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ビターなチョコは甘くない

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ビターなチョコは甘くない

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第6章


 相田 なぶら(あいだ・なぶら)とそのパートナー、木之本 瑠璃(きのもと・るり)はクルセイダー対策として街を見回っていた。
 瑠璃の友人が数日前にクルセイダーに襲われ、本命チョコと共に瑠璃と交換するはずだった友チョコを奪われて以来、瑠璃は毎晩見回りをしていたのだ。
 更に言えば以前、『正義』について熱く語り合ったブレイズ・ブラスがクルセイダーに倒されたという噂も聞こえ、瑠璃としては放っておけない状況なのである。
 ついでに言えばなぶらは何かと暴走しがちな瑠璃のお守りだ。

 だが、瑠璃はクルセイダーが『ときめきセンサー』で本命チョコを持っている女子を狙っていたことを知らない。
 それゆえに、ここ数日の見回りの成果はゼロ。今夜はバレンタイン前の最後の週末ということでクルセイダーが出回っており、たまたま被害者を襲っているところに出くわしたといったところだ。

「おのれ、現れたたなクルセイダーッ!!!」
「瑠璃っ!?」

 瑠璃は怪しい茶色タイツの集団を見かけるや否や、なぶらの静止も聞かずに殴りかかった。

「へぶしっ!?」
 前口上を述べる間もなく瑠璃が先の先で放った拳が茶色タイツの腹にのめり込んだ。
 他のクルセイダーは瑠璃に向けて抗議した。
「な、なんだお前は! いきなり問答無用で殴るなんてヒドいじゃないか!!」
「うるさいのだ!!」
 だが、今の瑠璃にはそんな文句は聞こえない。


「我輩の友人を傷つけ、正義のために戦ったブレイズ殿を殺し、あまつさえ我輩のものになるはずだったチョコを奪ったクルセイダー、許さないのだ!!」


「え、一番の怒りポイントはチョコ?」
 とついつい突っ込むクルセイダーだが、いちいち聞いてくれる瑠璃ではなかった。
 10人は下らない数のクルセイダーの集団に突っ込んで行き、次々と蹴散らしていく。

 そもそも、先の先や軽身功、疾風の覇気などを好んで使う瑠璃の戦闘スタイルはスピード重視だ。反面、一通りのラッシュを耐え切られると強力な反撃を受けてピンチになることもしばしばだが、そこまで強力ではない敵を多数蹴散らすのには向いている。

「これは、無念にも志半ばで死んでいったブレイズ殿の分!!」
 まずは拳による右ストレート!!
「これは、気持ちを踏みにじられた我輩の友人と街の被害者の分!!」
 そして鳳凰の拳によるボディブロー!!
「これは、我輩が食べる筈だったガトーショコラとチョコトリュフとザッハトルテの分!!!」
 さらに疾風の覇気による超連打!!
「そしてこれは、楽しみにしていたすべてのチョコを奪われた我輩の……我輩の怒りなのだぁーーーっっっ!!!」
 とどめの等活地獄!!!

「こ、これは敵わん!! 出ろ、チョコ怪人!!!」
 さすらいのヒーローかそれとも世紀末救世主かというくらいの怒りっぷりを見せる瑠璃に、ボコボコにされたクルセイダーはチョコ怪人を呼び出した。
 
「変チョコ仮面、参上!!!」
「チョコ・リブレーっ!!!」
 呼び出しに応じて現れたチョコ怪人、変チョコ仮面は奪い取ったチョコをあろうことか股間に貼り付けた変態怪人だ。
 チョコ・リブレは全身にチョコを塗りつけてテカテカと光るプロレスラー然として姿である。 どちらも露出度が高く、ある人物を彷彿とさせるが気にしてはいけない。

「な、なんという変態的な怪人なんだ……これではブレイズさんがやられてしまったのも頷ける……」
 なぶらがぼそっと呟くと、そもそもクルセイダーに襲われていた一人の女性が驚きの声を上げた。
「えーっ!? ブレイズがやられたって本当!?」
 その女性は鳴神 裁(なるかみ・さい)。こちらも以前の正義マスク騒動でブレイズと知り合っている。


「そんなことはないよ! 彼、頭は悪そうだけど体は丈夫だったもん! そうだ、事態をもっと面白――いや、解決するために呼んでみよう!!」
 何気にヒドい評価が下された気がするのだが。
「え……呼べば来るってもんなの……」
 と呆然と呟くなぶらだが、裁は全くお構いなしだ。

「せーのっ! ボスケテ☆正義マスクーーーッッッ!!!」
 まるでヒーローショーのお姉さんよろしくブレイズ・ブラス――正義マスクを呼ぶ裁。

「勝手に殺すなーっ!! あと電話で呼び出したんなら変な演出するなーーーっっっ!!!」
 すると、物陰からマスクを着けたブレイズが現れた。
 つまるところ、裁はもともと囮捜査をしていてまんまとクルセイダーを引っ掛ける事に成功し、事前に連絡を取っていたブレイズと共にクルセイダーと捕らえようとしていたのだが、そこに瑠璃が突然乱入してきた形だったのだ。

「というわけで正義マスク参上!」
 クルセイダーとチョコ怪人を前にポーズを取るブレイズ。裁も負けじと変身ポーズを取る。
「よーっし、不健全なチョコレイト・クルセイダーをやっつけるぞ!! 健康促進戦隊、変身!!」
 掛け声に応じて物陰からパートナーである魔鎧、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が飛び出してきて裁に装着される。
「ソレンジャイブルー!!」
 更にアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)も飛び出してきて変身した。
「ソレンジャイピンク!!」
 そして最後に後藤 山田(ごとう・さんだ)の姿。
「ドぎついサンダーをお見舞いするぜ!!」

 と、最後に現れた山田に向かって裁が言った。
「え、ちょっとやまだ何してんの、早くブラックに変身しなきゃだめじゃん」
 山田は抗議した!
「何がブラックだよ! バカバカしくてやってられっか! あと俺『やまだ』じゃなくて『さんだ』だから! サンンダーな!」
 だがそれを遮ってアリスが続いた。
「もう、やまも早くブラックに変身しないとダメよ、何やってんのー」
 山田は更に抗議した!!
「だーっ! やまだじゃねえっつの! てめえらワザとやってんな!?」
 そこにドールも便乗した。
「まあまあ二人とも、あまりサンダーさんに無茶振りしないで」


「やまだじゃねーっつってんだろーーーっっっ!!!」
 いや、ドールはちゃんと呼んでたよ?

 ともあれ、山田のあまりの怒りに着ていたゴスロリ服が破れ、中に着込んでいたヒーロー着ぐるみが姿を現す。
 これにてソレンジャイ・ブラックの変身完了である!!
 不本意ながらも成り行きで変身してしまった山田は前に出て、ブレイズと並んだ。


「ふ……まあ変身しちまったもんはしょうがねえな。ここは任せて貰おうか、こんな雑魚どもは俺一人で充分だ!!」
 なんという雑魚フラグ!!


「うぉりゃぁぁぁ!!!」
「え、ちょっとサンダーさん、そんな雑魚フラグたてて突っ込んだらダメだよーっ!!!」
 ドールのこまめな突っ込みも無視して突撃した山田はあっさりと怪人に捕まる。
「あれ?」
 変チョコ仮面に放り投げられた山田に、チョコ・リブレの空中戦闘によるフライングクロスチョップ!!!
「うわぁーっ!!」
 ちなみに『空中戦闘』は実際のところは空中を飛ぶ生物に乗っての白兵戦の技術なので、この使い方は正しくない。
 それはそれとして、共闘するべき仲間がやられたブレイズはいきりたった。


「くそう、ブラックの敵は俺が取る! お前ら、手を出すんじゃねぇぞ!!」
 なんという負けフラグ!!


「でぇやぁぁぁ!!!」
 そして芸もなく突っ込んで山田同様に怪人に捕まるブレイズ。
「あれ?」
 再びブレイズを放り投げる変チョコ仮面、そしてチョコ・リブレによる変形ツームストン・パイルドライバー!!!
「うわぁーっ!!」

「ああ……言わんこっちゃない」
 やれやれとドールは呟くがもはや後の祭りだ。
「しょうがない、ここはリーダーの出番だねっ!」
 と、ソレンジャイブルー――裁が取り出したのは『蒼汁のフラワシ』の粘液から採取した蒼くドロドロとした粘液状のドリンク、『蒼汁』である。
 正直、あまり『ドリンク』という名称を使いたくない色をしている。

 さらに、ソレンジャイピンク――アリスは桃色の液体を取り出した。蒼汁に比べればマシな色をしているが、蛍光ピンクの飲食物というのもあまり聞いたことがない。
「ふっふっふ……この一口飲んだらあまりの甘さに意識もパラダイスな激甘『桃汁』を喰らうがいいわ!!」

 あまりと言えばあんまりな色にドールは突っ込んだ。
「なんかその蒼汁、前よりパワーアップしてるよね!? つか桃汁、さらに増えた!? 甘味ってことは更にこれからも増えるのっ!?」
 今後は辛味、苦味、酸味、塩味、渋味、旨味などがリリース予定です。

「細かいことは言いっこなし!! 健康戦隊ソレンジャイ、アターック!!」
 さあ、戦いだ! とばかりに二人のチョコ怪人にそれぞれの汁を飲ませるべく突進する裁とアリス。

 事態はより一層の混迷を見せるのだった。


「待て待て待てーいっ!!」
 その戦場に響き渡る鋭い声。
 もう何が現れても知った事か、と言わんばかりのクルセイダー達。
 一応義理で振り返ってやると、そこにはいかにも元気そうな女子高生がいた。飛鳥 桜(あすか・さくら)だ。
 蒼空学園の『美少女戦士部』に所属し『ヴァルキュリア・サクラ』として活躍する彼女としては、街を荒らす悪党を放っておけなかったのである。
 おけなかったのであるが。

「なあ、それちょっと単純すぎねぇか?」
「ザリガニ釣ってるんじゃないんだから……」
「えー? だって、これでホンマに連れたらおもろいやん?」
 桜は自らのパートナーである、ギルベルト・シュタイナー(ぎるべると・しゅたいなー)フランシス・フォンテーヌ(ふらんしす・ふぉんてーぬ)ロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)に文句を言った。
「もーっ! 真面目にやってよギル兄、フラン兄、ロラン兄!!」
 桜がクルセイダー退治に乗り出すというので着いてきた三人であったが、どうもノリが学芸会レベルというか、学生サークル的で困る。
 そもそも、ギルベルトに至っては一人で楽しくブログを更新していたところを引っ張られてきたので面白くないのだ。まあ、クルセイダーが現れたらブログのネタにすればいいじゃないか、ということで納得したのだが。
 白猫の獣人であるフランシスは自称『美しき薔薇の騎士』、当然の女性が困っているとあれば無視もできない。

 というか、一人大好きなギルベルトと脱ぎ癖があるフランシスは桜にクルセイダーの仲間ではないかと疑われたので、その疑いを晴らすための参加というのが実際だ。

 そして極めつけにヒドいのがロランアルトだ。
 何がヒドいって、ロランアルトが持った釣竿がヒドい。先にチョコレートをぶら下げてクルセイダーを釣ろうというのだから、もう完全に遊んでいるとしか思えない。

 だが、とりあえずクルセイダーが現れたのだからそれぞれの思惑通りではある。
「よっし、行くよ!!」
 桜は光術と煙幕ファンデーションで煙幕を張り、その中で早着替えをした。
「あ、あらかじめ変身しとくんだった……」

 桜が着替えている間にパートナー達はクルセイダーに突進していく。
 まずはフランシスが早かった。
「よし、たまには獣化して戦ってみるか!! そしてせっかくだから服も脱いでおくか!!」
 いやゴメン、意味わかんない。

「意味わかんぇよこの変態!! んなこったから変態の仲間扱いされんだろうが!」
 颯爽と服を脱ぎ始めたフランシスの後頭部にギルベルトが突っ込んだ。
 突っ込まれたフランシスはしぶしぶ超感覚に獣化をとどめ、チェインスマイトを駆使してクルセイダーを駆逐していく。

「よぉし、俺もいくで……てぇっ!?」
 ロランアルトは驚いた。まさか釣れるとは思わなかったチョコ釣竿に怪人が引っかかっていたからだ。
「チョーーーーコーーーーー」
 それはうっすらとした実体を持った怨霊の集合体、『チョコレイトレギオン』だった。
 驚いたロランアルトは思わず釣り竿を落としてしまう。
「いやー、まさか釣れるとは……」

 といったところで桜の早着替えが終わったようだ。
「よおっし! 正義と自由のヒーロー! ヴァルキュリア・サクラ参上――」
 だが、その隙をチョコレギオンは見逃さなかった。

「名乗っている間にチョコレイトビームッ!!!」

 チョコレギオンは桜が名乗っている間にチョコレイトビームを発射した。
 だが、ロランアルトとフランシスの方が早かった。
「いくで、フラン!!」
「おう、ロラン!!」


「愛と正義と友情の!! 必殺!! GSシーーーーールドッッッ!!!」


 桜の前に立ちはだかった二人はどんな攻撃も跳ね返す必殺の盾、GSシールドを発動した!!
 ちなみに『GS』とは何の略か!!
「ん、って俺ぇぇぇっっっ!!?」
 言うまでもなくギルベルト・シュタイナーの略である!!!


「ぎゃあああぁぁぁーっ!!!」
 分かりやすく言うとロランアルトとフランシスに盾にされたギルベルト、その全身でチョコレイト・ビームを浴びて見る見るチョコレートの彫像になっていく。
「さらばだ、ギルちゃん……」
「お前の身体を張った頑張り、三日ぐらいは忘れへんで……張らしたの俺らやけど」
「ギル兄……なんて、なんて美味しいんだ……」


 君らヒドいよ。