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リアクション
第2章 御抹茶談話
「む〜早く着すぎちゃったから時間まで暇〜」
「そう言うな。
時間まで房姫様達とお茶を飲みながらのんびり待つとしようじゃないか」
「わ〜い☆
お茶を飲みながらノンビリと待機ですよぉ〜♪」
ちょびっとだけ……時計の長針が、くるっと1周するくらい。
早くに着きすぎてしまったアニス・パラス(あにす・ぱらす)達ご一行。
暇つぶしに目指すのは、きっと今日もまったりお茶を飲んでいるであろう校長室だ。
佐野 和輝(さの・かずき)の言葉に、ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)はますますはしゃぐ。
「こんな暑い日に、出かけることもなかろうが……」
そんな3人の後ろを、しぶしぶの表情で着いてくる禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)。
別に、パートナー達のお出かけに文句はない。
しかし。。。
「それになぜ、私も同行しなくてはならないのだ」
自分が出るとなれば、話は別だ。
『ダンタリオンの書』、休日はおうちで静かに読書をしていたい派。
「だってさ、家にいたって全然運動しないでしょ?」
「運動しろ?
私は読書以外の運動はしたくない」
「「あははは〜」」
このやりとり、ここ数日で幾度繰り返したか。
ついに、和輝は強硬手段を決意した。
「そんな文句ばっかり言ってるとぉ〜!
こうしちまうぞ!」
「「おぉ〜」」
「こら和輝!
脇に抱えるんじゃない!」
アニスとルナが、思わず声を上げる……ほどのことでもないのだが。
2人の眼には、楽しそうに映ったのだ。
(いやしかし、前回ハイナ様と話をしたときはびっくりしたなぁ。
完全に『斜め上』だったよ、日本文化への解釈……)
そんなこんなで、目的地に到着。
和輝は、扉の前で立ち止まった。
(日本人としては正確に知ってもらいたいと、少し思うわけで……)
目を細めて見上げる空が、いやにまぶしい。
ゆっくりと、薄い雲が流れていった。
(う〜ん、とはいえ俺も日本のすべてを知っているというわけではないし……)
「うにゃ……和輝、どうしたの?」
「早く入ろうよぉ〜♪」
「それより早く私を下ろせ!」
物思う和輝に、パートナー達は動きがとれない。
アニスもルナも『ダンタリオンの書』も、思わず口を開いた。
「あっ、あぁ、ごめん」
(本当にこれだけで、少なくともいまよりはちゃんとした日本文化を伝えられるだろうか……)
謝るものの、胸の不安はとれないままで。
「んじゃあ開けるね〜!」
「わ〜い♪」
「恥ずかしいから下ろせっ!」
「ぁ、ちょっとまっ……!」
和輝の制止もむなしく、重い扉は開かれた。
なかにはおなじみ、ハイナと房姫。
生徒3名と、楽しそうにお抹茶を飲んでいる。
(あう、たくさん知らない人がいる。
怖いから、和輝の影に隠れてよう)
「ちょ、アニス……しかたないか。
あの〜」
「私達も混ぜていただけませんか〜♪」
「ほんと、下ろして……」
突然の訪問者へ、校長の判断やいかに。。。
「和輝にアニスと……新顔か。
構わぬぞ、遠慮せず入るでありんす」
「皆様も、お飲み物はお抹茶でよろしいでしょうか?」
「わ〜い、アニスも飲みた〜い!」
「じゃあ俺も……祖父母から少し習った程度ですが、漬物をつくってきました。
お茶請けとして食べてみてください。
これが沢庵、こっちが浅漬けで、それが梅干です。
どれも日本の伝統の食べ物で、美味しいですよ……好みはあると思いますが」
「これはこれは、かたじけないでありんすな」
「ふう、やっと落ち着ける場所か。
和輝は当分、私が読書するときの背もたれの刑だ!」
「わかったよ……ったく、ほれ」
「ん〜やはり男の背中は広いな」
「はい、あなたもどうぞ」
「おお〜♪
このお茶に使われている水は、とっても美味しいですぅ〜♪
水がいいと、お茶は格段に美味しくなるですよぉ〜♪」
それに角砂糖ですぅ〜わぁ〜い♪」
「さっそく、和輝の背中を背もたれにして読書を楽しむとしようか……ん?
姫よ、気になるかね?」
「えぇまぁ、なにを読んでいらっしゃるのですか?」
「いま読んでおるのは、日本の神話を基にした物語じゃ。
興味があるなら、いくつか貸してやろう。
暇つぶし用に何冊か持ってきておるからな」
「まぁ、ありがとうございます」
「私の持っている本は、世に出ていないものがあるから珍しいぞ。
これなんぞ、いかがか?」
招かれ、座布団に着いた瞬間、アニスは両手でばんざ〜い!
出されたお茶を、速攻で口へと運ぶ。
和輝が持参した漬け物も、好評で嬉しいかぎり。
ハイナや房姫が満腹になり、審査の邪魔にならないようにと選んだのだから。
ルナも、房姫からもらった角砂糖が気に入ったよう。
嬉しそうに、抱きついてぺろぺろと舐め続けている。
本の表紙を見つめる房姫の視線に、『ダンタリオンの書』は気づいた。
バックのなかから本をとりだし、それぞれの内容を説明し始める。
「美味しそうですね。
和輝さんとやら、俺ももらって構いませんか?
「えぇもちろんです、どうぞ」
「ありがとうございます。
いただきますね」
ハイナの笑顔を見てとり、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が和輝へと声をかける。
実は淳二、食べ物には眼がない性格。
「む、美味しいな、これ」
「お口に合って、よかったです」
「えぇ、こんなに美味しいお漬け物、久しぶりに食べました」
「あははは、光栄です。
ところで淳二さんも、お料理大会に出られるのですか?」
「いえ、俺は食べるのが専門ですからね」
「そうですか」
「新たな友人もできたことですし、いい休日になりました。
ま、午後も適当にのんびりとすごしますよ」
もともと、のんびりしたい一心で、校長室を訪ねたのだ。
淳二と和輝はよい関係を築けたらしいし、よきかなよきかな。
「やはり人間と獣では食文化や食の嗜好は大いにかけ離れているみたいですね」
「うむ?」
「この『漬け物』という食べ物は、明倫館の食堂で初めて見ました。
それに房姫殿が出してくださった『お抹茶』も、まだ慣れません。
……少し、苦いです」
「これは苦いではなく、渋い、というのでありんす。
しばらく飲んでおれば、渋さがよくなってくるじゃろうて」
「そうですよね」
「ちなみにドラゴニュートは、どのようなものを食べるのかえ?」
「ぶっちゃけて、よいのでしょうか?」
「うむ、ぶっちゃけるでありんす」
「それでは……ヴァルキリーとか機晶姫とかシャンバラ人とか獣人とか生け贄とか、とかとか。
まぁいわゆるヒトガタのモノを、よく食べていました。
特にヴァルキリーの肉は、鶏肉や馬肉に近くて美味でしたね〜」
「なっ……」
「あと意外に思われるかも知れませんが、馬肉も好きですよ。
って大丈夫です。
あくまで300年くらい前の話で、ほら、我は守護神として奉られておりましたから。
いまは、そんなこと滅多にありませんよ」
(やってない……とは、言えないか?)
「あ……はははは……そうであろう……のう」
「えぇ、葦原はご飯が美味ですから。
そんなこと気にしていませんよ」
バル・ボ・ルダラ(ばるぼ・るだら)のぶっちゃけトークは、誰もが予想したよりも強烈で。。。
一瞬、部屋の空気が凍りついた……ような気がした。
「ははは……ぉ。
そ……そういえば、バル。
裕奈はどうしたのじゃ?」
「え?
あぁ、どこかへ行ってしまいました。
いつもふらっと消えてしまうので、いちいち探すのも疲れるのです」
「そうですか、まるで誰かさんのようですわね」
「誰かとは、妾のことかのう、房姫?」
「あら、ハイナのことだなんて、誰も申しておりませんよ?」
話題を変えたくて持ち出したのは、八王子 裕奈(はちおうじ・ゆうな)のこと。
ハイナの問いかけに、バルはあきれた風な声音で答える。
今頃どこかで、くしゃみでもしているだろう。。。
そうして、いつもの校長室のテンションに戻ったのでした。
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