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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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 指定の時間まで三時間以上あるが、森崎 駿真(もりさき・しゅんま)キィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)は取引の話を聞くなりいの一番に飛び出してここへやってきた。
 何と言っても場所が場所、パラミタへと通じるゲートがある古代遺跡である。もし万一壊れたら、元の場所へ戻れない可能性もある。ひょっとしたら、わざと壊す者もいるかもしれない。
 そうなれば一大事だ。
「守りには自信あるしな。早めに来て正解だよな」
と、駿真が言うと、キィルが八重歯を見せて笑った。
「敵がいたら【殺気看破】で見抜くぜ。キィル様に任せとけって」
と言うや、キィルは振り返った。害意はないが、何者かが近づいてくる。
「先客がいたか」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)が、パートナーの雨宮 七日(あめみや・なのか)如月 夜空(きさらぎ・よぞら)と共にやってきた。
「何だ、敵じゃねーのか」
と夜空は不満そうだ。
「今のところはな。オレたちが一番乗りみたいだ。取り敢えず、遺跡を守ろうと思って早く来たんだが、あんたたちもか?」
「いや、オレたちは待ち伏せしようと思ってな」
 駿真の問いに、皐月はかぶりを振った。
「待ち伏せ?」
とキィル。
「こっちに向かってくる饗団の連中を」
「BANG!」
 夜空がギターを構えた。
「それ、ライフルなのか?」
「すげーだろ?」
 キィルが興味津々にギターの穴を覗き込むと、夜空は自信満々に胸を張った。
「交渉が拗れれば、戦闘は必至です。私たちで敵の戦力を予め削ぐのは有効でしょう」
と言う七日には、なぜか猫耳と尻尾があった。突っ込むべきかどうか駿真は迷ったが、七日は欠伸を漏らしながら続けた。
「手早く片付けましょう……それにしても面倒ですね」
 その怠惰さは、身体に取り込んだチェシャ猫のせいに違いなかった。


 赤い月が石畳を照らしている。星の明かりもかき消すほどだった。
 ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は苛立っていた。
 結局、魔法協会も闇黒饗団も同じ古臭い魔法使い。何でもかんでも秘密、隠せ、秘密、隠せ。そんな腐ったローブのような連中は、捨ててしまえばいい、と思う。
「うう……」
 唸り声がして、ニコは顔をそちらへ向けた。
「ニコさん、駄目です!」
 ユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)が止めるが、ニコは聞く耳を持たない。
 建物の陰に、黒いローブの男が座り込んでいた。脇腹に血が滲んでいる。協会本部から逃げてきた、闇黒饗団の者だろう。
 フン、と鼻を鳴らしかけたニコはふと頬を緩めた。魔術師の傍らにしゃがみ込むと、その傷口に手を当てる。
「石化されたくなかったら、今すぐ饗団本部の場所を言うんだ」
「ニコさん!?」
 ユーノは唖然とした。
「うるさいな。僕はもう誰にも囚われないのさ。たとえユーノ、キミが相手でもね」
 ユーノに反対の手を向け、ニコは言った。
「僕を裏切る気なら、ここで永遠に石像になってればいいんだ」
「裏切りだなんて……。あなたが善であれ、悪であれ、私の命はあなたのために。……もう、そう誓ったのです」
「なら、黙って見てるんだね。――さあ、どうする? 今すぐ石になる? 誰かが戻してくれるかもしれないけど、その前に壊れちゃうかもね」
 聞こえたのかどうか。魔術師はか細い声でその場所を言った。へえ、とニコの目が丸くなる。
「そんなところに……」
 ニコはにやっと笑うと、そのまま立ち去った。ユーノはほんの一瞬だが、【ヒール】を使った。魔術師の顔が和らぎ、ほっとする。
 そしてニコの後を追った。
 すぐ後にやってきたのは、ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)ザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)だ。暇潰しでやってきたこの世界でゴタゴタを知り、闇黒饗団に顔を知られていない利点から、捕虜を助けようと思い立った。
 とはいえ、饗団本部の場所も分からないことだし、さてどうしたものかと思っていたところへ、倒れている魔術師を見つけた。抱き起すと、
「う……助けてくれたのは、あんたか……?」
 何のことだと思ったが、ジガンは目一杯の笑顔を浮かべた。ただし目つきが悪いので、逆に怖い。
 魔術師はまだ目がはっきり見えないらしく、「そうか……」と弱々しく頷くと、自分を本部へ連れ帰るように頼んだ。怪我のせいで転送は使えないからと言われ、ジガンはザムドを振り返った。
「転送……無」
「悪いな。俺たちも転送が使えねえんだ。えっと、力を使い果たしたもんでな」
 ならばと魔術師は、抜け道を教えてくれた。
「任せとけ」
 ジガンは再び、満面の笑みを浮かべた。