白そう……餅つきも楽しそう……でもコタツから出たくない〜……ああもう、いっそ身体が3つあったら全部出来るのに〜!」
「あら、それだとお雑煮を食べる分がなくなっちゃうわよ」
「そ、それは困る〜! お雑煮いただきっ!」
「我輩は既にいただいておるぞ。……うむ、クローディア殿のこしらえたお雑煮なるもの、美味であるな」
「よかったわ〜、見よう見まねで作ってみたんだけど、案外こういうの向いてるのかしら?」
「じゃああたしも作ってみる! で、エリオットくんに食べてもらうんだ!」
「……ふむ、メリエル殿の作ったお雑煮……味見で済めばよいがな」
「ちょっと、それどーいう意味〜!」
 メリエルとアロンソが取っ組み合いを始め、クローディアがお雑煮に口をつけながら微笑ましげに見守っている。
(…………どうしてだ。のんびりできるはずの日に限って、どうしてこうなる?)
 いつも通りの騒ぎを目の当たりにして頭を抱えるエリオット、ふと、かけていた眼鏡に光がキラリ、と走る。
(! ……そうだ、面倒事の嫌いな私が、望んでこのような目に遭うはずがない。つまりは私に、こういう目に合わせる悪意が働いているとしか思えん! そしてその犯人は――)
 思い至ったエリオットが、メリエルとクローディア、アロンソを順に見やる。
(……違う。もっとこう、根源たる存在がいるはずだ……考えろ、私の平穏な元旦を手にいれるため、考えるのだ……!)
 目を閉じ考えに耽るエリオットを、何事かとメリエル、クローディア、アロンソが見つめる。しばらくの沈黙が流れ、そして突然立ち上がったエリオットが、自信たっぷりの表情で言い放つ。
「見つけたぞ、諸悪の根源! いつも私を巻き込んでくれたお礼、たっぷりとさせてもらう!」
 掲げた両の手に、炎が集まっていく。紅く、そしてどこかどす黒い炎が凝縮され、エリオットの指定した『敵』を貫くべくその時を待つ。
 そしてエリオットが、念願を果たすべく術を行使する――!

「たまには本気でのんびりさせろー!」

 えりおっと の こうげき!
 『なかのひと』に 65535の ダメージ!

「え、エリオットくんが壊れた……」
「あらあら、ストレス溜まってたのかしら」
「……生活環境に問題でもあるのだろうか」
 掌から、自ら程もある極太の炎を天に向かって放つエリオットに、自分たちのことを棚どころかどこか異次元に放り投げてメリエル、クローディア、アロンソが言う。
「……ふぅ。これで今日こそ、平穏で心穏やかな休日が過ごせるはず――」
 術を行使し終え、やり遂げた表情を浮かべて腰を下ろしたエリオットの目の前に、羽根突きで使う羽根が飛ばされてくる。それには一枚のメモのようなものが括りつけられていた。
「? 何だこれは――!?!?!?」
 一読したエリオットが、頭から煙を出して床に倒れ込む。
「うわ、エリオットくんが本気で壊れた」
「一体なんだったのかしらね」
「何々……『器物破損による天井の修理代請求 1000G』。……あの校長、金持ちの割にこの辺抜け目ないな」
 どうやら、今日もまたエリオットは、心穏やかな休日を過ごすことは叶わなかったようである。

「皆さん、明けましておめでとうございます。お汁粉を作ってきたので、皆さんで食べませんか」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、お汁粉の入った鍋を持って現れる。その後ろではクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、栗の甘露煮と餅の入ったタッパーを持っていた。
「わぁ、美味しそうですー」
「でもどうしましょう、温め直すものがないわ」
「……あ! 私、これも見つけてきたんでした!」
「ちょっと待ってください、おば……豊美ちゃん。今それを、どこから取り出したのですか」
 馬宿の質問を完全に無視して、豊美ちゃんが炬燵の上にしっかりとした造りの火鉢を置く。火を入れた火鉢の上に鍋が置かれ、さらに用意された火鉢では餅が焼かれていた。
「できましたよ。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……控えめな甘さがかえってピッタリですね」
「そうですか。この栗は私の手作りなんですよ」
 ミリアに涼介がレシピを紹介している横で、ミーミルと豊美ちゃんが次々とお汁粉を食していた。
「ついつい次の一杯が出てしまいますね」
「美味しいですー。いくらでも食べられちゃいますー」
「……そしておば上は明日、体重計の上で涙を流すのですね。ミーミルさんも気を付けた方がいいですよ」
 馬宿の指摘に、二人がうぐ、と声を漏らして手が止まる。
「そういうこと言わないの、ウマヤド! 後、おば上って禁止って言ったでしょー!」
「わ、私は成長期だからいいんです。お母さんを守るために、もっと大きくならないといけないんです」
 言ってミーミルが、控えめな胸を張って答える。
「うぅぅ……ミーミルさん、あなたは私の味方だと思ってましたのに……」
 その発言を受けて、ぺたんこの胸を抱えて泣き崩れる豊美ちゃん。
「ああっ、ご、ごめんなさい。だ、大丈夫ですよ、豊美さんだってこれからきっと大きくなります」
「まあ、そうなればいいのでしょうが……」
 そう言って馬宿がちらり、と上空を見やるように視線を向ける。

 なりません。

「やっぱりそうですか……」
 半ば納得、半ば諦めとばかりに馬宿が溜息をつく。
「おや、餅が切れてしまいましたね」
「じゃあおにいちゃん、これ使おうよ」
 言ってクレアが、一緒に持ってきた鏡餅を掲げる。
「鏡開きですか。時期としては早いですけど、いいでしょう。皆さんにも協力してもらいましょうか」
 涼介が微笑んで、周りの生徒たちに声をかけていく。

 賑わう集団の中心で、小気味よい音を立てて鏡餅が割れ、直後に盛大な歓声が沸き起こる。
「餅でお雑煮なるものですか。……遥、私でよければ作りましょうか?」
「ん〜……ま、後でいいや。今はコタツむりライフを満喫するのですよ〜……お、超ババ様すげえ」
 ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が切り出すも、人類一般家電目コタツムリ科、『コタツむり』と化した支倉 遥(はせくら・はるか)の反応は鈍い。向こうではアーデルハイトとルミーナが壮絶なハイブリッド羽根突きを繰り広げているのと、まさに対照的であった。
「そう、ですか。……そういえば、『一年の計は元旦にあり』という言葉があるそうですが、遥は何かありますか?」
 ちょっと残念そうな顔をしながら、気を取り直して切り出したベアトリクスの問いに、首だけ出した格好の遥が答える。
「何、今年の抱負? あ〜……なんか女王器とかほしいね。なんかすげぇ、そう。なんかね、えげつない特殊能力付きのヤツ」
「随分と捉え所のない抱負ですね……」
 反応に困った様子のベアトリクスの隣で、伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が白袍を舞わせて言い放つ。
「俺の今年の抱負は……空京に行政特区『ア・バオア区』を造り、『吾覇於亜空神社』を建立、パラミタ制覇の足がかりとすることだ!」
「殿……それは抱負ではなく、野望ですよね?」
「そうとも言う! ……ひいては御神体に、俺自らが作成したこの『MGホワイトドール』を祀ろうと――」
 言って藤次郎正宗が、どこからか取り出した素体を炬燵の上に置いた直後、飛んできた羽根が素体に当たり首がもげる。
「バカなっ!? 製作期間27日をかけた俺の逸品が!?」
 藤次郎正宗が慌てて修復に取り掛かる。ちなみに羽根を飛ばした張本人は誰あろう、ルミーナである。彼女にしては珍しい行為だが、蒼空学園の生徒にアーデルハイトを応援され、さらに謎な物を持ち出されては、少しばかりツッコミを入れたくなったのであろう。しかし、相当の距離がありながら的確な場所に羽根を打ち込む技術は、ツッコミ役に回ればどれほどの逸材となることであろうか。将来が楽しみである。
「なんじゃ姉者……ふむふむ、今年の抱負じゃと? ……うむ、『女を磨く』じゃ!」
 ベアトリクスに話を振られた御厨 縁(みくりや・えにし)が、その隣で羽根突きを鑑賞しているサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)に時折視線を向けながら宣言する。そのサラスはといえば、これを制服と言っていいのか少しばかり疑問符がつく、巫女服風味にアレンジされた、しかも彼女のセクシーなプロポーションを強調する制服を身に纏い、男性陣の視線をやたらと集めていた。その横ではシャチ・エクス・マシーナ(しゃち・えくすましーな)が、周囲の喧騒をよそにうとうと、と眠りこけていた。だらりと垂れ下がった裾や袖が、いっそう炬燵と同化しているかのような印象を与える。
「もっと具体的な目標? ……『超ババ様ファン倶楽部』設立。名誉会員No.000001は達成しちゃったからなぁ」
「……遥、それは目標というより妄想では?」
 遥の言葉にベアトリクスがツッコむ向こうで、アーデルハイトが「喜んでいいのか怒るべきなのか分からんのう」と呟くのが見える。羽根突きの合間に聞く余裕がある辺りが流石である。
「ん〜……観賞用に超ババ様のスペアボディが欲しいとか?」
 遥がそれを言った途端、炎に包まれた羽根が遥の髪を焦がす。どうやらあげるつもりは毛頭ないらしい。
「よし、修復完了だ。……また破壊されても叶わん、名残惜しいがしまっておくか」
 元通りの姿を取り戻した素体を箱にしまう藤次郎正宗の遥か向こうで、ルミーナが羽根を手に少々残念そうな表情を浮かべる。
「代わりに……ふむ。まずはここからだな」
 言って藤次郎正宗が、畳まれていた蜜柑の入っていた箱を持ってきて、そこにサインペンで『吾覇於亜空神社』と書き込む。
「こいつにお賽銭を入れてみな。きっとなんかご利益があるぜ」
 適当にでっち上げてものを言う藤次郎正宗の即席賽銭箱に、縁がお賽銭を投じきっちり再拝二拍手一拝して念じる。
「殿、お願いじゃ。理想的なプロポーションになるためもう少しタッパがほしいのじゃ〜。後、その神社に巫女として雇ってたもれ」
「うむ、叶えてしんぜよう! ……プロポーションの方は保証できないがな」
「な、なぜじゃ〜!」
 縁ががくがく、と藤次郎正宗を揺さぶるのを横目に、賽銭箱をひったくった遥が五円玉を投じてやはり再拝二拍手一拝して念じる。
「多くは望みませんので、ベアトリクスの胸がほどほどに大きくなりますように……っと」
「ああぁ、そこまでして『ほどほどに』って念じられるのは微妙です、遥……」

「……コホン。収拾がつかなくなりそうでしたので、ここで一旦締めに入りたいと思います」
「それ、『巻き』って言うんだよね」
 すっかり場の進行役になってしまったベアトリクスが咳払いをしつつ言うと、それまでのほほんとしていたサラスがふっ、と呟く。
「…………そういえば、私の抱負がまだでしたね」
 図星ですと言わんばかりの沈黙を残して、ベアトリクスが無理矢理進行を続ける。
「私は、今年こそもっとフィールドワークに力を注ぎ、民俗学に関する論文の一つか二つは発表したいと――」
「お、今の打ち筋、見えた?」
「いや、全く見えんかった。どのような術を用いればあのような……」
「さあ、吾覇於亜空神社のご利益を受けたくば、この賽銭箱に投じるがいい!」

「……って、誰も聞いてない!?」

 『場の進行役が最後に述べる自分の主張はスルーされる』というお約束をモロに食らって、ベアトリクスが項垂れる。
「……お雑煮の作り方、教わってきます……」
 好きな料理に打ち込めば少しは癒されるだろうかと思いながら、ベアトリクスが席を立って鏡開きの行われている場所へと向かっていった。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくね、大和」
「あけましておめでとうございます、歌菜。今年も……いえ、今年といわず、末永くよろしくお願いしますね」
 薄紅色の振袖姿な遠野 歌菜(とおの・かな)と、紋付袴姿な譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が向き合い、新年の挨拶を交わし合う。
「御節、作ってきたよ。口に合うといいんだけど」
「歌菜が俺のために作ってくれた御節です、大丈夫ですよ」
 歌菜が差し出した重箱を大和が開けば、それぞれの箱に定番の伊達巻、黒豆、数の子といった御節料理が詰められ、そのどれもが色鮮やかに輝き、食欲をそそる香りをもたらしていた。
「肉じゃがまで作ってくださるなんて……俺はパラミタ一の幸せ者ですね」
 箱の一つに詰められていた肉じゃが、ダシのよく染み込んだジャガイモを箸で二つに割って、大和が口に運ぶ。
「大和のリクエストだもん。えっと、美味しい……かな?」
 少々不安げな面持ちの歌菜に、その不安を吹き飛ばすかのように大和が微笑みかける。
「うん……全人類の半分を代表して感想を言いますと、この肉じゃがは過去最高、未来永劫俺の一番です」
「よかった……! ふふ、でもちょっと、大げさじゃないかな?」
「それは、まあ、歌菜に対して多少贔屓目には見ていますが、それでも、これほど美味しい肉じゃがは初めてです。……何より、俺の大好きな糸こんにゃくが入ってますし」
 言って大和が、もう片方のジャガイモを箸でつまんで、歌菜の口元へ持っていく。恥ずかしながら歌菜が、それを口にする。
「……うん、美味しい! えへ、これじゃ自画自賛、だね。じゃあ、これはどうかな?」
 今度は歌菜が、伊達巻をつまんで大和の口元へ持っていく。そうして二人、仲睦まじく御節料理をつつき合う。
「……去年は……その、大和に出会えて、すっごく幸せな一年だったです。だから……今年もね、こうして大和と一緒に居れたら……とっても幸せだと思うんだ」
 湯気を立てるお茶を差し出しながら、歌菜が恥ずかしそうに、けれどしっかりと大和に視線を向けて言う。
「俺も、歌菜と出会えて、幸せですよ。去年は色々あって、そして今年も色々あるかもしれませんけど……それでも、歌菜と一緒なら、きっと立ち向かっていけると思うんです」
 それを受け取る大和、指と指が触れ合い、確かなぬくもりを伝え合う。
「うん! 一緒に、凄くいい一年にしようね!」
 歌菜の笑顔に、大和も微笑んで頷く。

「Frohes Neues jahr. 喜ばしい新年を、ミーミル」
「あっ、明けましておめでとうございます、お父さん」
 新年の挨拶をしにやって来たアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)へ、ミーミルが正座してぺこりと頭を下げる。なかなかに適応力の高い娘である。
「さて、新年といえば大人は子供にお年玉をあげるのが恒例なのだが……」
 言ってアルツールが懐に手を差し入れた直後、向こうで激闘を繰り広げていたエリザベートと環菜の動きがぴたり、と止まる。確実に二人ともお年玉を欲しがるような財政事情ではないはずだが、反応してしまう辺りがどこか微笑ましくもあった。
「無闇に子供に金銭を与えるのは教育上よろしくない。そこで、だ」
 手にした紙片を渡されたミーミルがそれに目を通す。書いてある内容がよく分からないミーミルに代わって説明すると、それはとある有名な仕立て屋の紹介状であった。
「わぁ、ありがとうございます」
「年明けと同時に現物を渡しても良かったが、できればオーダーメイドにしたかったのでな。ヴィオラとネラの分も用意したいから、二人の分はミーミルが見立てておくれ」
「はい、分かりました。どんな服にしましょう……あ、まずはいつ行くか決めないとですよね」
 詳細を話し合うミーミルとアルツールに、何やら期待を含ませた視線を飛ばすいくつかの人影があった。
「……ああ、他の子供達へのお年玉は、済まないがこれで我慢してくれ。……それと、ミーミルに近付こうとする輩には、こんなものを用意してみた」
 言ってアルツールが、微弱な火術の織り込まれたショールと、当たれば確実に痛いであろう鉛玉を見せる。
「鉛玉の方は冗談だ。……クックック」
 冗談で済まないような気がしたのは、決してマイナーな意見ではなかったのは確かであった。