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隠れ里の神子

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隠れ里の神子

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「俺が教える前に、コイツらはわかってたってことか……」
 目の前で学校に関係なく協力して、前にいる敵に立ち向かう生徒たちを見て、レン・オズワルド(れん・おずわるど)は笑った。
――平穏に生きる者たちの生活を奪ってまで、復活させなければいけないほど、女王とは必要なものなのか……。そこまで、コイツらがわかって、動いてるんならいいんだがなぁ……。
 レンは溜め息をつくと、雷術を唱え、ゴブリンのライフルに目がけて解き放った。
 その威力は絶大でゴブリンが落としたライフルは使い物にはならず、また見た目もすでに何であったのかわからないほどだった。勿論、ゴブリンの息の根もしっかりと止まっている。その姿は見るも無残なものだった。
――女王の話、神子の話に興味はない。ただ外界から持ち込まれる喧騒に獣人たちの平穏が乱されるのが我慢ならなかった。
「なのに、俺たちのやってることも平穏を乱す行為に他ならないな」
 レンは自嘲し、ふと視線を遠くへと向けた。
「気のせいか……」
 レンは視線を感じた気がしたのだが、そこには誰もいなかった。再び前を向く。
「危ないっ! 伏せて!」
 レンが前を向いた瞬間、声が飛んだ。その声の数秒あとにレンのいたところへライフルの弾が通り過ぎて行く。
 声の主はアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)だった。
「すまない。恩に着るよ」
 レンはアシャンテに向かって苦笑して見せた。
「例には及びません。助け合うのは人として当たり前ですから」
 アシャンテは穏やかに微笑むと踵を返した。背後にゴブリンの気配を感じ取ったからだ。レンはアシャンテの左目だけが金色に輝いているのを不思議に思ったが、然して気にもとめずに戦闘へと戻る。
 アシャンテは先程まで昏睡状態にあった。戦闘の途中でひどい頭痛に襲われ、そのまま気を失ってしまったのだ。その理由を彼女のパートナーであるラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)は知っている。しかし、そのことについては何も触れなかった。アシャンテの瞳は左だけ金色の輝きを放ち続けている。
――紅く、両目が金色に輝いた時、アシャンテは……。
 ラズはそこまで考えて、大きくかぶりを振った。
――考えてはいけない。考えては辛くなるだけだ。
 ラズは胸のうちにそっとしまった。
「ラズ、何をぼーっとしているのですか? そんなところでぼーっとしていたら、ゴブリンに襲撃されても文句は言えませんよ?」
 いたずらっぽく笑うアシャンテを見て、ラズは苦笑した。
「大丈夫だよ。自分がやられると思うかい?」
「そうは思いませんけど。油断は禁物です。ここが戦場なら尚更」
「さぁ、残りのゴブリンもあと少しだ。さっさと片付けてしまおうか」
 アシャンテとラズは乱戦の中に姿を消したのだった。



 鞠乃たちは銃声を頼りに漸く隠れ里の前に辿り着くことが出来た。チーム別で行動していた鞠乃たちだったが、すでに鞠乃たちは合流を果たし、ここに辿り着いたのだった。そして、目の前では戦いが繰り広げられていた。その様子を呆然と見据えていると、一輝がニカっと白い歯を見せて笑った。
「俺さー、ゴブリン倒すのが今回の目的だったんだよ。お前たちは神子んとこに行ってきな。俺たちがここ片付けといてやるからさ」
「そういうことです。私も一輝と一緒にゴブリンたちを一掃してきます。ごきげんよう」
 ローザは上品に微笑むと、一輝と一緒に砂煙の中へと消えて行った。
 残された鞠乃たちは獣人たちといる生徒の存在に気が付き、駆け寄ったのだった。



 生徒たちの奮闘のあって、ゴブリンが一掃された。
「ふふっ、レティーフには残念だけど、ここで死んでもらうよ。だって、シャノンさんが殺していいって言うから」
 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)は不敵な笑みを浮かべながら、レティーフに近付いて行く。彼のパートナーのシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)はその光景をただ黙って見据えていた。
「さぁ、どっからバラしてもらいたい?」
 より一層不敵に微笑みながら、マッシュはレティーフへと近付いていく。
「あー、でも、殺すのは止めた。だって、僕の石化のコレクションにしたいもん」
 そう言って、マッシュは再度不敵な笑みを浮かべる。
 レティーフはじりじりと間合いを詰めてくるマッシュから、いかに注意をそらさせるかを考えていた。しかし、なかなか良い案は浮かばない。これだけ敵が周りにいたのでは、下手に動くことは出来なかった。後ずさることだけで精一杯だ。
 とんっと背中が何かに当たった。恐る恐る後ろを振り返れば、そこには、シャノンが立っていた。レティーフの顔が恐怖に歪む。
「ザナドゥの封印は女王復活の波動で弱まってしまうからな。故に女王復活に必要な神子を鏖殺寺院に殺させる訳にはいかないんだ。だからね、私がマッシュに君を殺していいって言ったんだ」
「……!」
 さすがのレティーフも声が出ないようだった。
「人殺しは感心しないな。その相手が誰であれ、どんな外道であれ、な」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は悠然と言い、マッシュの前にさっと自分の腕を出し、歩みを止めた。
「何をするんだよ」
 マッシュは苛立ちを隠そうともせずに、リリに食ってかかる。その様子を見ていたリリのパートナーであるユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)は一瞬身構えた。大事なリリに危害を加えられるかもしれないと焦ったのだ。それに気が付いたリリは2人を制する。
「大丈夫だ」
「でも……!」
 身を乗り出したユリの服の裾をしっかりとララが掴み、止めた。
「大丈夫です。リリさんが大丈夫だって言ってるんですから。信じましょう」
「……わかった」
 ユリは仕方なく、その場に留まることにする。
「今回の一件は全員で力を合わせて達成出来たことだ。その中には殺しを良しとしない者もいるだろう。何より、ここにいる獣人たちにそんな残酷なものを見せたくはないんだ。今回は勘弁してくれないかな」
 リリはマッシュの瞳をしっかりと見て言った。マッシュは無言でリリの瞳を見据え続けている。
「あーあ。仕方ないなぁ。今回だけだからね。シャノンさんの目的も別に殺すことじゃないし。ですよね? シャノンさん」
「まぁ、邪魔だから、殺してしまえ、くらいにしか考えてはいなかったけどな……」
「うん。今回は見逃しあげるよ。良かったね、レティーフ。君、命拾いしたんだよ?」
「くっ……!」
「さぁ、どうする!? ゴブリンたちはもういないよぉ!?」
 マッシュは小馬鹿にしたように言い、レティーフに近付いた。
「くっそ……! あとちょっとだって言うのに……」
「もう勝ち目はないよ?」
「覚えておけよっ! 貴様ら!!」
 レティーフは悪役のお決まりの捨て台詞を残し、身を翻した。



 こうして、戦いは静かに幕を閉じた。
 ユリたちを始めとする回復魔術の使える生徒たちは負傷した者の治療に当たっていた。
 しばらくは、この場を動けないことは明白だった。ケガを負っていなくとも、疲労感に苛まれ、ぐったりと横になっている者の姿が多く見受けられた。
 ララは一通り治療が終わったのを見計らい、立ち上がった。
「ワタシは旅人が故郷を思う歌を歌い、ケガをした皆さんの心を癒したいです」
 そう言って、ララは微笑んだ。綺麗な歌声が森中に響き渡る。
 思わずそこにいる誰もが聞き入った。