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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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第2章 わがまま妖怪をトラップで捕縛計画

「子供が好きそうな玩具といっても、いろいろありますよね。何にしましょうか・・・」
 影野 陽太(かげの・ようた)は携帯電話を介して、学校のコンピュータにアクセスして調べる。
「どれもありきたりなのしか見当たりませんね。相手は女の子ですからそれらしいがあればいいんですけど。お手玉ですか・・・ぁあっ、ソーイングセットを持っていませんでした!とりあえず独楽や竹とんぼを作ってみましょう」
 日曜大工セットから鑿を取り出し、木屑を削って玩具を作る。
「怪我しないように、やすりで丸みをつけてっと・・・」
 粗めのやすりで玩具に丸みをつける。
「線が切れて基盤から離れてますね。まず古い線を取って、買ってきた新しい線に変えてっと・・・」
 2台の壊れたゲーム機を、はんだ付けセットで修理する。
「ふぅ、こんなものでしょうか。これに興味を持ってくれればいいんですけどね。捕まえるためのトラップをどこかに仕掛けておきましょう」
 おもちゃの車に作った遊び道具を入れて、トラップを仕掛ける場所を探す。



「この長屋で座敷わらしさんが神隠しを起こしているようだけど、見つからないねぇ。(それにしても周囲の視線がなんだか痛い・・・)」
 佐々良 縁(ささら・よすが)は座敷わらしの怒りを鎮めてあげようと葦原の長屋にやってきたが、なぜかじーっと生徒たちに見られている。
 彼女が連れているパートナーの魔道書、著者・編者不詳 『諸国百物語』(ちょしゃへんしゃふしょう・しょこくひゃくものがたり)のことを見ているのだ。
 妖怪の少女が書かれている手がかりの本に書かれている絵を見ていなければ、見間違われてしまうかもしれない。
「違いますよー?人違いですからねー?」
 他の生徒に諸国百物語が捕まえられないように縁は大声で言う。
「誰かに、乱暴に捕まえられる前に見つけたいけど。かといって、そう簡単には姿を現してくれないよねぇ・・・」
 袋小路の奥へ行ってみても妖怪の姿はない。
「眠っている人の枕を返そうと、誰かの家の中にたりするかもねぇ。あのぉー、座敷わらしがいるかもしれないんで、ちょこっとお邪魔しますよー」
「よかんべよ」
 ひょっとしたら妖怪の少女が忍び込んでいるかもしれないと、家主に失礼がないように言い、許可をもらった縁はパートナーと一緒に長屋へ入ってみることにした。
「ありゃ・・・寝ようとしている人がいるねぇ」
「座敷わらしさんを捕まえるためにわざとじゃないでしょうか?」
「へぇ〜なるほどねぇ」
 諸国百物語の言葉に縁は先に家の中にいる2人の生徒を見て、妖怪を捕まえようとわざと寝たふりをしようとしているのだと理解する。
「他の部屋も見てみようか」
 邪魔をしないように他の部屋を見てみることにした。
「お菓子も用意したし、座敷わらしが来るように寝たふりでもしていよう」
 縁たちが別の部屋へ移動した後、枕を返そうと妖怪が近づいてくるように、お菓子を持ったまま透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)と一緒に、長屋の一室を借りて寝たふりをする。
「眠ったふりしている人には申し訳ないけど、やっぱり隙をついて捕まえないとねぇ。この辺りに隠れようかな・・・」
 へらっと笑って軽く謝ると東條 カガチ(とうじょう・かがち)は畳んである布団の傍に隠れ、座敷わらしが来るのを待ち構える。
「妖怪の実年齢は俺より上なんだろうけど。まぁ・・・見た目だけじゃなくて、性格も子供のようだからねぇ。ソフトに捕まえてやらないと」
 布団の後ろから部屋の様子を見ながら小声で呟く。
「座敷わらし!?いや・・・違うか。同じ黒髪でも、妖怪の女の子の方は、髪型がおかっぱだからねぇ」
 妖怪の少女を探して窓からそっと覗くクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)に気づいたカガチは、彼を探している相手だと間違えそうになり、隠れている場所から動きそうになる。
 家の中にいないと分かると彼はしょんぼりとした顔をして、他の場所を探そうと窓から離れて別の家へ行く。
「無理に捕まえようとすると反抗して片っ端から長屋のお宅訪問して、枕返ししまくりそうだからねぇ」
 カガチは廊下や窓へ視線を移し、どこから忍び込んでくるか分からない少女を待つ。
 ギッ・・・ギシッ・・・。
 古くなった木の床を踏む音を、超感覚で聞き取る。
「(おっ、来たのかな?)」
 相手が寝たふりをしている透玻たちに近づいてくるのを、息を潜めておやつを入れた菓子袋を握り締める。
「(着物姿の少女・・・今度こそ本物か!?)」
 部屋に入ろうとする着物姿の女の子を見たカガチは、布団の陰から出て彼女を捕まえようとする。
 驚いた少女は彼の手から逃れ、家の外へ走る。
「はーい大人しくしてなー、そして飯食え!おやつ食え!」
 カガチは彼女を逃がすものかと追いかけ、外に出た少女を捕まえる。
「―・・・きゃあー!」
 飯や菓子を食べさせようとする彼に向かって、少女がファイアストームを放つ。
「ぶぎゃえぇえぁああーっ!?」
 服についた炎を消そうと、カガチはゴロゴロと土の上へ転がる。
「何するんですか、間違えないでくださいっ」
「へっ・・・?」
 今度こそ本物だと思った彼は地べたに突っ伏したまま、きょとんとした顔で少女を見上げる。
「獣が踏み潰されたような凄い悲鳴が聞こえたけど何があった!?」
 彼の悲鳴に驚いた縁が家から飛び出る。
「縁ちゃん・・・何だか私と座敷わらしさんと間違えて、突然捕まえようとしてきたんです」
 カガチが妖怪の少女だと思った彼女は、縁のパートナーの諸国百物語だ。
「ありゃりゃ」
 縁がプスプスと焦げているカガチを見下ろす。
「かがっちゃん・・・百ちゃんと座敷わらしさんを間違えたから、こんなに香ばしく焦がされちゃったんだねぇ。まったく、ろくに確認もしないからこんな目に遭うんだからね!」
「うぅ、そんなに怒らないでよー・・・」
 見下ろされながら叱られたカガチは泣きそうになる。
「ほら傷を見せて」
 やれやれとため息をつき、縁は彼の傷をヒールで治す。
「百ちゃんが全力モードじゃないからこの程度で済んだけど。今度から気をつけてよね」
「分かったよ〜・・・。(たぶんね)」
 傷を治してもらったカガチが涙声で言いながらも、心中では本当に反省しているのか不明のままだ。



「ロープに布を通してっと・・・。フフフッ、これでトラップ完成です!」
 駄菓子屋の周辺にセットしたトラップを見上げ、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は不敵に笑う。
 座敷わらしが布の上にやってきた瞬間に、ロープを引っ張り捕まえようという作戦だ。
「最近ヒーローらしいことしていなかったせいでヒーローのクロセルじゃなく、腹黒騎士団長や闇鍋奉行として世に認知されてしまいます!」
 拳を握り締めてクロセルはこの事態をなんとせねばと思い、妖怪を捕まえにやって来たのだ。
「これ以上、黒や闇などの名称がつく前に、名誉挽回を図らねばいけません!相手がチビッコの姿をしていようが、世の中の厳しさを教えてあげないといけないのです!!」
「何やらクロセル殿が燃えているでござるな」
 熱く燃え滾るクロセルを見つめ、童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)は熱気に溶かされないよう彼から離れる。
「後は・・・。マナ!お菓子を買ってあげますからこっちへ来てください」
 棚に並んでいる水飴を手に取り、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)に見せて呼ぶ。
 抹茶チョコやオレンジ味のガムを欲しそうに見つめているマナが、ぱっとクロセルの方へ振り向く。
「ほ・・・本当かクロセル!」
「えぇ、本当ですよ」
「うーむ・・・ここはやはり慎重に選ばねば。団子にしよう・・・いやラムネも捨てがたい・・・」
 マナはまるで獲物を見るように目をギラッと鋭くし、駄菓子を睨むように選ぶ。
「そんなにじっくり選ばなくても、いっぱい買ってあげますよ。どれにしますか?」
「―・・・なっ何ぃい!?いつもは健康に悪いからそれ以上はいけないとか、太るとか言って量を制限してくるというのにっ」
 彼の言葉にマナは驚き目のあまり丸くする。
「どれでも好きなお菓子を選んでください」
「よぉし、本当に選ぶぞっ、いいのだな!?」
「どうぞ。ヒーローは嘘をつきませんから」
 訝しげな目で見るマナに対して、クロセルが爽やかな笑顔で言う。
「座敷わらしを捕まえるための腹ごしらえというわけだな?それならば・・・!」
 マナは手当たり次第、買い物カゴに駄菓子を放り込むように入れる。
「カゴに詰めたぞ。ま・・・まさか今更ウソでしたなんて言わないな!?」
 これでもかと駄菓子を敷き詰めたてんこ盛りのカゴをクロセルに見せ、沢山買ってくれるという言葉にウソ偽りないか聞く。
「言いませんよ。ではお店の人に会計してもらいましょうか」
「どれも美味しそうだ・・・」
 店のおじいさんに会計してもらいながらマナはキラキラと目を輝かせる、
「ほい、おつりだっぺ。ほら袋から落とさないようにな。お嬢ちゃん沢山買ってもらってよかったべなぁ」
 駄菓子屋の店主は釣銭をクロセルに渡し、駄菓子を入れた袋をマナに手渡す。
「さっそくいただくとしよう。まずはどれから・・・」
「あ・・・待ってください。どうせなら俺が用意したレジャーシートの上で食べませんか?」
「おぉ気が利くな。ではそこでいただくとしようか」
「日陰ですからそこで涼みながらゆっくり食べられますよ」
 クロセルはシートの方へ行くマナに、表情を変えず笑顔のまま言う。
「この袋・・・開けづらいのだよっ」
「マナ殿、拙者が開けてあげるでござる」
 きなこ味のスナック菓子の袋をスノーマンがパリッと開けてやる。
「開けづらい袋は拙者が開けるでござるよ」
「すまないな。もぐもぐ・・・」
 ガサガサと菓子袋に手を入れ、マナは掴んだスナック菓子を口の中へ放り込む。
「(クロセル殿はマナ殿の近くに座敷わらしが現れるだろうと言っていたでござるが。本当に現れるのでござろうか・・・)」
 夏の暑さで溶けないように、体系維持のためにカキ氷を食べながらスノーマンが心の中で呟く。
「お菓子に夢中みたいですね・・・」
 爽やかな笑顔から表情を一変させ、クロセルは何かを企んでいるような黒い笑いを漏らす。
「(来たようでござるな!)」
 スノーマンはカランコロンと近づいてくる下駄の音を聞き、相手に気づかれないように横目でちらりと見る。
「(例え子供であろうとも・・・いや、子供のうちだからこそ、きちんと厳しくしつけないといけないでござるよ!)」
 座敷わらしの姿に気づいていないふりをし、かき氷を食べ続ける。
「むっ!出たな座敷わらしっ。お菓子が欲しいならこっちへ来るのだ。分けてやる」
 クロセルに沢山買ってもらったマナは、分けてやろうと白い着物姿の妖怪の少女を呼ぶ。
「どうしたのだ、いらないのか?」
「(ど・・・どうしたんですか、早くシートの方へ行くんですよ!)」
 なかなかマナの方にいかない少女が、トラップに気づいたのかと思い、クロセルは頬から汗を流して焦る。
「こっちに来て一緒に食べるでござるよ」
「雪だるま・・・?」
 喋るスノーマンを見て、座敷わらしは不思議そうに首を傾げる。
「雪だるまではなく、スノーマンと呼んで欲しいでござる」
「スノー・・・マン?」
 ありふれたお菓子には興味がない座敷わらしは見向きもせず、スノーマンの方へ近寄る。
「今です!」
 ロープの端を持ったクロセルが、布のトラップをセットした反対側へ飛び降り、引っ張り上げる。
「何をするクロセル!」
 一緒に捕まった状態のマナがじたばたと暴れる。
「敵を騙すには、まず味方から・・・というわけです。はーっははは!!」
「ぎゃぁあーーっ。助けてくだされクロセル殿!拙者の身体が・・・、身体が破壊されるでござるぅう!!」
 座敷わらしにドスドスと殴りかかられているスノーマンが悲鳴を上げる。
 彼に興味を示した少女は殴っているのではなく冷たい身体を珍しく思い、きゃっきゃとはしゃいで雪遊びしているつもりだ。
「きゃははっ。面白ぉおい♪」
「は・・・・・・破壊!?―・・・スノーマン、座敷わらしを逃がさないように頑張ってください!」
「ク・・・クロセル殿、そんな無茶な!?壊されるでござるーっ!」
「今、その妖怪を簀巻きにしますから捕まえていてくださいよ」
 助けを求めるスノーマンに対して、クロセルはまだ捕まえているように言い、布とロープで座敷わらしを捕縛しようとする。
「いたたっ、そんなに引っ張ったら拙者の腕が抜けるでござるっ。あぁっ座敷わらしが!」
 スノーマンの腕をすりぬけた座敷わらしが布を引き千切り路地に出てしまう。
「その後ろは壁です。逃がしませんよ」
 ロープを手にクロセルがじりじりと少女との間合いを詰める。
「覚悟ーっ!」
「その仮面なぁに?わらしに貸してー」
 座敷わらしはぴょいーんとジャンプし、クロセルの仮面を取ろうとする。
「や、やめてください。仮面だけは、仮面だけはーーっ!あぁあっー!!」
 クロセルは少女の予想外の行動に慌てふためく。
「貸してくれたっていいじゃない。お兄ちゃんのけーちぃ〜」
 べーっと舌を出し、座敷わらしは走り去っていく。
「逃げられてしまったでござるな・・・」
 身体が崩壊しないようにスノーマンがカキ氷を食べながら言う。
「うぅーっ、せっかくの名誉挽回の機会がぁあーっ!」
 妖怪の少女に負けてしまったクロセルの悔しげな声が長屋に響き渡る。



「今、何か人の叫び声が聞こえたような・・・」
 クロセルの声を聞いた咲夜 由宇(さくや・ゆう)が、周囲をキョロキョロと見回す。
「温泉に入りに来たんじゃないのか?あ、待てっ。おーいっ!!」
 アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)は声が聞こえた方へ走り出す彼女を追いかけていく。
「どうしたんです!?」
 作戦が失敗してしまい、憔悴しきっているクロセルのところへ由宇が駆け寄る。
「座敷わらしに逃げられてしまったんです・・・」
「―・・・座敷わらし?」
「お供え物がもらえないからと、枕返しをして長屋の人を消している妖怪でござる。消えた人たちはその中で悪夢を見せられているでござるよ」
 しょんぼりしているクロセルに代わって、首を傾げている彼女にスノーマンが答える。
「け・・・消されちゃうんですか!?これは大事件ですアレンくん!」
「温泉は?」
「それどころじゃありませんっ。まずは座敷わらしくんを探して、どうしたらやめてくれるか話を聞かないといけませんね」
「―・・・はぁ、何でこうなるのかな・・・」
 せっかく温泉へ入りに来たのに、事件に顔を突っ込む彼女に対して、アレンは深いため息をつく。
「どこか狭い路地に追い込みましょうか・・・」
 そう考えながら歩いていると、どこからか童謡が聞こえてきた。
「お供え物・・・ですか。うーん・・・・・・上げられるお菓子を持ってきてませんね。あっ、そうです。アレンくんブラックコートを着てください」
「何で?」
「それを着て、一緒に追いかけましょう」
「いくらなんでも走って追いかけたら足音で気づかれると思うんだけど」
「ないよりはマシですよ。(たぶん・・・)」
「探すにしてもどこを探したらいいんだろうねぇ」
 長屋は決して広くはないが、探そうにもどこから探したらいいのやらと、由宇の方へ顔を向ける。
「眠っている人のところを見張っていればきっと来るはずですっ」
 由宇は自信満々に言い、眠っている人を探しに向かう。