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【空京万博】海の家ライフ

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【空京万博】海の家ライフ
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 セルシウスの代打を引き受けたクマラとハインリヒの、『ただラーメンを完食する』という一見シンプルに見えてハードなレースは、今や我慢比べに近い勝負となっていた。
「どう?」
 亜衣の問い掛けに、器と口が麺で繋がった状態のハインリヒとクマラが軽く痙攣したまま、一気に麺をすすり上げる。
「はぁはぁ……なかなかやるな、クマラ?」
「オ……オイラ、ジャンクフードマニアだけど、よ、世の中には、こんなモノがあるんだな……て知らなかった……な」
 先ほどまで旺盛だった食欲が明らかに減衰しているクマラがハインリヒに無理な笑顔で応える。
 二人の表情は、『海でラーメンを食べてる』よりも『余命幾ばくもない患者が病院食を口にしてる』に近い。
「……もうそろそろ止めた方がいいんじゃない? 彼ら、どう見ても限界よ?」
 戦況を見守っていたルカルカがセルシウスに呟く。
「そうだな……この海の家で食中毒患者等を出すとマズいしな……」
 その声を聞いた亜衣がセルシウスを指さし宣言する。
「甘いわね!! 絶対食中毒なんて起きない様に、昨日の夜から仕込んだ食材でしか作ってないのよ!! ラーメンにしたら、新鮮そのものよ!!」
 亜衣をチラリと見たクマラが「料理の神様に謝れ……」と、か細い声を出す。
「信じられないかもしれないけど、地球の海の家のお客さんは、いかにして不味いラーメンを美味しそうなフリをしながら食べるか? その技術を競い合うの。つまり、海の家で、ラーメンを『不味い』と言う事は、自分は由緒ある文化を理解しない無粋な人間だと認めるに等しい野蛮な行為なのよ!!」
「ぬぅ!? そ、そうであったか。所謂、裏文化というものか!!」
 すっかり誤解して、考えこむセルシウス。
 既に限界を超えつつあるハインリヒは、気合を入れて残りのラーメンにラストスパートをかける。
「うおおおぉぉぉーーーッ!! 箸が止まらねぇZEEEEEEEE!!! くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!」
 既に人知を超えた言葉を発する隣のハインリヒに、クマラがプレッシャーを感じる。
「(くッ……オイラ、エースに誓ったんだ!! 頼んだ料理は完食するって!! 見ててくれ、エース!! オイラ、負けないよぉぉ!!)」
 余談であるが、エースはこの時、沙幸とノーンと一緒に楽しく歓談しつつ頼んだメニューが来るのを待っていた。
 割り箸を投げ捨て、震える手で器を持ったクマラが一気にスープごと煽る。
「と……と、止まらないーーーッ!!」
 既に「何事か?」と集まり出したギャラリーを意識してか、亜衣がエアマイクの要領で二人の勝負を実況する。
「ハインリヒ、クマラ選手共に凄いデッドヒート!!! ハインリヒ選手は麺と具を片付けてからスープで一気に流しこむつもりでしょうかぁぁ!!」
「「うおおおおぉぉぉぉーーーッ!!!」」
 同時に器を空にした二人が、ドンッと勢い良くテーブルにそれを置く。

 海の家に静寂が流れる。
 見守る店員や観衆は二人の口から、どちらが早く、あの言葉を言うのか、それを固唾を呑んで見つめている。
「こ……ゲプッ」
 ハインリヒが何か言おうとするが、ゲップがそれを遮る。
「こんな、う……ウマ……」
 一歩リードしたかの思えたクマラであるが、彼の中の最後の理性が発音を邪魔する。
 悶え苦しむ二人に、幸せそうな声が響く。
 エースにソフトクリームを奢って貰った幸せな少女の声である。
「わぁ、わたし、こんな美味しいの食べたことないよぉー!! エース、ありがとう!」
 嬉しそうにソフトクリームを食べるノーンを見ながら、ハインリヒとクマラが同時にテーブルの上に突っ伏すのであった。