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七草狂想曲

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七草狂想曲

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    ★    ★    ★
 
「お願い……」
 葉月 可憐(はづき・かれん)が祈ると、突然中空から炎が吹き出した。誰の目にも見えないが、葉月可憐の呼び出したフラワシが炎を吐き出したらしい。
「軽く炙ってからでないと、生はお腹に悪いですから」
 焼かれて動きが鈍ったところに、葉月可憐が魔道銃の二丁拳銃で七草を微塵に切り刻んだ。
「祓い給え、清め給え。祓い給え、清め給え。祓い給え、清め給え……」
 念のためにと、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が細切れにされてもまだうねうねと動いている七草に清めの塩を振りかけた。
「死霊を切りて放てよ梓弓。引き取り給え経の文字――!」
 鬼払いの弓の弦を打ち鳴らして退魔の祈りを捧げる。それが効いたかどうかは分からないが、七草の破片が静かになった。
「じゃあ、回収していくよね」
 クマラ・カールッティケーヤが、散らばる七草を拾い集めていった。
 
    ★    ★    ★
 
「ふみゅ〜。そんなに焦がしてしまったら食べられないよ」(V)
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、アリス・テスタインに近づこうとしていた七草を狙撃して退けながら言った。ちょっと残念そうに、あちこち真っ黒になった七草を見下ろす。
「でも、いつまでも動いていたのではきりがないですよ」
 しかたがないからと葉月可憐が答える。
 そこへ、いったん退いたかに見えた七草が再び迫り、スズナを振り回してきた。
「危ない」
 突然、レキ・フォートアウフの背後に姿を現したチムチム・リー(ちむちむ・りー)が、飛んできたスズナを機関銃で撃ち落とした。そのまま、本体の七草もバラバラに撃ち抜く。
「ふう、これなら食べられそうアルね」
 バラバラになった七草をかき集めながら、チムチム・リーが言う。ずっと、レキ・フォートアウフを陰から援護していたのだった。
「やっぱり、ついてきてたんだ。どうりで、いつの間にか敵がバラバラになっていると思ったよ」
 のほほんと、今さらながらにレキ・フォートアウフが言った。
「そろそろ、倒した敵を集めないといけないアルからね。労働の後の料理は、きっと美味しいアルよ」
 クマラ・カールッティケーヤを呼んで、一緒に七草を袋に詰めながらチムチム・リーが言った。
 
    ★    ★    ★
 
「食べるためには、戦って食材を勝ち取らなければならないのか……」
 去年の鏡餅とのバトルを思い出しながら、和原樹は溜め息をついた。
 そんな和原樹を嘲笑うかのように、七草がナズナの種を振ってシャカシャカとをたてる。
「なあに、巨大化したのだから、食べでがあるというものだ。これも一種の御利益だろう?」
 火術の炎で七草を炙って牽制しながら、フォルクス・カーネリアが言った。
「まあ、御利益と言えば、御利益だと言えないことも……あうっ!」
 振り回されたスズナをメイスで打ち返そうとした和原樹が、突然軌道を変えて飛んできたナズナをもろに額に受けてのけぞった。
「む、すまん」
 フォルクス・カーネリアが、軽く謝る。無造作にセリを焼いたため、すっぽ抜けたスズナが予期せぬ軌道で飛んでしまったのだ。
「二人共、気をつけてな」
 飛んできたスズシロミサイルをバックラーで横へと逸らしながら、ヨルム・モリオンが注意した。
「凍らせちゃった方が、動きを止められて早いわよ」
 氷術を駆使して凍りつかせた七草を諸葛弩で粉砕しながら、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)がアドバイスした。
 足許では、鞄の小人さんが、けなげにも砕けた七草を一生懸命集めている。
「よろしければ、七草を回収していきます」
 袋を持ったアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)が、アルメリア・アーミテージに言った。
「いい所へ、ある程度集めてあるからお願いするわ」
 いいタイミングだと、アルメリア・アーミテージがアルティナ・ヴァンスに回収をお願いした。
 
    ★    ★    ★
 
「ほれほれ、こっちだぜ」
 蚕養縹が、ふさふさとした尻尾を左右に振って七草を挑発した。それが効いたのかどうかは分からないが、七草がわさわさと集まってくる。
「フリーズパックのできあがりぃ!」
 待ち構えていた佐々良縁が、すかさず七草をかちんこちんに凍らせる。
「あの、凍らせちゃって……。これ、食べる人……いるのかな?」
 巨大な氷塊と化した七草を見て、著者・編者不詳『諸国百物語』が軽く顔を顰めた。これでは、運んでいくだけでも大変そうだ。
「七草回収に来まし……ええっ、これを持っていくんですか?」
 案の定、回収に来たアルティナ・ヴァンスが絶句する。
「そうですよね。凍らせたりしたら、せっかくのシャキシャキ感が……」
 著者・編者不詳『諸国百物語』が、ちょっとまずいですよねとアルティナ・ヴァンスに同意を求める。
「食べられればいいのよぉ。たくさん倒せば布紅様だって喜んでくれるだろうし」
 ちょっと適当に佐々良縁が言った。
「とにかく、運んでもらおうぜ」
 蚕養縹が、力のありそうなチムチム・リーを呼んできて、なんとかそのまま凍った七草を運んでいってもらった。
「あーあ、単純な凍らせただけでは、重すぎて運べないでしょうに」
「そうですよね。ここは、凍らせた後に乾燥させてフリーズドライにしないと」
 チムチム・リーとアルティナ・ヴァンスが苦労して七草を運んでいくのを見送って、御凪 真人(みなぎ・まこと)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が顔を見合わせて言った。
「そんなこと、どうやったらできるんですのぉ」
 佐々良縁が、素朴な疑問を二人にぶつけた。
「もちろんこうやって、超低温で固めてしまえばいいんですよ」
「うんうん、その通り」
 手近な七草に狙いを定めると、御凪真人とソア・ウェンボリスが、極低温で敵を凍りつかせた。けれども、ただ凍っただけで、あまり変化はない。
「おかしいなあ」
 ぱさぱさに乾燥して軽くなるはずだと、御凪真人が杖の先で凍りついた七草をつついてみた。
「変ですよねー」
「御主人、御主人……」
 同じように小首をかしげるソア・ウェンボリスを、陰で雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が軽くつついた。
「なんですか、ベア?」
 紙を丸めて作ったコック長らしい帽子を被った雪国ベアが、もの凄く残念そうにソア・ウェンボリスの肩に手をおいた。
「料理その物の知識じゃねえから御主人は知らなかったかもしれねえが、その知識間違ってるぜ」
「なんですってえ!?」
 まさか雪国ベアに突っ込まれるとはと、ソア・ウェンボリスが素っ頓狂な声をあげる。
「誰か、説明してやってくれ……」
 不憫に思ったのか、雪国ベアが言葉を詰まらせた。
「ええと、フリーズドライっていうのは、凍らせた食品なんかを、真空状態にして一気に水分を蒸発させることよ。真空乾燥なんて呼び名もするわよね。ほら、気圧が低いと水の沸点って低くなるじゃない、それを利用して加熱しないで食品を乾燥させる方法なの」
 アルメリア・アーミテージが博識を披露した。
「ええっと、とりあえず、ベア、食材を渡すからよろしく」
 ソア・ウェンボリスは、そう言ってごまかした。