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【初心者向け】遙か大空の彼方・前編

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【初心者向け】遙か大空の彼方・前編

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 大地は巨人により支えられ、
 天空は竜によって護られる。

 島を背負う巨人の名をアトラス、
 島を護る竜を統べる、天空竜の名をウラノスと言う。


 Part.1 協力者たち

「天空竜、だってさ」
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)は、噂を聞いて、パートナーのサイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)に言った。
「つまり、ドラゴンってことだよな?
 本当にそんなの見つけて捕まえられるのかな」
 熾烈な受験戦争を切りぬけ、天御柱学園に入学したばかり、そして今、パラミタ大陸に来たばかりの裄人にとって、「ドラゴン」というのは、地球人に対して攻撃を仕掛ける存在だという認識しかない。
 契約者であれば免れるが、契約者を持たない地球人がパラミタに来た場合、空京の結界か携帯式の小型結界を持たない限り、ドラゴン襲撃などの「災厄」に見舞われる。
 ドラゴンは、脅威なのだ。
「気になりますか?」
 首を傾げながら、優しく訊ねたサイファスに、
「……別に……まあ……何となく」
と裄人は視線を逸らす。
「入学したばかりで色々忙しいんだし。冒険ごっこに付き合ってる暇なんてないよ」
 とか何とか言いつつ、気になってるんですよね、とサイファスは微笑みながら肩を竦めた。
 本当にドラゴンを近くで見ることができたら、それはすごいことだろう。
「ああ、あれ、噂の人達じゃないですか?」
 町の中を歩いている、良く似た特徴の人物を見かけ、サイファスが示すと、裄人ははっとその方向を向く。
 サイファスがくすくす笑ったので、慌てて顔を元に戻し、しかしちらりともう一度彼等の方を見た。
「声をかけてみたらどうですか」
 うずうずしている裄人に声をかけてやる。
「……、何かさ、妙に存在感のある人達だよね」
 それは、噂を聞いただけでサイファスが、あの人物ではないかと目をとめてしまう程度には。
 尻込みしているふうの裄人に、サイファスは笑う。
「お友達になってください、って一言言えばいいんですよ」
 まあ、人間の感情というものは、思えばすぐにできるような簡単なものではないと解っているけれど。
 特に裄人は頑固だし。
「あ」
「え?」
「君、俺達に用?」
 背後から突然声を掛けられて、裄人は驚いて振り向いた。
 そこに、浅黒い肌をした長身の男が立っていて、二度驚く。
「あ、悪い、びっくりさせたか?」
 驚いた裄人に、男は身を引いた。
「シキ、いきなりいなくなったと思ったら何やってんだよ」
 彼と一緒に歩いていた別の少年が、声をかけながらこちらに方向転換してくる。
「この人達が、俺達のこと見てたから。
 何か用かなって思って」
「そうなのか? お前が目立ってるせいじゃねーの。何だ?」
 最後の問いは、裄人とサイファスに向けられたものだ。
「手伝ってくれる人かも」
 シキが言うと、彼の顔がぱっと輝いた。
「あ、そうか! そうなのか?」
 思わず頷いた裄人に、彼はますます満面の笑みを見せ、ばしばしと裄人の肩を叩く。
「そっか! 人手は大歓迎だぜ。
 俺はトオル。お前は?」
「あ、藤堂裄人……」
「ユキトか。よろしく頼むな。
 その制服、天御柱だよな、いいな〜。俺も転校したいくらいだぜ」
 すっかり友達気取りでトオルに引っ張って行かれる裄人を、サイファスは面白そうに眺めつつ、後ろから続いたのだった。


「空の旅。面白そうですわね。
 是非協力をさせていただきますわ」
 と、トオルに会ったアンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)は微笑んだ。
 パートナーと共にツァンダ観光に来てのこの噂に、彼女は面白そうだと乗ることにした。
「……こら、あまり尊大な言い方をするでない」
 アンジェラの後ろでその言葉を聞いていたパートナーのヴィオーラ・加賀宮(う゛ぃおーら・かがみや)がひっそりとたしなめる。
 放っておくと、悪気がなくてもうっかり高圧的な言い方になってしまうのが心配の種だ。
「あら、ごめんなさい?」
「構わねえよ。助かる。よろしくな」
 トオルは細かいことは気にしないタチらしく、気にすんなと笑って礼を言う。
「まだ何も詳しいことは解ってねえんだ。
 とりあえず、飛空艇を手に入れるところからだな」
 それでしたら、とアンジェラは考えた。
「わたくしもツァンダでの調査に参加しますわね。
 大勢でぞろぞろ歩き回っても仕方ありませんし、別行動でよろしくて?」
「ああ。携帯の番号渡しとく」
 連絡先を交換してトオル達と別れると、さて、始めますかとアンジェラは、まずメモを用意する。
「調査とな?」
「そうですわ。安全に空の旅をする為の前準備、といったところですわね。
 天気とか、ツァンダ周辺を飛行する際の注意点、とか。
 そういうのも重要ではありませんこと?」
 地震に関する調査も重要だろうとは思うが、それ以外にも注意すべき点はあるだろう。
 アンジェラは、地震に関することは他の者に任せ、自分は別の方向から調査をしてみることにした。
「ふむ、空を飛ぶ際の注意点か。
 確かに、途中で嵐に遭遇したりしたら困るしの」
 下に大地の無いところでは、墜落したらまず命が助かる見込みはない。
 パラミタ大陸の外を航海する、というのは、考える以上に危険なことなのだ。
「しかし、どこで話を聞くのじゃ?」
「そうですわね……。
 やはり、空の航海のことは、空を航海する人に聞いてみませんと……」

 ツァンダとタシガンは、2つを隔てるタシガン空峡を定期的に飛空艇が往復し、これが唯一の交通路である。
 ツァンダの北部とタシガンの南方には、それぞれ、飛空艇の発着する空港があり、ツァンダにある発着所は、現在、クイーン・ヴァンガードによって警備されていた。
 飛空艇は5千年前のロストテクノロジーの産物であり、現在新しく製造されているものではない。
 その為、トオルのように「持ってる奴から奪おう」と考える賊を警戒し、警備しているのだ。
 最も、部外者の出入りができない程に厳重というわけではないので、飛空艇を利用しない者が見学に来たり、飛空艇でタシガンから来た知人を出迎えたり、そういうことは自由にできるようになっている。

「……あら、トオルさん?」
「あれっ、アンジェラ?」
 アンジェラ達は、別行動をとったはずのトオル達とそこでばったり出くわした。
「飛空艇のアテができたのですの?」
「いや、それはまだ。
 でもまずこの辺から様子を見ておこうって思ってさ。
 まあ、普通の飛空艇を借りれるわけねえし、空賊がこんなところに船を停めてるわけねえけどな」
 いてくれたらてっとり早く今奪えるんだけどな、と笑うトオルに、ヴィオーラが
「……おぬしら、そういう話は、もう少し声をひそめよ」
と呆れた。


「ホラッ、見てみて、アル、これが飛空艇だよ、すごいでしょ!」
 パラミタに来たばかりのパートナー、鬼怒川 或人(きぬがわ・あると)を飛空艇見学に誘ったビビッド・ブブジッド(びびっど・ぶぶじっど)は、彼に飛空艇について説明しようとするが、或人の方は殆どその説明を聞いてはいなかった。
 飛空艇を見て、或人の脳裏には別の思いが浮かんでいたからだ。
 彼の兄は、パラミタで行方不明になっている。
 こうして蒼空学園に入学したのも、兄を探す為だ。
 念願叶ってこうしてパラミタに来たばかりで、思いを馳せるのは兄のことが大きかった。
「……空の上から見渡せば、兄さんを見付けられるだろうか……」
「……アル」
 所在無さげに呟いたビビッドは、ふと、他に飛空艇見学に来たらしい集団を見付ける。
 苦し紛れ半分、気を紛らせるように明るく声を上げた。
「ねねね、あの人達、何だか怪しくない?」
 ちら、とその方を見た或人は、興味を引かれたようだった。
「……確かに、怪しい雰囲気だな。行くぞ、ビビ」
 2人は、こっそりとさりげなく、トオル達に近づく。

「分かり易く空賊がいてくれたら、手っ取り早く今、奪い取れるんだけどな」
 そう言って笑ったトオルの言葉を耳にして、或人は唖然とした。
 奪い取る? この連中は、犯罪者か。
 そんなこと、やめさせなくては! 思うが早いか、或人はトオル達に声をかける。
「話が聞こえたんですが」
 それみたことか、と、ヴィオーラがふっと息をつく。
「空賊とはいえ、暴力に訴えるとは感心しませんね。
 一体どういうつもりなんです」
「うーん、いや、空賊を襲うのが主目的なんじゃなくて、飛空艇が欲しいだけなんだけどな」
 困ったように、トオルはパートナーのシキを見るが、彼は呑気に笑っているだけで助け舟を出そうとしない。
 アンジェラも、
「ご自分で説明なさいませ」
と向けられた視線をはね退けた。
 しょうがねえなあ、とトオルは改めて或人に向き直る。
「ほら、最近この辺地震が多いだろ? で、天空竜を探そうと」
「端折り過ぎですわ」
 トオルの説明に、アンジェラは溜め息と共に軽く首を横に振った。

 とりあえずも詳細を聞いた或人は、なるほどと口の中で呟いた。
「ウラノスドラゴン、ですか……。
 ――分かりました。僕らも同行させて頂きます」
「手伝ってくれんのか?」
「勘違いをしないでください。貴方達の行動を監視する為です」
「ええ――?」
 トオルは口を尖らせてブチブチと文句を言う。
「別に悪いことしてねえぞ俺達。
 てゆーか、犯罪犯さないで一般市民にも迷惑かけないように、わざわざ空賊なんかを探してんのに」
「ご、ごめんね!」
 思わずビビッドが声を上げた。
「こんな言い方してるけど、アルは君達のことも心配でッ」
 ぐふっ、といううめき声と共に、ビビッドは言おうとした言葉を最後まで言うことはできず、足を押さえて座り込む。
「余計なことを言うな」
「まあとりあえずは、協力してくれるってことでいいんじゃないのか」
 シキがトオルに言うと、
「こっちこそ、悪いな」
とビビッドに返す。
「トオルは根が単純だから、言葉通りにしか受け取れなくて」
「誰が単純馬鹿だッ」
 馬鹿までは言ってないだろう、と全員がトオルに憐れな目を向けた。