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全力! 海辺の大防衛線!

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全力! 海辺の大防衛線!
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第一章


 日没間近の、パラミタ内海沿岸に集うメンバー達。海へと沈む太陽は、とても綺麗で誰しも見とれる景色であるだろう。だが、今回ここに集まったメンバーはそれを見るのが目的ではない。
 完全に、日が落ち、辺りが暗くなったとき、海から這い出てくる落ち武者やスケルトン。そして、空には骨の翼を持ったスケルトン。人間ではない者達がどんどんと現れる。その数は計り知れないもの。ここにいるメンバーはそれを迎え撃つのが目的。すでに『全ての被害を結界の内側に封じ込める、対ナラカの怪物用に、意思の力がそのまま具現化・実現する』という効果を持つ特殊な結界が張られ、準備万端である。
「よし、みんな頑張ろう!」
「そうね。頑張ろう!」
「……え?」
 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)の声に返事をしたのは同じくアゾートワルプルギス……に『変装』した、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)。その容姿や声、全てにおいて瓜二つ。他の人が見てもどちらが本物かなんて分からないほど完璧だった。
「キミは……」
「ささっ、ここはボクに任せて安全なところへ!」
「えっ、あの……!」
 他の誰かに見られない内にアゾート(本物)を安全な場所へ避難させ、先陣へと立つアゾート(ローザマリー)。
「ボクが相手だよ! かかっておいで!」
 ローザマリーの声に応じてか、落ち武者達がゆっくりとそちらへと向かっていく。
「アゾートさん。ボク達も手伝います!」
「せっかくだから思いっきりやりますよー!」
「サポートはお任せください」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)の三人も駆けつける。そして、誰一人としてローザマリーの変装には気づいていなかった。
「先手はボクが……。行くよ!」
 ローザマリーが『レジェンドレイ』を迫り来る敵へと放つ。
 聖なる輝きが敵を浄化していく!
「行きます……!」
 その輝きの中、敵陣へと走る、瑞樹。
「はっ!」
 敵の中にもぐりこみ、『魔導剣【ビッグ・クランチ】』を振るい、周囲の敵を一瞬にして切り捨てる。
「みんな、頑張っていきましょう!」
 後方の、輝が『熱狂』、『激励』、『震える魂』、さらに『怒りの歌』による全力サポート。
「(カタカタカタ!)」
 スケルトンが瑞樹へと剣を振るう。
「効きません!」
 すぐさま『ブレイドガード』で弾き返す。
「ボクに合わせて!」
「任せてください!」
「いくよ、ファイアーストーム!」
 ローザマリーのファイアーストーム……ではなく、それに見せかけた『火遁の術』と真鈴の『弾幕援護』で瑞樹だけではカバーできない敵をなぎ払っていく。
「まだまだ行きます!」
 瑞樹は『乱撃ソニックブレード』でソニックブレードを連射した後、すぐさま『六連ミサイルポッド』に持ち替え、生き残った敵を爆撃する。
「ボクだって……! みんなに、ボクの歌を聞かせてあげる!」
 サポートしていた輝も『ショルダーキーボード』をもち、『咆哮』による歌で、敵を攻撃する。

 奮起する四人の前に、宙に浮かぶ鎧、そしてその周囲を浮遊する四つの剣……リビングアーマーが姿を現した。それも沢山。
「強そうですね……ですが!」
 瑞樹が魔導剣を振るうが、その二つの剣を駆使して防がれてしまう。そして、残りの二つの剣先が瑞樹へと標準をあわせる。
「……!」
 慌てて離れると、先ほどまで瑞樹のいた場所に二つの剣が突き刺さっていた。
「なかなかやりますね……」
「でも、私たちが負けることはないよ」
 いつの間にか瑞樹の横にはザインハルト・アルセロウ(ざいんはると・あるせろう)が立っていた。
「そうですね。みんなの力がある限り私たちは負けません!」
「さぁ、見せてあげよう英霊達の力をね。この結界内なら私の力も完全に使えるだろうしね」
 その言葉と共に手を軽く振るうと、目の前のリビングアーマーを両断。さらには海すらも両断。
「私は、ずいぶんと変わった英霊でね。特定の英霊ではないんだ。確かにいたかもしれないけど名も知られない忘れられた英雄。誰もが知る、名高き英雄」
 今度は拳が地面に触れた途端、前方に地割れが発生する。
「そんな彼ら、彼女らの英雄という概念が私なんだ。まぁ、君達には理解できないか。簡単に言えば、私は全ての英雄の技が使える。ということだよ」
「す、すごいですね」
 隣で見ていた瑞樹も感心の声を上げる。
「さぁ、反撃開始だ」
「はい!」
 
「敵陣のど真ん中で派手にやっているね。あの二人……」
 サポートで後ろにいた輝達と合流した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)の三人。
「そうであるな。わらわ達も一つやるとしようではないか」
「そうですね。ただ、巻き込まないように気をつけませんと……」
「なに、ザインハルトがいれば大丈夫であろう。盛大にやろうではないか」
「ボク達も頑張らないとね!」
「こちらはいつでも準備良いですよ」
 真鈴が『魔導砲【フィクスト・スター】』を構える。
「ならば、わらわ達も早々に準備するとしよう」
「はい。そうですね」
 そこに突如として、地面から湧き出てきたスケルトンの群れ。
「ここからも出てくるのか……。俺が止めます!」
 唯斗が『分身の術』を使い。迎撃に入る。
「……本人は行かないの?」
 ローザマリーが首を傾げて唯斗に尋ねる。スケルトンを迎撃しているのは唯斗の分身たち。唯斗本人は一歩も動いていない。
「いや、このまま突っ込んだら……」
「私も手伝いますね」
 睡蓮が矢を放つ。それはもはや矢というよりは砲撃。一瞬にして唯斗の分身ごと前方の敵を吹き飛ばした。
「あ、ごめんなさい。分身も一緒に……」
「……こうなるからね。分身達がんばれー!」
「確かにこれは危ないですね……」
「ボク達も気をつけないと」
「時間を取らせてすまぬ。わらわの準備も完了した。おぬしは空から頼む」
 三人が話している間にエクスの準備も完了していた。その手には『魔砲ステッキ』と『光条兵器』。
「了解です」
 真鈴が魔導砲を手に『機械翼【ブレイジング・スター】』で空へ。
「ボクも手伝うよ!」
 ローザマリーが『火遁の術』で敵周囲を炎の海にする。
「サポートは任せて!」
 輝も再び『怒りの歌』で支援。
「古王国時代に封印されたのはその力が暴走した為。ならばその力を全てステッキと光条兵器の出力に回したらどうなるか。おぬし達に見せてやろう!」 
「全力で撃ちぬきます!」
「それでは……行きましょう!」
『シュート!』
 三人の掛け声と共に放たれる砲撃はもはや大型戦艦レベル。その砲撃は前方の敵を全てなぎ払い進んでいく。

「乱撃ソニックブレード!」
「この力を足すとどうなるか……試してみようか」
 瑞樹の放ったソニックブレードにザインハルトが力を与えると、ソニックブレード自体が意思を持つかのように敵めがけて飛び回り、切り刻んでいく。
「……おや、そろそろのようだね」
「はい? 何がですか?」
 攻撃の手を止める二人。
「私に掴まって」
「あ、はい」
 ザインハルトに言われたとおり掴まる瑞樹。そんな二人の前に大きな地響きと共に特大のレーザーと無数のキャノン砲の弾が迫ってきていた。
「あわわっ!」
「いくよ。しっかり掴まっていてね」
 ザインハルトの声と共に二人は一瞬にしてレーザーよりも高く跳躍。そのまま、唯斗達の元へと着地。
「はぁ……。びっくりしました」
 安堵のため息をつく瑞樹。
「君達、私達も一緒に吹き飛ばすつもりかい?」
「なに、ザインハルトならなんなくかわしてくれると思ったのでな。実際そうであっただろう?」
「確かにあの程度、今の私の状態なら大丈夫だけれど」
「まぁ、みんな大丈夫だったんだから、良いじゃない! 敵の殲滅も出来たんだからさ!」
 ローザマリーの言葉に全員が頷く。
「そうですね。アゾートさんがそういうのであれば」
「うんうん」
 そして、誰一人として、ローザマリーの変装に気づくことはなかった。

「ねぇ、キミ」
 一段落ついた後、アゾート(本物)はアゾート(ローザマリー)に近づく。
「キミの正体は一体……?」
「ふふふ、実はね……」
 ローザマリーがマスクを剥がす。するとそこには……。
「私ですよ」
 『イナンナなりきりセット』で{SNL9998748#イナンナ・ワルプルギス}に変装したローザマリー。
「え、えっと、えぇ……!?」
「ふふ、誰かなのは秘密です」
 結局、誰一人としてローザマリーの正体に気づくものはいなかった。