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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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4章「収蔵品防衛戦 その1」
 
 
 洞窟内には広間、部屋とでも呼ぶべき空間が大きく分けて六ヶ所ある。『組織』の協力者である互野 衡吾(たがいの・こうご)はその中の一つを目指していた。
 彼の向かう先は金品や宝石が保管されているエリア。元々自然の中で生活している集落の獣人達はこういった物をあまり必要はしないのだが、それでもまったく不要という訳でも無い。
(盗賊なら一番に狙うだろうし)
 そう思って道中の盗賊達を蹴散らしながら目的地に辿り着くと、既に保管してある物に手を付けている男達の姿があった。
「お前達、盗賊だよな?」
 念の為声をかける。入口にいた白衣の男からは組織の協力者で同じ場所を目指している者はいないと聞いていたが、洞窟内部が思ったよりも入り組んでいたから誰かしら追い抜いた可能性もあるからだ。
 もっとも、今回はその懸念は必要無かったようだが。
「あ? てめぇ……邪魔しようってのか」
「いい度胸じゃねぇか。俺らの盗賊団の名前を知ってるんだろうなぁ?」
 明らかな敵意を見せる男達。どう考えても味方では無い。
「悪い、興味無い」
「……舐めてんじゃねぇぞコラァ!」
 たった一人で乗り込んで来た衡吾のしれっとした態度に怒った男が斧を振り下ろす。その攻撃を回避した衡吾は反対に相手の腕を掴み、アシッドミストを直接お見舞いした。
「ぐ、あだだだだだっ!?」
「くそっ、オラァ!」
「……邪魔」
 さらに迫り来る盗賊相手に、今度は闇術をお見舞いする。カウンター戦法を得意とする衡吾にとって、こうして襲い掛かって来る相手はまだ御し易いと言えた。
「ちっ、全員で相手にするな! とっとと盗る物盗ってズラかるぞ!」
「おう!」
 むしろ厄介なのはこちらに来ない場合だ。出入り口が一か所だけならそこを抑えれば良い話だが、今は崩落の影響で抜け道が出来てしまっている。
「逃げるなら、その箱は置いて行ってもらう……」
 宝石の入った箱を持ち出そうとした盗賊の足を奈落の鉄鎖で止め、さらにワイヤークローで箱を取り返す。相手を捕まえる事には関心の無い衡吾は手ぶらのまま逃げようとする盗賊達は追う事をせずに、金品を持ち出そうとする者のみを狙って動き回った。
 そうしてどれくらい経っただろうか。いつしか盗賊達はすべて逃げ去り、この場所には衡吾だけが立っていた。
(少し逃がしたか……)
 戦いの最中、小さめの袋を持って逃げる男達の姿を視界には捉えていた。とは言えそもそも一人で護りきると言うのが無理な話なので衡吾を責める事は出来ないだろう。
(とりあえずは誰かが回収に来るまで待って……ん?)
 再度盗賊達が現れた時の為に準備を行う衡吾の前に篁 八雲(たかむら・やくも)篁 光奈(たかむら・みつな)が現れた。
「お前達は盗賊じゃ……無いよな?」
「う、うん。違いますけど……」
 二人から話を聞き、衡吾は初めて組織以外に盗賊退治を行っている集団がいる事を知った。しかも集落の住人を擁している向こうの方が立場的には正当と言えそうだ。
「ならここは任せるよ。俺は帰るから」
「いいのですか?」
「盗賊が持って行くんじゃなけりゃいいって言われてるし、俺も物に興味は無いから。それじゃ、後はよろしく」
 光奈にそう言い残して去って行く衡吾。そんな彼を、八雲達は不思議な表情で見送っていた。
 
 
「ん〜、やっぱり盗賊はお金目当てなのかしら。こっちにはまだ来てないみたいね」
 所変わって食料が保存されているエリア。こちらに辿り着いた八王子 裕奈(はちおうじ・ゆうな)が広間の中心に立って周囲を見回していた。今この場にいるのは自分と、パートナーであるバル・ボ・ルダラ(ばるぼ・るだら)だけだ。
「さて、これからどうするのですか? 我としては組織とやらに肩入れするのは好ましく無いと思うのですが」
「そうねぇ。ま、ここまで来たんだし、成り行き上盗賊退治には付き合ってあげるべきじゃない? 食料なんて持って帰ってもあれだからその先までは知らないけど」
 しゃがみこんで何かをしている裕奈が声だけで返事をする。バルとしてもその方針に異論は無いので、これから来るであろう盗賊を待ち受ける準備をする為に動き出した。
「よしっ、これで完成っと。さ、後は武器に毒でも仕込んで待ってよ〜っと」
「……そう言いながら我に鎌を押し付けるのは止めてくれませんか」
「だってバルの体液が一番効くんだもん」
「それもどうかと思うのですが」
 そんなやり取りはともかく、準備を終えて潜伏した所に足音が聞こえてきた。その数は多く、どこか焦っているようにも感じる。
 少しして姿を見せたのは、予想通り盗賊達だった。
「ったく、偉い目にあったぜ……あの野郎に掴まれた所がまだ痛みやがる」
 裕奈達は与り知らぬ事だが、彼らは衡吾との戦いから逃げてきた者達だ。出口を見失ったのか、まだ諦めていないのか。ともかく彼らは目の前の新しいお宝を見て気を取り直したらしかった。
「ほぅ、こっちは貯蔵庫か。金に比べりゃシケたもんだが、せっかくだから頂い――てぇっ!?」
 せっかく取り戻したやる気が再び散っていく。男が踏み出した場所、それは裕奈が仕掛けていた落とし穴セットの真上だった。
(本格的な罠でなくても、合わせ技で十分脅威になるのよ……)
 先ほどまでの陽気な感じから一転、冷静な仕事人モードに変わった裕奈の手から煙幕ファンデーションが放られる。穴に落ちた男を助けようとした盗賊達の周囲を煙幕が包み込み、裕奈とバルによる挟撃を受ける事となった。
「しびれ粉と毒も上乗せするわ……良く効くわよ」
(あの鎌で効くと言われても複雑なのですが)
 大勢を纏めて一気に倒す技は持ち合わせていないので、一人ずつ狙って徐々に数を減らしていく二人。その途中でやけに明るい、と言うよりは能天気な笑いが聞こえてきた。
「はーっはっはっは! 正義の為に颯爽と俺様参じょ――って何だこの煙!?」
 その声に合わせたかのように徐々に煙が晴れて行く。完全に視界が元に戻った時、そこに立っていたのは木崎 光(きさき・こう)だった。
 ちなみに、すぐ目の前には盗賊の姿がある。
「…………」
「……………………」
「……はっ!? て、テメェか! 不意打ちかましやがったのは!」
 誤解したまま攻撃を開始する盗賊。光はそれをかわすと、敵意剥き出しの相手を敵と認識して武器を抜いた。
「おっと! そうか、お前が悪か、悪なんだな? 悪はブッ倒す! ヒャッハー!!」
 洞窟探索と聞いて用意した小ぶりの剣と自身の小柄な体格を活かして巧みに相手の攻撃を回避し、逆にチャンスと見た時には金剛力で一気に打ち倒す。そうして二人ほど蹴散らした時、裕奈達の存在に気が付いた。
「ん? お前達、こいつらとは違うみたいだな」
「あなたも盗賊じゃなさそうね」
「おう! 俺様はこの洞窟を使ってた奴の為にこいつらを倒しに来た正義の味方だ!」
「ふ〜ん……目的は別にして、倒す相手は同じって事ね。ならここは協力しない?」
「俺様は構わないぞ。とにかく悪を倒すだけだ!」
 二方向から三方向へ。さらなる攻撃を受ける事になった盗賊達は次々と敗走し、結局簡単に持ち出せる小さな物をほんの僅か奪ったのみといった有様だった。
「くそっ、覚えてやがれ!」
 最後の盗賊がそんなごく在り来たりな捨て台詞を残して逃げるのを見送り、光は広間のど真ん中で思い切りふんぞり返っていた。 
「はーっはっはっは! 俺様最強!」
 
「まったく……人を置いて好き勝手やってたみたいだね、君は」
 戦いの名残が消えた頃、光のパートナーであるラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)がようやくやって来た。
 
 ――馬を連れて。
 
「遅いぞラデル! さぁ、早く荷物を運び出すんだぞ!」
「はぁ……途中途中で目印を用意していった点は評価するけどね……」
 ラデルの持ってきたロープを使って置いてある食料を纏めて行く二人。そこに戦闘が終わって元の陽気なモードに戻った裕奈が話しかけた。
「凄いわね、ここまで馬を連れてくるなんて」
「あぁ……僕は反対したんだけどね。農耕馬でも無いのにこんな洞窟で荷物引きをやらせるなんて無茶もいい所だよ」
「確かにねぇ。それで、あなたは手伝わないの?」
 忙しなく動き回っている光を指差しながら尋ねる。ラデルは馬をここまで連れて来た以外はただ見ているだけだった。
「僕、決闘なんかを除いてペンより重い物は持たないんで」
 しれっと答えるお貴族なラデルさん。一連の流れに、バルはただぼそりとつぶやくだけだった。
「もうツッコミ入れるの疲れるわ……」
 
 
「よっと、戻ったぜ」
 洞窟の正規の出入り口。クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が検問を張っている所にカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が戻って来た。彼は他の何人かと共に、崩落で出来た新しい出入り口を埋める為に飛び回って来た所だ。
「ご苦労だったな。状況はどうだった?」
「あー、とりあえず見つかった穴は四つだな。そのうち三か所は作戦通り埋めて来たぜ。今頃は嬢ちゃん達が残りの一か所に罠を張ってるはずだ。で? こっちはどうよ?」
「最初の連絡を受けた時点でこちらの検問を強化しておいた。囮としての役割は果たしているはずだ。そうだな? ハンス」
「はい。しばらく前になりますが、洞窟の方を暗視した際に盗賊らしき男が奥へと逃げて行くのが確認出来ました。恐らくはこちらからの脱出が不可能であると判断したと思われます」
「そうかい、そいつぁ結構だ。さて……せっかくこうやって裏方に回ってんだ。嬢ちゃん達にはいい報告を聞かせて欲しいもんだねぇ」
  
「どうじゃ? 緋雨、明日香」
 同じ頃、三か所の入口を埋めて来た天津 麻羅(あまつ・まら)は最後の一か所で張っている水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)神代 明日香(かみしろ・あすか)の所に戻って来た。
「見ての通り落とし穴を仕掛けておいたわ。ついでに中は滑りやすくしてあるから、落ちたらそう簡単には上れないはずよ」
「でも、捕まえようとして暴れられるよりは物だけ返してもらって逃がした方が安全じゃありませんか〜?」
 盗賊の捕縛を主張する緋雨達に対し、明日香は穏便に片を付ける事を提案していた。一応召喚したウェンディゴと自身の氷術で出入り口の補強はしたものの、抵抗した盗賊が内部に悪影響を与える手段をとるかも知れないという危惧の下での判断だ。
「明日香さんの懸念ももっともだとは思いますが、こうして人数を割いている事ですから大丈夫ではないでしょうか」
 麻羅と一緒に入口塞ぎを行って来た櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)が追加の落とし穴キットを設置しながら話に加わった。
「……それに、こちらには最終兵器もありますし」
「ふふふ……その通り、この古代より伝わる兵器『TURUHASHI』があれば不可能な事など何も無いぞ!」
 姫神がちらりと横目で見た先にはゴールドマトックを掲げて燦然と輝く麻羅の姿。既に三か所の入口を塞ぐ際にこの得物を振るっているので性能は折り紙つきだ。その立ち振る舞い、まさに神。
 ちなみに姫神が使用したのは無難に機晶爆弾だ。
「まぁ二人もこう言ってる事だし、出来るだけ捕まえましょ。何か有益な情報が聞けるかもしれないしね。それより気になったんだけど……」
「緋雨さん、どうかしましたかぁ?」
「――この場合、『TSU』じゃなくていいのかしら?」
「問題はそこじゃ無い気がしますぅ……」
 会話自体はゆるいものの、緋雨達三人が大量に掘った落とし穴と明日香が召喚したサンダーバードによる包囲網のお陰で脱出を試みた盗賊達を捕える事が出来た。
 彼らの中の数名が奪った金品を所持していたのだが、それらは戦いの後、明日香達の手によって獣人へと無事に返されるのであった。