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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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第6章 喜び・・・苦しみ・・・絶望する悪夢

「人々を悪夢の中へ送ってしまうなんて、いたずらにしては度がすぎますね」
 枕返しをやめさせようとクロス・クロノス(くろす・くろのす)は座敷わらしを探している。
「ふぁ〜、なんで急に眠気が・・・」
 いきなり眠気に襲われ、小さく欠伸をする。
「うー・・・、徹夜なんて慣れてるのになん・・・すぅ」
 バタンッと地面へ倒れてしまい、物干し竿から落ちた枕の上にゴロンと転がる。
 眠った彼女を鬼ごっこの鬼役の生徒たちから逃げてきた座敷わらしが見つけてしまう。
「村のやつら、まだわらしにお供えものをくれないなんて!この子の枕も返しちゃおう、プンプン!」
 まだ村人への怒りが収まらない彼女は、クロスの枕をひっくり返す。
「―・・・私はどうしてここに・・・」
 悪夢の中へ送られたクロスが目を開けると、鬱蒼と緑が多い茂るどこかの森にいる。
 突然見知らぬ地へやってきてしまったのかと警戒しながら進む。
「こういうところって、虫が沢山いっぱいいるはずですけど・・・」
 道にありんこ1匹いない森を見て、不思議そうに目を丸くする。
「雨・・・?周りの地面は濡れてないのにどうして・・・。む、む、む・・・、むしぃぃぃいい!?」
 何が降ってきたのかと見上げると、そこには人間サイズはありそうな大きなクワガタのメスが、木の上からクロスを狙って見下ろしている。
 彼女が雨だと思ったのはクワガタの唾液だったのだ。
 極度の虫嫌いのクロスにとってはかなり最悪な状況だ。
「いやぁぁあああぁああぁあ・・・。虫が・・・虫が来る!」
 クロスは恐怖のあまり動けなくなってしまう。
 化け物クワガタがギチギチと6本の足を動かしている動作を見た彼女は、恐ろしさのあまり失神しそうになる。
 クワガタはブゥウンッと飛び、クロスの目の前にやってくると抵抗出来ない彼女の四肢を尖った両手で貫き、獲物を確実に喰らうとする。
 獲物を確保出来たクワガタは彼女の腕にかぶりつき、大嫌いな虫に喰いつかれた腕の骨がミシッと軋み、痛みで気を失いそうになる。
 ブチブチブチッと腕を引き千切られ片腕を失う。
「(ぁあっ、いやぁあっ・・・食べないで。食べないでください・・・)」
 自分の四肢が喰われていくのを見せつけられ、クロスは泣きながら心の中で呟く。
 次は内臓をいただこうと、クワガタが彼女の腸を、手足を使って引きずり出す。
 手足がついていたところを生気のない目で見ると、断面からドロリと真っ赤な流れ出ている。
 その状態で生きているのが不思議なくらいだ。
 クワガタは彼女が死なないように、鮮度を保とうと殺さずに少しずつ喰らっている。
「(こんなのに食べられて終わる・・・んですか。私・・・)」
 クロスの腹の中は生命を保つための最小限の臓器と、心臓が残っているだけにされてしまう。
 他の何かがあった箇所は空になり、彼女の視界に入るほど肋骨が見えている。
 ベキンッと頭蓋骨を噛み砕かれ、樹液を啜るかのようにズルズルと脳みそを吸われていく。
 他の部位を喰らい終わると最後に心臓をグチャッと噛み、彼女の身体を残さず喰らいきる。



 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)も枕返しされてしまい、気づくと彼は空が赤黒い荒野にいる。
 風で流れてくる血錆の匂いが鼻をつく。
「ちっ、またこの夢かい・・・・・・」
 顔が黒く塗りつぶされて見えない人間が地平線の彼方までずらりと並び、剣や槍の得物を手にして竜造を囲んでいる。
「イィィィハァァァァ!」
 刃渡り90cmほどの、赤黒い刃のドスの形状をした光条兵器を握り締めて声を上げる。
「さっさと来ねぇと始末しちまうぜっ」
 向かってくる相手に爆炎波をくらわす。
「―・・・ちっ、しくじったか・・・。だが、それくらいじゃ俺は殺れねぇぜ」
 背を狙って刺してきた人間に剣圧を飛ばす。
「くそっ夢なのに何でだ・・・」
 刺された傷口に焼けるような痛みが走る。
 身体ごと悪夢へ送られてしまった影響で、まるで現実のように痛みがあるのだ。
 斬られた感触が現実同様の鮮明な痛みを感じ、驚いた彼は傷口をじっと見つめる。
 何を思ったのかその傷口に指を食いこませてみる。
「・・・・・・ほぉ、今日は趣向を凝らしてるってわけかい。いいじゃねえか・・・」
 その途端にニヤリと笑い上機嫌になる。
「血空仰ぎし無間修羅。手前らの血肉で屍山を築くが先か、俺が無数の刃に身を貫かれて絶すが先か!今宵は格別に殺しあおうぜぇ!」
 得物の穂先を天高く上げて叫び、敵へ向かっていきターゲットの胴体を薙ぐ。
 相手は苦しみながら地面へ突っ伏す。
「それだけか?つまらねぇなっ」
 あっけないなと見下ろしていると、斬られたはずの相手がゆっくり立ち上がる。
 魔法攻撃の武器では致命傷になりづらい。
「くっ・・・SP切れか」
 だんだんと光条兵器の輝きが消えていく。
 それを見た相手がしめたと、短刀で彼の心臓を狙う。
「まぁいい。武器はこれだけじゃねぇしなっ!」
 綾刀を鞘から抜き放ち、勝てると思い込んで向かってきた敵の頭部を切り落とす。
 竜造に切り落とされた頭部がゴンッと荒野へ落ちる。
「次はどいつだ?何十人でもかかってきやがれぇえ!」
 それをメシャッと踏み潰し、大声を上げて自分に挑んでくる者はいないかと叫ぶ。
「ゴフッ・・・やるじゃねぇか」
 人間たちに取り囲まれた竜造が、槍の刃が腹部を刺され吐血する。
「だが・・・足元がガラ空きだぜぇえ!」
 それでも死んでいない彼はニッと笑い、獣が獲物を喰らおうとするかのように地面へ屈み、敵の足首を斬り落とす。
「今度はてめえだっ」
 死体の頭を掴んで別の敵へ投げつけ、足首を斬られて動けない者を踏み台にし、ターゲットを蹴り飛ばす。
「てめぇが最後の1人か。殺してやろうからどっからでも来なっ。存分に殺し合おうぜ、イィィィハァァァァ!」
 黒色の双眸をギラつかせて相手を挑発し、嬉々をして迎え撃つ。
 ズブリと相手の心臓を刺し貫いた感覚が手にあり、竜造はニヤリと笑う。
「楽しかったぜ。なぁ・・・てめぇも楽しかっただろ?―・・・まったく、命のやり取りなんて、この世の最高の博打だぜ」
 そう言い、その殺した相手に竜造も殺され、荒野の上へドサァッと倒れる。



「うー・・・ん。何・・・この暑さ。クーラーがついているはずなのに。きゃぁあっ、火事!?」
 炎の熱さにうなされ双葉 京子(ふたば・きょうこ)は燃える洋館の一室で目が覚めた。
「―・・・」
 火が苦手な彼女は言葉を失い、そこから動けなくなってしまう。
「京子ちゃんが悪夢の中に!」
 椎名 真(しいな・まこと)が離れている隙に枕返しされ、京子は悪夢に送られてしまった。
「座敷わらし頼む。俺も京子ちゃんと同じ悪夢に送ってくれ!」
 無表情の小さな妖怪の袖を掴み必死に頼む。
「もしわらしがやだって言ったら?」
「お願いだ、頼む!悪夢の中で苦しんでいるかもしれない京子ちゃんを助けてあげたい・・・」
「ふぅん。苦しいところにわざわざ行きたいなんて。わらしには理解出来ないよ」
「それでも・・・京子ちゃんがいるところに行きたい・・・」
「だったらお望み通りにしてあげるっ」
 眠っている生徒から奪った菓子を包んだ袋を、真の頭に思い切り叩きつけて気絶させて、枕返しをして部屋から出て行く。
「助けに来たよ京子ちゃん!―・・・くっ、熱っ・・・!」
 真は京子がいる洋館の部屋を開け、バケツの水を被って炎の中に飛び込む。
「早く外に出よう」
 動けない彼女を抱きかかえて廊下を走り、外へ脱出した瞬間、ドォオオンッと館が爆発し黒煙が空へ昇る。
「怪我はない?」
「大丈夫よ真くん、ありがとう」
 炎に怯えていた京子は真を見上げて微笑む。
「もう大丈夫だから下ろして」
「うん、どこも怪我がなくて本当によかったよ」
 草の上へ下ろしてやる。
「あら、何でそんな女の子と一緒にいるの?」
 聞き覚えのある声を耳にした2人は、顔を強張らせて恐る恐る振り返ると真の本当の主、髪の長い京子が真と彼の傍にいる京子をキッと鋭い目つきで睨む。
「お願い・・・、真くんを奪わないで。私には・・・真くんが必要なの」
 真の本物の主が現れ、京子は自分から彼が離れてしまうと思い、泣きながら言う。
「奪う?主は私よ、勘違いされては困るわ。返してくれない?元々主は私なんだから。さぁ帰ってきて、私のところに」
 主は京子から真へ視線を移し、彼に優しく微笑みかける。
「嫌・・・私、離れたくない!」
 彼女に取られたくない京子は、迷う彼の腕にしがみつく。
「まっ、真くん!?」
 急に抱きしめられた京子は茶色の目を丸くする。
「―・・・真くん?―・・・・・・!」
 黙っている彼を呼かけてみるが、返事が帰ってこない。
 彼女を敵から守った彼の背にナイフが刺さり、口から血が流れ出る。
「京子ちゃんは・・・俺が守る!」
 大切な存在を守ろうとするあまり痛みを忘れて、標的のバックを取りナラカの蜘蛛糸を両腕に巻きつけ、糸の先端をシュッと引っ張る。
 両腕を断裂された相手は即死し、地面へ転がりる。
「んぐっ、・・・がは!」
 超感覚でも察知しきれず、物陰に潜んでいた別の敵に心臓をズリュッと掴み取られてしまう。
「後はそいつをやれば仕事は終わりだ」
「がふぁっ・・・京子ちゃんは、俺が・・・俺が守る、守らなきゃいけない!」
 実力行使で倒そうと、敵の襟首を掴み、眼球から膝にかけて殴る。
「守らなきゃ・・・ぐっ・・・・・・」
 力尽きた真は襟首から手を離してしまい、ずるりと崩れ落ちる。
「血が止まらないっ」
 心臓を抜かれてしまっては、京子のグレーターヒールでもどうにもならない。
 それでも彼女は諦めず術をかける。
「ちくしょう。こいつのせいでオレも、もうもたない・・・。その前に・・・こいつの心臓をぶっ潰してやる、はっははは!―・・・・・・っ」
 死に際に潰そうと敵は高笑いをしながら心臓を地面へ叩きつける。
「真くんーっ!!やめて・・・、返して!いやぁあぁああ!!ぁああぁあっ」
 奪われた心臓を取り戻そうとするが、目の前で真の心臓をベシャアと踏み潰されてしまい、悲痛な声を上げ泣き叫ぶ。
「(よかった敵は死んだんだ・・・京子ちゃんは・・・)」
 死んで魂だけの存在になった真は、京子が無事かどうか見る。
「私が弱いから・・・私がいるからこんなことになってしまったの?」
「(泣いてる・・・守れたけど、守れたけど・・・これじゃいけないのかな)」
 京子に外傷はないものの、彼女は真の死体にしがみつき泣き喚いている。
「―・・・あれ?ここは・・・屋敷の外・・・かな?」
 死んだはずの自分が炎上している屋敷から京子を助け出し、本当の主に遭遇したところへ戻され、きつねにつままれたように目を丸くして周囲を見回す。
「さっきと同じ景色・・・てことは!」
「今度は私が守る番よ」
 京子はブライトフレイルで真を守り敵を殴り倒す。
「後もう1人・・・っ」
 隠れている相手を殴りつける。
「やった、倒した!」
「京子ちゃんっ」
「え・・・あぐっ!」
 喜んでいるのも束の間、倒したと思った相手が這い上がり、自分たちだけ死んでたまるかと京子を刺し殺す。
「そんな・・・守りたかったのに。どうして・・・うぁああぁあっ!」
 死んでしまった京子の亡骸の傍で、真は苦しみながら叫び立ち尽くす。
 また同じ場に戻され、今度は互いに守ろうとした力が突然消えて殺されてしまう。
「消えて裏切り者!」
 3度目は本当の主に銃殺されてしまった。
 どちらかが死んだり、2人も死んでしまったりするシーンが繰り返される。



「今度もお仕事上手くいくといいね、お父様」
 ミルディアは海を眺めている父親の元へ駆け寄り、彼の腕に抱きついて見上げる。
 しかしこれは現実ではなく、座敷わらしにお菓子だけ取られ、枕返しされた悪夢の中だ。
「もうすぐ日が暮れる。お母さんがいる部屋に戻りなさい」
「はぁーい」
 元気に返事をするとミルディアは、ドアを開けてトタタッと走っていく。
 母親がいる部屋の前にやってきた彼女が、ドアノブに手をかけようとすると突然、中からドタンッと何かが落ちた音が聞こえた。
 その時はトランクケースでも倒してしまったんだろうと、気にせずドアを開けようとする。
「あれ?鍵がかかってる・・・。そうだ、私も鍵を持ってるんだっけ。ん?どこかな・・・」
 服のポケットやバックの中を探してみるものの、部屋の鍵はどこにもない。
「そういえば部屋の中におきっぱなしで、お父様のところに行っちゃったんだっけ。お母様ー、開けてーっ」
 ドンドンッとドアを叩いて母親を呼んでも、開けてくれる気配はない。
「おかしいな、眠っているのかな?仕方ないから、お父様のところに戻ろうっと・・・あっ、開いた!」
 ガチャッと鍵を開ける音が聞こえ、母親が開けてくれたんだろうと思いミルディアは開けようとする。
「お母様ただいま。さっきお父様とお話したんだよ・・・って・・・あなた・・・・・・誰?」
 母親かと思いきや、室内から出てきたのは、黒いスーツを着た見知らぬ人間だ。
 その者は何も答えず部屋から出てく。
「うーん、お客さんかな?見たことない人だけど。まぁいいや、お母様に聞こう」
 部屋の中へ入ろうしたとたん、ミルディアたち一家が使っている部屋の近くへ通りがかった乗客が悲鳴を上げる。
 どうしたんだろうと母親がいる方へ視線を移そうとすると、視界を遮るように彼女の父親が部屋の前に立つ。
「お小遣いを上げるから、ラウンジでおやつでも食べておいでミルディア。美味しそうなケーキがあったよ」
「ありがとう、お父様!」
 先ほど部屋の中を見た乗客の悲鳴よりも、おやつのほうが気になり、ミルディアは嬉しそうにラウンジへ走っていく。
 振り向くと父親が床に膝をつき、悲しそうに顔を俯かせている。
 どうして悲しい顔をしているのか彼女には分からなかったが、その時すでに母親は何者かに殺されてしまっていた。
 ラウンジに行こうと階段を降りると、自分たちが使っている部屋から出てきた者がいる。
 相手は懐から拳銃を取り出し、ミルディアに向けて撃つ。
 放たれた銃弾は彼女の頬を掠めただけだった。
「き・・・きゃぁあっ、誰か助けてー!お父親様ーっ、お父親様ーー!!」
 ミルディアは泣きながら父親の元へ逃げようと走っていく。
 ようやく部屋へたどり着いたかと思うと、そこに父親の姿はない。
「やめて、撃たないで。うぁあん怖いよーっ。お父様、お母様ーっ!」
 ズダンッ。
 彼女の母親が殺された同じ拳銃で、心臓を撃ち抜かれる。
「(血・・・誰の?)」
 絨毯に染み込んだ血の上へ倒れ、それが誰の血なのかミルディアには分からなかったが、その血は彼女の母親の血だ。
「痛い・・・痛いよ・・・。寒い、寒いよぉー・・・。うぅ・・・死にたくない、死にたくないよぉ、助けて・・・助けて・・・助け・・・て・・・・・・」
 同じ場所に倒れ、身体がだんだんと冷たくなっていくのを感じ息絶えた。