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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

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第二章:VS近接タイプ戦(遭遇編)
 同時刻。
 別の施設に出現した未確認機体の近接タイプを鎮圧すべく、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)のコンビは愛機であるシュペーアで交戦予定の場所へと向かっていた。
 彼らの乗るシュペーアは『第三世界』の可変式イコンにして、高い機動性を誇るフィーニクスタイプだ。だが、現在のシュペーアはあえて飛行形態には変形せず、人型の状態で荒野を疾走していた。
 それもそのはず、すぐ近くには僚機として随行する鷹皇が同じく疾走していたのだから。脚部のブースターを全開にしているとはいえ、武装に重点を置いてカスタムした重武装タイプの機体である鷹皇と機動性に重点を置いたシュペーアでは機動力においてあまりに差があり過ぎる。文字通りの意味で歩調を揃える為にも、二機はともに二本の脚で荒野を蹴って現場へと急行していたのだった。
「銃を使えば反動で骨を折るような子供ですら、屈強な兵士を殺せる。必要なのはその機会だ。近接戦闘タイプに格闘戦を挑む連中もいるはず。単に撃ちまくるだけでは味方まで巻込む。まずは味方を援護しながら機会を狙うぞ」
 レリウスの物々しい物言いにハイラルは顔をひきつらせた。
「レリウス、お前その例え恐過ぎ」
 苦笑しながら言うハイラルだが、その一方でレリウスは事もなげに返した。
「別に例えではないが」
 するとハイラルは更に顔を引きつらせてツッコミを入れる。
「え?例えじゃなくて実際あった事? 余計恐えよ! 傭兵モードならどんな恐い事言っても許されると思うなよ!」
 そこでふと何かに気づいたのか、ハイラルはもう既にかなり引きつっている顔を更に引きつらせて、口をぱくぱくとさせながら恐る恐る問いかけた。
「てかあれ? まさかそれってレリウス自身の実体験とかじゃねえよな? おい、何でそこで黙るんだよ……」
 シュペーアのコクピットをしばしの間、重たい沈黙が支配する。ややあってそれを打ち破ったのは、すぐ近くを並走する鷹皇からの通信だった。
『こちら鷹皇、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)。目下の作戦目標としては敵の撃退。可能なら敵機の鹵獲。さらにできたら敵パイロットの捕獲ですね』
 顔を引きつらせて苦笑していたハイラルも、すぐに表情を真剣さ一色に戻し、無線に応答する。
「もちろん、それができりゃ御の字だ。けど、そっちのメイン目標は負傷者の救出、つまりはレスキューだ。戦闘に関しちゃ本当に可能な時だけ手伝ってくれりゃいい。むしろ、そちらさんが無事にレスキューを終えられるように所属不明機を乗り回してる誰かさんを押しとどめとくのが俺たちの役目だからな。なぁ、レリウス?」
 唐突に話を振られたものの、打てば響くようにレリウスは答える。
「既にこちらに入っている情報では、未確認機の兵装は刀剣タイプの近接格闘武器が一つのみ。射撃兵装が充実しているシュペーアに優位がある――少なくとも、レスキュー完了までの間、押しとどめておくことは可能な筈だ。なら、俺たちが引き受ける、それだけだ」
『それは頼もしい。感謝します』
 無線越しに礼を言う真一郎に続き、鷹皇のサブパイロットである松本 可奈(まつもと・かな)も口を開く。
『大丈夫ですよ。きっと無事作戦成功できますって。だって、教導団の精鋭が向かってるんですから』
 その言葉にハイラルやレリウス、そして真一郎が小さく微笑んだのを聞き、可奈も微笑む。そして、場をほぐすべく冗談めかした口調で更に付け加えた。
『あ、それと、任務終了の打ち上げは焼肉で!』
 再び漏れる小さな笑い声。可奈のおかげでほどよく場が和んだのに合わせて、付近を飛行していたアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)も通信に加わってくる。
『そうですね。僕も賛成です』
 発見した負傷者を『空飛ぶ箒シーニュ』で搬送するという目的の為、今の彼は仲間たちとは別行動を取ってここにいる。
 和やかな雰囲気の通信は、突如として割り込んできたアラート音に断ち切られた。
 交戦地点へと接近したのだ。
「雑談は終わりだ。シュペーアで先行し、敵を押さえる――!」
 マイクに向けて言い放ち、静かな気合を込めてレリウスはコンソールの上で指を走らせた。幾度かのキータッチの後にエンターキーを叩くと、指令を受けたシュペーアは人型から戦闘機を模した飛行形態へと変わる。
 そのまま推進機構をふかし、一気に先行するシュペーア。そのコクピットの中ではモニターに映る風景が凄まじい勢いで後方へと流れていく。
 ほとんど一瞬のうちに施設の敷地内へと突入したシュペーアのコクピットで再びアラート音が鳴り、モニターには深緑の装甲を纏った人型が身の丈ほどもある大太刀を振るい、施設の建物をまるで薪割りのように両断している光景が映し出される。
 敵もこちらの存在に気づいたのだろう。たった今、建造物を両断した大太刀を、まるで血振りをするかのように一振りし、シュペーアを振り返る。こちらを向いた敵機の頭部で、両目のカメラアイが蛍光色がかったピンク色に光る様は、シュペーアを次の標的としたことが間違いないのを如実に表すかのようだ。
 それに負けじと、レリウスも再びコンソールを弾き、機体を変形させる。今度は機動力に優れた飛行形態から、戦闘力に優れた人型形態への変形だ。
 シュペーアの変形シークエンスが開始されると同時、敵機は地面を蹴った。背面のブースターを噴射し、大太刀を抱えたまま、まるで突っ走るようにして即座に肉薄してくる。
 敵機がその長大な太刀が届く範囲まで踏み込むよりも、シュペーアの変形シークエンスが完了する方がわずかに数秒間だけ早い。
 すぐさまコクピットで操縦桿を捌いたレリウスの意志に呼応するように、シュペーアは格納状態にあったツインレーザーライフルを無駄な動き一つなく抜き放つ。そのまま躊躇なくレリウスは操縦桿を握る左右それぞれの手の人差し指に力を入れ、トリガーを引いた。
 左右各々の手に握られたツインレーザーライフルが、シュペーアの掌中で光条を放つ。放たれた二筋の光条は、文字通り光の速さで敵機へと向かっていく。
 しかし、敵機は素早く、そして小刻みに脛部後方のブースターを噴射し、大太刀を抱えたまま軽妙な体捌きで二筋の光条を避け、その上で素早く疾走体勢へ復帰すると、再び突っ走る。
 それにも驚かず、レリウスは繰り返しトリガーを引き、次々に光条を撃ち出していく。
 それでも敵機はまたも件の体捌きで光条の連射を回避した。
「レリウス! 『銃を使えば反動で骨を折るような子供ですら、屈強な兵士を殺せる』んじゃなかったのかよ!?」
 サブパイロットシートで叫ぶハイラル。それに対し、レリウスはあくまでも冷静だった。
「この動き、まるで反復横跳びだな……いや、これは――」
 戦いの中で何かに気づいたレリウスは戦慄を押し殺そうと歯をしっかりと噛みしめる。そして、その戦慄を振り払おうとするかのようになおもトリガーを引き続けた。
「――摺り足か……!」
 レリウスの見立てが正しければ敵機が繰り出している機動は摺り足――東洋、それも日本古来の武道に見られる熟練した体捌きの方法である可能性は極めて高かった。
「五機中、最も人間に近い動きが可能とは聞いていたが……まさか、これほどとは……!」
 気が付けば、敵機はもうすぐそこまで接近している。このままではあの巨大な太刀の射程圏内に自機が入るのは時間の問題だろう。
 敵機の驚異的のメカニズムに戦慄を禁じ得ないながらも、レリウスは冷静さを保ちつつコンソールを操作した。その指令を受けて、シュペーアの装甲の一部が開き、そこから黒ずんだ金属色をした缶のようなものが転がり出る。転がり出た缶は着地するとすぐに真っ白い濃厚な煙を吐き出し、辺り一面を煙幕で塗り潰す。
 その隙にレリウスはコンソールを更に操作、変形コマンドを入力し、再び飛行形態への変形を開始する。
 煙幕が晴れるまでの間がやけに短く感じられる中、変形シークエンスを完了したシュペーアはひとまず上空へと飛翔する。
 そして、シュペーアが立っていた場所が凄まじい威力の斬撃で断ち割られたのは、シュペーアが飛び立ったその0コンマ数秒後だった。
「おい!? どういうことだ!? あの野郎、明らかに俺たちがどこにいるか解ってやがったぞ!?」
 敵機の正確な狙いに驚きを隠し切れないハイラル。その一方でレリウスは何とか冷静さを保ちながら、呻くように呟いた。
「まさか……こちらの気配を読んでいたとでも言うのか……だとしたら随分と熟練したパイロットを相手取ることになるか――これは骨が折れそうだ……」
 眼下に遠ざかっていく敵機を見ながらレリウスがそう呟いた直後だった。コクピット内のスピーカーから耳鳴りのような高音が吐き出される。
「ぁぐッぁ……! 何だこのクソうるせえ音は!?」
 耳を押さえながらハイラルが叫ぶ。同じく耳を押さえながらレリウスも叫んだ。
「高速振動ブレードの高周波だ! 奴め、出力を上げたようだ!」
 二人が耳を押さえながらモニターに目を向けると、更に敵機の大太刀の刀身表面をビーム光のエネルギーが覆っていく。ビーム光が刀身を包み終えるまさにその瞬間、敵機は地面を蹴って飛び上がると同時に推進機構を最大までふかして一気に上昇をはかる。
「野郎! 追っかけてくるぜ!」
「解っている。だが、空中では摺り足も使えまい――!」
 呼気とともに気迫を放ちながら、レリウスは操縦桿を握る両手にぐっと力を込めた。それと並行してモニターに映った敵機に照準の目安となるレティクルのマークが二つ表示され、それが一カ所――敵機の上で重なろうとしていた。
 バーニアを噴射して跳び上がって来た敵機がシュペーアの懐に入り込むよりも一瞬早く、レティクルのマークは一つに重なり、黄色から赤色へと変わって点滅を始める。
 Pi!
 そして鳴り響くターゲットロック完了のビープ音。
「装備は大型の刀剣ただ一つのみ。装甲やシールド、バリアの類は確認されず……なら、回避できないこの状況で防御もできまい――この敵機、ここで撃墜する!」
 必殺の気合いを込めて操縦桿のトリガーを引くレリウス。まるで彼の気迫を表すかのように、凄まじい光条が二挺のレーザーライフルから放たれる。
 放たれた二筋の光条は瞬く間に敵機を撃ち抜かんと迫る一方で、敵機は脚部のバーニアを噴射しての機動で回避を試みるも、レーザーライフルの弾速を前には間に合わない。
 ツインレーザーライフルの光条が敵機を貫くかと思われたまさにその瞬間、敵機は驚くことにバーニアの噴射を最小限にして姿勢制御ができるだけ留めると、大太刀を構え直した。
 そして、銃撃が着弾する瞬間、自らと光条との間に大太刀の刃を割り込ませたのだ。二筋の光条はビーム光を纏った刃に弾かれ、肝心の敵機には傷一つない。
 なんと、敵機はエネルギーを纏った刀身を使い、エネルギー兵器による銃撃を切り払ったのだ。