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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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1.道程
 
「ええと、クイーン・ヴァンガードにもたらされた情報によると、目的の遺跡はこちらの方ですね」
 銃型ハンドヘルドコンピュータのモニターを展開しながら、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)たちを先導した。
 空京のシャンバラ宮殿で皇彼方から玄武甲探索を命令されたゴチメイたちに、すでに多くのクイーン・ヴァンガードたちが合流していた。表向きはゴチメイたちの補佐と玄武甲の回収ということになっている。物が現在の最重要アイテムである五獣の女王器の一つであるため、そこそこの人数が動員されていた。これは、十二星華と名乗る敵の襲撃を予測してのことだ。
「案内してくれるのは、まあ助かるんだけど。こんなにぞろぞろついてこられたんじゃ、かえって邪魔なんだけどなあ」
 少し迷惑そうにココ・カンパーニュは言った。
 ゴチックメイド戦隊の印と彼女たちが言っているミニシルクハットに結ばれたリボンは赤で、彼女はリーダーを名乗っている。黒いゴチックドレスのむき出しの肩は短いケープで被われており、ミニのフレアスカートはレースのペチコートでゆったりとふくらみ、無駄のない筋肉のついた両脚はガーターベルトで吊られた黒いオーバーニーソックスにつつまれていた。やや切れ長で目尻のあがった目はともすれば幼く見える顔を引き締め、長い黒髪をアップにまとめて顕わになったうなじは普段の言動とは無関係に女らしさを表している。
「しかたないですね、本物の玄武甲だとしたら、確実に手に入れなければなりませんから。クイーン・ヴァンガードに手抜きはないということなのでしょう。それに、ココさんたちのお目付役ということも命令されていますから」
「何よそれ、あたしたちのこと信用してないなんて、失礼しちゃうわ」
 ナナ・ノルデンの言葉を小耳に挟んだリン・ダージ(りん・だーじ)が、唇をとがらせた。ココ・カンパーニュよりも年上なのだが、見た目は幼児体型そのものだ。ミニシルクハットのピンクのリボンがよく似合っていると言える。シースルー部分の多いドレスを着ていて、後ろ丈が長いスカートもシースルーなのだが、前の方はエプロンで隠していた。衣装だけを見れば色っぽいのだが、いかんせんアリス特有の子供っぽさが災いしている。翼は普段は小型化していて、角は金髪ツインテールで隠していた。
「まあまあまあ、いつものことですから」
 気にしないでと、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)がなだめる。おっとりとした口調は、やや下がった目尻の優しい感じや、ちょっと肉づきのよい体型とよく合っている。ブラウンのセミロングヘアーの上にちょこんと載せたミニシルクハットのリボンの色は黄色だ。縁がレースでシースルーとなったキャミソール系のドレスにシルクの腕カバー、そして、膝丈のスカートを穿いている。腰の後ろには大きなリボン結びがあり、本来は魔法少女風のはずであるのだが、どうしても見た目お母さんという感じである。魔法使い然としていて、薄いマントや、様々な指輪などのアイテムがそれらしい。
「組織としては、当然でしょうね」
 淡々と、ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が言った。すらりとした美丈夫で、小花をあしらったミニシルクハットのブルーリボンに似合った凜とした物腰をしている。高い位置でポニーテールにまとめた赤味の強い髪は、ココ・カンパーニュと同じぐらいに長い。メイド服は身体のラインにぴったりと合った物で一見地味に見えるが、細かい縫い取り模様が全体的に入った凝った物だ。ストッキングの上にはキュロットスカートを穿き、サンドイッチスカートでゆったりとした感じを出している。背中に背負われたつつみは愛用のフランベルジュで、たいていは肌身離さず持ち歩いていた。
「でも、うざいことはうざい存在だな」
 マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)がちょっとだけ噛みついた。意外なことに一番の長身で、そのせいでかなり細く見える。紺色のショートヘアーに載せたミニシルクハットのリボンはグリーンだ。ノースリーブのドレスや、膝丈のスカートは装飾過多気味で、大きな襟とネッカチーフにハーフマントという組み合わせが、本人の性格とは真逆の紳士っぽい出で立ちとなっている
「まあ、あまり気にしないでください。仕事は仕事、私たちは私たちですから」
 そう言って、ナナ・ノルデンは軽くウインクをして見せた。
「でも、みんな仲がいーけど、どうして知り合ったの?」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、ゴチメイたちに訊ねた。
「まあ、類友と言ってね。似たようにふらふらしててパラ実に送られたボクたちを、リーダーがいつの間にか拾い集めてくれたってわけさ」
 マサラ・アッサムが肩をすくめながら言った。
「おう、そうなんだ」
 興味深く耳をそばだてていた百々目鬼 迅(どどめき・じん)が、すかさず吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)へ報告するためにメモをとった。
「一山いくらのように言うものではないですよ」
「違うの?」
 さりげなくマサラ・アッサムを諭すペコ・フラワリーに、リン・ダージが意外そうに聞き返した。
「いいや」
 違わないと、ペコ・フラワリーが静かに首を振る。
「みんな一緒ですわよね」
 嬉しそうに、チャイ・セイロンがつけ加えた。
「それより、玄武甲って、いったいどんな物なんだい。張り切って引き受けたのはいいけど、まだなんも知らないんだけど」
 今更ながらに、ココ・カンパーニュが言った。
「そうですわね、わたくしもそれが気になっているのですけれど」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)も、同じ疑問を口にした。
「うんうん。お手伝いするにも、何を探すのか知らなきゃ無理だよね」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が同意する。
「ええと、今回のミッション用に渡されたデータによりますと……」
 ナナ・ノルデンが、銃型ハンドヘルドコンピュータのデータを検索した。さすがに、最低限のデータはクイーン・ヴァンガードたちには与えられているようだ。
「形状は、ブレストプレートメイルに分類される物のようですね。上半身だけの鎧ということです。能力は不明とされています。単に極秘事項として秘密にされているだけかもしれませんが」
「噂では、防御力無限大とか、精神力無限大とか、美しさ無限大とか、いろいろあるんだよね。ああ、単純に美術品なだけで、お飾りだっていう噂もあるんだよ」
 ズィーベン・ズューデンが、噂レベルの情報を次々につけ加えた。結局、ものすごいスーパーアイテムか、ただのお飾りらしい。
「その程度の情報だと、本物かどうか判別つかないよね」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)が、困ったように言った。確かに、何かの特徴がなければ、目の前にそれらしき物があったとしても、それが玄武甲だと決めつけることができないだろう。
「そこがつけめだと思ったから、ライバルの攪乱用に偽の玄武甲を用意してきたのに……」
 たくさんの手甲を詰め込んだ袋を背負った日堂 真宵(にちどう・まよい)が、がっかりしたように言った。
「ねえ、本当に、鎧なの? 鎧なの? 鎧なの!?」
「ででで、データでは、よよよよ、鎧なんですううう……」
 日堂真宵に胸倉をつかまれて振り回されながら、ナナ・ノルデンが必死に答えた。
「そんなスーパーアイテムが、そこらの平凡な遺跡にあるというのも謎ですわ。罠の臭いがぷんぷんしますわね」
 あからさまに怪しいと、藍玉美海が言った。
「偽物だったら困るじゃん。だって、お宝よ、お宝」
 一連の話を聞いていた茅野 菫(ちの・すみれ)が騒いだ。
「せっかく高く売れそうなのにねえ。あたし、いい買い手知ってんだよ」
 ココ・カンパーニュの耳に顔を寄せると、茅野菫は小声でささやいた。
「それもいいねえ。でも、それで何をするんだい」
 ちょっと興味をそそられたように、ココ・カンパーニュが訊ねた。
「パートナーの国を造ってあげたいに決まってるじゃん」
 ちょっと胸を張って、茅野菫が言った。
「国を造る?」
 何を言い出すのかと、ココ・カンパーニュは聞き返した。
「ええ、そうよ。でも、私や菫が女王になろうというわけではないわ。小次郎ー」
 茅野菫と白と黒との色違いのペアルック姿をしたパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が、相馬 小次郎(そうま・こじろう)を手招きした。
 早歩きですたすたとココ・カンパーニュに追いついた相馬小次郎が、自然な動作で一礼した。
「シャンバラの女王に立候補でもしたいのかい?」
「そういうわけではないのだよ」
 ココ・カンパーニュの問いに、相馬小次郎はそう答えた。
「自らの国を興すというのは、わしの夢であり、そのための人材を探しておるのだよ。なにものにもとらわれずに、人々が自由に暮らせる国、そういうものをわしと一緒に目指してはくれぬだろうか」
 深々と頭を下げて相馬小次郎がゴチメイたちに頼み込んだ。
 どうしたものかと、ちょっと困ったようにゴチメイたちがリーダーのココ・カンパーニュを見る。
「でも、それに協力したら、結局はその新しい国というのにとらわれるんだろ。それはちょっとやだなあ」
「それは……」
 否定しようとして、ちょっと相馬小次郎は考えた。国造りの仲間となってもらえば、その国はゴチメイたちの国にもなると考えていたのだが、それは少し虫のいい考えであったかもしれない。自らの望まぬものの束縛を逃れた自分の国というものも、見方を変えてしまえば、結局は自分自身にとらわれるということなのかもしれないのだ。ただ、それでも、その国を造ってみたいと相馬小次郎は思っている。
「自由がいいというよりは、面倒なのが嫌いなんだよな。何かに入っちゃうと、そこの規則に縛られちまうだろう」
「では、なぜクイーン・ヴァンガードに入隊しようと思ったのですか?」
 ごまかすようにちょっと頬を指先で掻くココ・カンパーニュに、ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が素朴な疑問をぶつけてみた。
「いやあ、お金になるかと思ったんだけどねえ。なんだか、思いっきり暴れてもいい組織みたいだったし。はははは」
 なぜだか照れ隠しするように、ココ・カンパーニュが笑った。さすがに、周囲の者たちも、ちょっと呆れてしまう。
「クイーン・ヴァンガードは、そんなに甘い組織とは思えぬが。もし、気に入らぬことを命じられたらどうするつもりであるのだ?」
 少し諭すように、ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)がココ・カンパーニュに言った。
「そのときは、さっさとおさらばするさ。誰であろうと、私たちを止めることなんかできないし、させない」
 ゴチメイ隊のメンバーを見守るかのようにさっと視線を走らせながら、ココ・カンパーニュは答えた。
「個人でそんなことはできぬと思うが。だからこそ、組織というものがあり、その恩恵も義務も生まれるのだと思うのであるが。それに押し流されずに、流れを生み出すことこそ、人が個のみでない証しであろう」
 チラリとジーナ・ユキノシタの方を見ながらガイアス・ミスファーンは言った。それは、まるでココ・カンパーニュに言っているのではなく、ジーナ・ユキノシタにむかって言ったかのようであった。
「私は一人じゃないよ。手のかかる仲間がここにほら、こうしているじゃないか」
 そう言うと、ココ・カンパーニュはそばにいたリン・ダージとマサラ・アッサムの首に腕を回して自分の方へ引き寄せた。
「こ、こら、リーダー……」
「お姉さんに対して、そゆことはしない!」
 ふいを突かれた二人が、抗議の声をあげる。
「まあまあまあ」
 それを見たチャイ・セイロンが、ペコ・フラワリーと顔を見合わせて笑った。