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七草狂想曲

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七草狂想曲

リアクション

 

調理

 
 
「それにしても面白いですね。日本では逃げ回る七草という物をお正月に退治するんですね」
 次々と調理場に運ばれてくる食材となった七草を見て、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が感心したように言った。
「これこれ、変な納得をするではない。それではまた間違った日本文化が広まってしまうではないか」
 悠久ノカナタが、これだからうわべだけでいろいろな文化をなぞる者はという顔をする。
「それで、結局、七草粥の本当の意味ってなんなのですか?」
「ええっと……」
 突然アルティナ・ヴァンスに聞かれて、彼女が集めてきた七草を刻んでいたアグリ・アイフェス(あぐり・あいふぇす)が、ちょっと困ったように夜月 鴉(やづき・からす)に助けを求めた。
「なんだ、知らないで作っていたのか?」
 七草粥を煮ていた夜月鴉が、ちょっと呆れたようにアグリ・アイフェスを振り返った。
「いいじゃないですか。ちゃんと教えてください」
 ちょっと逆ギレして、アグリ・アイフェスがなおも夜月鴉に聞いた。
「簡単に言ったら厄落としだ。一年の最初に、無病息災を祈って、春の七草、つまり、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草をお粥に入れていただくというわけだ」
「まあ、簡単な説明ならばそれでもよいが、まだまだだな」
 夜月鴉の説明を聞いた悠久ノカナタが、してやったりという顔になって説明を受け継いだ。
「本来は、占いや、正月の行事などが元であったのだがな。日付も、七日ではなく、小正月の十五日に七種として今とは違う野草を食べていたこともあったのだぞ。今では、邪気を払い万病を防ぐためとされているが、実際にはおせちや酒で酷使した胃を、ビタミン豊富な野菜とお粥で癒やすという意味もある」
「へえ、いろいろと奥が深い物なのですね」
 悠久ノカナタの説明を聞いたヴァーナー・ヴォネガットが、目を輝かせた。
「早く食べられるように、ボクもお手伝いしますね」
 そう言うと、ヴァーナー・ヴォネガットが、アグリ・アイフェスを手伝って七草を刻み始めた。
「本当は前日に、七草の歌を歌いつつ刻んでいくのだが、さすがにこの状態では省略するしかないな。それでも、行事は行事、料理は料理、追いして粥を作って、皆に振る舞おうではないか」
 悠久ノカナタはマイ割烹着とマイ包丁を取り出すと、いざ料理に取りかかろうとした。
 
    ★    ★    ★
 
「はい、食材ならどんどん集めてくるから、みんなじゃんじゃん作ってよー」
 集めてきた七草を、袋の中からドバドバと長机の上に広げてカレン・クレスティアが言った。
「はい、ありがとうございます」
 待ちかねていたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、手早く刻んで鍋に放り込んでいく。
「やっと食材が集まったみたいですぅ。それにしても、ここまで大きく七草を育てるなんて、布紅ちゃんも大変だったですぅ?」
 さあ調理を始めるかという前に、神代明日香が、あらためて布紅に聞いた。
「育ててなんかいません。勝手に大きくなったんです!」
 とりあえず、七草はすべて退治されたようであるから、もう勘弁してほしいと布紅が叫んだ。
「エイムちゃん、そこにあるお塩取って……って、何食べてるですぅかぁ」
 何やら口をもぐもぐさせているエイム・ブラッドベリーを見て、神代明日香が叫んだ。
「せめて、火は通してください」
 布紅が、疲れたように言った。
「まだピチピチしてるよ。生きがいいよねえ」
 クマラ・カールッティケーヤが、集めてきた七草をエース・ラグランツに見せて言った。
「では、生きがいいうちに鍋の中に入ってもらおう。まっ、鍋と言えばやはり土鍋だな」
「土鍋なら用意してありますよ」
 魯粛子敬が、準備万端で待ち構えさせていた土鍋の列を指し示した。
「投入!」
 エース・ラグランツが、包丁で七草をさっとすくい取ると、一気に土鍋の中に放り込んだ。すかさず蓋をして、逃げだせないようにする。何やら中で暴れているような気もするが、それは考えないことにしよう。
「いろいろと勉強になりますよね」
 宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)が、下ごしらえを手伝いながら、周りの者たちに言った。大根の皮を綺麗に剥いて、葉の部分も食べやすいように小さく刻んでいく。順調のように見えるが、さすがに今回の食材は、物が物だけに普通の調理と同じというわけにはいかなかった。
「ああ、セリがうねうねと包丁を逃げます。どうしたら……」
「よし、僕が押さえ込むから、そのうちに止めを」
 すかっ、すかっと巧みに包丁を避けられて、助けを求める宇佐川抉子の声に、トマス・ファーニナルが応えた。サイコキネシスで、もがくセリをまな板の上にぴったりと押さえつける。
「さあ、今のうち」
「ありがとうなんだもん」
 素早くお礼を言うと、宇佐川抉子がまな板の上のセリをスパーンと切り刻んだ。さすがにほとんど動けなくなったところを魯粛子敬に渡して、鍋に入れてもらう。
「さあ、どんどん作っていきますか」
「はい」
 トマス・ファーニナルにうながされて、宇佐川抉子がうなずいた。
 
    ★    ★    ★
 
「七草ナズナ 唐土の鳥が 日本の土地に 渡らぬ先に ストトントントン ストトントントン」
 悠久ノカナタが、歌を口ずさみつつ七草を快調に刻んでいく。
「順調なようだね」
「もちろんだ。わらわが料理しているのだぞ」
 緋桜ケイの問いかけに自信たっぷりに悠久ノカナタが答えた。
「ふっ」
 どこからか、微かな笑いがもれる。キッと、悠久ノカナタがその笑い声の主の方を睨みつけた。
 白熊の着ぐるみの上からコックの服と帽子を被って、かわいいコックさんのような姿になっている雪国ベアが、悠久ノカナタを見返した。
「おいおい」
「ベアったら……」
 二人の間に飛び散る視線の火花に、緋桜ケイとソア・ウェンボリスが顔を引きつらせた。
「勝負だ!」
 息もぴったりに声を揃えて、悠久ノカナタと雪国ベアが叫んだ。
「ふっ、この俺様の究極の七草粥と張り合おうなど、身の程知らずが」
「何を言う。わらわの至高の七草粥を知らぬとは愚かなことよ」
 ライバル心をむきだしにして、二人がそれぞれの七草粥を作っていった。
「ててててててててて……キラン」(V)
 悠久ノカナタの方は七草にこだわり、刻んだ七草をいったん氷術で凍らせてから、解凍して鍋へと入れた。本当は凍結乾燥したかったらしいが、氷術では凍らせはできるものの、乾燥させる力は冷気とは別物であったのでうまくいかなかったようだ。
 だが、いったん凍らされることによって、七草の植物としての細胞壁が破壊された。それによって、より濃く、七草のすべての成分がお粥にしみ出ることとなる。
 対する雪国ベアは米にこだわりを持っていた。
「シャカシャカシャカシャカシャカ……ざばん」
 今日のために取り寄せておいた地球産のレア物の米だ。まさか、それがこんな対決に使われようとは思ってもいなかったわけだが。