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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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第6章「収蔵品防衛戦 その2」
 
 
「なぁ、本当にこっちでいいのか?」
 絵画や歴史書など、主に書物関係を収蔵している場所を目指して歩く者達。その一員である蒼灯 鴉(そうひ・からす)は先頭を行く強盗 ヘル(ごうとう・へる)に確認を取っていた。
「俺を信じな。あっちからお宝の匂いがしてる。どんどん強くなってくるぜ」
「ならいいんだがな……早い所辿り着かねぇとこいつが痺れを切らしそうだぜ」
 ちらりと視線を横に向ける。そこではパートナーの師王 アスカ(しおう・あすか)伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)若松 未散(わかまつ・みちる)とこの先の事について話を膨らませていた。期待の為か、三人の眼は輝いている。
「楽しみだわ〜。ジャタの森って集落ごとに独特な作品があるから見られるだけでも凄く勉強になるのよねぇ。教授の依頼を受けて本当に良かったわ〜♪」
「同感です。オレは良く動植物をモチーフにするんで、それ系の絵画が無いか期待してますよ」
「私は文化自体にも興味があるよ。出来ればそれを基に作った落語を獣人相手に披露出来ればって思うんだけど」
「あらぁ、面白そうね〜」
「さすがに今すぐってのは無理だろうけどね。でも、後で集落の皆に他の小噺でもやって元気づけられればとは思うかな」
 画家であるアスカと若沖、そして落語家である未散。三人は集落を助けたいという気持ちは勿論あるが、同時に自分の道に関わりのある物を見られるという事に強い興味を抱いていた。
「ふむ……依頼を受けたは良いが、暇じゃのぅ。盗賊がいたら身ぐるみ剥がして愉しもうと思うたがそれもおらんし」
 アスカ達の後ろでは医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)がトボトボと歩いていた。たまたま所用でザクソンの下を訪れた際に依頼を受けてパートナー達を引っ張ってきた張本人ではあるのだが、自身の存在意義とも言えるエロい出来事が起こりそうも無く、暇を持て余していた。
「房内様、お暇そうですね」
「いいんじゃない? あのエロ本は真面目にやって丁度いいくらいだし」
 彼女の性質を良く理解している常闇 夜月(とこやみ・よづき)鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)がさらに後ろを歩きながら話し合っていた。房内を見ていた二人の視線はむしろ、とばかりに彼女の横を歩く鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)へと注がれる。
「まぁ立場上戦闘は避けるべきという事で進んでますからね。盗賊と遭わないのも仕方ないと思いますよ」
「……あの貴仁が珍しくやる気なのがねぇ。雨……は降っても関係無いか。落盤でも起きなければいいんだけど」
「し、白羽様。それはさすがにあんまりなのでは……」
 普段はものぐさな貴仁が今回積極的に動こうとしている事。それを白羽は不思議に思っていた。もっとも、ある程度の予測はついていたが。
(弱い者を助けるってヒーローっぽいし、さすがに状況を知った後で見捨てるような真似はしないよね。うん、見直したよ、貴仁)
「……? 白羽様?」
「ん、何でもない。とにかくボク達も皆と一緒に頑張ろう」
「はい。足を引っ張る事の無いように気を付けます」
 
「そろそろですな。この分ですと帰りも同じルートで良いでしょうか」
 銃型HCへの記録を担当していたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が皆を見回す。盗賊退治のグループが範囲を拡大していた為、幸いハル達はここまで方針通りに戦闘に巻き込まれる事無く辿り着いていた。
 グループの司令塔としてハルと一緒に歩いていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もこれまでの状況からそれが最良と判断し、頷きを返す。
「そうだな。崩落の危険も少ないだろう。ザカコ、恐らくその先、左が目的地だ」
「分かりました。特に殺気は感じませんし、盗賊達より先んじて――ん?」
「どうした?」
「いえ、自分達が目指してる方から音が聞こえます。何かが暴れているような……」
「暴れている? だが、殺気は感じないのだろう?」
「えぇ、何かあるかもしれません。気を付けて進みましょう」
 ヘルと並んで先頭を歩いていたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がマグライトの光量を落とす。暗視出来る彼が皆を連れて目的の広間へと入ると、そこには予想通り盗賊の姿は無く、代わりにガーディアンだけがいた。
 だが、問題はそのガーディアンが無差別に暴れだしているという点だった。
 無差別。つまり人だけでなく、物まで薙ぎ倒す勢いで暴れているのである。たとえそれが獣人達の物が収められている箱だったとしても、だ。
「馬鹿な、守護者が護るべき物を傷付けるとは」
「馬鹿でも何でも目の前で起きている事が現実だ。止めるぞ」
「オッケー。ガーディアン相手でも、暴れるなら本気で行くよ!」
 夏侯 淵(かこう・えん)、ダリル、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の三人が即座に飛び出し、手前のガーディアンに先制攻撃をかける。
「伸びてっ!」
 まずはルカルカの如意棒がガーディアンを文化財から引き剥がし。
「……凍れ」
 続いてダリルの氷術が動きを止める。
「受けろ、我が神弓の矢を……!」
 そして最後に淵がサイドワインダーで止めを刺した。流れるような連携技でを受け、ガーディアンが空いた穴を起点として崩れ落ちて行く。
「やるね、皆。ハル! 私達は物を守るよ!」
「あ、未散くん!」
 今度は未散とハルが同時に走り出し、なおも保管されている文化財を狙い続けているガーディアンを優先して止めに入る。未散は鉄の硬さを持つフラワシで、そしてハルは愛刀で。
「やらせないよ。ここにあるのは大事な物なんだ!」
「勿論未散くんもやらせはしませんぞ! 若沖さん!」
「はいはい。通じるかは分かりません、けどっ……!」
 二人を援護するように若沖が石つぶてを連続してぶつけて行く。だが、体勢を崩すのみで動きを止めるまでには至らない。
「これは、強力な攻撃をぶつけないと大人しくなりそうにありませんね……石像相手では毒矢も効きそうにはありませんし、どうしましょうか」
「ならベルに任せて。たとえ石像だろうとベルの歌なら――」
「やめんか!」
 後ろで何かやり取りをしていたオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)と鴉は見なかった事にする。多分その方が良い。洞窟的にも、人的にも。
 オルベールの歌を阻止しようとした訳では無いが、代わりに白羽が貴仁を連れて前に出た。
「ここはボク達の出番かな。貴仁!」
「分かりました。では白羽、魔鎧に――」
「その前にアレ、よろしく!」
「……まさか、アレですか?」
「そう、アレ」
 躊躇する貴仁に白羽が頷く。貴仁は一瞬躊躇したものの、そんな暇は無いと思ったのかすぐに動き出した。
「わ、分かりました。コホン……き、騎士転身!」
 貴仁の叫びと共に白羽が黒き鎧と化す。全身を覆う漆黒の鎧を纏った彼が、刃から黄色い光を放つ刀を抜いて構えた。
「ネグロホーミガ……参上」
 黒騎士。そう呼ぶのが相応しい姿だ。
「……夜月、どうした? そんなに離れて」
「いえ、あの姿はやはりちょっと……」
 房内を盾にするように距離を取る夜月。残念ながら蟻をモチーフにした外見が彼女に受け入れられない事がある意味大きな欠点とも言えた。
 とは言えそれが強さに関わる訳では無い。未散達が抑えている所に貴仁が側面から月狂いの刃・煌を突き刺し、見事に沈めて見せた。
「ここにある物は集落の皆さんが心の拠り所にしている物もあるはず。それをあなた方の手で壊すなどという事は……見過ごせませんよ」
 
「歌菜、そっちはどうだ?」
 暴れるガーディアンをすべて倒し、ようやく文化財の確保に動けるようになった広間。破壊された箱をどけながら、月崎 羽純(つきざき・はすみ)遠野 歌菜(とおの・かな)に尋ねた。
「……うん、本とかは少し表紙が痛んじゃったのもあるけど、それ以外は大丈夫そうだよ」
「そうか。絵なんかが傷つけられなかったのは幸いだな……皆に感謝か」
 戦いが始まった時、羽純は素早く歌菜を自身のマントへと隠し、ガーディアンに気配を悟られないようにしていた。もっとも、マントで隠す以上は自身もそこから動けない訳で、戦闘はルカルカ達に任せざるを得なかった側面もあるが。
「ともあれ、ここからは俺達の出番だ。出来るだけ多くの物を運び出そう」
「そうね。持って行く物を纏めて、ルカルカさん達の所まで持って行きましょう」
 二人で分担して数多くある収蔵品の中から優先して運び出すべき物を探し出す。羽純がピックアップした物を歌菜がロープで縛り、それをルカルカと淵が非物質化して持ち込んだ大型の箒へと積み込んで行った。
「ルカの方は絵とかを乗せて行ってね。一応トローリーケースも持って来てあるから、小さい物はこっちも使って頂戴」
「書籍関係は俺の方だ。額縁の角とかで傷つけたらいけないから出来るだけ分別を徹底してくれ」
「ほらほらそこの二人! 今は手を動かす! 観るのは後でも出来るだろ!」
「す、すみません未散さん。あと少し、あと少しだけ!」
「そうよ〜、このタッチだけでも今見せて欲しいわ〜」
「未散くん、若沖さんとアスカさんの代わりにわたくしと従者がガンガン働きますぞ!」
「ハル! お前はもっと丁寧に運べ!」
「これが獣人の文化財ね……思わず感動しちゃうわ。知識の宝なんて素敵。昔を思い出すわね」
「何だ女悪魔。こういうのを見て感傷に浸るとは、歳食った証拠か?」
「……ふ、ふふ。こんな素晴らしい物が分からないなんて……バカラス、あんたはいい環境に恵まれなかったみたいね」
「ほぅ……言ってくれるじゃねぇか」
「なぁザカコ。あの二人、止めねぇでいいのか?」
「それはヘルさんにお任せします。自分は喧嘩で洞窟が崩れないよう、氷術でも使って支えてきますよ……」
 
 何だか戦闘時よりも崩落の危機が高かった気がするが、とりあえず目ぼしい物はそれぞれが持ってきた運搬用具に詰め込む事が出来た。最後に残った書物数点を歌菜が風呂敷に包み、空飛ぶ魔法で浮かび上がらせる。
「うん、これで何とかなりそうかな。それじゃあ皆、帰るとしましょうか」
「こちらも連絡を付け終わった。手の空いた者が途中の道を確保に向かっている。彼らの支援を受けながら脱出を行うぞ」
 ダリルの言葉で皆が動きだし、来た道を引き返して行く。山盛りの荷物を抱えながら、一行は外の光を求めて歩き続けるのだった――