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クリスマス硝戦

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クリスマス硝戦

リアクション

「バイクきたのだ!」
 黎明華の目が防衛線へと向かってくる二台のバイクを捉えた。直ぐ様司令塔へと情報を送る。
「わかったわ。全員守備を南方に集中ッ! 向かってくるバイクに一斉攻撃! その他リースを持って向かってくる奴は無視だよ」
 ルカルカが防衛要員に指示を下す。
 ゲドーの叫びから伝わった事前の情報でルカルカも夏野たちが【愛のリース】を所持しているのを知っている。彼らが機晶バイクでどこから来るかも予測済みだ。
「破壊するのは無理かもだけど、こっちが本物を確保してしまえばどうにでもなる」
 夜の帳が降りて大分経つ。周りもだいぶ疲弊してきた。【反対派】としてもこれが勝負時だと感じずにはいられなかった。


 防衛線に近づく夏野と司に一斉射撃が始まる。
「全員一斉掃射――なのだ!」
 黎明華の号令と共に、ゴム弾の雨が近づく二人に降り注ぐ。黎明華も【スプレーショット】で行く手を阻む。
「これじゃ、避けきれないよ!」
 夏野も司も【超感覚】を駆使して銃弾の隙間を縫って進むが、正面から迫ってくるゴム弾の威力は相対的に増しており、掠っただけでもライダースジャケットが破れてしまう。
 更に問題なのが、この先に待ち受けているトラップだ。何重にも仕掛けられているトラップを踏まずにクリスマスツリーへ至れるとは思えない。だが、今はバイクの加速度に任せて、一辺に突っ切るしかない。
「ふたりとも! そのまま走って!」
 後方から声がする。陽太だ。彼は二丁拳銃を構えて後方支援射撃に徹した。スキル【スナイプ】と【気絶射撃】で黎明華たちの迎撃部隊を的確に射貫いた。
 そればかりではない、【飛行翼】に乗った加夜が爆撃機と化し、上空から【火術】と【雷術】で襲撃する。夏野と司の進先にあるトラップを一掃して行く。
「スナイプなんて卑怯なのだ! 正々堂々前にでるの――ダフゥ……!」
 黎明華の額がはじけ飛ぶ。彼女の体が後ろへと倒れた。
「君大丈夫か! 己よくも黎明華を!」
 駆け寄った武尊が額に麻酔弾の刺さった黎明華を抱え起こす。「いや、死んでないノ……だ――殺すな……なのだ……」
 黎明華の意識はそこで途絶えた。
「黎明華――――ッ!!!」
 仲間の死を嘆くような声がその場に轟いた。勿論彼女は単に白目を向いて気絶しているだけだというのに。
 更に彼らへの支援はそれだけではなかった。
「カーくん! あの子たちを助けてあげて」
「突然変なあだ名を付けて呼ぶな! ああもう、わかったよ!」
 蒼灯 鴉(そうひ・からす)師王 アスカ(しおう・あすか)に言われたあだ名はさておき、夏野の行く手を塞ぐ雪壁の破壊に務めた。涙目で懇願するアスカには彼は逆らえない。
 鴉の体が【鬼神力】で倍に膨れ上がる。豪腕から繰り出されるストレートが分厚く固められた雪壁を倒壊させる。
 雪壁がなくなったことで、クリスマスツリーまでの一直線が開けた。
更に支援は続く。
「セアトくん、八雲さん! 二人が結ばれるためにも、あの子を助けてあげて!」
 白銀 司(しろがね・つかさ)がパートナーの二人、セアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)八神 八雲(やがみ・やくも)に【反対派】の防衛を薙ぎ払うよう命じた。
「だから、こんなUMAと恋のまじないなんてしねぇって! ああもう、やるだけやってやるよ!」
 セアトは文句を言いながらも、【轟雷閃】で道塞ぐ敵を凪いだ。
「あら、セアトちゃんったらテレ屋さんなんだから。ってセアトちゃんの愛が熱いわ!」
「灰になれ、ハイになりやがれ!」 
 セアトは【爆炎波】で【反対派】と序に八雲も炙った。
「なつのん! 道が空いたよ」
 夏野と並走していた司が減速し、後方支援へと回る。
「よしゃ、私に任せろ!」
 夏野はハンドルを絞り、アクセルを全開にして防衛を突っ切る。【肯定派】の援護と機晶バイクの推進力で一気にクリスマスツリーへと疾走する。あとは、無理矢理にでも【愛のリース】をクリスマスツリーに引っ掛けるだけだ。
「しかし、そうは行かないんだよ」
 近づくバイクに対し、真正面に現れたルカルカが弓引くように深い構えを取る。彼女の纏う闘気に夏野の【超感覚】が疼いた。
「なつのん!」
 司が悲鳴を上げる。しかし、もう遅い。
 ルカルカの放つ【則天去私】が地面を抉り、光輝属性の光と衝撃が夏野を襲う。
 衝撃の凄まじさと目を焼く光に、夏野は機晶バイクから放り出された。かなりの速度で体が防衛線の外へと飛んでいったが、雪の積もった花壇に突っ込んだおかげで、大事には至らなかった。持っていた【愛のリース】の【禁猟区】で【則天去私】の破壊力から守られたのも大きい。
「手加減したんだから、まあ大丈夫よね」
 動けずにいる夏野へとゆっくり近づく【反対派】の最終防衛ライン、ルカルカ。彼女はその手で直接【愛のリース】の破壊を試みるつもりだ。
「いけない!」
 陽太は歯噛みすると、ルカルカと夏野の元へ駆ける。しかし、彼の目前には【反対派】の防衛前線で【肯定派】をブチのめしていたエヴァルトとミュリエルが立ちはだかる。
「エヴァルトそこを退いてくれ」
 無意識に二丁拳銃を構える陽太。それに対し、エヴァルトは――、
「……いいぜ通れ」
すんなりと道を開けた。陽太は一瞬驚いた顔をしたが、一つ頷き、礼も言わずに友人の横を抜けて行った。
「通してよかったですか? 【肯定派】だったのに」
 不思議そうにミュリエルが尋ねる。それにエヴァルトはぶっきらぼうに答えた。
「純粋に恋する奴をぶっ飛ばすのはカッコが悪いだろ……」
 さて、エヴァルトの開けた道を走り、陽太はルカルカの目の前に対峙する。
 加夜が言うようにルカルカが強敵ならば、陽太も全力で掛からないと太刀打ち出来ない。冬の夜だというのに冷や汗が滲む。
「君の相手は俺です! 夏野さんは今のうちにリースを!」
 二丁拳銃を構える陽太を少し眺めて、ルカルカも剣を二本鞘から引き抜いて構えた。
「ふ〜ん、いいよ。このルカルカが相手してあげる」
 陽太の汗が地面に落ちる刹那に、二人は同時に動き、武器と武器を交えた。
「陽太さん!」
 【飛行翼】から降りた加夜が陽太の加勢に向かおうとする。そんな彼女に、ラスター血煙爪が襲いかかる。【超感覚】の発動により、武尊が【隠れ身】から繰り出した攻撃を回避した。
「何をするんですか! それに、忍びの私には【隠れ身】なんて効きません」
「なら、隠れる意味もないか」
 光学迷彩を解き、武尊が姿を現す。
「女には手を出したくないが、そこの男と組まれると厄介だ。ルカルカがあっちを倒すまで相手してもらうぜ」
 爪を構えて、【先制攻撃】で加夜に襲いかかる。
「見くびらないで下さい。私も陽太さんも! 必至、いきますよ!」
 加夜は最近の愛読書のセリフを交えて、気合を入れる。
 加夜が八方手裏剣を投げて牽制する。それを爪で弾いて武尊が彼女へと迫る。
「天地に明察とは今日ばかりはいかせねえよ!」


「大丈夫なつのん?!」
 上ずった声で司が友人を心配する。
「大丈夫。でも、【愛のリース】をツリーに掛けるのは失敗しちゃった……。バイクも壊れたみたい……」
「まだチャンスは有るよ」
 落ち込む夏野を励ます司。そんな彼女も自分の力不足を痛感していた。彼女たちにとって最終兵器乙女の存在は太刀打ち出来ない大きな障害だ。明らかに実力差があり、手加減を加えられなお、夏野は満身創痍となった。また直接対峙したときの精神的恐怖もある。
「そうだまだ諦めるのは早いぜ、おまえら」
「カーくん言うとおりだねぇ」
 二人に近づいてきた、アスカと鴉が二人を勇気づける。
「おまえらのおかげで、厄介なのを引き摺り出せたんだ。陽太と加夜が【反対派】の要を抑えている間に、カタをつけようぜ」
「後は任せてください」
 アスカが夏野の前に手を差し出す。その手に、夏野は【愛のリース】を渡した。
「お願いします!」
 アスカは【愛のリース】を受け取ると深く頷いた。
「もちろん。カーくん準備はいい?」
「ああいつでもな。ところで、なんで今日の俺のあだ名がカーくん何だ?」
「カーくんの名前、鴉だよねぇ。カラスってカーカーって鳴くからだよ」
「なるほど、疑問が一つ解けたところで、デートの続きの為にも、もうひと暴れだな!」
 アスカと鴉は自分たちのためにも、ここに残る二人のために【愛のリース】をツリーに掛けるため、再び激戦の繰り広げられているクリスマスツリーの元へと向かった。


「後は任せよう」
「うん、そうだね」
 司が夏野に肩を貸す。夏野はバイクから落ちた衝撃で体が思うように動かない。悔しいが、リースを掛ける大役は諦めるしかない。
「どうしたですか? 怪我してるですか?」
 その場を去ろうとする二人に、ミュリエルがトボトボ近づいてきた。そして、エヴァルトも――。