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リアクション
第四章 千客万来・メイド喫茶 9
とまあ、そんなこんなで、POAの妨害を跳ね返しつつ営業を続けるメイド喫茶。
その様子に危機感を覚えたのか、ついにPOAがはっきりとわかりやすい妨害に出てきた。
「こんなのがメイドか! こんな誤った文化を持ち込むからパラミタが乱れるんだ!」
「こんなお店があったらセクハラの温床になることは必然! 教育に悪いこと甚だしいわ!」
「パラミタの風紀を保つためにも、こんな店、こんな街は認めるわけにはいかないんだよ!」
わざわざたった三人で乗り込んできて、真っ向から自分たちの主張を唱えるとはなかなかいい度胸である。
とはいえ、これはこれで対応の難しい相手である。
単純に武力を用いて排除するとなると、店内での戦闘ということになり、店に被害が出るのは避けられない。
かといって表に出て戦えばいろいろと大事になり、お店や街の評判に悪い影響が出かねない。
POAの側も、それを見越した特攻だったのであろう……が。
「待てーゐ!」
不意に響き渡った声に、店内が一瞬静まり返る。
見ると、近くの空きテーブルの椅子の上に仁王立ちしたメイド服の女性――ロゼの姿があった。
「メイドさんは女の子と大きいお友達の夢……それを汚そうとはこの魔法少女ろざりぃぬ、容赦せん!」
ロゼはそう叫ぶや否や、いきなり着ていたメイド服を脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは、名乗りの通りの魔法少女姿であった。
本来ならば魔法少女的に変身とかしたいところなのだが、都合によりあらかじめ下に着込む形での早着替えである。
「地上風メイドの次は地上風魔法少女だなんて! こんなものをパラミタに持ち込ませるわけには……」
臨戦態勢をとるPOAに対し、ロゼ、もとい、ろざりぃぬはふわりと椅子から降りると、にっこり笑って右手を差し出し、握手を求めた。
「お互い、フェアな戦いをしましょう?」
「え? ええ……」
戸惑いながら、相手がその握手に応じた瞬間。
「かかったわねっ!」
ろざりぃぬがいきなりその手を引っ張って引き倒し、得意の腕十字固めに持ち込む。
「汚いな、さすが魔法少女汚い」
学人がそうツッコミを入れるが、この戦い方はどう考えても魔法少女というより悪役レスラーである。
そしてもちろんプロレスとなると、本職のプロレスラーである奈津が黙っていない。
「ヨッシャー! そのノリ気に入った!」
リングサイド、もとい、ホールの隅から【レビテート】で文字通り飛んでくると、カットに入ろうとしていた別の敵の手をひねりながら投げ飛ばす。
「さあ、これからココはプロレス喫茶だ!」
さらに、そこに「用心棒メイド」のシェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)が加わる。
「ふふ、いよいよ我の出番のようだな!」
こちらは完全な格闘系。すでにプロレスすら通り越し、「ネオ秋葉原メイド喫茶チーム」と称してどこぞの3人1組の格闘ゲームに出演できそうな勢いである。
この突然の騒動に、さすがに店内は大騒ぎに……なっていない。
というのも、はなからこうなることを予期していた秦野 萌黄(はだの・もえぎ)が、事前に「POAと戦闘になった場合、ヒーローショーのようなイベントとして処理する」方向で、環菜たちに根回しをしてあったからである。
「頑張れ、ろざりぃぬー!」
「メイドさん二人も頑張ってー!」
「とりあえずハイキックを! カメラの準備は万ぜ……げふっ!?」
「サプライズショーがあるかも」ということ自体は貼り紙等でも告知してあったため、お客さんにもすでに知れ渡っており、結果として混乱は最小限に抑えられた。
とはいえ、やはりこのまま延々店内で乱闘をさせるわけにも行かない。
「お気をつけ下さい、お気をつけ下さい!」
詩穂が完全にプロレスの場外乱闘のノリでお客さんに注意を促し、紫翠とレラージュがお客さんを退避させて店の入り口までのルートを開ける。
それを見て、ろざりぃぬたちは軽く目配せすると、それぞれ手近な敵を捕まえて店外へと引きずり出したのだった。
「おのれ……よくも我々に恥をかかせてくれたな!」
思い切り悪役のセリフを吐きながら体勢を立て直す三人と、迎え撃つ三人。
その様子を、通行人たちが興味深げに、かつ遠巻きに見守っている。
その中には、ちょうど視察に来ていた環菜と陽太、メイド衣装のノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)らの姿もあった。
「あの、あれって本当に……」
おそるおそると言った様子で尋ねる観衆の一人に、ノーンはきっぱりとこう答えた。
「うん、イベントだよー。ちゃんと許可出てるからねー」
それを聞いて、居合わせた観客も安心して観戦する態勢に入る。
「マジカル……サミング!」
「ぎゃあっ!」
ろざりぃぬのサミングをまともに受けて、敵がひるむ。
「そしてっ!」
その隙をついて相手の喉元を掴み、そのまま持ち上げて……思い切り地面に叩きつける。
「サミングからのチョークスラムって……汚いな、さすが魔法少女汚い!」
わざわざついてきた学人のツッコミは相変わらず的外れだが、もうこれは様式美である。
「はっ!」
向かってきた相手の攻撃をかわしつつ、奈津がカウンターでキックを叩き込む。
相手の動きが止まった隙に、素早く後ろに回り込むと……。
「りゃあっ!!」
一気に相手を持ち上げ、虹のように弧を描く、綺麗な軌道のバックドロップでこちらも地面に叩きつけた。
「よしっ!!」
狙い通りの戦いができたことにガッツポーズをする奈津であった……が。
「なっちゃん……スカートでバックドロップはやめた方がよかったんじゃないかな……」
萌黄のそのツッコミは、小声すぎて彼女の耳に届くことはなかった。
ちなみにコンクリの地面でのチョークスラムやバックドロップはギャグ漫画時空以外では命に関わる危険があるので、良い子も悪い子も決してマネをしてはいけない。お約束である。
「愚か者が!」
プロレス技を使う二人に対し、シェスティンはあくまで打撃技である。
相手の攻撃をかわしながら的確にカウンターの一撃を見舞い、最後はハイキックで一気に刈り取る。
こちらも着慣れないメイド服なので、ハイキックの別の意味での危険度に気づかなかったのは仕方のないことと言えよう。
いずれにしても、ギャラリーに対してはいいサービスになったので問題なし、である。
「さあ、まだやるの!?」
ふらふらと立ち上がった三人を、ろざりぃぬが一喝する。
「くっ……」
三人は打開策を求めて周囲を見回すが、ギャラリーはみんなろざりぃぬたちの応援である。
と、三人のうちの一人が、そんな観衆の中に環菜の姿を見つけ、彼女の方に突撃しようとした。
「お前が元凶かあぁーっ!!」
それを察知して、素早く陽太が環菜をかばい。
「うわっ、こっち来る!?」
「エリシア!」
「了解ですわ!!」
POAが環菜たちのもとまでたどり着くより早く、エリシアの魔法攻撃が彼らを三人まとめてかっ飛ばした。
かくして、無事に悪は滅びたのである。めでたしめでたし。
「決まったわね……」
あくまでもクールに去り行くろざりぃぬ。
その彼女が最後に残していった手紙のようなものを目にした時、学人の頭の中ではすでに警報が鳴り響いていた。
しかし、それでも読まないわけにはいかないのが運命である。
はたして、その手紙には一言だけこう書かれていた。
『後片付け頼む』
「……って、逃げたーっ!?」
あまりの仕打ちに呆然とする学人であったが、当然店内は場外乱闘のうちに他のメイドさんによってとうに片付けられていたのであった。