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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)
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終章 果たされた約束

 ティセラとの戦闘の痕跡が色濃く残る空京市街の中心部には、被害検分をする建築家や大工が集まり。
 一時は避難していた住人達が、自分の家や店の様子を心配しながらぞろぞろと戻ってきつつあった。
 そこかしこの治療施設には、洗脳は解かれた物の未だ気絶したままの剣の花嫁達が次々と運び込まれていく。

「へ、変に私のために頑張ってくれたって…う、嬉しくなんかないんだからね!」
 半分は嬉しそうに、半分は怒りながら、隼人にヒールを施すアイラや、

「さあ次は誰っ? まとめてヒールかけてあげるよっ?」
 きびきびと走り回るコレットをはじめ、治療役が出始めたことで、疲れ果てた生徒達の間にも徐々に安堵の空気が広がっていく。

 ティセラと彼女による事件の脅威はとりあえず去り、空京の街は活気を取り戻し始めつつある。

 しかし。

 もはやだいぶ小さくなった荷物を抱えた一団の足取りは、とぼとぼと重たかった。

「カンバス・ウォーカーさんの想いは、引き継げませんでしたね……」
 ソアはその小さな肩をしょぼんと落とす。
「女神像の欠片、結局、奪い返されちまったな……」
 その横ではベアの大きな体が、とても小さくなって悄気げ返っている。
「カンバスに……笑って欲しかったのににゃ……」
 黒猫姿のシスは前肢で顔を拭った。
「カンバス・ウォーカーがその身を犠牲にしてまで作ってくれたチャンスだってのに……俺、また何にも出来なかったのかよ……」
 ケイは持って行きようのない怒りにその身を震わせていた。
「ま、まぁみなさん、とりあえず顔を上げて」
 カースが努めて明るい声をあげる。
「ですな。出来ることをしましょう」
 八織がその顔を振り仰いだ。
 視線の先には骨董品屋の看板が見えている。

 「Death mask’s Festival dance」

 美術品の、最後の返却先だった。

「おじさん。これ、返させてくれよ」
 ケイが、持っていた包みをそっとカウンターの上に置いた。
 店主は、白髪の交じるあごひげをしごきながら包みを開く。
「ああ、えーと……『カンバス・ウォーカー一味』、か」

『ご迷惑をおかけし(ました)(たな)』

 ソアとベアが揃ってその頭を深々と下げた。

「ふん。きちんと律儀に返しに来たな。役には立ったのかい?」

 店主の言葉に、ソアは顔を伏せ、何かを耐えるように肩を震わせる。
 ポフ。
 その頭に、ベアが優しく大きな手を乗せた。

「迷惑ついでにお願いなんだけどさ。像をひとつ、修復して欲しいんだ。得意なんだろ、おじさん」
「まあねぇ――って、なんだおい、これっ?」

 ケイが袋からは取り出した中身に、店主は複雑な表情を浮かべる。

 それは、レプリカの女神像の欠片。
 カンバス・ウォーカーと共にティセラに砕かれたおかげで散り散りになったものを、ここにいるメンバーがかき集めてきた物だった。

「相当細けぇものまで拾ってきたのには感心するが……」
「たのむにゃっ! どうにかするにゃっ!」
 カウンターに飛び乗ったシスが、店主を真正面から見て訴える。

「パーツがまるで足りないみたいなんだけどねぇ……」

 欠片を手に取り、様々な角度から確認し、少し積み上げてみて、店主は首を横に振った。
 シスががっくりと肩を落とす。
「まあ諦めるんだね。俺も諦める」
「おっさんが諦める諦めないは関係ないのにゃっ!」
「バカ野郎。こりゃもともとうちの商品だ。お前らが一緒にいたカンバス・ウォーカーが最初にいたのは、ここなんだよ」
 店主はトントンとショーケースを示してみせた。

「どうにかなんないのかよ。修復したところでカンバス・ウォーカーは、像と共に砕かれてしまった想いは戻らないかもしれない。そんなのわかってるけどさ……」

 ケイの言葉に、店主は深いため息をつく。

「ったく、相当足りないねぇ……胴体がほぼ丸々……ホントにそれっぽく復元するだけになるな、こんなもの……。足りねぇ欠片の代わりは、これでいいか? 空から降ってきたんだが」

 ゴン。

 店主が無造作にカウンターに置いた物を見て、

 その場にいた一同は完全に息を飲んだ。

「や、八織殿っ! こ、こここ、これっ!」

 代表して上がったカースの声は、ほとんど驚愕に痙攣している。

「ええ――皆様っ」

 八織はそこに集まった全員の顔を確認。
 全員がこくりと頷くのを見るや否や、常にはあらぬ慌てた様子で携帯電話のボタンを叩いた。

「あ、テティス様。嬉しいご報告ですなっ! 女神像の胴部、お渡しできますぞっ! 」

 歓声をあげたソアがベアに抱きつき、ベアはそんなソアの両手を持ってグルグルと振り回す。
 ケイはその喜びのあまり、万歳の勢いでシスを高く放り上げた。

「何だお前ら、こんなもんが嬉しいのか? じゃあ今日来た若ぇのも、もしかしてこれが欲しかったのか? 砕かれた石像っつーから別の渡しちまったが……悪いことしたか」

 突然の快哉を叫んだ一同を訝しげに眺めながら、店主はごしごしとあごひげをしごいた。

「八織殿、祝杯の準備ですっ! もっとも――お茶でですが」
 カースが、嬉しくてたまらないというように言葉を紡ぐ。
「ふむ。手伝って欲しいのですなっ!」
 言いながら、八織はすでにその手にティーセットを出現させている。
「喜んでっ! それから八織殿、カンバス殿のためにも一杯お入れください、必ずお忘れ無くっ!」
 その言葉に、八織は小さな微笑みを浮かべた。
 まるで、そこにカンバス・ウォーカーがいるとでも言わんばかりの微笑みを。
「当然なのですっ! 最高の一杯を、用意させてもらうのですなっ!」

担当マスターより

▼担当マスター

椎名 磁石

▼マスターコメント

 こんにちは、マスターの椎名磁石です。
 今回は『【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)』に参加していただきましてありがとうございました!
 女神像を取っては取られ、ティセラを押して押されて……空京での一進一退の攻防はいかがだったでしょうか? 
 毎度毎度なのですが、皆さんからいただいたアクションを眺めながら「ここで○○さんがこう動くと?」「おお、なんとこんなところで××さんに影響するぞ?」「そして□□さんと△△さんが――」と、めぐりの悪い頭を何とか回す有様。特に今回は皆さんの様々な想いが入り乱れる展開となり、「あれもやりたいこれもやりたい」ととにかく色々悩ませていただきました……贅沢な悩みなのですが。
 わかりにくくなっていませんように、どうか面白く伝わっていますようにと願いつつ。楽しんでいただけていれば幸いです。
 それでは、いつかまたこの広大なパラミタ大陸のどこかでお会いできました日には、ぜひ懲りずにお付き合いください!