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リアクション
機晶バイクの唸るアクセル音がゲドーの後頭部で響いた。
【愛のリース】を持った夏野が、バイクと共に宙を飛んでいた。
夏野はあの後、ミュリエルにヒールで治療してもらい、壊れた機晶バイクは機械修理が特技のエヴァルトに直してもらった。あのままでは、悔しくてまたここまで走ってきたのだ。途中まで寿 司の支援を受けてだ。
近づいてくる夏野に気づいた八雲は咄嗟に煙幕を張って、気付かれないように彼女へと【愛のリース】を投げ渡したのだ。
前に鴉が雪壁の残骸をジャンプ台にし、夏野がモトクロス選手顔負けの高いジャンプを見せていた。誰も届かない高い場所で彼女がリースを掲げた。
「これで――、私たちの勝ちだよ!」
夏野は【愛のリース】をクリスマスツリーの天辺近くに引っ掛けた。
【愛のリース】は自身の触れた植物に反応し、もみの木への寄生を始めた。そして、己に秘められた魔力を解き放つかのように、クリスマスツリー全体をエメラルドの光で包み込ませた。
夏野は滑るように着地して停止し、傾く車体を共に倒れこんだ。
「なつのん!」
寿 司が友人へと駆け寄る。彼女が夏野の震える手を取った。
「やったよ、司! 私……」
夏野は恐怖と達成感に震え、そして喜んだ。
「うん! やったね! なつん!」
司も彼女を讃え、喜びを分かち合った。
「そんな、バカナ……」
対し、負ける瞬間を見ていたゲドーは地に伏して深く項垂れた。
【肯定派】が自分たちの勝利に歓喜した。
この戦いを最後まで戦い抜いた者は、相手を蔑むような者たちではなく、純粋に恋愛に肯定的な者が残ったようだ。でなければ、仲間と協力して勝利に向かう事は出来なかっただろう。
「セアトちゃん! どこー?! 誓のキスをしましょー。てか、邪魔よ骨野郎!」
八雲がアンデットたちの羽交い締めを振りほどこうと巨体で暴れる。アンデットたちも男同士の熱いキスは見たくないということなのだろうか。
セアトはというと、白銀 司の後ろに隠れてボソリと呟いた。
「俺は旅に出る……。いいか、イベントが終わるまで絶対に探すなよ!」
と、パートナーに事付をして、その場から猛スピードで逃げ去った。
「待って! 戻ってきて、セアトくん!セアトくーん! ……もう、男同士だからって恥ずかしがらなくてもいいのに……」
司は勘違いしているようだが、セアトと八雲は男同士の恋人関係ではありません。
「やったね、カーくん」
「ああ、あいつらよく頑張ったよ」
アスカと鴉も輝くツリーを眺めて、自分たちの勝利を噛み締めていた。
「ねぇ、鴉。折角だしキスしちゃう?」
アスカの言葉に鴉の心臓がなる。
「……、っ人前でできるかよ! デートの続きだ! 行くぞ!」
「もう、まあいいか……。じゃ、代わりにレストランでおごってよ。スペシャルメニュー」
気恥ずかしそうにその場を去る鴉の後ろをアスカがついていく。
「負けちゃったか……おめでとう君たちの勝ちだよ」
ルカルカが武器を仕舞う。別に負けたことを悔しがっている様子はない。【反対派】の人間は誰もが打ち拉がれているというのに、彼女だけは平然としていた。むしろ満足そうだった。そんな彼女に陽太が呟く。
「結局、君には最後まで遊びだったみたいですね」
「そうだよ。ここは戦場じゃない。人が死なないのは戦争じゃない。地獄を見たいなら教導団にくる? 歓迎するよ、陽太」
「遠慮しておきます。伊達にあの世は見てませんから。もう十分です」
「あら、残念ね」
ルカルカは輝くツリーに向った。霧状にした氷術を空へと放った。冷気が空中で塵に付着し雪の結晶となって辺りに降った。いや、それに混じって本当の雪が空から舞い降りる。
「さあ、戦争おわったよ」
項垂れるゲドーの肩を叩き、彼の戦果を讃える。哀れんでいるわけでない。
「なに、【愛のリース】が愛を祝福するなら、友愛も祝福してくれるさ。これだけツリーが輝いているんだから、ルカルカたちにも良いことがあるはずだよ」
【反対派】の頭を担った彼女が周りに最後の号令をかけた。
「負けた【反対派】は撤収するよ! 怪我している奴を保健室に運んで、そこで飲み明かすよ! 未成年の飲酒は許さないけどね!」
【反対派】が渋々とその場から去っていく。
彼らが去った跡には熾烈な戦闘でめちゃくちゃになった校庭が露になったようにみえた。でもそれを降り積もる雪が消してくれるだろう。【肯定派】と【反対派】のわだかまりを消すように。【反対派】だって恋愛が嫌いなわけじゃないはずだ。彼らはイベントの理不尽に憤慨し、戦っていたのだと加夜は思った。
「私も涼司くんに会って帰ろう。まだ校長室にいるよね」
加夜は山葉 涼司(やまは・りょうじ)の待つ校長室へと向かった。
雪降るイブ。【肯定派】も【反対派】も皆がそれぞれの場所、人の側へと戻って行く。そして、あれだけ騒いでいた【愛のリース】の周りには不思議と誰もいなくなった。
それは調和の色を放つクリスマスツリーが、全ての者を祝福した結果なのかもしれない。
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