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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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第8章「少女の為に」
 
 
「ちっ、何だってんだこいつら。急にやる気無くしやがって」
 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は引き返して行くガーディアンの背中を見て毒づいていた。
 彼は例によってパートナーの松岡 徹雄(まつおか・てつお)が『組織』から依頼を受けた為、暇つぶしがてらにこの洞窟へとやって来ていた。
「つっても雑魚なんざ相手になりゃしねぇ。やっと歯応えのある奴が出て来たって言うのによ」
 理由は分からないが人も物も関係なく暴れていたガーディアンを見つけて、戦いを挑んだ竜造。その防御は堅く、久々に気合いを入れてやり合えると思っていた矢先に突然攻撃を停止し、反転してしまったのだった。
(おやおや、せっかく竜造がやる気を出したっていうのにねぇ。さて、こうなるとまた不満を漏らし始めちゃうかな)
 竜造が相手にしなかった盗賊達を片付けながら徹雄が心の中でため息をつく。幸い救いの手はすぐに現れてくれたが。
「あ、あの……向こうにですね、すごく怖い人の感じがするんですけど……」
「あん? てめぇがそう思うって事ぁ……なるほどな、これから退屈になるかどうかはまだ分からねぇって事か」
 恐る恐る話しかけてきたアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の言葉に笑みを浮かべる竜造。アユナがそう思う相手、それはつまり――強者だ。
 
 
 同じ頃、洞窟内を急ぎ足で進んでいる者達がいた。その中の一人である伏見 明子(ふしみ・めいこ)が先頭を歩く永倉 八重(ながくら・やえ)に声をかける。
「サクラコから連絡があったわ。ガーディアンの動きを盗賊や荷物を盗み出そうとする奴らに絞ったって」
「そうですか。これで一つの懸念は解消されましたね」
「それはいいんだけど……何でそんなに急ぐ訳? 皆と別行動を取ってまで」
 明子や八重は最初、篁 透矢(たかむら・とうや)達盗賊を相手にするグループと行動を共にしていた。だが途中で八重が何かを感じ取り、彼らと別れてひたすら通路を進んでいるのである。ちなみに明子はその付き合いだ。
「感じたんです。私達でも、盗賊でも無い別の存在を」
「それって例の組織とか言ってる連中の事じゃないの?」
「恐らくそうだと思います。ですが彼らは一枚岩ではありません。きっと以前のように、私達のような契約者が依頼を受けて入り込んでいるはず……そう、あの時のように」
 二か月ほど前にとある神殿の地下を探索した際、八重達ザクソンの協力者の前に立ちはだかった者達。その中には斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)を始めとした彼らに関わりを持つ者、和泉 猛(いずみ・たける)のように研究目的で協力している者など様々な背景を持っている。ビジネスとして依頼を請け負っている徹雄やそれを理由に闘争心を満たそうとする竜造などもそうだ。
 その中でも強大な力を持ち、自身の道を阻んだ存在。まだ他の誰からも遭遇したという連絡を受けてない、その人物こそがきっと進む先にいる。何故だかそう感じていた。
「負けません、今度は……」
 表情にも力が入る八重。そんな彼女に何かしらの理由がある事を悟った明子はこれ以上追及する事はせず、やや遅れてついて来るサーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)へと話の対象を変えた。
「それで、サーシャは何悩んでるの? まだ敵と遭う事は無いだろうから話くらい聞くわよ」
「ん、ちょっとね……僕はどうすればいいのかなって」
「随分抽象的ね。獣人が助けを求めてるって事で来たんだからその為に動けば良いんじゃないの? 同胞なんでしょ?」
 サーシャはジャタ出身の白狼の獣人だ。明子がこの依頼を受けた背景には彼女が気にしているからだろうと思った面もある。
「確かにジャタが故郷ではあるけどさ……僕は戦士の部族だったんだよ。用心棒として雇われて、戦って……奪う方」
「盗賊と獣人、どっちの気持ちも分かるから片方に肩入れ出来ない?」
「奪う事が悪いって事も分かるけど、戦うしか能が無いんだから他の事をして生きろって言われても出来ないんだよ。僕も、彼らも。強くなれって教えられて生きてきたのに、今さら他の生き方なんて……」
「そんな物かしらねぇ。今までと違う事をするのが怖いってのも確かにあるけど、大概の事って戦うよりは気楽なものよ? それで失敗したからって戦いと違って命までは取られないんだから」
「…………」
「まぁいいわ。今回はもう大変な事も無いでしょうし、後ろでじっくり考えてみればいいわよ。私はちょっとこの先の残党をぶん殴ってくるから」
「うん……行ってらっしゃい」
 再び前へと行って八重と並ぶ明子。彼女の背中を眺めながら、サーシャは心の中でつぶやいた。
(命までは取られない、か……そうだよね。ハハ……まるでそれすら出来ない臆病者って言われた気分だ。半分くらいはその通りなんだろうけども、ね)
 
 この洞窟には大きく分けて六つのエリアがある。
 金品を収納している場所、食糧の場所、農具や狩猟具の場所、書物や絵画の場所、御神体のある場所……そして、楽器や楽譜などが収められている場所。
 その最後のエリアは今、混沌に満ちていた。盗賊に加担しているエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)と組織に加担している三道 六黒(みどう・むくろ)、二つの闇が複雑に混ざり合おうとしていたのだ。
「やれやれ、無粋な石像もあったものですねぇ」
 エッツェルのそばには既に砕かれ、動きを止めたガーディアンのなれの果てがあった。他の場所同様、ここを護っていたにも関わらず暴走し、二人と仲間達によって叩かれた結果だ。
「下らぬ。どれ程のものであろうが、意味無き力など不要だ」
「ふふ……その物言い、まるであなたこそが力の価値を決めると言わんばかりですよ」
「当然だ。力の、物の価値を誰が決めるかだと? わしに決まっておろう」
「いやはや、実に興味深い方ですよ。三道 六黒さん、あなたはね……」
 笑みを浮かべながら壁にある簡易的な棚を眺めて行くエッツェル。その視線がふと、ある一点で止まった。
「おや、これは……」
 
「さて、ここね」
 楽器・楽譜が収められているエリアの入り口で明子が止まる。突撃の前の武装確認だ。
(サーシャはああやって真面目に悩んでたけど、大抵こういう所であこぎに稼いでる連中ってそんなご立派な理由で動いてる訳じゃないのよね。ただ楽をしようと思った結果)
 だから容赦は無用。飛び出したら速攻で敵へと肉薄し、片っ端からぶん殴ってやる。
「さて……各種防御良し、ローラー良し。アクセルギア良し、と。ロクデナシども、覚悟しなさいよ……!」
 ダッシュローラーで急加速。一気に駆けるつもりで中に飛び込む。だが入った途端、逆に急停止する事になった。
「って、エッツェル・ざ・ぞんびー! 何でこんなトコにいるのよ!」
「ん? ……おやおや、どうやらお客様がいらっしゃったようですね」
 突然入り込んで来た相手にエッツェルが向き直る。二人とは別に、続けて飛び込んで来た八重も奥にいる六黒の姿を認めていた。
「やはりあなたがいましたか」
「ぬしか。以前わしが折った心……再び折られに来たか?」
 八重が父親の形見として佩いていた大太刀『紅嵐』、それを二か月前の戦いで八重の心ごとへし折ったのが六黒だった。刀だけでは無い、六黒はそもそも八重にとって父の仇でもあるのだ。
「もう折られる事はありません。再び立ち上がらせてもらった私は何度でもあなたの悪事を止めて見せます! 復讐の為じゃなく……私の信じる正義の為に!」
 
 魔法少女ヤエ 第19話 『八重桜咲く!』 
 
「心に宿すは情熱の炎! その手に灯すは焦熱の焔! ブレイズアップ! メタモルフォーゼ!!」
 八重の髪と瞳が漆黒の黒から情熱の紅に変わる。そして服が、その心までもが、一気に熱い炎に染め上げられた。紅の魔法少女。八重が持つ異名の通りに。
(どうやら立ち直ったようだな。自分を見失っている事も無い。これなら安心して送り出せると言うものだ)
 彼女のパートナーであるブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)が心の中で安堵する。今ならたとえ六黒のような強大な悪を相手にしても飲み込まれる事は無いだろう。
「行け八重! 生まれ変わったお前の力を見せてみろ!」
「はい! いざ尋常に……勝負です!」
 
 両者が激突する前に援軍が現れた。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が内部の状況を確認し、まだ戦いが始まっていない事を知る。
「どうやら間に合ったみたいね。敵は……厄介な相手が揃ってるみたいだけど」
「じきに後続もやって来よう。わらわ達の役目はそれまで向こうを好きにさせぬ事だ」
「そうね。エリー、私達が戦ってる間、持ち出しは任せたわよ」
「うゅっ♪ エリーがんばる、の!」
 ローザマリアの期待を受けてエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が気合を入れる。対する六黒側でも彼女達が加わったのを受けてヘキサデ・ゴルディウス(へきさで・ごるでぃうす)が動き出していた。
「やれやれ……これは派手な戦いになりそうじゃな」
 ヘキサデは六黒自身や他のパートナーと違い、サポートが主体だ。豊富な知識で利用できそうな収蔵物を見ていた彼は作業を中断し、従者を用いて背後にある通路の補強に入った。
「無茶をやられて生き埋めになっては適わん。念には念を入れさせてもらうとするか」
 様々な立場、様々な思惑を持った者達がぶつかり合う。今回の事件で最大の戦いが今、始まろうとしていた。