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リアクション
★ ★ ★
「いやあ、なかなかに面白いことになってるぜ」
中原 鞆絵(なかはら・ともえ)(木曾 義仲(きそ・よしなか))が、薙刀で七草をぶった切りながら豪快に笑った。
「その笑い方、やっぱり、あんまりトモちゃんに似合わないわよ」
すぐそばで、鞘に入ったままのシュトラールで七草を叩き折っていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、複雑な表情を作って見せた。白髪のほっそりとした中原鞆絵が、豪快に笑う様は、なんともミスマッチだ。これも、奈落人である木曾義仲が憑依しているせいではあるが。
「ふっ、摂末社とはいえ、神聖な空京神社の境内でこのような物の怪が暴れるなど、空京稲荷の地祇としては許してはおけませんね」
パタパタと扇を仰いでいた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が、まるで舞いを踊るかのようにそれを横にながした。わずかに、七草の葉をかすめたかと思った瞬間、七草がみるみるうちに石へと変わっていく。
隠し持っていたさざれ石の短刀を一瞬だけ実体化させて七草を石化させたのだった。
「みごとだな、狐樹廊」
その手際のよさに、中原鞆絵(木曾義仲)が感心したように言った。
「よすぎるわよ。また、何か悪巧みしているんじゃないでしょうね」
「こここここ……。そんなことはありませんよ。さあ、この七草を布紅の許へ持っていきましょう」
「石になったんじゃ食べられないじゃない」
やっぱり何か企んでいると、リカイン・フェルマータが空京稲荷狐樹廊を睨めつけた。
「まあいいわ。ここにあっても邪魔だし運んでいきましょう。ああ、そこの人、手伝ってくれる?」
近くにいた燦式鎮護機ザイエンデに、リカイン・フェルマータが声をかけた。
「これですか? 元に戻します?」
ドルイドである燦式鎮護機ザイエンデが、リカイン・フェルマータに聞いた。このままでは食べられないから、当然である。
「運んでからにしましょう」
リカイン・フェルマータが、燦式鎮護機ザイエンデと中原鞆絵(木曾義仲)に、石化した七草を調理場の方へと運んでいってもらった。
「まあ、どうして七草が石になっているんですか」
運ばれてきた七草を見て、布紅が目を丸くした。調理場では順調に七草粥が作られつつあったが、さすがに石化した七草では調理のしようがない。
「何、大丈夫ですよ。ちょっと布紅さんも見てはいただけませんでしょうか」
なぜか、空京稲荷狐樹廊が布紅を手招きする。
「ささ、もうちょっとこちらへ……」
手に持った扇を広げながら、空京稲荷狐樹廊がなおも誘った。その裏に、さざれ石の短刀が実体化する。
「やっぱり……。ああ、こんな所にい、なぜか大きな石があ。わあー、転んじゃったあ」
突然もの凄くわざとらしく声をあげながら、リカイン・フェルマータが転ぶを見せかけて空京稲荷狐樹廊に体当たりした。
「うおっ!? いきなり何を……」
ふいをつかれた空京稲荷狐樹廊が、もろに転ぶ。
「あっ、刺さって……」
言う間に、みるみるうちに空京稲荷狐樹廊が石化していく。転んだ際に、自分でどこかをさざれ石の短刀で傷つけてしまったらしい。
「こ、これでは、オレの空京神社全部おいなりさん計画が……」
最後まで言えないうちに、空京稲荷狐樹廊が完全に石化した。
「大変です。すぐに石を肉に……」
突然の事故に、燦式鎮護機ザイエンデがあわてて空京稲荷狐樹廊に駆け寄ろうとした。
「ああ、ちょっと待ってね。今起こしますから。義仲、手伝って」
「うむ」
リカイン・フェルマータに言われて、中原鞆絵(木曾義仲)がよいしょと空京稲荷狐樹廊を立てておいた。
「そうそう、そろそろ七草粥を食べるから、狐樹廊に乗り換えた方がいいわよ。男の方がたくさん食べられるし、鞆絵と一緒に食べられるでしょ。乗り移るなら、石化している今のうちよ」
さりげなく、リカイン・フェルマータが中原鞆絵(木曾義仲)の耳許でささやいた。
「それもそうだな」
納得した中原鞆絵(木曾義仲)が、ピッと石化している空京稲荷狐樹廊の額を指さした。
「では、解除します」
何をしているんだろうといぶかしがりながら、燦式鎮護機ザイエンデが空京稲荷狐樹廊(木曾義仲)の石化を解除した。
「いやあ、すまなかったな。手数をかけたぜ」
新しい身体になじもうとするかのように、空京稲荷狐樹廊(木曾義仲)がうーんとのびをした。
「ふっ」
してやったりと、リカイン・フェルマータがほくそ笑む。
「では、七草の方も……」
「ちょっと待ってくれ。その前に……」
七草の石化を解こうとする燦式鎮護機ザイエンデを止めると、空京稲荷狐樹廊(木曾義仲)が、持っていた扇で、コンと七草を叩いた。一瞬で、七草が粉々になる。
「面白いもんだな」
誰の目にも見えないフラワシのキツネが七草を砕くのを見て、空京稲荷狐樹廊(木曾義仲)が面白そうに笑った。
★ ★ ★
「OK。正月なんだ、七草だって無礼講ってことで皆と遊びたいんだろうな。七草粥にできたら俺たちの勝ち、できなかったら巨大七草の勝ち。ただそれだけの話だ、思いっきり楽しもうぜ!!」
虚刀還襲斬星刀を鞭のように振り回しながら、朝霧 垂(あさぎり・しづり)が叫んだ。ワイヤーに繋がれたいくつもの刃が七草を締めあげるように絡みつく。
「切り細裂け!」
クイと、朝霧垂が、虚刀還襲斬星刀を元の剣の形に戻した。キュルキュルと七草の表面をすべるいくつもの刃が、七草を微塵に切り刻んでいく。まるで中から爆発を起こしたかのように、八方に飛び散った七草が、自重でザッと崩れながら宙に舞い散った。
別の七草が、朝霧垂にむかって、スズシロミサイルを発射した。
「うまそうだ!」
朝霧垂が、虚刀還襲斬星刀にひねりを加えながらまっすぐに突き出した。いくつにも分裂してのびていく刃が、回転してスズシロミサイルを真正面から粉砕した。
「しまった、輪切りにするべきだったか」
戻す刃で横にいた七草を撫で切りながら、朝霧垂が舌打ちした。
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