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リアクション
第14章 白百合会――いくらなんでも戦うだけじゃないのです
「というわけで、改めて挨拶させていただきます。こんにちは、吉村弓子さん。ロザリンド・セリナと申します」
生徒会室に静香たちを招き入れ、ロザリンドが改めて自己紹介を行った。
百合園女学院における生徒会は、通称「白百合会」と呼ばれている、というのは先に静香が説明した通りだ。そしてその権限は校長である静香、そのパートナーのラズィーヤに次いで高く、その次に一般教職員という序列になっている。
ところでこの白百合会だが、厳密に言えば「白百合会イコール生徒会」というわけではない。百合園女学院の生徒会は「本部」と「執行部」に分かれており、いわゆる学校の生徒会を担うのが「本部」である「白百合会」、そして契約者のみによって構成され、主に一般人が対処し得ない事柄や事件の解決を担当するのが「執行部」である「白百合団」である。
つまり「白百合会&白百合団イコール生徒会」というわけだ。
「まあ最近はちょっと大きな事件が多くて、本部よりも執行部の『白百合団』の方に目が行きがちなのが問題と言えば問題でしょうか。確かに華々しく戦ったり、救助活動を行う姿の方がより目立つのは否めませんが……」
では「白百合会」の方の仕事とは、一体何なのか。
それは、他の学校で言うところの「生徒会」と全く同じなのである。
「生徒会と同じ、ということはつまり……」
「まあほとんどが地味な作業ですね。とはいえ、とても大事なものばかりです。例えば年中行事の構築、今でしたら卒業式に向けての準備とかでしょうか。他には他校との交流が目的の行事の設定、……ラズィーヤさんが思いつきで催すことについての話し合いとか」
「で、書類作成ですか」
弓子がロザリンドの手元を見て言う。
「さっきの騒動で、仕事が途中だったんです。すぐに終わらせてしまいますので、すみませんが少々お待ちください」
「あ、いえ、どうぞゆっくりやってください」
ロザリンドが手がける書類の内容はわからなかったが、確かに量は少なそうだった。だがそれよりも弓子には気になっていることがあった。
「ところで……、こんなことを聞くのもどうかなと思うんですが」
「……何となく想像はできます」
渋い顔をしながらロザリンドが応じる。
「人、いませんね」
「…………」
弓子の指摘通り、今の時点で生徒会室にいるのは見学の静香一行を除けばロザリンドだけであった。いくらなんでも彼女だけが「白百合会」メンバーというわけではないのだろうが……。
「言い訳をさせていただけるのなら……」
書類に目を落としながらロザリンドが弓子の疑問を解消する。
「今日はたまたま集まりが悪いだけなんです。普段はさすがにこんな閑散としているわけではありませんよ?」
「それは何となくわかります」
「それに、先ほども申しましたように、生徒会は白百合会と白百合団の2つに分かれていて、目立っているのは後者の方でして……」
「……今日はみんなそっちに行っちゃった?」
「まさにそれ……」
書類に目を落とすどころか、頭まで落としてしまうロザリンド。その姿を見た弓子は、それ以上冗談を言う隙を見出せなかった。
もっとも、ロザリンドもその白百合団に所属している人間で、しかも【班長】という位置づけであるため、過度な冗談は逆に彼女を怒らせてしまうかもしれなかったが。
「あ、大事なのを忘れてました」
ふと白百合会のもう1つの仕事を思い出したのか、ロザリンドが頭を上げた。
「白百合会にはもう1つ重要な仕事がありました」
「それは、どういうものですか?」
興味津々といった風に弓子が先を促す。
「パラミタでは、日々、様々な事件が起きるのですが」
「はあ」
「事件というものは、起きただけでは意外と誰も気がつきません」
「それは……そうですね」
「そこで白百合会はあることをするのです」
「つまり?」
「事件や依頼の斡旋です」
パラミタで起こる事件のほとんどは、何らかの「依頼」という形で様々な学校に出回るものである。白百合会では、特に百合園女学院やヴァイシャリー、あるいは他校で起きている事件や依頼を書類にまとめ、学生に斡旋する業務も担っているのである。
「他校ではまた別の組織機構が似たようなことをするわけですが、百合園では、私たち白百合会がそれを担当します」
「……あ、もしかして今ロザリンドさんが書いてるその書類って」
「そうですよ、まさにこれじゃないですか。どうして目の前にあるのにこれが出てこなかったんでしょう」
その話で、静香は今ロザリンドが書いている書類の内容が理解できた。斡旋予定の依頼書だったのだ。
「明日か明後日になりますが、多分いくらかが掲示板に載ると思います」
「ねえ、それってまたオペラとか?」
依頼書と聞いて、歩が目を輝かせる。彼女は先日、とある貴族からの依頼でオペラ鑑賞に立ち会ったことがあるのだ。
「いえ、今回あるのは、まあ『泥棒から財産を守ってくれ』とか『自分のペットを探してくれ』とかそういうものですね」
「なんだ、またああいう依頼かと思ってたんだけどなぁ……」
内容が全然違っていたため、歩は意気消沈してしまう。そんな彼女をロザリンドは「また今度の機会に」と慰めた。
「オペラ鑑賞が依頼、って、そんなのあるんですか?」
「実際は護衛、でしたね」
弓子のそんな疑問に答えたのは歩だった。
「ヴァイシャリーって貴族の人とか豪商の人とかが沢山いて、ホントに物語の中に入ってるような感じなんです。その中でオペラとかたまに呼ばれたりして……。あぁ、この前のは素敵だったなぁ〜……」
その事件の内容を思い出しているのか、歩は遠い目をしていた。
そんな話を無理に打ち切るかのように、ロザリンドが椅子から立ち上がる。
「……それでは、そろそろ次へ行きましょうか」
「あれ、ロザリンドさん。依頼書は?」
なんだかまだ書いている途中だったような。静香はそんな気がしたが、彼女曰く、気のせいらしい。
「もう書きあがりましたので大丈夫です」
「そんな依頼書で大丈夫ですか?」
「大丈夫です、問題ありません」
弓子の冗談にロザリンドは半分冗談、半分真面目に返す。
「どうしても駄目な部分があるようなら、その時はその時で修正が入りますし、今はこれで大丈夫です。では、行きましょう」
「ロザリンドさん、行くってどこへ?」
静香の言葉に、そういえばまだ行き先を言っていなかったとロザリンドが立ち止まる。
「体育館です。今日はそこで、葵さんが白百合団員の訓練を行ってたはずですので、それを見学に行きましょう」
「はい、それでは皆さ〜ん。前方をご覧ください〜、案内役のロザリンドさんでございま〜す」
「……何ですかそれ」
「バスガイドです」
満面の笑みを浮かべる美咲に対し、ロザリンドは苦笑するしかなかった。