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リアクション
【本編】
蒼空学園にて――、
その争いが起こったのはイブの午後。奇しくもそれがイルミンスール魔法学校の校長の差し金とは誰しもが思いも寄らない。
ただ思うことは、【愛のリース】イベントへの【肯定派】と【反対派】、互いが邪魔だと言うことだけだ。
【愛のリース】はイルミンスール魔法学校より放課後、校庭のクリスマスツリー飾られるために運ばれてくるとのことだ。
しかし、その肝心のリースはまだ届いていない。いや、届きそうにもない。
何故なら、ここ校庭のイルミネーションに彩られたもみの木の下には、武装した生徒が多数、周りを取り囲んでうろうろしているからだ。
彼らはクリスマスイベント【反対派】の生徒たち。【愛のリース】がこのクリスマスツリーに飾られるのを阻止するために、校庭の一帯を占拠していた。
クリスマスツリーを中心として、その周りには土嚢が積まれ、有刺鉄線のバリケード、そして、先日から積もっている雪で固められた雪壁で頑固たる防衛陣が形成されていた。
どうやら、彼らは【愛のリース】をクリスマスツリーに飾らせないことで、イベントを中止にしようと企んでいるようだ。
しかし、この状況に指を加えてみているクリスマスイベント【肯定派】の生徒たちではなかった。彼らもまた武器を取り、防衛線を張る【反対派】の生徒たちに襲撃を仕掛けた。
校庭では飾られているLEDのイルミネーションよりも華やかに、荒々しい抗争で彩られていた。
互いが互いの攻撃で傷つき、負傷したものは後退し、また新たな生徒が戦線に立つ。そんな泥沼の戦いが繰り広げられ、双方に被害をもたらしていた。
だが、被害を受けたのは戦線している者たちだけではない。【肯定派】【反対派】のどちらにも属さない者にとっても、痛手を負わせることとなっていた。
「ケーキが売れないのだ!」
蒼空学園の側でケーキの街頭販売をしているリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、伸び悩む売れ行きに頭を抱えていた。
「蒼空学園がイベントで一般開放されるのを見越して、移動式仮設店舗を借りたというのに! 校内で外にも聞こえるようなドンパチしていては誰も来ないのだ!」
リリの言うように、学園近隣の住民は校内で起こっている騒動に危険を感じて近づこうとはしない。それもそうだろう。塀の向こうの校庭からは『クタバレ!』『倒れろ!』『リア充!』『非モテ野郎!』などと、酷い罵倒語と攻撃音の嵐が聞こえてくるのだから、そんな危険地帯に誰も近づきたくはない。
「……なんじゃ、リリ。そなた五月蝿いぞ。外も騒がしいのじゃ」
騒ぐリリの声と外の喧騒にロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)は不機嫌そうに店舗の奥から起き上がり、キセルを一服し用途したがケーキ販売のバイトの最中だということを思い出して、喫煙を控えた。
「ロゼ〜、しっかり手伝うのだ。これじゃ仕入れのケーキ100個が売れないのだ」
「まだ、売れてないのか? どうしてじゃ?」
ロゼが黒いサンタ帽子を被ったリリに問う。
「学園内で、生徒たちが争っているからなのだ。イルミンスールにも飾られていた【愛のリース】を巡って、一心不乱の小戦争なのだ」
「ああ〜、エリザベート校長が蒼空学園に貸し出すと言ったアレじゃな。あんな誰でも作れそうなものに惑わされよって」
ロゼは腕を組み、【銃型HC】を操った。
露出度の高いサンタ服から見える胸の谷間がリリの瞳に恨めしく映る。成長を止める呪いさえ無ければ、自分もこんな体になっているはずだと。
ロゼは蒼空学園校内に設置されている監視カメラをハッキングし、校内の騒動を捉えている一台のカメラの映像から、【愛のリース】の全容を再確認する。
「確認しても、唯のリースと変わらないのじゃ。こんな物わらわにも作れるのじゃ」
「作れるのか?」
「ちょっと待っておれ」
リリを置いてロゼは店の外へと出て行く。暫くすると常緑樹の枝を大量に抱えて帰ってきた。何をするかと思うと、採ってきた枝を丸めて編み合わせて、器用に偽物のリースを作り上げた。
「どうじゃ?」
ロゼは【銃型HC】に映る【愛のリース】と【偽リース】をリリに比較させる。
「おお、パッと見区別がつかないのだ。これなら……」
リリはロゼの作る【偽リース】にケーキを売り捌く為の光明を見出す。
「ロゼ、その【偽リース】を大量に作れるのか?」
「大量にか? 別にできるぞ?」
「じゃあ、売場変更なのだ! 売り場は蒼空学園校内! ケーキに【偽リース】をオプションして、中で争っている生徒に売るのだ!」
かくして黒サンタ、リリはケーキとロゼの作った【偽リース】を箱に担いで、蒼空学園校内を売り歩きに出た。すると、校内ではなかなかの売れ行きを出すことにが出来た。
そして、その副産物として、大量の【偽リース】をばら撒き、紛争を更に悪化させることとなった。
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