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リアクション
11
午後十一時。
スタニスタスが会長室へ飛び込む少し前。
エレインは博季・アシュリングを連れ、会長室の抜け穴から街の水路へ出た。見覚えのある場所だった。
「まさか、ここへ繋がっていたとは……」
前会長バリンが晩年を過ごした小屋がすぐ傍にあった。エレインも度々、訪れている。
そこに葉月 可憐(はづき・かれん)とアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)がいた。
「何者だ!」
博季が守護剣「天に掲げし誓い」を構える。だが、害意はないと見て、エレインはそれを制した。
「お初にお目にかかります、エレイン様っ。ここで待っていて、正解でした」
「あなたたちは……?」
「名乗るほどの者ではありませんが、少々お尋ねしたいことが。早速ですが、こちらの小屋を訪ねていたのは協会ではエレイン様だけだったみたいですが……それは、古の大魔法に関する経過報告だったんでしょうか?」
エレインはこの質問に面食らったが、続く言葉に更に驚いた。
「まぁ、師との交流というのもあったのでしょうが……袂を別ったイブリス様も時折バリン様を訪れていた……と言ったらどうしますか?」
「まさか、そんな。それならバリン様が私におっしゃったはずです。ずっとイブリスのことを案じていましたから」
「そうでしょうね。バリン様は、イブリス様のことを思い出しては時折憂い気な表情をしていたようですから」
「なぜ、そんなことが分かるのです?」
博季がそっとエレインに耳打ちする。
「過去をその目で見る魔法があるのです、僕たちの世界では」
しかし、バリンがイブリスのことを思ってというのは、可憐の勝手な想像である。
「バリン様は二人に二つの平和へと続く道を示した。封印し続けることで平和を保つ方法、そして、封印を解き放ち、それを打ち破ることで勝ち取る平和。違いますか?」
「違います」
エレインはきっぱり言い切った。
「封印が解ければ、平和などあり得ません。イブリスもあなたも、大きな思い違いをしています。危険なことです」
「なら、教えてください。古の大魔法とは……何なのですか? 大いなるものとは、何なのですか? おそらく、貴女様とバリン様はイブリス様の目的を知っておられるはずです。そして貴女様はそれに対する対策を練っている。違いますか?……古の大魔法は、今の協会、闇黒饗団、そして異郷より来たりし者の力を合わせてもなお御せないものなのでしょうか? 大いなるものは、それ以上に強大なものなのでしょうか?」
「あなた方も伝承はご存知のはず。『異郷より来たりし者、閉ざされた世界に光を照らさん』……結局のところ、あなた方の力を借りることになるでしょう」
「ならば、可能と言うことですね?」
「大きな犠牲を払った上で」
すかさず付け加えられた言葉に、可憐は息を飲んだ。
「何がどうなるかは私にも分かりません。しかしイブリスとあなたが言っていることはつまり、――他の多くの人々の命を犠牲にする可能性がある、ということなのですよ」
――エレインたちが去って後、アリスは安堵の息をついた。
「気づいてたー?」
「……うん」
「凄い殺気だった。あれは多分、命がけでイブリスを止める気だねー」
「イブリス様は根っからの悪人とは思えないんだけど……」
「話し合えればいいんだけどねー」
エレインが本部を抜け出したことなど全く知らず。
黒い本を持ち出した茅野 茉莉(ちの・まつり)とダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は、ようやく落ち着ける場所を見つけていた。
街中の空き家である。そこに忍び込み、埃だらけの机にハンカチを敷いて、ダミアンが執事服から本を取り出した。真っ黒な表紙の、バリンの日記である。
本当なら書庫で調べたかったのだが、思ったより大人数が調べものにやってきたのでこっそり抜け出したのだ。本に魔法がかかっていなくて、安心した。
この世界の高等魔術師が使う言語を使用しているため、内容は分からない。茉莉は早速、表紙に手を置き【サイコメトリ】を使った。
キン――と金属音が茉莉の脳に響く。
一人の老人がいる……悩んでいるようだ……。どうやら会長室らしい……。
ドアが開いて、若い男女が入ってくる……女は男より若い……。
既に読み取った映像が浮かび、茉莉はイラつく。
「気を静かに。【サイコメトリ】に響くから」
「分かってる……」
読み取りたい記憶を選べないのが【サイコメトリ】の欠点だ。茉莉は辛抱強く待った。
見覚えのある光景……遺跡だ……バリンと、今より若いエレインがいる……銀髪が軽くウェーブがかり、鼻の頭にそばかすが散っている……。
バリンが遺跡を指し、あれこれ話している……熱心なエレイン……。
突然バリンの身体が光る……衝撃……大きい……まずい!!
「茉莉!」
ダミアンに肩を揺すぶられ、茉莉はハッと目を開けた。
だらだらと脂汗を全身にかいている。
「今にも死にそうな顔をしてたぞ」
「何か分かった気がする……」
「何がだ?」
「『鍵』よ」
茉莉は額の汗を拭った。
「あれは多分、継承の儀式か、使い方の説明か。何か大きなパワー、魔力の源……」
「それが『鍵』?」
「もしそうなら、前会長は自分で持ってたみたいね。今は――墓地に?」
そこが分からなかった。
しかし、あの巨大な力が「鍵」であるならぜひとも手に入れたいと茉莉は願い、窓の外に目をやり呟いた。
「もう、遅いか……」
月が巨大に赤く輝いていた。
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