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来訪者と襲撃者と通りがかりのあの人と

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第7章 はじめてのおともだち


 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、万が一、ルシェールを見つけても恐がらせないように一人で行動することにした。
 捜索の基本は情報と足。駆け足で空京のデパートの中を片っ端から探していく。
「だ、だめ。もう走れないよ〜」
 ミルディアはぺたんと座り込んだ。
 もう歩けない。もう走れない。ちょっとだって動けないんだからぐらいの勢いで、デパート一階のフロアに座り込んでいる。店員がこちらを窺っていた。
 ルシェールはデパートに居ないのかもしれない。一時間も走りまくって探してもいないとなると、デパートではなくショップブランドの店舗が集まる界隈にいるのかもしれなかった。
 ミルディアはしかたなく立ち上がり、トボトボと外に出る。力を振り絞ってミルディアは高級店の並ぶ界隈へと走り出した。
 そして、ミルディアは自分の勘が当たったことを神に感謝した。丁度、大通りに出たところで、紙袋を手に持ち、楽しげに歩くルシェールを発見したのだ。
 長い白髪に可愛らしい顔。
 制服は着ていなかったが、あれはルシェールだ。紙袋の隙間から薔薇の学舎の制服の端っこが見えた。ミルディアは携帯を取り出し、さっき、薔薇の学舎の先生に貰った画像ファイルを開けて確認した。

(やったの〜ぅ♪)

 ミルディアはグッとガッツポーズをし、ルシェールに気付かれないように近付いていった。
 さて、相手には近付いた。声もかけることができる。
 それらしい話題で話しかけるのも良いが、何と言って話かければ良いのやら。
 ミルディアは少し考えた。さっき走って来た所為か喉が渇き、掠れて喉の奥が痛んだ。そうだ、その話題で良いかもしれない。
 ミルディアっは意を決して、ルシェールに話かけた。
「あ、あのぅ」
「なあに?」
 少年は振り返った。
 やっぱり、ルシェールだった。
 ミルディアはホッと胸を撫で下ろすと、一気に言った。
「あのぅ〜、美味しい喫茶店はぁ、近くにないですかぁー? ちょっと疲れてるってゆーか、休みたいんだけど」
 勿論、それは嘘だ。
 まくし立てる様に言われ、ルシェールは目を丸くした。
「美味しい喫茶店なら……俺が聞きたいなぁ」
「へ?」
「えっとね、俺ね。行きたいお店に行けなくって、それでね。あの……」
 モジモジしながらルシェールはミルディアを見上げた。
「そこに連れてってくれないかな」
「いいけどぉ。なんでかなぁ〜?」
「うん、実はね。とっても素敵なお店があるなぁって、思って――入ったの。そしたら、道がわからなくなっちゃって。いっぱい歩いて探したんだけど、デパートの外に出たら余計にわからな……っ」
 そう言うと、隠していた寂しさが溢れてきたのだろう、ルシェールの瞳に涙が浮かぶ。
 買い物してても、やはり迷子は迷子。目的地に行けないことの焦りとその気晴らしに、気に入ったお店に入っていた節もあるようだ。お店に出入りして迷子になり、道を探して迷子になる。完全なドツボに嵌っていたのだろう。
「ソルヴェーグが、ソルヴェーグがいないよぅ。タシガンからお迎えにきてくれるって、サラ・リリと来てくれるっていったのに、いないよ〜」
 アイスクリームショップのパンフレットを握り締めてルシェールが泣きはじめる。
「いないよぅ。ソルヴェーグがいないよ……」
「わ、わかったから。泣かないで。アタシも泣きたくなっちゃう」
 弱りきってミルディアがそう言うと、ルシェールは顔を上げた。
 一生懸命、涙を止めようと我慢し始める。
「おねーちゃんは、泣いちゃダメなんだよ? 俺もね、泣かないから。俺、頑張るもん」
「良い子だね。でも、みんなは心配してるよ、きっと」
「うん。でもね、ここだけでいいから連れてって。ここのアイスクリームって美味しいんだって。ソルヴェーグにあげるの」
「ソルヴェーグ……って、人に?」
 ミルディアはちょっと誤魔化した。
 自分が二人を知っているというのは言わない方が良さそうだ。きっと吃驚するにちがいない。それに、パートナーへの贈り物って、イイ感じかもしれない。
 ルシェールは何も知らず、ちょっと微笑んだ。
「うん、そうだよ。俺のパートナーなんだって、ママンが言ってた」
 ルシェールはミルディアの制服の端をギュッとして笑う。
「俺の名前はね、ルシェール・ユキト・リノイエだよ」
 ルシェールはお願いしますと言って、ぺこりと頭を下げた。