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昼食黙示録

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昼食黙示録

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 ゲームの内容としてはこうだ。
 今回の新入隊員である朝霧 垂(あさぎり・しづり)夜守 ユキ(よかみ ゆき)の二人の食わず嫌いを当てるというものだ。
 それぞれの嫌いなものを混ぜた料理、全22品目の中からそれぞれ嫌いだと思うものに票を入れていく。
 得票数の多い順から食していき、どちらかが当たるまで食べ続ける。
 負けた方には罰ゲーム、また全員が二人の嫌いな食べ物を当てられなかった場合についてはメンバー全員が罰ゲームとなる。
 内容は一週間語尾にニャーとつけて話す事。
 罰ゲームの内容を聞いてレーゼマンは一人青い顔をするが、それ以外は面白そうなゲームにやる気を出している。
 するとそこへ、買い出しに出ていたイヴェイン・ウリエンス(いべいん・うりえんす)が戻ってきた。
「ふぅ、よいしょっと。 どうやらゲームには間に合ったようですね」
「遅かったわね、戻ってくるの」
「いえ、予想以上に使いましたからね。 これでもう大丈夫でしょう」
 どうやら歓迎会の備品が足りなくなったので買いに行っていたようだ。
 そんなイヴェインもようやく腰を落ち着けて、食わず嫌いの品を紙に書く。
 その横で食わず嫌いそっちの気でお菓子を食べまくるドラゴニュートカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)がいた。
「何が食わず嫌いだ、皆構わず食っちまえば問題ねぇだろ」
「そういう貴公にだって好き嫌いくらいあるのでは?」
「好き嫌い? んなもんねぇよ」
「あの、それは……?」
「蜥蜴の姿焼だ、旨いぞ?」
「……共食い」
 どうやら好き嫌いというのがないカルキノスからすれば面白くもなんともないようだ。
 そんなイヴェインはカルキノスが口にして食べている、蜥蜴の姿焼を見てぽつりと言葉を漏らす。
 聞き逃さなかったカルキノスはイヴェンに鋭い視線を向けた。
 イヴェインが傍にあったクラッカーを口へと運ぶ。
 その一瞬の隙だった。
 瞬間的にカルキノスは常人ならまず追えない早さでイヴェインの口の中に何かを入れる。
 クラッカーを噛み砕く瞬間と同じだった。
 歯ごたえとクラッカーが割れる音が奏でるが、イヴェインは口の中に何故か苦味があることに気づく。
 それはクラッカーの硬さではなく、時折何故か柔らかい部分もあった。
 何事かと思っていると、口から黒い何かがはみ出していることに気づいた。
 その時は分からなかった、だが確実に数十秒前に目にしている。
 イヴェインの顔色が急速に悪くなった。
「ぐわぁぁっ!? 何故私は蜥蜴なんて口に!!」
「どうだ、旨いだろう? こんなに旨いものは中々ないぞ」
「貴様!! この私に対していい度胸だ! 尋常に勝負!!」
 犯人の目星など簡単に付いた、激怒したイヴェインは剣を抜いてカルキノスに斬りかかる。
 いきなりすぎる凶行に周りは慌ててイヴェインを取り押さえる。
 カルキノスはそんな行動を面白そうに見ているので、罪悪感さえ感じていないようだ。
 騒ぎの中夏侯 淵(かこう・えん)は全くと言って興味なさそうに食わず嫌いの品を考えていく。
「うるさいの、静かに考えることは出来んのか」
 一言ポツリつぶやくもすぐさま意識は目の前の紙に集中していた。
 そんな騒ぎをもう一人、レオンハルトが楽しそうに見ていた。

「お、おっほん。 先程は失礼しました。 それでは全員の投票が終わり、集計も完了したので早速始めたいと思います」
「それじゃあ、垂には『酢豚』、ユキくんには『ホビロン』を食べてもらうわよ!」
 ようやくひとしきり落ち着いたのか、顔を真っ赤にしながらもルーと共に司会進行をするイヴェインの姿があった。
 全員が見守る中、垂とユキの二人は真剣な眼差しで睨みあっていた。
 傍には料理、どちらかは嫌いなものに当たっていることもある。
 負ければ罰ゲーム、負けられない勝負はすでに始まりを告げていた。
「言っておくけど、負けないからな!」
「不本意ではありますが、やるからには勝たせていただきます」
 向き合って、それぞれが口に料理を運ぶ。
 緊張の一瞬だった、これがあと数回続くとなるときついなとそれぞれが思う。
 一口、含んだものを飲みこんで判定をする。
「……、嫌いではありません」
「はい、ユキくんは外れでした!」
「さて一方の垂は?」
「……ダイコウブツデス」
「……?」
「あの、脂汗が出ていますが?」
「カゼギミナンデス」
「体がプルプル震えているよ?」
「ネツガアルンデス」
「……白状したらどうだ?」
「……参りました!!」
 キョトン、まさしく場にはそんな音が流れた。
 酢豚を口にした垂は明らかに体に拒絶反応を起こして、もう限界点を超えていた。
 レオンハルトの一言に土下座交じりの告白をする。
 呆気なさすぎる、そのあまりにも早すぎる決着に皆がこう思う。
 『やばい、真剣に考えすぎた……』と後悔することになってしまった。
 水をがぶ飲みして酢豚の味を何とか消そうとしている垂にルーが話しかける。
「とりあえず、嫌いな理由は?」
「八角っていう香草が駄目なんだ。 本当は口にしたことなんてなかったんだけど、やっぱり無理だ……」
 理由は良いのだが、早すぎる展開になんだか全員空しくなってしまう。
 特に一生懸命料理した花嫁たちの落胆は果てしなく重かった。
「ま、まぁ仕方がない。 負けは負けだ。 というわけで……」
 立ち上がる垂は来ている服を何故か脱ぎ捨てるように空に放り投げる。
 現れたのは、黒豹の耳としっぽを頭に付けたメイドが立っていた。
「これからも、よろしく頼みますにゃん!」
 可愛くポーズを取る姿に満更でもなかったようだ。
 そんな垂の行動に気まずい空気になっていた場が盛り上がりを取り戻していく。
 ユキもそんな垂の行動に思わず笑って見ている。
 何だか予想していた展開とは違っていたが、レオンハルトも楽しそうにしていた。
 改めて、ここ鋼鉄の獅子に新入隊員歓迎の声が高くなるのであった。