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ビターなチョコは甘くない

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ビターなチョコは甘くない

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第3章


 金曜日の日中のことだ。

 七刀 切(しちとう・きり)はツァンダの街を訪れたツァンダの地祇の一人、カメリアに手を振った。
「おーい、カメリアちゃーん」
 名を呼ばれたカメリアは少しだけ恥ずかしそうに近寄ってくる。
「ぬぅ……その『カメリアちゃん』よさぬか。儂はこう見えても1000歳越えておるのじゃぞ。呼び捨てでよい」
 カメリアと切が知り合った事件から一ヶ月、最近ツァンダの街を頻繁に訪れるという噂を聞いて切はカメリアを呼び出したのである。
 切はというと、以前のカメリアから感じられた孤独感がだいぶ薄れていることに満足し、こう提案した。
「そっか? じゃあワイのことはお兄ちゃん、または切にぃと呼ぶといいぜぃ。主にワイが喜ぶからな!!」
 ビシっとイイ笑顔でサムアップしてみせる切に、カメリアは呆れ顔を見せる。
「まったく……お主は相変わらずじゃの……まあ、ちゃん付けも鬱陶しいし……お、おに、おにい……」
 これ意外と恥ずかしいな、とカメリアは深呼吸した。

「き、切にぃ……?」

 どうやらお兄ちゃんよりはマシと判断したらしい。
「ああ、かわいいーっ!! カメリアーっ!!」
 感涙にうち震えた切はカメリアに抱き付いて感動を表現するが、そのまま後頭部に肘撃ちを喰らって撃沈した。
「すぐに抱き付く癖をなんとかせんかこの馬鹿者!!」
 カメリアは先に歩きながらも、少し先で切が追いつくのを待つ。

「ほれ、いつまでそうしておる。今日はツァンダの街を案内してくれるのじゃろ? ……楽しみにしておったのだぞ、切にぃ?」
 にやりと笑って、切の手を取るカメリア。

 今日は、楽しい一日になりそうだった。


                              ☆


 その更に少し前。
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)はペットのフライングポニーの上で携帯電話をかけた。身長28cmの彼女はちょっと電話をするだけでもひと苦労だが、何度か練習するうちにすっかり慣れた。
 電話の相手は、パートナーのアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
「もしもし? カメリアの姿をツァンダで確認したワ。確実に数時間は帰らないわネ、作戦決行ヨ!!」

「よっし、行くぜ!!」
 電話を受けたアキラは雪の中を立ち上がった。
 場所はカメリアの本体、椿の古木がある山の中。ツァンダの街からは少し離れた場所にある。
 アキラとアリスはカメリアの留守を狙って、この時のために準備しておいた作戦を実行に移したのだ。
「おーっし、どんどん運び込めー!」
 アキラのペットである武者人形、ゴーレム、狩猟収集民などが手伝ってカメリアの樹のある場所に何かを運び込んでいく、それはあらかじめ別の所で組み立てられた柱や屋根の一部。
 いずれも何らかの建築材料のように見えた。

「じゃあ、足りない部品も買い足してワタシも向かうね、楽しみネ〜!」
 アリスは電話を切り、フライングポニーに方角を告げる。
 ポニーは空中で一度くるりと旋回し、アリスを乗せて街中へと降りて行った。


                              ☆


「――はぁ」
 数時間後――金曜日の夕方になるが、切と別れたカメリアはツァンダの街のカフェテラスで紅茶を飲んでいた。
 その顔を覗きこんだのは天津 麻羅(あまつ・まら)だ。
「――どうした、口に合わんのか?」
 と、カメリアは慌てて首を振った。
「いやいや、これは充分じゃ……ちょっとな」
 改めて紅茶に口をつけるカメリア。麻羅はその様子を覗いながら自分の紅茶を飲む。美味い。
「ふむ。ちょっと、か。まあ、動き出すと悩み事もできるものじゃからな」
 まるで人事のように麻羅は呟く。たしかに、悩み事というものは基本的には本人しか解決することができないものだ。
 もちろん誰かに相談する、というのも解決策の一つではあるが。

 それはそれとして、見た目は二人とも10歳ちょっと子供なのにどちらも老人口調なのは、なんとも奇妙なものだ、とルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は思った。
 その視線に気付いたのか、麻羅がルーツに視線を送り返した。
 麻羅は今パートナーが不在のため暇潰し、ルーツはパートナーの師王 アスカに協力して街で情報収集をしていたところだ。
 だがそその傍ら、カメリアが最近ツァンダの街に来ているという話を聞いて、カメリアと待ち合わせをしていたのである。そうしたら暇を持て余していた麻羅とも遭遇したので、ついでにお茶でも飲もうか、ということになったのだ。
「何じゃ? わしらの顔に何かついておるか?」
「――ああ、いや。そうではないのだ。カメリアも元気になったものだと思ってな。それで今日の用事は、これを渡したくて」
 そう言うと、ルーツは懐から上品にラッピングされたお菓子を取り出し、カメリアの前に置く。
「おお、何じゃこれは?」
 まだカメリアは街に来て日が浅い。それはルーツが作ったマカロンだったが、そもそもマカロン自体を知らないようだ。
「うむ、それはマカロンと言って、ちょうどバレンタインも近いことだし作ってみたのだ。親愛の印に男性からお菓子を贈るのも悪くないと思ってな……あの時は夢の中だったし、気に入ってもらえると良いのだが」
 気に入るも入らないもない、カメリアがそのマカロンを見つめる表情を見れば答えは一目で分かった。瞳をキラキラと輝かせてあらゆる角度から眺めて楽しんでいる。
「おおお……すまんのぉルーツよ、お主、吸血鬼のくせに義理堅いのぉ」
 吸血鬼のくせに、というのは偏見だとルーツは思った。
「吸血鬼が皆、快楽主義者というわけではない……それを言ったら、地祇や英霊はみんなそういう喋り方なのか、ということになるしな」
 思わずカメリアと麻羅は顔を見合わせて、笑った。
「ははは……そうじゃの、すまんかった。これはありがたくいただくぞ、ありがとう」
 嬉しそうなカメリアの様子を見て、麻羅はくすり、と微笑んだ。
「おやおや、さっきのため息もどこへやら、じゃな」
 そのマカロンを大事そうに懐にしまったカメリア。その一言にまた軽くため息をついた。

「ふぅ……そうじゃ、おぬしらにちょっと聞きたいのじゃが……お主らがパートナーと契約した、その決め手は何じゃったのかのう……?」
 今度は麻羅とルーツが顔を見合わせる番だった。その事情は個々人によるだろうが、やはり契約者同士の事情が絡み合うので、大抵はデリケートな問題を含むものだ。
 言葉を選びながら、ルーツは答えた。
「そうだなあ……人にもよるが……恩義を感じたり……趣味趣向……考え方が同じで好ましいと思ったり、ではないかな?」
 麻羅も頷きつつ答える。
「そうさのぅ……ウチの場合はホレ……鍛冶屋稼業という共通点があったからのぅ……まあ実際にはその方面では教えてはおらんのじゃが……やはり考え方が好きじゃから、というのはあるな……」

 カメリアは二人の言葉にこくこくと頷きつつも、一生懸命聞いている。

「ほうほう、成程なあ……やはり人それぞれ、じゃなあ。まあ、儂の場合契約以前の問題もあるわけじゃが……。そういえば、お主らのパートナーはどうしたのじゃ?」
 カメリアの問いに、ルーツは答えた。
「ああ、アスカは鴉たちと事件の情報収集に行っている。我もその途中だ。茶色い全身タイツなどそこらで売っているものではないから、そういう店を回れば何か情報でもないかと思ってな」
「ああ、チョコレートなんとかという不届き者の事件じゃな」
 というカメリアの呟きに、麻羅は頭を抑えた。
「ああ、それがのぅ……ウチのパートナーは……」


                              ☆


 その天津 麻羅のパートナー、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)はとあるチョコレイト・クルセイダーのアジトに潜入していた。
 何ということはない、実は独身貴族評議会自体は、ネットの裏サイトなどを利用すれば比較的簡単に入会でき、たとえばチョコレイト・クルセイダーのように突発的に活動をしたい時にはそれが可能な者だけが集まる。普段は会員同士の素性も知らぬ者がほとんどで、会としての活動というものはない。出るも入るも自由、というのが評議会のシステムなのだ。
 したがって、組織というよりは突発的に出現するデモ集団のようなものだった。ただ、評議会に接触していればその情報を得られやすいというだけで。したがって例えばクルセイダーが鎮圧されたとしても評議会は存続するだろうし、一度解体あれたとしても誰かが呼びかければあっさり復活する。
 独身貴族評議会、というのはそういう集まりだった。

 それはそれとして緋雨がクルセイダーに潜入していたのは、ここのところ頻発するチョコレート強奪事件を彼女なりに解決するためである。
 とはいえ、内部に潜入して組織壊滅を狙うというのではなく、チョコレイト・クルセイダーの行動目標を変換させて、空中分解を狙おうというものだった。
「というわけで、我らチョコレイト・クルセイダーが狙うべきはカップルや女子のチョコレートではないと思うのです!」
 突然、茶色タイツ姿の緋雨に提案された独身男爵は面喰った。
「――ふむ?」
「良いですか、もとより日本風バレンタインは製菓会社がチョコートを売るための宣伝イベントとして考案したもの、聖ウァレンティヌス殉教の日とは何の関係もありません」
「ふむ、その通りだ」
「我々がいかに個人レベルでバレンタインの妨害をしようとも、愚かな風習に踊らされるチョコレートを救うことはできません! ここはひとつ製菓業界を乗っ取ってこの風習を断絶してしまいましょう!」
 と、緋雨は力説した。もちろん彼女も本気で製菓業界を乗っ取れるとは思っていない。仮に襲撃の矛先を変えることができれば街の犠牲者は減るし、大きな目標に向かう過程でクルセイダーを瓦解させることができるであろうと踏んだためだ。
 だが。
「発想としては面白い。だが、君はまだクルセイダーになったばかりだね?」
 と、独身男爵は尋ねた。
「――え、は、はい」
「いいかね、製菓業界そのものを独占してしまってはいけないのだ。皆がチョコレイトを作り、皆が素晴らしいチョレイトを食するためには、チョコレイト業界にも正しい競争と切磋琢磨がなくてはならない。そのためには資本主義の策略も頭ごなしに否定はできないのだ」
「……」
 意外と色々考えてるのね、と緋雨は思った。
「いつかバレンタインに代わるチョコレイトのための祭りが必要となるだろう……だがそれは決して武力の行使ではなく、人々のチョコレイトに対する意識が高まったときに行なわれるだろう……まだ、時期が早いのだ」
 ぽん、と緋雨の肩に手を置いて独身男爵が歩き去って行く。緋雨はというと、ぽかんとした表情でそれを見送るしかなかった。
「現場で人々を襲っている連中とはかなり思想的に違うようね……街で暴れている怪人は、男爵の尻馬に乗って暴れているだけなのかしら……」
 いずれ、チョコレイト・クルセイダーも一枚岩ではなさそうだ、と緋雨は考えたのだった。

 緋雨と別れた独身男爵はアジトの置くの扉を開けた。そこはまるで製菓工場のように甘い香りがただよう研究室になっていた。
 そこに、桐生 円(きりゅう・まどか)桐生 ひな(きりゅう・ひな)はいた。
「順調かね、プロフェッサー桐生」
「もちろんだよ!」
「当然です」
 と、円とひなは答えた。二人とも茶色タイツにマントと仮面姿とチョコレイト・クルセイダーの正装に身を包んでいる。
 二人は世間を騒がすチョコ強奪騒動を知ると、その騒動の主が独身貴族評議会であることを調べ、まんまとクルセイダー内部に潜入してその豊かな発想力であっという間にチョコ怪人担当として名を上げたのである。ちなみにプロフェッサー桐生とはその際に独身男爵から贈られた役職であり、役職名において二人を区別する術はない。

「企画書どんどん持ってきてよ、まだまだ作っちゃうよ!」
 元気な円は男爵に向けて笑顔を見せた。チョコ怪人を作っている装置には特別な魔法が施してあり、企画書として発案されたチョコ怪人案を設定していくことでチョコ怪人を産み出すことができるのだ。
 ちなみに、大量のチョコレートが必要になるが、独身男爵は既に潤沢なチョコレート資材を持っていたので問題はなかった。
 このような魔法的な装置ですら存在することに、独身貴族評議会の層の厚さをうかがい知ることができるが、円とひなの二人の目的は別なところにあった。
「ふむ、順調なようだな。では、引き続き怪人作成を頼む。――そろそろバレンタインも直前に迫った。今夜からときめきセンサーによる探索襲撃をやめて無差別攻撃に出るからな」
 そう言って独身男爵が帰って行った後も、二人はクルセイダー内部から集められた『僕の考えたチョコレート怪人』を次々に形にしていく。

 ある程度して、ひなが口を開いた。
「ねえ、そろそろ数としては充分だし、練習はもういいですよね。――そろそろ、私たちの真の目的に移りませんか?」
 円もそれに応え、ニヒヒヒと笑みを浮かべる。
「そうだねっ! いよいよボクの考えたスペシャル怪人を作るよー、ひなくんの怪人には負けないからねー」

 そう、二人の真の目的とは、このチョコ怪人騒動を使っての『第146回桐生対決』を行なうことだったのだ!
 『桐生対決』とは何かッ! それは桐生 円と桐生 ひなの間で行なわれる『どちらがより桐生であるか』を決める対決であるッ!!

 ちなみに第145回まではどこでどのように行なわれていたのか全くの不明!!
 判断基準はその都度違えどライバルである二人は実力を拮抗させてきた!!
 今回の勝利条件は『お互いが作ったオリジナルチョコ怪人で寄り多くのチョコレートを作ったほうが勝ち』!!
 ところで『チョコレートを作る』とはブレイズ・ブラスがされたように道行く犠牲者をチョコレートで固めることである!!


 すなわち大・迷・惑!!


 そのため、二人のパートナーはその桐生対決の審判役として別室で待機していた。オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)である。

 仮眠室とされたその部屋のベッドで、二人はのんびりと時間を過ごしていた。
 オリヴィアがベッドに腰掛け、その膝枕にナリュキがころんと転がっている。
「ふふふー、たまにはこうしてのんびりするのも悪くないですねー」
 と、甘えん坊のナリュキの頭を優しく撫でながら、オリヴィアは呟いた。
「のー、どうせあの二人のこと、綺麗な結果には終わらんのじゃ〜。妾たちは適当に審判でもしておれば良いのよ」
 ごろんとオリヴィアの膝の上で頭を転がしてうつぶせになるナリュキ。いたずらに衣服の上から太ももにむふーと息を吹きかけるとオリヴィアが反応した。

「っやん! ナリュキちゃん、ちょっとくすぐったい……」
 その反応に気を良くして、ナリュキは更にむふむふとオリヴィアの太ももを堪能していく。
「やっ……ちょっと……」
 あまりのくすぐったさに、オリヴィアはナリュキの頭部の角を掴んで持ち上げた。ちょうど二人の顔が至近距離にある状態になり、目と目が合った。
「にひひ、おりぶーはやっぱり可愛いのぅ」
 ちゅ、とオリヴィアの頬に軽く口付けた。オリヴィアはというと色っぽい外見に似合わず実は経験不足なので、その程度でももう顔を真っ赤にしてしまう。
「ね、ねえちょっとー、ころころすりすりはいいけどー、ちゅーはちょっとー、んむ」
 という抗議の声はナリュキのアリスキッスにより塞がれた。
「んむ……はぁ……む……ちゅ……はぁ。やはり甘い香りに包まれながら絡み付くのは気持ちいいのぅ」
 恥ずかしがるオリヴィアを押し倒し、いよいよエスカレートしようとするナリュキ。

 そこに邪魔が入った。

「カモーン! 桐生 円作チョコレート怪人! 『板チョコ紳士』−!!!」
「レッツゴー! 桐生 ひな作チョコレート怪人! 『タンクメーカー』!!!」
 仮眠室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは言わずと知れたダブルプロフェッサー桐生だ。それぞれに作ったのであろうオリジナルチョコ怪人を従えている。
 板チョコ紳士は両手が巨大はチョコ型でできており、この間に犠牲者を挟みこんでチョコを流し込んで大きな板チョコにしてしまう恐るべき怪人なのだ!!
 対するタンクメーカーもムキムキの筋肉質で犠牲者を押さえ込み、背中から伸びた太いホースから大量のチョコレートを口から流し込んで溢れさせ、全身チョコレートコーティングしていく恐怖の怪人である!!
 二人のプロフェッサーは口を揃えて言った。
「さあ、試運転だ!!!」

 この場合の『犠牲者』とは、間違いなくオリヴィアとナリュキのことである!!!
「え、ちょとー? どうしてこっち来るのー? 審判ちゃんとやるよー? どうして円はそんな悪い顔して笑ってるのー? ってどぶべきぐしゃ」
「んー、何じゃ? ちゃんと判定はしてやるから心配って何じゃー? そんなにチョコは喰えんでごぶげがごぼぐべぼぁ」
 あっという間にオリヴィアは板チョコにされ、ナリュキはチョココーティングされた!

「よし、試運転完了です! それでは街に繰り出してあがごべぐひべどばきぐしゃらー?」
 意気込んだひなをタンクメーカーがガッチリした筋肉で押さえつけ、その上でチョコレート紳士がチョコ型に挟みこんだ!


 大暴走である。


「やば、今の内に処分しないと!!」
 ひなが散った以上、次に狙われるのは自分だ。
 身の危険を感じた円は、ひなを板チョコにしたチョコレート紳士の背後から襲いかかる。
 だが甘かった。
「超技、ダブルフェイス!!」
 何ということか、チョコレート紳士の顔の後ろにもう一つの顔が現れ、間接を無視した動きで背後の円をチョコ型に挟みこんだのである!!

「ぐべぇっ!? さ、さすがはボクの作った怪人……」
 あっというまに板チョコにされてひなと仲良く転がる円。
 チョコレート紳士とタンクメーカーはダブルプロフェッサー桐生の作りだした数々の怪人たちと共にアジトを後にして、街へと飛び出して行った。
 これはヒドいことになるな、と四人は思ったがもうどうすることもできないのであった。


                              ☆


「まあ、元気なのは良いが若い者の考えることは分からんな。どれ、そろそろ行くか」
 と、クセイダーのアジトではそんなことになっているとは知らない麻羅はため息をついた。
「そうじゃな、ルーツもそろそろ情報収集の続きじゃろ?」
 カメリアも腰を上げる。
「ああ。カメリアはこれからどうするのだ?」
 ルーツも立ち上がりながら上着を羽織り、カメリアに尋ねた。
「そうじゃな……色々と考えなければならんこともあるし……夜は夜で約束があるが、それまではぶらぶらしておるよ。そうじゃルーツ、ちょっと頼まれ事をしてくれぬか? また今度連絡する」
 その言葉にルーツは頷いた。人と関わりを持てなかったカメリアが頼ってくれるのは、素直に嬉しかった。

 そんなルーツの思いを知ってか知らずか、カメリアは手を振りながら歩いて行った。
「ではな。また会おうぞ、二人とも」

 その後ろを、物陰に隠れながら備考する影があった。
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)である。
 その後ろ姿を眺めながらルーツは言った。
「ああ、ずっと感じていた気配は彼か……カメリアは気付いてないのか?」
 苦笑を浮かべながら、麻羅は答えた。
「いやあ、気付いておるよ……まあ、カメリアなりに考えがあるのじゃろ」
 そんな二人の呟きも届かず、街をぶらり歩きするカメリアを心配そうに見守りながらついて行くクドだった。