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リアクション
6.列車を間違ているAlice(アリサ)
――、一般車両3号車
「待ってください……メルクーリオくん」
荷物持ちの月詠 司(つくよみ・つかさ)が置いてかれていた。男手とはいえ、重い荷物に四苦八苦していた。
寝台に向かう途中。1号車から乗り込んだのが間違いだった。先が長い。
先に行くメルクーリオ・エクリプセ・チェイサ(めるくーりお・えくりぷせちぇいさ)がコケる。大勢の前で恥ずかしい。
「なにやってるのよ、メルクーリオ」
と、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)。はしゃぐからこけるのだと言う。
メルクーリオの目の前に手が差し出される。その手をとって、彼女は起き上がる。
「ありがとうですわ、えっと……」
「アリサです」
手の主はそう名乗った。わざわざ席から立ってメルクーリオに手を貸したのだ。
「ありがとう、アリサさん。メルクーリオですわ」
「あのさ、ここで……休憩しない?」
1号車から大荷物を一人で運ばされ疲れた司が、隣席に座り込む。
「情けないわよ♪」
「どこに行かれるんですか?」
アリスの問に答えるメルクーリオ。
「彫金師の師のところにいきますの。こ、こんなのを作りに……」
ポケットから銀のペアアクセを取り出す。パズルの1ピースと、パズル枠のネックアクセ。ピースの表には『A』の彫り、裏には『I』浮かし。枠には小さく『Hope to a PE*CE』と『Want a P*ECE』――
「これぴったりハマるんですね」
アリサはピースを枠にはめ込んで確かめる。
「よかったら、差し上げますよ」
「え……!? でも」
メルクーリオの心意気はありがたいのだが、アリサは少し困る。
「もらうといい。恋人への手土産になりますよ」
誰かがそんな事を言うものだから、メルクーリオはアリサにペアアクセを握らせる。
「そうですの! ならぜひ、彼にわたしてください!」
押し付けるように渡されては、返すのも失礼というもの。アリサはアクセを受け取ることにした。
「ありがとう。必ず渡すから」
そう約束するアリサは、ピースのアクセを左手首に巻いた。首だと制服のリボンで目立たない。せっかくもらったのにそれではあんまりだからだ。
『A=Aлиса』であり、『I=私』の証明。
「あー!」
いきなりだった。
声を上げたのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だった。
「いきなり大声を出すな――って、アニス?」
アニスの指差す先をみる。アリサがいた。アニスは声を上げてすぐに佐野 和輝(さの・かずき)、スノー・クライム(すのー・くらいむ)の後ろに隠れる。二人の影から警戒するようにアリサを覗き見る。
「アレは、アリサ……?」
和輝もスノーもアニスほどではないが、アリサに幾ばくかの警戒心を持っている。それは直接的でないにしろアリサがかつて彼らの生命を脅かしたからだ。
正確には別人格アリスが、無意識への干渉という類まれなる能力を使ってアニスを人質にとったのが発端だ。
無事にアニスは開放され、原因となるアリスの人格も能力も今はアリサには無い。警戒することはないとは知識でわかっているもせざるおえなかった。
警戒されている訳はアリサもわかっていた。
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