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【空京万博】海の家ライフ

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【空京万博】海の家ライフ
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リアクション

 ドラゴ・ハーティオンと雅羅ロボVS巨大クラゲの戦いもクライマックスを迎えていた。
「勇心剣!」
 ハーティオンが胸のクリスタルから剣を取り出す。
「流星一文字斬りィィーーッ!!!」
 見事に真っ二つにされる巨大クラゲ。
 マイクを手に実況していたラブも、ここぞとばかり絶叫する。
「決まったああぁぁぁぁ!! ハーティオンの一撃ィィーーッ!!」
「「「うおおおぉぉぉーーー!!!」」」

 見守っていた観客から、拍手と歓声が巻き起こる。
 剣を収めたハーティオンがクルリと振り返る。
「この海の安全はこの私、蒼空戦士ハーティオンがこれからも守ってみせる!!」
 決め台詞もバッチリであり、これで終わるハズであった。
 ハーティオンの見せ場を影から支えた雅羅ロボのクルー二人も、手を叩いて健闘を称えあった……。だが、そこに厄災が振りかかる。
 観客の要望が高かった写真撮影に応じようとしたハーティオンの足に何かが絡みつく。
「む……? 足に何か絡み付いて…? こ、これは巨大なクラゲ!? まだ、いたのか!?」
「ハーティオン!?」
 雅羅と夢悠が助けに向かおうとするも、こちらの足にも別の触手が巻き付く。
「ちょ……!? 嘘でしょう!?」
「クラゲ、大量発生し過ぎ!!」
 動けぬ雅羅ロボとハーティオンがジリジリと海へ引きずられていく。
「夢悠! もっとパワーは出ないの!?」
 操縦桿を目一杯引きつつ、雅羅が叫ぶ。
「無理だよ!! こっちだって限界なんだ!!」
「ぬわー!! し、沈む!?」
 勝利の余韻も何のその。再び、ラブがマイクを握る。
「みんな、ハーティオンがピンチよ!! みんなでハーティオンを応援するのよ!!」
「違いますね」
「え?」
 ラブの傍に白いポニーテールの少女が近づく。
「呼ぶのはモフラ。これ一択です」
「モフ……ラ?」
「そうです。人の助けを呼ぶ声を聞けば、必ず彼はやってきます。……心優しき、子どもたちの守護者。彼は、パラミタ怪虫モフラ!!」
 声の主は赤羽 美央(あかばね・みお)であった。
 美央は大きく息を吸うと「モフラ〜ヤ〜モフラ〜♪」と、普段何故無口なのかを疑いたくなるような美しい声で歌い上げる。
 歌声に、大空から巨大な蛾が飛来する。
「おおーーっと、あれは何でしょうか!! いえ、あれがモフラなのです!!」
 観衆と一緒にラブが上空を見上げて叫ぶ。
 そこには鳴き声をあげつつ、空を旋回するパラミタ怪虫モフラがいた。
「でも……あまり好戦的な様子は見えませんが、美央さん?」
 ラブがマイクを美央に向ける。
「ええ、モフラはまず鳴いて、敵となる怪獣との対話を試みているのでしょう。でも、相手は興奮状態……厳しいでしょうね」
 美央の解説通り、モフラに向かって届かぬ触手で威嚇する巨大クラゲ達。
 モフラの鳴き声が聞こえたためか、今や凄い数が集まりつつある。
「状況は、悪化しているように見えますが……美央さん?」
「仕方ありませんね……なるべく温和に進めたかったのですが、いきましょう、モフラ! 心強い仲間達と共に!!」
 美央の呼びかけに応えるように、急降下したモフラが羽ばたきながら光る粉をクラゲ達に落とす。
「あ、あれは!?」
鱗粉攻撃です。対象を麻痺させる効果があります」
 確かに、クラゲ達の動きが一段と鈍くなる。
「な、何だ!? オレの雅羅ロボが……!?」
「ぬわーー!! か、体が急にお、重く……」
 ラブが苦しむ雅羅ロボやハーティオンを見て、
「味方もダメージを受けていますね?」
「大事の前の小事です……モフラ、モフラウィップで取り急ぎ、そこのイコン達を助けなさい!」
 モフラが触覚を鞭のように使い、雅羅ロボとハーティオンを拘束していた触手を鎌で切り裂くように断ち切っていく。
 観客から歓声が上がり、モフラを指揮する美央のテンションもやや上向きになる。
「間髪入れずにアイスパルサー!!」
 モフラの触覚と触覚の間から、ビームが放出される。
 どうやら冷気を含んでいるビームのようで、クラゲ達の触手がフローズン状態になる。
「凄い!! 強いぞ、モフラーー!!」
 興奮したラブが叫ぶ傍で、美央が「あッ!」と悲鳴をあげる。
 クラゲ達に接近しすぎたモフラが、触手に捕まったのだ。
 羽ばたいて逃れようとするモフラだが、フローズン状態から回復しつつある他のクラゲ達の触手も伸びてくる。
「モフラは海に入ると、ヤバいんじゃ……?」
 ラブがマイクを美央に向ける。
「ええ……でも、モフラには歌があります!!」
 そう叫んだ美央が、瞼を閉じ、再び歌声を響かせる。
「モフラ〜ヤ〜モフラ〜♪」
 その歌は、リタイアしかかっていたハーティオンにも活力を与える。
「私は、負けるわけにはいかない!! 必ずやこの巨大クラゲを倒し、万博記念海水浴場に平和を届けるのだ! それこそ我が使命! 宿命! 運命にして天命!! ゆくぞ、巨大クラゲよ!」
 立ち上がったハーティオンが、剣で触手を断ち切り、モフラを救助する。
「ん? モフラ? 私に……何だと!?」
 心と心で何か繋がったらしいモフラとハーティオン。お互い頷き合う。
「そうか……では、行くぞ!! モフラ、いや、百郎!!」
 水しぶきをあげて、ハーティオンが跳躍する。
 ハーティオンの背中にモフラが合体する。

「「天空合体! 大蒼空勇者! モフラ・ハーティオン!!!」」

「な、何だぁぁ!? み、美央さん、あ、アレは……!?」
「私も驚いています。機械と生命。無機と有機が合体したのですね……」
 見上げる美央の瞳がやや潤んでいるのをラブは見逃さなかった。
 モフラの触覚を両肩から突き出し、その巨大な羽で静かに天から降りてくるハーティオン。
「クラゲ達よ……モフラと合体した今、お前たちの悲しみと怒りの原因が私にもわかった。……だからこそ言おう! 退け!! 私は平和を届ける者として、お前たちを傷つけたくはない!!」
 クラゲに語りかけるハーティオン。その言葉には哀愁すら漂う。
 しかし、ハーティオンの呼びかけに応じず、クラゲ達が一斉に触手で攻撃を仕掛ける。
「やむを得ん……」
 迫り来る幾多の触手にハーティオンが剣を構え、なぎ払う。
 閃光とともに、迫ってきた触手が全て切り落とされる。
「す……すごい」
「当たり前です。ハーティオンの剣と、モフラの触覚……謂わば三本の剣です」
 モフラ・ハーティオンが背中越しに美央に呼びかける。
「美央。モフラストーム(破岩突)でカタをつける!!」
「わかりました……」
 モフラストームとは、美央がモフラの応援のために「モフラ〜ヤ〜モフラ〜♪」と歌い始めると発動する、モフラが全身全霊の力で加速して、捨て身の覚悟で敵に強烈な体当たりを行う大技である。
 美央が「モフラ〜ヤ〜モフラ〜♪」と歌い始める。その歌は観衆を巻き込んだ大合唱となっていく。
 剣を構えたハーティオンが、跳躍する。

「行くぞ!! 必殺!! モフラ・ハーティオンストーム!!!」

 叫びと同時に、モフラ・ハーティオンを中心に、竜巻が巻き起こる。
 そして、竜巻を纏ったハーティオンが、海に浮かぶ巨大クラゲの大群へ突撃する。
 途端に、大嵐になった様に荒れ狂う海。
 ハーティオンの起こした竜巻は、空に浮かぶ雲まで届く大きさへと変化し、ハーティオンを中心に、海がまるで十戒のように、海底までめくれ上がる!
 巨大クラゲ達がその竜巻に巻き込まれるように、上空へと海ごと打ち上げられ、実況するラブも、観衆も、皆が目を瞑らざるを得ない程の突風が吹き荒れる。
「きゃああぁぁぁーーッ!!」
 やがて、竜巻が収まり、ラブがゆっくりと目を開く。
 そこには、台風一過のような晴れ渡った青空の下、モフラとの合体を解いたハーティオンが一人海に佇んでいた。
「終わったの……?」
「ああ、終わった。彼には感謝しないとな」
 ハーティオンがラブに応える。
「でも……モフラは?」
 美央がポツンと呟く。
「ハーティオン、わかりましたか……? モフラとクラゲの気持ちが?」
「ああ……掃除は大切だが、どちらがゴミか等と考えたことはなかったな……」
「モフラとクラゲの気持ちとは……? あ、マイクが……無い!?」
 突風でいつの間にか無くなっていたラブのマイク。
 それでも、エアマイク状態で美央に問うラブ。
「巨大なモンスターが居る所に海水浴場を作って、あの生物を刺激してしまったのは私達だということです……人が何かをするには、そこにいる生き物を犠牲にする……そんな当たり前のことを、私達は学んだ気がします」
 美央はそれだけをラブに言うと、踵を返して海岸を去る。
「私が失った記憶と心……いや、私はひょっとして戦いの虚しさ故に記憶を自ら封じたのかもしれんな……」
 上空に打ち上げられた海水が雨の様に降ってくる。
 雨に瞳を濡らしたハーティオンが佇む中、竜巻に巻き込まれた雅羅ロボがドゴォォーーン!!と砂浜に着弾するのであった。

 余談であるが、この竜巻により海の海産物や魚も雨のように砂浜に降ったらしい。
 同時に、数名の海水浴客やエリュシオン人も……。