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第14章



 両チームをセンターサークル付近に集めた武神牙竜は、意外な事を言い出した。
そこで少し間を置いた。
「この後、PK戦で決着をつけるというのはどうだろう? もしも双方にやる気があるのなら、だが」
「予定には入っていなかったな」
 葛葉翔がいぶかしげな顔をした。
「その話、いつ出て来たんだ?」
「ハーフタイムの時に、だよ」
 如月正悟が答えた。
「俺が実行委員会にかけあったんだ。もしも引き分けになったら、PK戦やらせてもらえませんか、ってね」
「勝手な事をしてくれたな」
「独断先行は謝るよ、青のキャプテンさん。けど、元・紅チームの俺としては、元・白のみなさんとはどうしても決着をつけたくてねぇ……ほとんどが元・白チームの青の皆さんとしてはどうだろう?」
「……ワタシは別に構いません。むしろ望むところです」
 ネノノが答えた。
「私は初参加ですが、白黒はっきりさせたいのは同感ですね。いや、この場合は青黒、になりますか」
 ウィングも頷く。
「いい仕事するじゃねぇか、如月ィ?」
 マイト・オーバーウェルムが嬉しそうに如月正悟の肩を叩いた。
「今回のサッカーもサプライズがいっぱいだねぇ。こんな展開は予想外だよ」
「まぁ、誰も予想は出来ぬなぁ」
 カレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディが顔を見合わせる。
 ――PK戦だってさ。
 ――やるの?
 ――面白そうじゃん。やろう。
 ――きちんと決着つけようじゃないか!
 そんな声が広がっていくのを確認すると、武神牙竜は宣言した。
「では、10分休憩の後、PK戦を開始する。ルールは原則、普通のサッカーのPK戦徒同じとする。言うまでもなく、PK戦はキッカーとキーパーの1対1の勝負なので、他のプレイヤーからのスキル等を用いた妨害や支援はなし――」
「確認させて下さい」
 セルマ・アリスが手を挙げた。
「『行動予測』は妨害行為に含まれますか?」
「む――」
「『行動予測』使いがギャラリーとしてキッカーのシュートコースを読み、それをキーパーに伝える事が許された場合、キッカーは極めて不利になると思います。今回、『行動予測』は片方のチームにひとりしかいないわけですから……」
「心配は無用だ」
 ダリルは言った。
「PK戦、俺は『行動予測』を使わない。それは、俺の名誉にかけて約束しよう」
 如月正悟はひっそりと苦笑する。
(何でカッコつけちゃって、勝ちにこだわらないのかねぇ?)
 手加減が通じる相手ではないというのに。

 PK戦は、シュートをする側が圧倒的に有利であると言われる。
 それは、「蒼空サッカー」においては──少なくとも今回の試合については少し事情が変わってくる。
 今回のレギュレーションでは、ゴールの大きさやセンターサークル、各種ラインの太さ等を除き、フィールド内の事物のあらゆるサイズが地球国際試合の14.3倍になっている。
 それは、ゴールとペナルティキックマークまでの距離も同様だ。
 その距離は157.3メートル。多少勢いのあるボールでも、蹴り出されてからゴール前に到着するまでにはある程度の時間がかかる。
 一定以上の経験を積み、それなりの観察力と「ダッシュ系スキル」を持っている者がキーパーを勤めるのであれば、『行動予測』使いの補助がなくとも、セービングなりキャッチングなりの対応が十分可能になるのだ。
 すなわち、今回の試合においてはPKとは原則「シュートはキーパーによって止められるもの」という性質を持つ。
 そうなると、キッカーは以下のようなシュートを編み出さなければならない。
  ・キャッチやセービングをされてもいい、それを吹き飛ばすだけの威力を持つシュート

 武神牙竜のコイントスにより、先攻は青となった。
 青チーム・PK戦の編成は以下の通り。
  1.ネノノ・ケルキック
  2.安芸宮和輝
  3.ウィング・ヴォルフリード
  4.本郷涼介
  5.秋月葵
  キーパー.レロシャン・カプティアティ
 黒チーム・PK戦の編成は以下の通り。
  1.緋柱陽子
  2.カレン・クレスティア
  3.ルカルカ・ルー
  4.鬼崎朔
  5.風森巽
  キーパー.霧雨透乃

 ネノノ・ケルキックの「光術」と「ソニックブレード」を組み合わせたスキルシュート「シャイニングソニック」は、霧雨透乃のセービングにより弾かれた。(0−0)

 試合中にその秘密が解明されたとは言え、緋柱陽子の「緋双」は単体では十二分に破壊力・突破力を持っており、ボールはレロシャンの体ごとゴールの中にねじ込まれた。(0−1)

 安芸宮和輝の「面打ち」と「ソニックブレード」を組み合わせたスキルシュート「ジャベリン」は、強烈なサイドスピンで弾道に変化をつけ、霧雨透乃の手元から滑り落ち、ネットを揺らした。(1−1)

 試合中は前線にこそ立たなかったが、3000メートルの彼方からドライブシュートを叩き込めるカレンの脚力は凄まじく、「ヘルファイア」、「禁じられた言葉」、「紅の魔眼」、「ヒロイックアサルト」、「地獄の門」を組み合わせたシュートは、「緋双」同様レロシャンの体ごとボールをゴールに叩き込み、ネットを突き破った。(1−2)

 ウィング・ヴォルフリードの「鬼神力」と「チャージブレイク」、さらに「ドラゴンアーツ」と「ヒロイックアサルト」までも組み合わせた「蹴式鬼龍烈破」は、霧雨透乃の体ごとボールをゴールにねじこんだ。(2−2)

 中盤で攻撃ラインの維持に努めていたルカルカは、実は基礎能力の高さが尋常なものではなく、彼女の「ドラゴンアーツ」と「ヒロイックアサルト」を組み合わせたシュートをまともに受けたレロシャンは、ボールを抱えたまま三度ゴール内に体を吹き飛ばされた。(2−3)

 本郷涼介の、「バーストダッシュ」の勢いと「凍てつく炎」をボールに乗せて撃つスキルシュート「アブソリュートゼロ・ダッシュ」は霧雨透乃に殴り返された。(2−3)

 試合中は自陣で青の攻撃に対処していた鬼崎朔の「闇術」をボールにかけたシュートは、キッカーの基礎能力を反映して、やはりレロシャンの体ごとボールをゴールに叩き込んだ。が、キックの際に「光学迷彩」や「ミラージュ」を用いたのが「違法なフェイント」として武神牙竜に指摘され、ゴールは無効となった。(2−3)

 秋月葵の「氷術」、「アルティマ・トゥーレ」、「シューティングスター☆彡」を組み合わせた「アイスメテオトルネイダー」は、霧雨透乃の手をすり抜け、ネットに突き刺さった。(3−3)

 風森巽のキックに対し、キーパーとして立ったのはルータリアだった。「闇術」の影響で身体の不調が認められたレロシャンは、葛葉翔によってフィールドに立つのを止められたのだ。
 また、風森巽がフィールドに出た際、変身ヒーローもののお面をつけていたのを武神牙竜が「風森選手、そのお面は何だ?」と質問した。風森巽は「我は風森巽ではなく、仮面ツァンダーソークー──」と何やら変身ヒーローっぽい名を名乗ろうとしたが、「なるほど、風森選手は棄権するのか」と武神牙竜が笛を吹きかけたのを見て慌ててお面を外した。
 キックの前に少しドタバタがあったものの、風森巽の「軽身功」と「神速」の勢いをボールに蹴り込んだ「青心蒼空拳・超速腿」は、武神牙竜が笛を吹くと同時にルータリアが同じく「軽身功」と「神速」で前に飛び出してブロックした。ルータリアは気を失った。(3−3)


 PK戦はサドンデスとなった。


 青のキッカーとしてフィールドに出たのは芦原郁乃だったが、キーパーとして出たのはマイト・オーバーウェルムだった。芦原郁乃のシュートをマイトは自分の体を吹き飛ばされながらもゴールの外に弾き飛ばした。(3−3)

 黒のキッカーには、入れ違いにマイト・オーバーウェルムが立ち、キーパーには芦原郁乃が立った。マイトのシュートを芦原郁乃は見事につかまえた。(3−3)

 次の青のキッカーには咲夜由宇が立ち、キーパーには霧雨透乃が再び立った。
 「緋双」および「ツイントルネード」の詳細を聞いてから密かに咲夜由宇は、後半終了後、フィールドの土を拾っては必死に試行錯誤していた。習得していた「火術」と「氷術」をどういう配分で組み合わせればいいのか――手にした土に向かって試し続けていたのだ。
 そして、「荒ぶる力」とともに蹴り出されたボールには、「熱」と「冷気」の魔力が、彼女の辛うじて見出した絶妙の配分で込められた。
 スピードはそれなりにあるが、まっすぐ飛んで来るだけならば霧雨透乃はこのボールを簡単につかまえる事ができただろう。
 しかし、表面でふたつの魔力が中途半端に反発しあい、爆発し、エネルギーを不規則な方向に噴出し続けるボールは、ゴールに向かって飛びながら予想外の変化を見せた。そして霧雨透乃の手元で物理的にありえない方向に曲がってすり抜け、彼女の後ろでネットを揺らした。(4−3)

 続く黒のキッカーには、遠野歌菜が立った。キーパーには緋桜遙遠が立つ。
 遠野歌菜の「バーストダッシュ」と「則天去私」を乗せたボールは、緋桜遙遠の「地獄の天使」による飛行状態から「奈落の鉄鎖」で急発進した体当たりによって止められた。
 この衝撃で、緋桜遙遠はさらに肋骨を数本折った。(4−3)

 歓声を上げる青チームを見て、如月正悟は苦笑した。
 【白の鉄壁】赤羽美央の欠場、こちらに充実している主砲・大砲クラスのストライカー。
(こっちの方が絶対優位の筈だったんだがなぁ――)
「所詮、邪道は衝動にはかなわない――いや、俺のはただの浅知恵か」
 鼻を鳴らし、首を横に振った。


 非公式サッカー大会/通称「第2回蒼空サッカー」は、以下のような形で終了した。
  青1−1黒
  (PK戦:4−3/青の勝ち)
「両チーム整列! 互いに礼!」
 風羽斐の号令で、センターラインに並んだ選手が、一斉に頭を下げた。
「「「ありがとうございましたっ!!」」」


 頭を下げながら、冬蔦千百合は少し困っていた。
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)が、家で自分の帰りを待っている。
(今日のこの試合の事、どこから話せばいいだろう?)
 聞いて欲しい事がいっぱいあって、