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【ダークサイズ】捨て台詞選手権

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【ダークサイズ】捨て台詞選手権

リアクション

1.カリペロニア島受付

「ついにこの日が来たね。ダークサイズぶっつぶす!」

 秋野 向日葵(あきの・ひまわり)はぐっと拳を握りしめ、飛空艇からカリペロニア島に降り立つ。
 そして向日葵の脇を固める者としてすっかり常連の大岡 永谷(おおおか・とと)をはじめ、対ダークサイズの面々が続く。

「ダークサイズと戦うのも久しぶりだ……腕がなるぜ」

 永谷の冷静で精悍な顔から、思わず笑みがこぼれる。
 そんな永谷に向かって、七篠 類(ななしの・たぐい)が隣で声をかける。

「『捨て台詞選手権』なんて銘打っちゃいるが……本気でやっちまっていいんだよな?」
「当然だ。何せ向こうはパラミタ大陸征服を目論む『謎の闇の悪の秘密の結社』だからな。選手権だろうが何だろうが、悪に手加減する必要はない」
「謎の……何?」

 類は長い形容詞を復唱しようとして、やはり覚えられずに永谷に聞き返す。
 向日葵は腕を組んで類に目をやり、解説を加える。

『謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズ』……極悪! 非道! 卑怯かつ緻密な作戦で空京放送局の株式を手に入れて、空京のすぐ近く、ここカリペロニア島を拠点に浮遊要塞も構える組織だよ。あたしたちはあいつらとずっと戦い続けている……」

 と、向日葵は緊張感のある口調で、彼方に見える大総統の館を睨みつける。
 永谷はそれを聞いて、

(そんなカッコイイ組織だったかな……)

 と思うものの、今まで起こった出来事だけを考えるとあながち間違っていない。

(だいたい合ってるから……まあいいか)

 永谷はそう思いなおし、言及しない。
 向日葵はさらに拳を握り、

「ふふん! 選手権なんておふざけワードには乗せられないよ!」

 と言うのを、永谷はこくりとうなずき、

「捨て台詞選手権というからには、台詞を決めるのだろう。戦闘の度にダークサイズが負けなければならない。それに乗じてあいつらを戦闘不能にすることができるはずだ。これは俺たちにとって大きなチャンスだ」
ダイソウ トウ(だいそう・とう)め、この際ナラカに送ってやるわ。ふへへへへ……」

 よだれを垂らさんばかりの向日葵の興奮を、

「さ、サンフラワーさん。キャラがおかしくなってないか……?」

 と、永谷が諭す。
 それを尻目に拳をガンと合わせて大総統の館を睨むは、ピンクの光るモヒカンを頭に戴き、ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべるゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)

「ダークサイズだかダイソウトウだか知らねえが、俺様の前ででけえ顔はさせねえぜ! 野郎は片っ端からモヒカンカットだ!」
「ヒューヒュー! さっすがピンクモヒカン兄貴ィ! 兄貴が通った後には髪の毛の道ができあがる! なんたってこのバーバーモヒカンの『理髪師バリバリカーン』が刈り上げるからねっ」

 と、ゲブーの後ろから、バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)が彼のフラワシ、毛神『理髪師バリバリカーン』を掲げて囃したてる。
 ゲブーはくるりとバーバーモヒカンを振り返り、突然彼を叱り飛ばす。

「バカ野郎、バーバーモヒカン! 俺様たちはその辺で『刈り上げる刈り上げる』って慰め合ってる甘ちゃんモヒカンとは違えんだ! 『刈り上げてやる』と思った時にはもう刈り上がってるんだぜ! 『刈り上げた』なら使ってもいい!」
「うおお! あ、兄貴ィ! かっこいいー!」

 などと、二人で盛り上がっている。
 また一方では、ドクター・ハデス(どくたー・はです)がメガネを上げ、白衣をはためかせながらカリペロニアを眺めて感心している。

「ほう……我々の情報網をかいくぐって、このような悪の組織が存在していたとはな。しかも我ら悪の秘密結社オリュンポスとコンセプトがかぶっているではないか! 」

 世界征服を目論む秘密結社オリュンポスの大幹部であるハデス。
 ダークサイズという秘密結社の存在を聞きつけ、早速どのような組織か見に来たのだ。
 隣では、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が遠慮がちにハデスに言う。

「兄さん……今日はダークサイズさんにご挨拶に来たんですよね……? どうして対ダークサイズ側についてるんです……?」
「何を言う。我々と同盟を組む価値がある組織かどうか、見極めずしてどうする。ダークサイズの力量を見るには、敵側につくのが最良であろう。それ相応の強さがあるかどうか、お前にもしっかり活躍してもらうぞ、改造人間サクヤ!」
「だから、改造人間って呼ぶのやめてください……」
(……今回も何か変なのがいるな……)

 と思いつつ、永谷は対ダークサイズのベテラン枠として声を上げる。

「よし行くぞ! 『チームサンフラワー』始動!」

 永谷の号令と共に、大総統の館目がけて走り始める対ダークサイズチーム。
 と、彼らが走り始めたとたん、

「ピーピーピー。はい、受付はこっちだよー」

 笛と警備棒で向日葵たちをせき止め、列に並ばせようとする茅野 菫(ちの・すみれ)

「参加者は用紙に記入して受付していってね。混み合うとあれなんで、参加費の35Gは事前に財布から出しといてね」
「な、何―!? 金取るのかっ!? 聞いてないぞ!」

 ダークサイズに慣れない類が、早速非難の声を上げる。

「どういうことだ、向日葵、永谷!」

 類が振り返ると、向日葵や永谷は慣れた手つきで用紙の記入をし、菫に提出している。

「はい、書けたよ、菫ちゃん」
「記入漏れなしだね。お金はリアトリスに渡して」
「わかった」
「すでに受付を済ませただとぉー!?」

 類が驚くのも無理はない。何故悪の組織を倒しにやってきて、受付を通り参加費を支払わねばならないのか。
 類が硬直しているのを、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が後ろからつつく。

「ねー、早くしてよ。後ろがつかえてんだからね」

 さらにその後ろのクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が類に言う。

「こういうのはとっとと済ませるに限ります。早くしてください」
「そ、揃いもそろってー!」

 向日葵たちの先ほどまでの緊張感はどこへ行ったのか、類から見ると、敵と思しき菫と慣れ合っているようにしか見えない。
 類はやはり納得できず、向日葵に意見しようと駆け寄るが、ドのつく近眼の彼は菫の肩を掴んで、

「俺たちはダークサイズを倒しに来たんじゃないのかっ?」
「そうなんじゃないの? てか何であたしに聞くのよ」
「なら、金なんか払うことないだろ。無視して突破してしまえば……」
「へえ、いいんだ? 正義の味方がそういうことしていいんだ?」

 彼の言葉を菫が遮る。

「え、ぐっ……しかし……」

 そこに類の肩を、クロセルがポンと叩く。

「類さん、納得いかない気持ちは分からないでもありません。そこで俺が良い言葉を教えてあげます……」
「な、何だ?」
「……『それはそれ! これはこれ!』」
(み、味方に諭されたー!)

 ショックを受ける類をよそに、向日葵が書類を菫に渡しながら、

「今日はダークサイズ最後の日だよ」
「はいはい、がんばって」

 と通過。
 クロセルなども、

「覚悟なさい。今日こそ諸君を恐怖のズンドコに陥れてやりますので!」
「はい、よろしくねー」

 と通り抜け、受付ボックスでリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)に参加費を渡す。
 ハデスも申込用紙を書きながら、

「ぬう……ダークサイズめ、なかなかやりおる。油断ならぬ組織だ!……『改造人間サクヤ』、と……」
「兄さん!? 何勝手に私の名前で申し込んでるんですかっ!?」

 と、早速咲耶が混乱気味にハデスにつっこむ。

「やれやれ。今日は受付ちゃんがいないからって、あたしがこんなことまでするはめになるとはね」

 どうにか参加者を通し終わり、菫は肩を揉みながらリアトリスの元へ。

「じゃあ、司会よろしくね。あたしは一足先に館に行って、ダイソウトウに小言言いたいから。あ、ここの注意事項の説明、忘れないでね」
「ふふふ。何だかんだ言って君も面倒見がいいね」

 リアトリスが言うと、菫はくるりとそっぽを向いて、

「まったく。ろくでもないことばっかり思いつくんだから」

 と、トコトコ歩き去ってゆく。
 リアトリスは受付ボックスから出て、

「お待たせしましたみなさん。では会場の大総統の館へ案内しますね」

 と、先頭に立って向日葵たちを引き連れ、島の中心部へと向かってゆく。