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リアクション
第1章(2)
イストリアを出た勇者達は次の街を目指していた。その途中にモンスターが襲ってくる事が何度かあったが、篁 大樹達はそれを簡単に倒している。
「最初だからか弱い敵ばっかだな」
「ここは魔王のいる塔からは一番遠いですから」
「なるほど、どんどん強くなってくって事か」
和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)の説明に納得して先を進むと、隣の街へと続く道を塞ぐように立っている者達がいた。一人は人間の姿だが、残りの二人は魔物のような容貌をしている。
「来ましたね。あれが勇者達ですか?」
「あぁ、勇者とは名ばかりの蛮族――いや、我らの安住を脅かす破壊者だ!」
「どっちでもいいさ、あたしを楽しませてくれるならね。行くよ姫星!」
三人の雰囲気に、勇者達は武器を構える。どうやらこちらを歓迎してくれる相手では無いらしい。
「勇者ども、ここから先には行かせん!」
天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が勇者達に向かって言い放つ。もっとも、彼の立ち位置は三人の中で一番後ろなのだが。
「こいつは……ボス戦ってやつか」
気を引き締める大樹。それに応えるように残りの二人、次百 姫星(つぐもも・きらら)と鬼道 真姫(きどう・まき)が名乗りを上げる。
「我が名は蒼魔のキララ。イストリア一帯の魔物を統べる者です」
「あたしは赤鬼のマキ。最近は軟弱なのが多くて退屈してた所でね……あんた達は、楽しませてくれるんだろうな?」
姫星が大鎌を振り、真姫が両手を鉄甲を打ちつけて攻撃の意思を見せた。それを見て桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と織田 信長(おだ・のぶなが)が前に出る。
「魔王軍か……ここは俺達が相手しよう」
「うむ。手出しは無用、私達に任せておけ」
忍は光条兵器の大剣を、そして信長は刀と銃という変則的な二刀スタイルで応じようとしていた。両者の間に緊張が高まる。
「さぁ行けお前達! 勇者どもを打ち倒すのだ!」
――そしてヒロユキは、何もせずにただ姫星達をけし掛けるだけだった。
「ふふっ、貴方達の冒険はここまでです! 私の出世の為に死んで下さい!!」
最初に仕掛けたのは姫星だった。大鎌を手に忍へと斬りかかって行く。
「おっと、そうは行かないな」
対する忍はそれを回避し、時には光条兵器で捌く。その動きは流れるようで、多くの経験を積んでいるであろう事が伺えた。
「やりますね! 私の攻撃をこうも読むなんて」
「そっちの武器が鎌で助かったよ」
「? どういう意味ですか?」
「こっちの話さ。じゃあ……次はこっちから行くぞ!」
「きゃっ!?」
反撃とばかりに忍が大剣を振るう。光条兵器である事を利用した素早い一撃は、姫星の身体を僅かに斬り付けた。
「手応え! ……は、無いな」
「あたたた……残念ですけど、魔物だから光が弱点だと思ったら大間違いですよ」
姫星は強力な精神力で魔法攻撃への耐性を若干ながら得ていた。それは光輝とて例外では無く、物理では無い光条兵器に対しても十分な効果を発揮していた。
「でも、こんな攻撃もしちゃいますけどね!」
さらにお返しと姫星が火を吹いた。放たれた火術により、忍は回避を余儀なくされる。
「おっと! 俺も火には多少の耐性があるけど、直撃は避けたいな。さてどうするか……」
一方、信長達の戦いでは真姫が先手を取っていた。防御よりも攻撃を重視する戦い方で一気に近寄り、信長の銃を使わせないようにする。
「あたしの連撃、喰らいな!」
「くっ、この力、予想以上じゃ」
「当然さ! あたしはイストリア最強の鬼なんだ。特に力はね!」
言いながら真姫が大きく振りかぶる。その腕には炎が宿り始めていた。
「行くよ……爆炎波ガゼルパンチ!!」
「く……くぅっ!」
刀で受け止めようとした信長が身体ごと飛ばされる。
「信長!」
「案ずるな忍! これしきでやられはせん!」
自己治癒の効果もあり、すぐに立ち上がる信長。その目は真姫を真っ直ぐに捉えている。
(さすがに全ての力を封じたままでは辛いか。あまりこの力を見せたくは無いが……)
「よく受け止めたね。でも効いただろ? もう一発……行くよ!」
再び真姫が走り出す。先ほどと同じ炎の一撃を与えるつもりだ。
「やらせぬ!」
「なっ、炎が!?」
その突撃は信長のヘルファイアによって止められた。とっさに回避するものの、勢いをそがれてしまう。
「炎の使い手としての力、見せてくれよう。これが――」
「でもこの程度、あたしの拳は止められないよ!」
真姫の爆炎波ガゼルパンチは強力な一撃ではあるが、隙が大きいという弱点を持っていた。信長はそれを逃さず、さらに大きな炎を刀に纏わせ振りかぶる。
「これが――真(まこと)の炎じゃ!!」
「あたしの炎が、負け……くあぁっ!?」
若干ながら早く、そして力強い炎が真姫の身体を大きく吹き飛ばした。真姫はそのまま草むらの上に大の字に倒れる。
「あぁっ、マキ!」
仲間がやられた事に動揺する姫星。思わず火術の牽制が緩んでしまった所を、忍がバーストダッシュで一気に距離を詰めた。
「あ、しまっ――」
「これで決める! はぁっ!」
忍の疾風突きが大鎌を弾き飛ばす。炎があるとは言え、大剣を突きつけられた状態では最早抵抗する事も難しかった。
もっとも、それは一対一での話。戦闘に加わっていない人数では勇者達の方が多いが、魔王軍にもヒロユキという存在が――
「お、おのれ勇者ども……この地も破壊者の手に落ちるとは! 覚えているがいいっ!」
――既に遥か彼方まで逃げ去っていた。
「ううっ、どうせ私なんてイストリアに左遷された弱い魔物ですよ……」
戦闘終了後、姫星は膝を抱えて地面にのの字を書き続けていた。その姿は哀愁が漂い、魔王軍の威厳なんてどこにも感じられない。
「しかも勇者を倒して魔物ランキングうなぎ上りだと思ったら負けちゃいましたし……はぁ、左遷の次はきっと降格なんでしょうね〜。あはは〜」
「何だろうな、この見てる方がいたたまれなくなる光景……」
思わずボヤく大樹。その近くにいる真姫は姫星とは対照的にさっぱりとした表情だ。
「あはははは。あんた達、強いね。気に入ったよ」
「こっちはこっちでやけに友好的だし」
「あたしは強い相手と戦いたいだけだからね……そうだ! せっかくだからあんた達の旅に連れて行っておくれよ。その方が強い相手と戦えそうだ」
「えぇっ!?」
いきなりの展開に驚く大樹だが、真姫は何かを企んでいる様子は無く、ただ純粋にそう思っているように見えた。さらに姫星もこのまま魔王軍の下っ端でいるよりは良いと思ったのか、のの字を書いていた体勢のままこちらへと視線を向けている。
――次百 姫星が仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?――
・はい
・YES
・もちろん
「拒否権が無ぇ!?」
結局姫星と真姫の二人が仲間に加わり、勇者達のパーティーは八人へと増えたのだった――
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