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リアクション
第3章 疑惑の想い
「ナナ、どう?」
テテテと駆け寄ってくるズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)の声を機に、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)はパン屋のカウンター越しにしていた会話を切り上げた。
「特には。おかげでパンを買う事になりましたが」
「わ、いいなぁ」
「食べたければどうぞ。甘いのもありますよ」
ナナの差し出した紙袋に、ズィーベンは目をキラキラさせて手を突っ込んだ。
「にしても……カンバス・ウォーカーさんの姿が空に消えるのを見た方はいれど、胴部は見つかりませんね……」
呟きながら、ナナは何やら銃型HCで演算を始める。
「落下地点はこの辺だと思うのですが……どういうことでしょう?」
「物識りのナナが分からないんじゃ、ボクお手上げだよ」
幸せそうにパンに頬張るズィーベン。
ナナは腕を組んで考え込んだ。
「そちらはどうでした? 新しいカンバス・ウォーカーさん、は。もしそんな存在がいるなら、胴部に近いかもしれませんからね」
「それが全然ダメ。少なくともこの周辺でカンバス・ウォーカーっぽい人を見たなんて話はなかったよ。やっぱり、あれっきりだった……みたいだね」
ナナは小さく嘆息。
「仕方ありません。捜索の範囲を広げましょう」
「そうだね。あ、あそこで捜し物してる人いるし、声かけてみようよ」
「洗脳された人ではないですね? 気をつけて下さいねっ」
ズィーベンに注意を促し、ナナは銃型HCに探索の情報を書き込んだ。
「誰か近づいてきますね? まさかティセラの手先ではないですよね?」
グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)の問いに、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)はコクリとひとつ、頷いて見せた。
「……そうですね、聞き方が悪かったですね。それは、『ティセラの手先ではない』ことへのYesの『コクリ』で大丈夫ですか?」
再びコクリと頷くレイラに、グロリアは苦笑を浮かべる。
「もっと声を出して話してもいいんですよ?」
グロリアの声に、しかしレイラは照れたように僅かに頬を染めただけで、女神像の胴部探しに戻っていった。
「しかし、市街地での失せ物探し。教導団での訓練が今役に立っているのは間違いありませんが……これなら仕掛けられた爆弾でも探してた方が、反応がある分よっぽど楽かもしれませんね」
グロリアは、そう言って、グーッと肩と腰を伸ばした。
「ん?」
そのグロリアに向かって、レイラがおずおずと両手を差し出して見せた。
手のひらには重量のありそうな塊が乗っかっている。
「爆弾じゃ……ありませんよね? それ……胴部ですか?」
「おいおい、タマ。そんなところまで必要か?」
小人の小鞄を、光精の指輪を使って。
ゴミだまりから貯水タンクの裏側まで覗き込んでみせる狭山 珠樹(さやま・たまき)に、新田 実(にった・みのる)は呆れた声をあげた。
「探し残しすことがあったら、正確な情報になりません。少し慎重すぎるくらいの方がよろしいですわ」
「にしてもなぁ。こんなとこに飛んでくる可能性は薄そうだし、他の奴に先こされちまうぜ?」
実は眼下を眺めやる。
少し背の高いこのビルからは、少し遠くまで空京の街を眺めることが出来た。
「構いません。想いを同じくする誰かが見つけていただければ。我がここを探せば、他の方の負担を減らせます。少なくとも、誰かのお役には立てますわ」
ニッコリと微笑む珠樹に、実はため息をついた。
「いいけどよ。風も強ぇんだ。引っかけたりして、なくすなよ、それ」
ぶっきらぼうに言って実は珠樹が大切そうに手首に巻きつけていたリボンを強く結びなおした。
少し照れる実。
コトン。
その気まずさは、小鞄の小人達が立てた乾いた音に遮られた。
小人達が運んできた物に、珠樹の目が見開かれる。
「ほほほ、ほら、みのるんっ! 当たりですわっ!」
「お、おお……」
実は、信じられないような想いで声を洩らした。
「さっそく皆さんにお伝えしなければなりませんわね」
珠樹は、胴部発見を伝えようと、急いで銃型HCを立ち上げた。
「……」
その珠樹の言葉が止まる。
「……」
訝しげにその手元を覗き込んで、今度は実も言葉を止める。
「……」
「……」
「なあタマ。女神って、胴をいっぱい持ってるのか? 例えば……タコの足みたいに」
「いえ……たぶんおひとつだと思いますわ」
ネット上には、今や胴部発見の情報が溢れかえっていた。
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