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七草狂想曲

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七草狂想曲

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    ★    ★    ★
 
「こっから先には進ませないわよ」
 じわじわと進行してくる七草を、オルベール・ルシフェリアが遠当てで押し返した。
「その通りだよぉ。冷凍保存しちゃうんだからぁ」
 アルティマ・トゥーレで凍らせると同時に適当な大きさに七草を切り刻みながら、師王アスカが言った。
 一応、調理部隊との間に防衛線を敷き、そこを越えた七草はもれなく食材になってもらっている。
「みなさん大丈夫でしょうか」
 ちょっとはらはらしながら、安全圏に避難した布紅が、一同の戦いを見守った。境内の一画には、七草粥を振る舞えるように、いくつもの長テーブルがならべられている。その一画は、ガスコンロと大鍋がいくつもならべられて、いつでも調理に取りかかれるようになっていた。
「さあ、鍋の準備は万端です。私も、刈り取りに参加しに行くとしましょうか」
 大鍋をいくつもセットし終えた魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、嬉々として七草刈りにむかっていった。
「ずいぶんと困ってるようやな、布紅ちゃん。ここはワイに任しときい。ちゃんと七草粥が食べられるようにしてやるやさかいな」
 でれーっと布紅に見とれていた七刀 切(しちとう・きり)であったが、このままでは布紅と一緒に七草粥を食べることができないのに気づき、あわてて刀を抜いて格好をつけた。今のままでは、布紅ちゃんに七草粥を手ずからよそってもらうという野望が達成されない。
「見とったってや。いくでー!」
 たくさん刈り取ってくるぜとばかりに、七刀切は駆けだしていった。
「みなさん、頑張ってください」
「大助ー、ファイトー!」
 布紅のそばにいた四谷七乃とグリムゲーテ・ブラックワンスが、振り袖をから二の腕が露わになるのも構わずに、さかんに四谷大助と白麻戌子たちにむかって声援を送っていた。背中合わせに立って剣を構えた四谷大助と、オレンジ色の光条を持った大鎌を振るう白麻戌子が、順調に七草を切り刻んでいっている。
「あなたたちは戦わないのぉ?」
 神代明日香が、訊ねる。
「だって、振り袖って、思ってたより動きにくいんだもの。七草を倒すのは、他の人たちに任せるわ」
「ええ。せっかくの晴れ着が、草の汁で汚れたり、燃えたりしたら大変ですから」
 グリムゲーテ・ブラックワンスと四谷七乃が顔を見合わせる。
「そうですよねー、そうですよねー」
 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が、いつの間にセットしたのか、マイコタツにあたってぬくぬくしながら同意した。
「あなたも、戦いに行かなくてよろしいのですか? それにしても、電気がないのにどうやってコタツを……」
 エイム・ブラッドベリーが、浅葱翡翠に訊ねた。
「ああ、これは中に火鉢が入ってますから」
 本来の形のコタツを堪能しながら、浅葱翡翠が答えた。
「それに、まだ松の内ですよ。お正月ですよ。働きたくないでござる、働きたくないでござる……」
 なんだか、呪文のように浅葱翡翠が繰り返す。
「あ、よければ布紅ちゃん、ミカン食べます? 剥いてあげますよ」
 コタツの上に綺麗にピラミッドを作って載せられたミカンをさして、のんびりと浅葱翡翠が布紅を呼んだ。
「落ち着きすぎですよ」
 それでいいのですかと、布紅が浅葱翡翠に聞き返した。
「うん、来年から頑張る」
 
    ★    ★    ★
 
「ご、ごめんなさい。まさか、こんなことになっちゃってるとは……」(V)
 東雲 いちる(しののめ・いちる)は、ひたすらパートナーたちに謝り中だった。
 日本の英霊である長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)石田 三成(いしだ・みつなり)にとっては、お正月の風習である七草粥に誘えば、きっと喜んでもらえると思ってのことだったのだが、選んだ場所が悪かったらしい。
「心配しなくていい。これはこれでまた一興だ。正月でなまっていた身体には心地いいぞ」(V)
 剛刀で七草をばっさばっさと切り伏せていきながら、長曽我部元親が言った。
「うんうん。これだけ具材があるのであれば、きっとたらふく粥が食えることであろうよ」
 デッキブラシで、刻まれた七草を集めながら石田三成も楽しげに言った。
「なんだかんだ言っても、大切な行事であるからな。ありつけるまでが大変そうだが、それはそれで、苦労に見合った味となることであろうよ」
「そういうことだな。ほら、いちるもいらぬ気は遣わねえで、刻んだ七草を集めな」
 長曽我部元親が、東雲いちるをうながした。
「はーい、七草の回収はこちらだよー。オイラにぜーんぶちょーだーい」
 大きな袋を担いだクマラ・カールッティケーヤが、東雲いちるたちの許へ駆け寄ってきた。どうやら、切り刻んだ七草の回収部隊らしい。
「これこれ、ここだここだ。ここに集めてあるぞ」
 石田三成が、長曽我部元親が刻んだ七草を集めて作った小山をさしてクマラ・カールッティケーヤに言った。
「はーい、かいしゅー」
「手伝いますね」
 がさがさと袋に七草を詰めていくクマラ・カールッティケーヤに、東雲いちるがそう言って手伝っていった。その間にも、快調に長曽我部元親が刻んだ七草を、新たに石田三成がデッキブラシで集めてきた。
 
    ★    ★    ★
 
「毎年、毎年、年末年始になるといろいろな物が暴れまくる神社だなあ。だが、せっかくだから、七草粥は食べてみたいぜ」
 のしのしと七草たちのただ中に歩いていきながら、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がこの後の食事を思って舌なめずりをした。
 さすがに、たかが葉っぱ相手に、フル装備のパワードスーツは必要ないだろう。
 七草をなめきっているエヴァルト・マルトリッツに、ひゅるんとハコベラが巻きついてきた。
「葉っぱのくせに生意気な」
 ブンと腕を振って、エヴァルト・マルトリッツがハコベラを引き千切る。
 カチャカチャカチャカチャ!
 怒ったらしい七草が、ナズナを激しく震わせて音をたてた。
「よし、かかってこい!」
 勢いよく無数のスズナを振り回す七草と、エヴァルト・マルトリッツが激しい殴り合いを繰り広げる。
「私は七草粥を食べに来たんだあ。戦って、さらにお腹をすかせに来たんじゃないのよー! 殺す……、殺すとき、殺せば、殺そう!!」
 すぐ近くでは、空腹でついにキレた芦原郁乃が、同じように七草のナズナとスズナ相手に等活地獄を連続して叩き込んでいる。
「ああ、みなさん、そんなことでは、せっかくの食材がだめになってしまいます。ここは、なんとか七草様の方から自主的に鍋に入っていただきたく……」
 あまりの芦原郁乃の剣幕に、このままでは福神社まで破壊されると恐怖を覚えた秋月桃花がなんとか七草の説得を試み始めた。
「このまま燃やされてしまったり、潰されてしまうのでは、あなた様も不本意でございましょう。せっかく静かに生えていたのに、無理矢理引き抜かれた無念、食べられてしまうという恐怖、お察しいたしますが、このままではあなた様方は悪霊となってしまいます。それではあまりに不憫です。どうか、お願いでございます。ここは、自主的に鍋の中へ……」
 秋月桃花の言葉を静かに聞いていたかのように見えた七草であったのだが、鍋には入れという段で怒りにわなわなと全身を震わせ始めた。
「せめてもと思いまして、調理は闇鍋にならないようにこの桃花が……」
 そう言った秋月桃花に覆い被さるように、突然七草が襲いかかってきた。
「何をやっている」
「何してるのよ!」
 エヴァルト・マルトリッツと芦原郁乃が、同時に等活地獄で七草を草団子に変える。
「ああ、別の食べ物に……」
 秋月桃花が、よよよと崩れ落ちた。これではお粥ではなくペーストになってしまう。
「ふっ、やるわね」
「女性を襲う者には、たとえぺんぺん草でも情けは無用だ」
 なぜか意気投合した芦原郁乃とエヴァルト・マルトリッツが軽く拳をぶつけ合った。