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昼食黙示録

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昼食黙示録

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第2章 それぞれの思い、交錯

 シャンバラ教導団、軍人養成学校としての色合いが特に強い学校だ。
 そんな学校にも食堂というものはある。
 軍人学校の食堂の券売機、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が何を食べようか先程から唸り声をあげながら悩み続けていた。
「これはこの前食べたし、でもあれは美味しそうじゃなかったし……。 かといって同じものを食べるのもなぁ〜……」
「セレン、いい加減にしなさいよ。 ほら、後ろが閊え始めているわ」
「分かっているわよ! 大体、そんなにメニューが豊富でもないのに、どうしてこんなに迷わなきゃならないのよ!!」
「はぁ、もういいわ。 私が食べようとしていたのにするわ。 これ以上は待っていられないわ」
「あ、ちょっと!?」
 相当悩んでいたらしく、後ろから声を掛けてきたパートナーセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に促されるも決められないようだ。
 セレアナの後ろにいる生徒たちからは物凄い覇気を向けられている。このままではまずいと感じたセレアナは強行手段に出た。
 自分が食べようとしていたメニューを二人分、無理やり購入する。
 当然、セレンは反論しようとするが券売機から無理やり引き剥がされてしまい、そこにはようやくと言わんばかりに待っていた男子生徒が食券を購入していた。
 見れば20人近く待っていたようで、かなりの間悩んでいたんだとセレンはようやく自覚する。
 また一から並び直すのも面倒なので、セレアナのメニューで妥協した。
 窓口で半券と交換で食事を受け取る。
 セレアナのメニューはどうやら裏メニューだったらしく、見たことのない食事だった。
 緑色のソースに掛かった炊き込みご飯らしく丼もの、冒険者になった気分だとセレンは感じた。
「ぶつくさ言ってないで食べましょうよ。 私、水持ってくるから先に食べてて」
 セレアナの言葉が痛く耳に刺さる。そんな彼女は二人分のお冷を取りに食事を席において離れていく。
 仕方なし、と覚悟を決めてご飯を口に運ぶ。
 ところがセレンの覚悟をいい意味で裏切ることが起きた。
 どうやら野菜をベースにしたソースらしく、ブイヨンがご飯と調和して中々イケる味をしている。
 良かった、と感じながらかなり速いペースで箸を進めるセレン。
 彼女の中で、相当気に行ったようだ。

「あ、そろそろ時間ね。 戻りましょうか?」
「ええ。 ……ところでさ、あの裏メニューのことなんだけど」
「うん、どうかした?」
「もしかしたら、一人じゃ不安だからってことであたしに毒見させるために頼んでわけじゃないわよね?」
「……、別にいいじゃない。 おいしかったんだし」
「良くない! ひどいじゃないのよ!!」
「まぁまぁ、結果良ければすべて良しってことで」
「勝手に締めくくるな!!」



 パラミタに建設された都市、空京。そこに拠点を構えているのは空京大学。
 言わずと知れたエリートたちが集まり、いずれもここパラミタで活躍するために勉学に励んでいる。
 そんな名門校でも、お昼時ともなれば緩やかな時間が流れる。
 女学生、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)もそのうちの一人だ。
 彼女は本日、弁当を持参している。
 数は三つ、付け加えるならば彼女一人で食べるわけではない。
 料理が苦手な友人たちに腕をふるったのだ
「晴れて良かったです。 こういうお天気の日にはやはり外でのお食事に越したことはありませんね」
「そうですわね。 それにしても美味しそうですわ、やはり料理を覚える必要だありますわね」
「わざわざごめんね、お弁当。 あたしたち二人、どうにも料理が苦手でさ……」
 シャーロットが今日の天気に感謝しながら友人たちに作ってきた弁当を渡す。
 ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)、共に十二星華のメンバーだ。
 しかし今はどこにでもいるごく普通の少女のようにしている。
 ティセラはシャーロットの料理に素直な感想を述べ、セイニィは申し訳なさそうにしながらも弁当を嬉しそうに受け取った。
「どういたしまして、さぁ食べてください。 今日は腕によりを掛けましたから」
「それでは、頂きますわ」
「それじゃあ遠慮なく。 いただきまーす!」
 楽しそうに女の子三人組は食事を始める。
 シャーロットの料理の味に太鼓判を押したのか、二人は美味しそうな表情を浮かべていた。
 そんなセイニィ達を見れてシャーロット自身、嬉しさで心が満たされていた。
 彼女たちの素敵時間は長く続くように思われたが、機械音がそんな一時を打ち破るのである。
 着信音が鳴った、携帯である。
 パラミタでは携帯電話は必需品のため、生活している者のほとんどが持っている。
 着信音に反応して取り出したのは、セイニィであった。
「何かしら?……え、まさか」
「どうかしまして?」
「あ、うん。 なんか、知り合いが今ここに来ているから会えないかって連絡が……」
「どうかしましたか?」
「いや、今こういう状況だし……。 席を外すのもあれかなぁって……」
「でしたらお構いなく行ってください。 せっかくお友達が来ておられるのですから、会われたほうがいいですよ」
「……ごめんね、この埋め合わせは今度するから。 それじゃあまた」
「……はぁ」
「仕方ありませんわ、今度また三人でお食事をしましょうね」
 セイニィの携帯に来たのはメールのようだ。
 文面には今から会いたいと言った内容だったので、どうしようか悩んでいる。
 すると、シャーロットは友人にあった方が良いと促してきたので、セイニィは申し訳なさそうにその場を離れた。
 当然ながら、お弁当には半分近く残っている。
 シャーロットは言葉でああいったものの、本当は言ってほしくなかったとも思っていた。
 少ししょんぼりしているシャーロットに、ティセラは暖かく声を掛けるのであった。
 そんな頃、セイニィは携帯にあった待ち合わせ場所となる食堂の入口に向かっていた。
 到着して辺りを見回してみると、そこに葦原の制服を着た男子生徒が立っている。
 どう見ても周りから浮いているその生徒を見て、若干呆れながら近づく。
 一方の彼も、そんなセイニィの気配に気づき手を振っていた。
「おいっす、セイニィ」
「何がおいっす、よ? 何であなたがここにいるのよ牙竜」
「何でって、葦原には空今日への留学プログラムがあるんだ。 今日はその視察も兼ねての見学ってわけだ」
 軽い感じでセイニィに声を掛ける武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)
 そんな彼の態度にセイニィは呆れながら、何故ここにいるのかと尋ねる。
 葦原の生徒が留学してくるというプログラムは実際に存在しているので、彼の言っていることは嘘ではないとすぐに悟る。
 だがそれ以上にセイニィは内心焦っていた。
 以前、この二人は空京の保健室で会って以来なのだ。
 その時、何だかものすごい気まずい空気になったのを思い出したのか、セイニィの肩に余計な力がこもり始めた。
「今日は先日のお礼をしたと思ってな。 空京で評判の喫茶店を見つけたんだ。 君と、行きたいと思ってね」
「ーー!! な、何でそんなこっぱずかしいことをあなたはそうやって……」
「ちゃんとしたお礼がしたいんだ、駄目かな?」
「……」
 駄目じゃない、と思わず本音を漏らしそうになるが敢えてそこは隠しきった。
 何にも反応しないセイニィを見て、牙竜は拒否されていないと悟る。
 そのまま彼女をしっかりとエスコートするように案内し始めた。
 二人の距離はまだまだ、長い道のりで構成されているようである。