空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

葦原明倫館の食堂・秋の新めにゅ~開発企画☆

リアクション公開中!

葦原明倫館の食堂・秋の新めにゅ~開発企画☆

リアクション


第3章  料理対決朝食乃部


「真田せんぱ〜いっ!」
「ん?」

 朝の特訓を終え、廊下を歩いていた佐保を呼ぶ声。
 後ろから、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が駆けてきていた。

「おぉ、ミーナ殿ではござらぬか。
 そんなに必死に走って、いかがされたのでござるか?」
「真田先輩!
 これっ、ミーナがつくったの……食べてくださいっ!」
「これはまた、美味しそうな栗ご飯でござるな!
 ちょうどお腹も空いていたところでござる、かたじけない」
「真田先輩においしく食べてもらえたらいいな……なんてか、考えてないんだからね」
「しかし、ここで食べるわけにはいかぬでござるよ。
 ミーナ殿、一緒に食堂へ行かぬでござるか?」
「えっ、いいのですか〜?」
「うむ、行くでござるよ!」
「きゅ〜」
「おぉ、焼き栗まで……ますますかたじけないでござる」

 佐保のことだけを考えてつくった、ミーナ特製の栗ご飯。
 いまなら、立木 胡桃(たつき・くるみ)の焼き栗もついてくるよ!
 なんて。

「あっ、いまってちょうど朝ご飯の時間だ!
 人が多いかも知れませんので、先に行って席をとっておきますね!」
「ミーナ殿っ!
 ……行ってしまわれたでござるよ」
「きゅ〜」

 角を曲がり、ミーナが見えなくなったところで。
 胡桃は、佐保の服の袖を引っ張った。

「ん?」
「っきゅ」
『この日のために、ミーナは百合学に留学したと言っていたのです』
「この日……今日、でござるか?」
「きゅきゅ!」
『ついにミーナの料理の腕を大好きな真田先輩に披露する日が来たんだよ!とかなんとか』
「ふむふむ……」
「きゅっきゅ〜」
『ちなみにこの栗は、ミーナが、学校の裏山で見つけたものなのですよ』
「とすると、もしやあの……」
「ん〜っきゅ!」
『真田先輩の修行についていっていたとき、穴場を発見したらしいです!』

 いつものように、あらいざらいを話し……書いてしまう胡桃。
 パートナーの恋が少しでも進展するようにと願ってのことだ……悪気があるわけではない。

「うむ、やはりミーナ殿はいい子でござるな。
 拙者も負けぬようがんばらねば……胡桃殿、急ぐでござる!」
「きゅ〜?」
(ミーナがあとをつけていたことは気にならないのでしょうか……)

 そんなこんなで、食堂へと急ぐ佐保と胡桃であった。
 あ。
 この栗ご飯と焼き栗は、食堂のおばちゃんの眼にとまり、即行メニューになりましたとさ。
 ただし企画外ということで食券はついてきません、あしからず。。。

「ただいまより、調理・朝食部門を開始するでありんす〜!」

 食堂での朝食ラッシュが落ち着いた、午前10時頃。
 家庭科室では、ハイナによる開始宣言がおこなわれた。
 調理参加は、3組4名である。

「こういう企画に参加するのは始めてだから、どきどきするなぁ」

 緊張の面持ちで調理器具を並べているのは、霧丘 陽(きりおか・よう)だ。
 すべて自身のお店から持ってきたもので、使い慣れている。
 それに愛着もある道具ばかりで、なんだかわくわくしてきた。

「さぁさ、これからできる料理名とコンテストへの意気込みをどうぞネっ!」
「あっ……えっと、料理名は『栗定食』です。
 意気込み……優勝を狙うとかじゃなくて、いろんな人に僕の料理を食べてもらいたいかな。
 そしていろんな人の料理をみて、いろいろ学びたいんだ」

 きっと、ハイナの命なのだろう。
 ティファニーは、本企画のリポーターを務めているらしい。
 急な問いかけに恥じらいつつも、陽は自分の想いを言葉にした。

「ぁ……お父さん、元気にしてるかな……」
(なんだか、昔のことを想い出しちゃったな。
 料理し始めたきっかけは、お父さんがはじめてくれた誕生日プレゼントだったっけ。
 なんであのとき、料理の本をくれたんだろう?
 いつも仕事で家にいなかったからかなぁ……懐かしいな……)
「っといけない、これでも蒼空大社の甘味処の店主なんだ!
 がんばろう!」

 ちょっとしんみりしてしまうが、気合いを入れなおした陽。
 早速、調理にとりかかった。

「さぁさ、こちらでは、可憐な魔法少女が調理にあたっていますヨ。
 料理名と意気込みをお願いするネ!」
「あたしがつくるのは『磯の恵み定食』だよ!
 最近、料理の腕も上がったし、いろいろつくるからみんなに食べてもらいたいな〜♪」
「おぉ〜海の幸〜楽しみですネ〜!
 ってかまだ動いているヨ〜!?」
「そりゃもう、今朝獲れたての新鮮なお魚だもん♪
 ほかの材料は城下のお店で買ってきたんだけどね〜♪
 さて、なにからつくろうかな〜♪」

 次にティファニーが向かったのは、秋月 葵(あきづき・あおい)の調理台だ。
 葵の改造制服やマントが、ティファニーにそう呼ばせたらしい。
 パートナーが捕獲してきた、まだ生きているお魚や貝を、これからさばくという葵。
 びっくりして、ティファニーはちょっとあとずさった。

「緊張していますか?
 聡子は、いつもどおりやればいいですからね」
「はい……ありがとうございます、椋様」
「いえいえ、がんばりましょう」
(いつも、彼女には迷惑をかけているから。
 こうして平和な日々を過ごせるいま、楽しそうにしていることなら自分も手伝いたい。
 それが、自分にできる彼女への罪滅ぼしだと思うから。
 自分自身の行動は、すべてが正しいことをしているつもりはないけれど……それでも。
 ついてきてもらっていることにたいしてと、彼女の好意をすべて受けとることができないことにたいして……)
「さっ、さぁて……気をとりなおしてまいりましょうネ!
 3組目は、男女ペアでなんだかラブラブな感じのこの人達だヨ!」
「いや、あの、そんなんじゃ、ありませんから……」
(どうしよう……ちょっと恥ずかしくなってきたわ)
「そうですよ、まったく……」

 久我内 椋(くがうち・りょう)在川 聡子(ありかわ・さとこ)は、お互いに励ましあい、高めあえる仲。
 なのだが、ティファニーが面白おかしくはやし立てるから、変に意識してしまったではないか。

「それでは料理名と意気込みを〜どうぞッ!」
「あ、はいっ。
 お料理の名前は『葦原様ランチ』ですわ。
 簡単に言うと、お子様ランチをボリューム多めに、かつ葦原・マホロバ風にした料理が含まれたものですの。
 皆様の考えたメニューが並ぶなんて、素敵な企画だと思いますの。
 私のお料理も、皆様に食べていただきたいのでがんばりますわ」
「彼の方はいかがかナ?」
「え、あぁ。
 2人で協力して買ってきた材料なんで、美味しい料理ができると思いますよ」
「あったかコメント、ありがとうございますネ〜!」

 ここで、椋と聡子のお買い物風景を振り返ってみましょう。

 〜回想はじまり〜

「聡子が出たいのであれば、食材を買いに行くくらい手伝いますよ。
 料理はできませんが……」
「ありがとうございます。
 ちなみに、椋様はなにを食べてみたいですか?」
「え、俺?」
「はい。
 こういう勝負って、食べてもらいたい方の食べたい料理をつくるのが一番ですから」
「急に言われてもなぁ……」
「たとえば、これまで食べたことのないもののうち、食べてみたいものとかあれば……」
「じゃあ……お子様ランチ?
 存在は知っていますけど、これまで食べたことはありませんので」
「それって確か、いくつかの人気メニューを、少しずつのせているものですよね」
「えぇ、そのとおりです。
 子どもしか食べられないので、憧れのようなものがありますね。
 それに聡子の言うとおり人気のある料理が並んでいるわけですから、審査員への受けもいいかも知れませんしね」
「いいですね、それにしましょう!」
(少し意外だったけれど、うちにもこういうのが好きそうな人は多そうですわ。
 今度つくってみようかしら……)
「それではメニューを考えましょうか」
「ご希望はございますか?」
「ん〜、エビフライとから揚げ、あとデザートは欲しいですね。
 あとは食堂ですから、ご飯とお味噌汁もつけてみてはいかがでしょうか?」
「ご飯は真っ白にしますか?
 それとも味つき?」
「じゃあ……両方いきましょう!」
「真っ白と、味は……鮭とか?」
「いいですね、どちらもおにぎりにしましょう!
 あ、あとポテトフライも食べたいですね」
「了解です。
 デザートは、おはぎか寒天ゼリーを日替わりで出してみるのはどうですか?」
「それは楽しいですね。
 ではちょっとイラストを描いてみましょうか……色鉛筆も使って……」
「うゎあ、奇麗!」
「あとはから揚げに……ほら、どうですか?」
「まぁ、旗を立てますのね!」
「この旗こそが、お子様ランチの象徴ですからね。
 とても大切なので、絶対に忘れてはなりません」
「では材料を考えましょうか。
 おにぎりが、米と鮭。
 エビフライの海老と、衣用の粉類。
 から揚げは、鶏肉と粉と調味料。
 ポテトフライにはジャガイモと塩。
 デザートは……ちょっと調べてみますね。
 あと、味付けは濃い目がいいですよね。
 和食系は薄味になりやすいので、学生向けにしましょう」
「ではお店に【根回し】をおこなっておきます。
 城下の八百屋さん、お魚屋さん、あと米屋に雑貨屋、ですね」
「えぇ、それではレッツゴーですわ!」

 カラフルな紙を持ち、聡子と椋は出発したのであった。

 〜回想おわり〜 

 ということで、いままさに、調理真っ最中の2人。
 どのようなランチができるのか……朝食部門だけど、とても楽しみだ。

「材料は、栗、もち米、いんげん、人参、なす、大根、白菜、みょうが、豚肉と……これハ?」
「あ、これはうま煮隠し味用の飲みやすいお酒だよ」
「どこで入手したのですカ?」
「豚肉と野菜類は、城下のお店で購入したんだ。
 栗は、城下町を歩いているときに、とある庭先に生えていたものをもらってきたんだよ」
「それッテ……」
「ちゃ、ちゃんとその家の人には許可をもらったから!」
「そっか、じゃあ安心ネ!
 続きもふぁいとヨ〜!」」

 真面目な陽のこと。
 ティファニーが心配するようなことは、なに1つないのである。
 また調理台へと身を向け、素晴らしい包丁さばきを繰り出した。
 そして、しばらく。。。

「とまぁ、こんな感じでできあがりだよ」
「あたしもできちゃったもんね〜♪」
「こちらも、完成ですわ」
「うん、想像どおり可愛い仕上がりですね」

 皆、制限時間ぴったりで調理を終えた。
 さて、いよいよハイナ達による審査の時間を迎える。

「さぁどうぞ。
 ホクホクの甘い栗を生かした料理だよ。
 漬物以外のお料理に栗が入っているんだけど、どれも味が違って飽きさせないよ!」

 陽のつくった定食は、栗ご飯、栗入り野菜汁、栗と豚肉のうま煮、漬物の4品。
 つややかな黄色が、鮮やかに栄えている。

「家庭の温かさを感じる味にしあげてみたんだけど、どうかなぁ」
「では、いただくでありんす」

 ハイナの言葉を合図に、審査員達が料理を口に運んだ。
 もぐもぐ、ごっくん。

「料理を食べて喜んでくれる人の顔を見ると、僕も幸せだな……」

 思わず破顔する陽は、とっても嬉しい気持ちになっていた。

「じゃあ次はあたしだよ〜♪
 とこぶしの炊き込みご飯に天ぷら、お味噌汁。
 ちなみに箸置きはとこぶしの殻になってるの!」
「ほぅ、おしゃれでありんすな」
「ご飯は、昆布出汁に醤油、酒、砂糖を加えて、殻のままとこぶしを煮ちゃうの!
 んでそのあいだに、揚げと人参に煮汁を足してご飯も炊くでしょ!
 煮たとこぶしを食べやすい大きさに切って、炊き上がったご飯に混ぜ合わせたらできあがり!
 今回はサービスでウニも乗せちゃったよ〜♪」
「あら、思ったより簡単ですのね」
「メインは天ぷら!
 海鮮類は、白身魚でも海老でも、なんでもオッケー♪
 さばいて衣をつけてカラッと揚げちゃうよ〜♪
 あと椎茸や大葉とか、野菜もね。
 熱々をどうぞ!」
「これまた美味じゃ」
「最後にお味噌汁だけど、コストパフォーマンスを考えて、具は揚げとワカメだけだよ。
 ホントは伊勢海老とかアワビとか高級食材もあったんだけど、コンテストには向かないもんね。
 日常的じゃなくなっちゃうから……」
「食べたいでありんす〜!」
「あ、ごめんなさい。
 もう、パートナーにあげちゃいました……」
「諦めてください、ハイナ」
「が〜んっ……えぐえぐ……まぁいいか」

 ごちそうにありつけず、残念なハイナ。
 しかし葵の定食が美味しかったので、すぐに機嫌を直したのだった。

「さて、これで朝食部門は終わりかのぅ」
「そのようですわね……」
「ちょっと待ってぇ〜!」
「む?」

 3組の料理をすっかりたいらげ、満足の審査員達。
 組ごとにあと片づけを始めた、そのときである。

「あたしもっ、あたしもアピールさせて欲しいのっ!」
「私もいるよん♪」

 勢いよく飛びこんできたのは、緋姫崎 枢(ひきさき・かなめ)ナンシー・ウェブ(なんしー・うぇぶ)だ。
 しかし2人の手には……やきそばパン。。。

「あのね……あたし、憧れていたことがあるのっ!
 それはズバリ、総菜パン争奪戦!
 これこそお昼休みの定番でしょ!?」
「そこで私達、城下町にあるパン屋さんでやきそばパンを買ってきたの。
 だって、どこにも完成品を買ってきてはいけないとは書いていなかったもの。
 争奪戦は、バーリトゥードルールを適用して、修行の場としてはどうかと思って……」
「ここのパンは最高なのよっ!
 特にやきそばパンは、冷めてもおいしいこだわりがあるの。
 家族でやってるんだけど、すっごく誠実!
 それに店員さんがイケメンだしっ」
「お店の名前は忘れたけれど、本当に美味しいから食べてみて欲しいの」
「「お願いしますっ!!」」

 差し出されたパンを、戸惑いながらも口にするハイナ達。
 審査員の誰もが、複雑な表情だ。

「確かに……美味しいでありんす」
「ですが、デキモノというのが気になりますわ」
「うむ、このままであれば却下じゃのう」
「えぇ〜っ!
 きちんと包装をとってお皿に盛りつけしたわよっ!」
「安価だし、すぐに手に入れることができるわ」
「もし……仕入れるならパンだけ。
 食堂でつくったやきそばを詰める、というのがギリギリのラインですね」
「いまの施設では、食堂でパンを焼くことはできぬ。
 ゆえに、房姫の案はありじゃ」
「では、そのような形での案として、受けとっておきましょう」

 予想どおり微妙な判定だが、一応エントリーは許された。
 争奪戦の波にもまれたり、イケメン店員とラブラブしたり……枢とナンシーの思惑やいかに。。。