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リアクション
友人以上恋人未満の男女の模様図は青春を謳歌している証拠を見せ付けられる。
だがそれはすでに互いの思いが通じあった者たちにも言えることだ。
そこは蒼空学園校長室、現校長であり生徒会長も務めている山葉 涼司(やまは・りょうじ)が山ほどある仕事を区切りのいいところまで片付けた。
朝から続けていたのか、少し疲れを見せ始めていた。
時刻を見ればすでに昼休みは始まっている、お腹からは最悪の交響曲が流れている。
何を食べようか、そう考えているとノック音が響き渡る。
豪華な机、その前にある牛皮張りのソファー、所々にある高価な棚に、地面にはシルクで出来た絨毯が敷かれていた。
それだけのものがあっても音が反響するのは、やはり広さがあるからだろう。
どうぞと、許可の言葉を上げると慎ましやかに扉が少し開かれる。
そこから恥ずかしそうに顔を出したのは、火村 加夜(ひむら・かや)だった。
「えっと、涼司くんお疲れ様」
「加夜、時間通りだな。 入ってもいいぞ」
「はい、失礼します。 校長先生」
涼司は加夜を室内に招き入れる。
立ちあがってソファに座り、向き合うように涼司と加夜は座った。
加夜の手の中には大小二つの弁当箱が収まっている。
「はい、こっちが涼司くんの。 リクエストに答えて、栄養もしっかり取れる食事にしているよ」
「ありがとう。 おぁ、旨そうだな。 じゃあ、頂きます!!」
召し上がれ、加夜の一言の後に涼司はその口におにぎり、おかずと順々に頬張っていく。
校長業務で疲れていたのか、多めに作っていた弁当箱の中身をドンドンその胃袋の中に収めていく涼司。
味には問題ないんだなぁと思いながら、恋人が自分の食事を美味しそうに食べているのを嬉しそうに見ながら加夜も箸を進めるのであった。
途中、飲み物が欲しそうな雰囲気になれば催促される前に、持っていた水筒でお茶を渡し、言葉を受ける前に涼司の求める行動を加夜は取る。
自分にはもったいない恋人だと涼司は考えるが、無論手放す気もさらさらなかった。
「あ、涼司くん。 ほっぺにご飯粒が」
「ん? えっと……」
「動かないで。 はい、取れたよ」
「ありがとう、加夜。 お礼に卵焼きを食べさせてやろう!」
二人の世界が出来あがっているようで、恋人らしい行動を余すことなく二人は起こしている。
お口にアーン、を涼司から先に、その後加夜もお返しにと野菜の肉まきを口に運んでいた。
デザートの苺までしっかりと二人で食べさせあい、あっという間に食べ終わるのであった。
「あ〜、満腹。 少し眠くなってきたな……」
「そっか……。 良かったら、膝枕してあげようか?」
「その言葉、待ってました!」
食べ終わり、眠そうにしている涼司に加夜は恋人ならではの食後のサービスを提供する。
内心期待していたのか、涼司は加夜の隣に座ると膝元に自分の頭を置いた。
そのまま、ソファに体を横にして万全の準備が整った。
すると、疲れていたのか5分としないうちに涼司の意識は夢の中に呑まれる。
チャイムが鳴るまでの時間、加夜は涼司の無防備な寝顔をじっと眺めながらお昼休みを過ごすのであった。
「大丈夫、今日はちゃんと成功したから。 はい、食べさせてあげる」
「あ、あぁっ……」
蒼空学園食堂、ここでも一組の男女ペアが仲良く昼食を取っていた。
樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が一緒にご飯を食べている。
周りにいる一人身男子からすれば刀真は妬みの対象だ。
しかし、美少女に食べさせてもらうという状況なのに何故か刀真は気の進まぬ顔をしている。
しぶしぶと言ったように、月夜の手料理を口に含んだ。
感想を求めている月夜はどうかどうかと、期待に胸が膨らんでいる。
刀真に至っては、口の中で十分に味わっている料理に苦笑を浮かべながら答えた。
「……、正直に言う。 不味い」
「え? そんな、今日のは……」
「単純に味付けが濃すぎる。 全く食べられないってわけではないけど、食べきるというのは無理だ」
「そっか……。 やっぱり最後の方で手を抜いたのがまずかったのか」
さらりと爆弾発言する月夜に、思わず溜め息を漏らしてしまう刀真。
このままでは昼食抜きになってしまうので、購買で何か買ってこようと席を立った時だ。
食堂の入口に、この時間なら家にいるはずのもう一人のパートナーが彼らに近づいていた。
「玉藻? どうした、何か用か?」
「うぬ。 月夜の作った残り物を食したのじゃが、さすがにあれでは刀真が食えぬと思っての。 久々に包丁を手に取ってみた」
「玉ちゃんが料理? 珍しいこともあるんだね」
妖艶な美女の姿をして、背には狐の尻尾を携えた玉藻 前(たまもの・まえ)が重箱片手に現れた。
どうやら自宅にあった月夜の残り物を食べて、仕方なしと言わんばかりに料理をしたようである。
刀真を席に座らせて、持って来た重箱の中身を二人に見せるとそこには見事な和食料理が並んでいた。
ふっくらとした卵焼き、香り豊かな銀鮭、程良く味が染み込んだ肉じゃが、見ているだけで食欲をそそる唐揚げ、炊き加減ばっちりの白飯など、まさに完璧だった。
思わず感嘆の声を上げる二人をしり目に、玉藻は卵焼きを刀真の口元に運ぶ。
自然と開いた刀真の口に卵焼きが投入されると、卵と程良い砂糖の甘みが絶妙な調和を奏でる。
「……旨い。 というより、俺より断然旨い」
「そうか、やはりそういう言葉はうれしいの」
「玉ちゃん玉ちゃん、私も!」
「ふむ、月夜もか。 ほれ」
「あーん……。 本当だ、凄く美味しい」
玉藻の料理に感服する刀真と月夜。
よほど美味しかったのか、二人はどんどん玉藻の料理を食べていき、気付けばあっという間になくなっていた。
「旨かった、ごちそうさま。 これなら俺が作らなくてもいいんじゃないのか?」
「さて、我は帰るぞ。 今日の夕飯、楽しみにしているからの」
「……作る気ないんだな」
「当たり前じゃ。 これからも我らのために精進したまえ」
「分かったよ、これからも頑張って作るよ」
「……玉ちゃんだけじゃなく、私にもちゃんと作ってね?」
刀真はこれから玉藻が料理してくれるのかと期待したが、すぐさま杞憂に終わってしまった。
今回は気がたまたま回っただけで、基本的に刀真任せのようで、玉藻は夕飯を待っていると告げて自宅へと戻っていく。
月夜も、どうやら刀真の炊事には賛成のようで期待を込めた返事を返していた。
何だかんだで、仲良くお食事タイムを終えた刀真と月夜であった。
「あ、私のこのお弁当。 残すのももったいないから食べちゃってね」
「食後のデザートにしては重すぎるぞ」
「おにーちゃん。 よくこんな場所見つけられたね」
「ふふん、まぁな。 ここならゆっくりと食事ができるし、最高だろう」
蒼空学園の中庭、とある木の木陰が空いていたのでそこに陣を取った男女。
七尾 正光(ななお・まさみつ)とアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)のカップルだ。
少し早めに場所探しをしていたので、最高を場所を取れたようで二人ともそれなりにご満悦である。
そよそよと流れる春風に髪を靡かせながら、昼食を取り始めた。
「今日もおにーちゃんのために美味しいお弁当作ってきたよ。 はい」
「ありがとうアリア。 それじゃあさっそく……」
いただきます、その言葉と同時に一緒にふたを開けてほぼ同タイミングで食事を開始した。
時折七尾とアリアは互いの弁当の具材を食べさせ合いを繰り返して、仲良く食事タイムを過ごしている。
そんな空気が辺りにも十分すぎるくらい伝わっているのか、時折通る生徒たちからは笑みがこぼれていた。
中には妬み混じりの視線を送るものもいたが、彼らには届かない。
すでに七尾たちの空間は別次元へと形成を果たしていたからだ。
そんな時間が20分程度流れると、二人は食事を終えてここでも同時にごちそうさまと唱和する。
「おいしかった。 また作ってもらえたら嬉しいな」
「もちろん。 今度は今日以上に美味しいご飯を作ってきてあげるよ!」
七尾の催促にアリアは満面の笑みで答える。
そんなアリアの言葉に優しい笑みを浮かべながら、七尾は彼女の頭をそっと撫でた。
今日もこの二人の時間は周りとは違う速度で流れるのであった。
「いただきます」
食堂では、一人の女子生徒が食事をしていた。
千鶴 秋澪(ちづる・あきれい)は本日重箱4段の弁当箱を持参していた。
しかしその隣には食堂の定食も山盛りである。
弁当だけでは満足できず、食堂のご飯も食べたいからということで両方食べるのだ。
傍から見れば絶対に食べられないだろうと周りは思っていた。
しかし、彼女は黙々と食べ続けて先に重箱の中身を平らげる。
その後、定食のご飯をものともせずにその胃袋の中に運び続ける。
10分と経たないうちに、全て平らげてしまった。
口元を拭いて、周りの生徒たちがあぜんとするのもお構いなしに言う。
「ごちそうさまでした」
閃崎 静麻(せんざき・しずま)は空京大学に在籍している学生である。
そのため蒼空学園にはあまり寄らないのだが、本日は私用のため近くにいた。
時間も時間ということなので、蒼空学園の食堂で昼食を取ることにしたのだ。
しかし一人で食事をしても味気ない、そういうわけでとある女性を誘うことにしたのが事の発端である。
「一つ聞く。 どうして君に私の恋愛事情を話さなければならない?」
「単純な興味本位だ。 フリューネほどの美人、周りがほっとくわけないのに立つ話がないのが気になってな」
「なら気にしなくて結構だ」
「なぁ、試しに俺と付き合ってみるか?」
「……だから、何故そういう話になる?」
静馬は目の前にいるフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)に恋愛話を振っていた。
フリューネもたまたまカナンからの帰りに蒼空学園の食堂によっているのを静馬が見つけた。
せっかくなので一緒に食事をしようと誘い、今に至る。
初めはたわいない話をしていたのだが、静麻は不意打ちと言わんばかりに話題を彼女の恋愛事情を尋ねたのだ。
もちろんいきなりだったために、フリューネは咽もしたが今は落ち着きを取り戻している。
いきなりの話題展開に徐々に彼女の顔色も暗くなっていくのに静麻は気づく。
これ以上はまずい、そう直感が判断した。
「すまない、確かにいきなりすぎたな。 お詫びにこれは俺のおごりだ」
「えっ、いや。 何もそこまで……」
「誠意って奴だ。 さて、帰りますかな」
「……ちょっと」
「何だ?」
「付き合えって話、あれって……」
「ご想像に任せるさ」
静麻の突然すぎる発言の真意をフリューネは訪ねる。
彼女の質問に、静麻は同じく答えを濁すことではぐらかした。
先に食べ終わった静麻は定食のトレーを持ってフリューネから離れる。
他人のペースにすっかり呑まれたフリューネはこの後、1日モヤモヤとした気分に苛まれることになるとは、静麻は知る由もなかった。
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